表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

第3章 出王都 "Leaving the Capital of the Kingdom" 2

「アギア、なんて不謹慎な!」


 アギアは大げさに驚いた顔をしてみせた。


「不謹慎ですと!

 これはこれは……。

 姫君こそ不謹慎では?

 ……姫にはコベリオ・アルスター王陛下の殺害容疑がかけられております」


「な!」


 周りがざわついた。


 ソルもさすがにここまでの展開は予想していなかった。


「わたしがお父様を殺したなどと、よくもそんなふざけたことが言えましたね!

 衛兵! 衛兵!」


 竜騎士たちが一歩踏み出して、周囲を圧倒した。

 アギアが手を振ってそれを抑える。


「姫の部屋からこれが見つかりましてね」


 アギアが上げた指の間には小瓶が挟まれていた。

 中には少量の液体が入っている。

 無論、ソルには心当たりがなかった。

 しかも自分の部屋からとは、どういう……。

 はっとしてゾフィーを探した。

 いない。


「いやあ、してやられるところでした。

 なんと言っても、先例のなかったことを曲げてやりたがる方ですからな。

 陛下以上に周りの話を聞かず、わがままを通したがる。

 それが証拠に、さきほどは、女王になると、御自ら宣言されてしまった」


 口の立つ奴だ。

 はめられた?


「これが何を意味するか、皆さん、おわかりでしょう」


 アギアの側近が彼の傍らに立つ。

 その腕には一頭の犬の亡骸が抱えられていた。


「ひっ」と、あちこちから声が上がる。


 ソルは思わず、口に手を当てた。

 ブレンコ……。


「犬にこの液体を舐めさせたところ、あっという間に死んでしまいました。

 ……人間ならば、犬のようにすぐには死なずとも、徐々に徐々に弱まることはありましょうな……」


 ソルは今度こそ、悔しさと腹立たしさで、涙をこらえることができなくなった。


「なんて……なんて、ひどい……」


「ひどい?

 それは姫、あなたのなさっていることでしょう!

 内務大臣の名の下に命ずる。

 姫を連行せよ!

 陛下の殺害、並びに反逆罪容疑だ」


 竜騎士たちがさらに一歩踏み出して姫に近寄ろうとすると、それを制すかのようにさっと、ソルの周りを5人の男女が取り囲んだ。


「ふん、姫の親衛隊か。

 抵抗すると、そなたらも反逆罪に問うぞ」


 放心状態のソルの肩に手が置かれた。

 サビオは頷くと、ヴェルダージの脇から滑るように出て、アギアの前に立った。


「サビオか」


「アギア様。

 陛下のご遺体の前での騒ぎがよろしくないことは、アギア様も同意されましょう?

 どうですかな。

 姫様を牢につなぐわけにもいきますまい。

 裁判までの間、我が家に籠もっていただくというのは。

 内務大臣をお勤めになるアギア様であれば、よもやお忘れではあるまい。

 確か、反逆罪といった重篤な容疑についての裁判は、規定では最低7日を要したはず。

 無論、隙間なく、周囲を竜騎士殿たちに囲んでいただくとしましょう」


 ソルの養育係、サビオもその地位は貴族の末端にあった。

 彼の家は塀の内、貴族の住宅街の一角にあった。


 貴族は寛容さを示さねばならぬ。

 そもそも裁判という事態は、大臣の念頭にあっただろうか。

 アギアはぎりっと歯ぎしりした。


「……よかろう。

 ただし、7日の間、一歩も外へ出ることは許されぬ。

 そなたは……仕方あるまいが、この親衛隊5人を含め、姫に近い者はいっさい近づくことを禁ずる」


「寛大なご処置、さすがはアギア様ですな、感服いたします」


 アギアがさっと手を振ると、竜騎士たちが5人を押しのけて、姫とサビオを取り囲んだ。


 ヴェルダージはサビオを見たが、その何かを決意した顔つきに、断腸の思いで無抵抗を決めた。


「姫、しばらくは我が家でごゆるりとなされませ。

 お父上を弔うことが叶わぬのは、力不足で残念でなりませぬが」


「サビオ。

 そなたには迷惑をかける……」


 ソルはもう一度、亡き父のベッドを振り向いた。

 しかし父の顔を見ることは許されず、力なく連行されるに身を任せるより他はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ