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第1章 アローン・オン・ア・プラネット "Alone on a Planet" 1

連載スタートします。

とりあえず30話分くらいストックはあるので、しばらくは順調にアップできると思いますが、その後はやれる範囲でぼちぼち公開してゆきます。(^^;

ファンタジーをメインにしつつ、SFとゲーム要素とラブコメ……などなど、ごちゃ混ぜに詰め込んでいます。

何分、このサイトを利用するのは初めてなので、不手際等もあるかと思いますが、主人公・暁の冒険にお付き合いいただければ幸いです。

 (アカツキ)は風を感じていた。

 草原(くさはら)を渡ってくる心地よい大地の息吹は、頬に優しくキスをするようで、官能的ななまめかしさにその場を離れがたくさせていた。


 彼は目を開くと突然走り出した。

 柔らかい草はクッションになりすぎて、踏ん張りはきかないが、その分彼の脚に十分な負担をかけてくれる。


 200メートルほど前方、10メートルほどの木立の上に翼竜が旋回していた。

 焦点を合わせると、メニューウィンドウが翼竜の上にポップアップし、HP52を示す。

 これまでで最大だ。


 翼竜は自分に向かってくる小さい生き物に気づくと、獲物と定めて一声吠え、急降下を始めた。


 暁は大岩を踏み台にジャンプすると、背中の鞘から剣を抜き放った。

 夕日を浴びて赤く輝いたその剣は片側にだけ刃があり、鋭く切れ味はよさそうだった。

日本刀(かたな)というらしい。


 翼竜は自らが捕食者であることを疑わずに獲物に向けて大口を開けてくる。


 日本刀を片手で振ると、空気がぶるんと鳴った。


 二者がぶつかる瞬間。


 翼竜は真っ二つに切り裂かれて地面に落ちていった。


 暁はくるりと一回転して何事もなかったかのように地面に降り立った。

 刀を(くう)に捧げ持ち、眺める。


 その時、けたたましくブザーが鳴った。


 同時に刀が彼の手から消え、翼竜も夕日も草原自体も消え失せた。残ったものは無機質な金属に囲われた巨大な空間……。


「少尉! その翼竜までそんな簡単にやっつけちゃうんじゃ、もうこれ以上強い敵、いなくなっちゃっいましたよ!」


 空間に響く、若い女性の声。


「これじゃ訓練にならんよ。

 もっと強いのをプログラムしてくれよ。」


 暁は「AR訓練室」内部に突き出した管制室の出窓から覗いた女性オペレータの怒り顔に向かって、投げキッスをしてみせた。




 地球連邦軍所属、惑星探査船ゼヒュロスの船体は、地球を離れ、遥か外宇宙にあった。


 西暦2216年、地球は瀕死の状態にあった。

 深刻な大気汚染と核戦争の結果、地上は住むに足る場所ではなくなり、生き残った人類の大半は地下、海底、月、スペースコロニーに移り住んでいた。

 2100年代初頭に始まった火星のテラフォーミングも、莫大に膨らんだ費用と、戦争の影響で頓挫し、僅かな開拓民を残したまま、打ち捨てられた。

 生き残った人類は大同団結、月をベースに地球連邦を結成し、かすかな希望にかけ、人類移住が可能な惑星を探索することとなった。


 一方、アステロイド・ベルトの小惑星群をベースに戦争以前から開発を行い、巨万の富を築き上げ、巨大な企業間連合(コングロマリット)を作り上げていた2大勢力、タイヤングループと、ローエングリン家はそれぞれ独自に、宇宙開発を行っていた。




 シャワーを浴びた暁が食堂に入ると、彼のチームのメンバーが先乗りして酒盃を上げていた。

 長い航海の中では、乗組員は多少のアルコールも許可されていた。


「少尉。

 こいつがね、少尉のことをカタブツだってぬかすんですよ」


 大柄なマイク・コーエン准尉がケン・ロドリゲス伍長の肩をばんばんと叩く。

 マイクは階級こそ下だが26歳と暁よりも6つ年上だ。

 少し酒癖の悪いところがあり、ホラを吹く。

 憎めない奴ではあるのだが、チーム内の年下からは煙たがられていた。


「そんなこと、言ってませんよ。

 准尉、やめてくださいって」


 肩を叩かれて迷惑そうにしている若い分析官はケン・ロドリゲス伍長、まだ19歳だ。

 チームの中では大人しめで、マイクがからかうには絶好のターゲットだった。


「准尉、いい加減にしてください。

 少尉にも失礼ですよ」


 いつもマイクのお守りをするのが、彼の直属の部下で紅一点のチェン・リュウシェン曹長だ。


 もう一人、チーム最年長の30歳、医師のムサ・ディウフ曹長が端に座っているが、いつも無口で、話には滅多に乗ってこない。


「俺がカタブツだと?

 そりゃあ……ケンが正しいな。

 俺はカタブツだ!

 マイクの禁酒令を艦長に進言してやる」


「え!

 そ、そんな……カンベンしてくださいよ」


 マイクの困りように、ケンやチェンが声を出して笑った。ムサでさえ、ニヤニヤしている。

 この雰囲気は大切だな。

 暁はチームの和が取れていることに満足した。


 席について食事を取ろうとしたその時。


 艦全体を衝撃が襲った。


 暁の食事を含め、テーブルの上の固定されていなかった物がことごとく吹っ飛ぶ。


 暁はテーブルに捕まって、衝撃に耐えたが、間に合わなかった数名がノックダウンされたかのように、床に転がった。


「けが人はないか!?」


 暁は叫んだが、その場の全員に異常はないようだった。


 艦に何か異変があったのか?


 地球を発って以来、こんな衝撃は初めてだった。

 そもそもGWMが航路の計算をするわけで、何か障害物にぶつかったり、危険地帯を通ることなどあり得ないはずだが。

 たとえそういう事態に遭遇したとしても、何らかの警告はあるはずなのに。


 突然暁の目の前にスクリーンがポップアップし、オペレータが語りかける。


「艦長命令。

 全将校は、直ちに艦橋に集合。繰り返す。全将校は……」


 廊下に出て、走り出す。


 艦内は1.2Gという人工重力に調整されている。

 これは目的の惑星に到達した時、地球と異なる環境にもすぐに順応できるようにするためだ。

 何ヶ月もの航海で、乗組員は誰もがこのGに慣れ、地球上にいたのと、ほぼ同じレベルで生活できるようになっていた。


 犬飼暁(イヌカイアカツキ)

 地球連邦軍将校としては、20歳という若年での抜擢だったが、その身体能力と士官学校においての抜群の成績からすれば、当然の採用だった。

 人類移住可能惑星を目指す惑星探査船ゼヒュロス所属少尉、惑星上陸調査官、それが彼の役職だった。


 艦橋にはすでに十数名の将校が集まっていた。

 彼らが遠巻きにする中心にはリカルド・ジャンニーニ艦長の威厳ある巨体があった。

 

「諸君、GWM(ジーン)の報告によると、ゼヒュロスは突如航路上に発生した衝撃波を通過した。

 大きな被害の報告はない。

 だが、もっと大きな被害とも言えるのが、GWMが……航路を見失ったことだ。

 現在、本艦は座標を見失い、迷子の状態にある」


 迷子?

 GWMは宇宙図のマッピング・コンピュータであり、いわば全宇宙の形を最もよく知る存在だ。

 そのGWMが座標を見失ったとは、どういうことなのか?

 宇宙のどんな位置で、どんな角度からでも現在地を測定できるはずなのに?

 我々は、目的の惑星探査も、地球への帰還も果たせないことになる。


「艦長。

 それはGWMが誤作動を起こしているということですか?

 あの衝撃は派手でしたが、その後は、艦の機能は何の問題もないようですが」


 GWM(ジーン)はゼヒュロスに組み込まれたマッピング・コンピューター Generator of Wide-space Mapである。

 マッピングのために開発されたコンピュータだが、同時にそれよりもさらに下位に当たる機能である、艦の運行や制御など、あらゆる機能を司っている。

 座標を見失うほどの損害が出たとなると、そもそもコンピュータ自体に異常が発生し、艦自体が航行不能に陥っていてもおかしくはないはずだ。


「いや、理解に苦しむところではあるのだが、艦の運行には何の障害もない。

 したがって、現在の我々は、『知らない宇宙を突き進んでいる』ことになる」


 士官の間にざわめきが起こった。

 当然だろう。

 まったくの暗闇の地下水路を、全速力で駆け回っているようなものだ。


「で、では、ゼヒュロスは行く先もわからずに暴走していると?」


「それが、そうでもないのだ。

 正確に言えば、『知らない宇宙を正常に突き進んでいる』のだ。

 プログラムを確認したところ、安全な航路を確保しつつ、人類居住惑星を探査するという目的は、今も失われてはいない。

 言い換えれば、『知らない宇宙を正確にマッピングしている』とでも言うところだろうか」


 航路を見失って、なおかつ正しい航路を進む……?


「その証拠に……GWMはルート上に、地球に酷似した惑星を見つけた。

 本艦の現在地点より、およそ3日の距離だ」


 あの衝撃後、まだわずか数分のはずだが、何年もかかる探査がこのほんの一瞬で成果を得たというのか?

 皆がぽかんとしたが、艦長はその反応を無視し、話を続けた。


「本来の航路、及び地球の座標をロストしたというのは重大事項ではあるが、だからといって、今現在、他に何ができるというわけでもない。

 したがって、艦長判断として、本来のタスクを遂行することとする。

 すなわち、旅の中途で居住可能の惑星が見つかった場合、その探索を行うという当初の計画通り、本艦はこの惑星に進路を修正する。

 惑星上陸調査官は惑星降下に備えよ」


 一同が敬礼して散開すると、同じ惑星上陸調査官で、一つ年上のフェル・ジリャノフが暁の肩をぽんと叩いた。


「いったい、どうなるんだ?

 俺たち」


 フェルは身長175cmの暁に対して、それより10cmほど高い、筋肉質でグレーヘアの警護官だ。

 暁が剣による接近戦の名手なのに対して、フェルは狙撃の名手である。


「どう……って言っても、どうにもなるまいよ。

 艦長の言う通り、今は俺らにできることをやるしかあるまい」


「ちっ。

 お前、相変わらず冷静だな。

 それが日本人の特性か?

 俺はナーバスでな、怖くてちびりそうだぜ」


 暁はフェルの腹にどすんとボディーブローを入れてやった。


「それだけ減らず口を叩いておいて、何がナーバスだ?」


「……いよいよだな。

 予定よりはだいぶ早まったが、ついに俺らの出番だ」


 暁はニヤリと笑って、長身の親友の腹をもう一度叩いた。


「その星にお前のタイプの女がいるといいな」


 フェルはお返しに暁の頭をぐしゃぐしゃとやった。


「お前はドラゴンでも、斬り殺しまくるか?」




 その惑星は地球に酷似していた。

 恒星系のハビタブル・ゾーンのちょうど中間に位置し、3つある大陸のどれもが人類にとっては快適な温度域にあった。

 直径は地球の3分の2ほど。

 重力は0.8G。

 大気の成分も酸素の割合が多少高い程度で、人類が生活するには理想的だった。

 海が80%を占め、陸地には樹々が生い茂り、火山活動まで観測された。

 何より驚いたことは、人間のような存在と町並みらしき物までが見つかったことだった。


 惑星上陸シャトルは計3機が任意に選ばれた3地点を目指し、それぞれ惑星上陸調査官を筆頭に5名ずつが乗り込んで、降下する。


 犬飼暁機には、

 犬飼暁少尉(主任調査官兼パイロット)

 マイク・コーエン准尉(武装警護官)

 チェン・リュウシェン曹長(武装警護官)

 ムサ・ディウフ曹長(主任分析官兼医師)

 ケン・ロドリゲス伍長(分析官)

 という顔ぶれが乗り込んでいた。

 3つある大陸の内、東側の最大の大陸を目指す。


 大気圏に突入し、ホバリングに移行して、安全な着地点を探しながら、地上を目指す。


 3機が分散し、暁はフェル・ジリャノフ機が水平線の向こうに消えてゆくのを目の端で捉えた。


GWM(ジーン)、問題ないか?」


 GWMとの通信は通常通りに行える。


「問題ありません。

 そのまま降下してください」


 機内モードで、人工音声が柔らかに流れる。


「少尉、いい天気ですね。

 キューバって知ってます?

 昔の映像で見たんですが、きれいなリゾートなんですよ。

 もうそんなところは地上にはどこにもありませんがね。

 ビーチでビールを飲んだり、水着の美女とクラブで踊ったりするんです。

 私たちが着陸する地域はそのキューバに似た気候ですよ。

 リゾートを味わいましょう」


 陽気なマイクが言うと、暁は笑った。

 こんな状況においても軽口を叩けるとは、こいつには不安というものはないのか。

 暁は苦笑した。


「ああ、そいつは楽しみだな。

 美女がいるかどうかだが」


 不意に、暁は誰かに見られているような違和感を感じた。

 確かにゼヒュロスやゼヒュロスから放出された監視衛星が、彼を様々な方位から捉えているはずだ。

 しかし、単にそれだけではない、そのカメラの奥にある何か理不尽で説明のつけられない、彼の心やDNAまでをも覗き込むかのような、遥かに大きな存在を感じて……、彼はぞくっと体を震わせた。


「少尉。

 どうかしましたか」


 急に強張った暁の表情を捉えてか、マイクが真顔で言った。


「いや……なんでもない。

 たぶん、勘違いだろう」


 マイクが怪訝そうに首を傾げた。


 暁は言いしれない不安をかき消そうと、フロントグラス越しに母艦ゼヒュロスを見上げた。

 青い空の向こうに、まだ巨大な宇宙船の姿が見える。

 落ち着け。

 帰る場所はちゃんとそこにある……。


 その時、惑星探査船ゼヒュロスは壮大な炎を噴き上げて爆発した。


第1章は3話予定。

第2章以降はもっと話数が増えます。

辻褄合わせや新要素の組み込みが考えられるので、あとから各話の書き換えもあり得ます。

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