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ベルウッドダンジョン株式会社 ~西辺境支部奮闘記~  作者: アマラ
一章 ダンジョンのプレオープンは気合が重要
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七話 「おやっさんだと口出しもできねぇや、チクショウ。仕方ない、寝るか」

 製作運営するダンジョン屋によって多少の違いこそあるものの、多くのダンジョンには「指令室」が設置されていた。

 集められた情報を基に、ダンジョン全体に指示を出すための場所である。

 そういった指令室で指示を出すのが、ダンジョンマスターの仕事。

 と、思われがちなのだが、実はそうでもない。

 ダンジョンマスターは、ダンジョン全体の維持管理をし、直接の戦闘指揮は専門の指揮者が行う、というケースが、多々あった。

 何しろ、ダンジョンマスターというのは多忙だ。

 経理仕事に、資材の発注、従業員同士のあれこれ、果てはほかのダンジョンとの折衝や、お役人のご機嫌取りまで。

 モンスターを退治する以外にも、やらなければならない仕事が山積みなのだ。

 正直なところ、戦闘指揮まで担当するというのは、難しいのである。

 ベルウッドダンジョン株式会社でも、そのような理由から専門の戦闘指揮者を置いていた。

 周囲に生息するモンスターから、ダンジョン内部の状況まで。

 様々な状況を把握し指示を出す「指揮者」の存在は、ダンジョンにとって欠かせないものとなっている。




 ブレイスとの交渉を終え、第二ダンジョンを出たジェイクは、次の目的地へとやって来ていた。

 第一ダンジョンの、指令室である。

 ここに、二人目の新ダンジョンへのスカウト対象がいるのだ。

 従業員出入り口からダンジョン内部へと入ったジェイクは、早速指令室へと向かった。

 廊下の突き当りにある扉を開くと、そこには大きな空間が広がっている。

 まず目に飛び込んでくるのは、壁一面を覆う巨大なモニタだ。

 画面はいくつかの分割されており、周囲の森、ダンジョン内部と言った、様々な場所が映し出されている。

 どれもそれぞれの場所に設置された監視カメラからの映像であり、現在の映像であった。

 モニタの前には、いくつもの机が並んでいる。

 舞台のホールのような作りになっており、座席部分が机になっていると思えば、おおよそ間違いないだろう。

 机にはマイクや小さなモニタなどが設置されており、それぞれに従業員が付いていた。

 そして、室内の一番高い場所、全体を見渡せる一番奥の位置には、中年の男性が立っている。

 ジェイクはその男性に近づくと、軽く手を上げながら声をかけた。


「お疲れ様でーす」


「おお、ジェイク君! お疲れ、久しぶりだね! ダンジョンマスター資格、無事にとれたんだって?」


「お陰様で。なんとか浪人せずにすみましたよ」


 この戦闘指揮者は、ベルウッドダンジョン株式会社の古参従業員であった。

 一緒に仕事をしていた期間も永く、気心知れた相手でもある。

 優秀な戦闘指揮者であり、ジェイクは見習うべき人物の一人としてとらえていた。


「それで、今日はどうしたんだい? わざわざ挨拶に来たわけでもないんだろう?」


 指令室は、ダンジョンの心臓部だ。

 現在は落ち着いているが、モンスターが進入してきたときは、一気に忙しくな。


 ダンジョンは、それそのものが巨大な罠のような物だ。

 モンスターをおびき寄せ、内部で倒すための施設である。

 この第一ダンジョンは、いわゆる「地下迷宮型」と呼ばれる形をとっていた。

 地面の下に穴を掘り、道や広場を作る。

 そこに罠や対モンスター用兵器を設置し、おびき寄せたモンスターを討伐するのだ。

 指令室は、モンスターがダンジョンに接近してきたところから始まり、それを討伐。

 死体の処理を行うところまで、すべての指示を出す場所なのだ。

 モンスターがダンジョンに接近すると、仕掛けられた監視カメラでそれを確認。

 戦闘指揮者はモンスターの種類に応じ、どのような対応をとるかを決定。

 その決定に従い、指令室内の従業員が各部署に連絡、対処に当たるように指示を出す。

 戦闘中の様子も、ダンジョン内に仕掛けられたカメラによって、映像が司令室に届けられる。

 そこで不測の事態などが起きた場合、戦闘指揮者はすぐさま必要部署に指示を出し、対応に当たらせるのだ。

 まさに、この場所は心臓部であり、戦闘指揮者はダンジョン内部を統括する「指揮者」なのである。

 それだけに、指令室は常に空気の張り詰めた場所であった。

 いつモンスターが現れてもおかしくないだけに、当然のことだろう。

 ゆえに、通常この場所には、必要のない人間は立ち入らないことになっている。

 ただ単に挨拶をする程度であれば、勤務が終わった後を見計らうのが通常だろう。

 当然、ジェイクはその当たりのことをよく理解している。

 それがわかっているからこそ、中年戦闘指揮者は先ほどのような質問をしたのだ。

 ジェイクはそれに対して、苦笑いを浮かべて頭をかいた。


「いえ、あれです。クラリエッタさんに用事があって」


「ああ。そういうことね。あれと会おうとしたら、ここに来るしかないか」


 中年戦闘指揮者は、ジェイクと同じような表情を作る。

 誰かに会うために指令室に来る事はない、はずなのだが、どうやら件の人物に限っては別のようだ。


「新ダンジョンの件だろう? クラリエッタなら、新しい場所でもすぐに対応するだろうな。間違いなく、能力だけなら優秀なやつだよ。能力だけなら」


「お察しのとおりです。優秀ですからね。能力だけなら」


「能力だけならね。あいつなら、いつものところで転がってるよ」


「ああ、ありがとうございます。じゃあ、邪魔になってもあれなんで、自分はこれで。また、帰るときに声かけさせてもらいます」


「うん、了解了解。また、事務所ででも学校の話し聞かせてよ」


 お互いに軽く会釈して中年戦闘指揮者と別れると、ジェイクは指令室の角へと向かった。

 正面のモニタから一番遠く、一番奥まった場所である。

 本来何もないはずのそこには、何故かごちゃごちゃと荷物が積み上げられていた。

 荷物といっても、ダンジョンで使われるような類のものではない。

 酒瓶やらお菓子の空箱。

 袋につめられているらしき衣類などが、ダンボール箱の上に積みあがっていた。

 指令室は、非常に洗練された空間になっている。

 軍隊のような規則正しさと、独特の整然さを感じられる場所、とでも言えばいいのだろうか。

 その一角に突然現れた生活観丸出しの塊は、恐ろしいほどの違和感を放っていた。


「相変わらずだなこの人は」


 ジェイクは眉間に寄った皺を指で伸ばしながら、ダンボールの側面を叩いた。

 中には何も入っていないのか、ボコンボコンと間抜けな音がする。


「あれ? いない?」


 ジェイクが首をかしげた、そのときだ。

 指令室内にサイレンのような音が響き、赤色の回転灯が回り始めた。

 その瞬間、ダンボール箱を突き破り、何かが飛び出す。

 思わず声を上げそうになるジェイクだったが、既の所で自分の口を塞いだ。

 これから飛び交うであろう会話を、邪魔しないためだ。

 机で作業をしていた従業員の一人が、戦闘指揮者の方へ振り返り声を上げる。


「モンスター接近!」


「正面モニタ切り替え」


 戦闘指揮者の言葉に反応し、従業員が操作盤に指を走らせる。

 すぐさま壁一面を使ったモニタの映像が切り替わり、森の一部らしき大きな画面が映し出された。

 そこに映っていたのは、額から一本の大きな角を生やした、兎のような生物だ。


「なんだ、ウサギじゃんかよ。こりゃあんましオモシロくないなぁ」


 つまらなそうにぼやいたのは、ダンボール箱を突き破って飛び出した物体。

 大きな犬に似た耳を持つ、女性の頭だった。

 鋭く冷たさを感じさせる目元に、長く艶やかな黒髪。

 見るモノに理知的な印象を与える、獣人の一種「狼人族」の女性だ。

 女性は真剣な様子でモニタを見据え、不満げに呟いた。


「体長2m弱。筋肉の付き方も普通だなぁ。ん? 角に溝? 電気か炎か、どっちかの魔法を使う感じか」


 何か気になることがあったのか、女性は眉間にしわを寄せた。

 首を突き出すように、モニタの方へと近づける。


「角の付け根と先端に焦げ跡。電気系統の魔法使った証拠だぁね。第一階層のダンジョングラス広場にご案内して、食獣植物コースだね」


 女性が、ほぼ同時。

 従業員から上がってくる報告を聞きつつ、モニタを確認していたし戦闘指揮者の男性が「よし」と声を上げた。


「対象を、サンダーホーンラビット。通常サイズの個体と推定。ダンジョン内に誘導後、第一階層の草原広場へ。そこで、食獣植物で迎撃を試みる。必要各部署に通達を開始してくれ」


 その言葉に、従業員達は「はいっ!」という短く帰す。

 すぐさま、忙しそうに動き始めた。

 そんな様子を眺めていた女性は、至極つまらなそうに溜息を吐く。


「おやっさんだと口出しもできねぇや、チクショウ。仕方ない、寝るか」


「いや、寝ないでくださいよ」


「うをぉ!?」


 あきれ顔で言うジェイクの声に、女性は盛大に体を跳ね上げた。

 それまでずっとモニタだけに向けていた顔を、ジェイクの方へと向ける。

 一瞬不思議そうな視線をジェイクに向けるものの、すぐに思い出したというような表情になった。


「あー、ジェイク君じゃん。どしたのよ、こんなトコで」


「お久しぶりです、クラリエッタさん。お変わりないようで」


「え? ああ、まーねー」


 言いながら、女性、クラリエッタは頭を掻こうとして、ダンボールにその手を阻まれた。

 ダンボールの側面を頭だけで突き破り、首を出しているのだ。

 体はすべて段ボールの中なのだから、手が出せないのは当然である。

 怪訝そうな顔をしたクラリエッタだったが、すぐに自分の今の状態を把握しただろう。

 納得した様子でうなずきながら、ダンボールの中へと頭を引っ込めた。

 ガリガリという音がしているのを見るに、心行くまで頭を掻いているらしい。


 この女性、クラリエッタ・ハーフェルは、ベルウッドダンジョン株式会社に幾人かいる戦闘指揮者のうちの一人であった。

 非常に有能な戦闘指揮者であるところの彼女は、ジェイクが新ダンジョンに連れて行こうと考えている三人のうちの一人だ。

 そして、ブレイスと同じく、非常に扱いにくい人物でもある。

 クラリエッタは、間違いなく優秀な戦闘指揮者であった。

 モンスターに対する知識は深く、ダンジョン内の状況を把握する能力も高い。

 ただ、その美点を補って余りあるほど、癖の強い人物であったのだ。

 戦闘指揮者というのは、さまざまな情報を元に行動を決定するのが仕事だ。

 必要な情報は、実に多岐に渡る。

 進入してくるモンスターの種類や特徴、固体ごとの能力評価。

 ダンジョン内にある装備や現在の状況はもちろん、それを運用する従業員の配置や能力、体調にいたるまで。

 ありとあらゆることを考慮し、指示を出さなければならない。

 クラリエッタはその知識を得るために、独自の方法を編み出していた。

 四六時中指令室に居座り続け、ありとあらゆることを見聞きして記憶する、という、実に単純明快なものだ。

 指令室には、ダンジョン周辺と内部、すべての情報が集まってくる。

 各種観測機器から送られてくるものはもちろん、従業員達からの報告なども、ここに集約されるのだ。

 クラリエッタは、それらに片っ端からすべてに目を通し、記憶しているのである。

 これには、彼女の種族的特長が大いに役に立っていた。

 狼人族である彼女は、人間の数倍から数十倍といわれる、鋭い感覚器官を有している。

 そのため、たとえば同じ映像、音声からでも、クラリエッタはより多く、正確な情報を得ることができるのだ。

 狩猟種族として有名な狼人族の本能は、それらを有益に運用するのにも、大変に役に立っていた。

 生態として集団での狩猟を送ってきた狼人族は、そもそも協力し合っての狩に適応している。

 ダンジョンでのモンスター討伐は、ある種その最たるものといえた。

 個性として、自分で戦うよりも指示を出すことを得意としていたクラリエッタにしてみれば、ダンジョンの戦闘指揮者というのは、まさに天職なのである。

 ただ、クラリエッタには困った癖があった。

 ダンジョン内部の情報を、必要以上に溜め込みまくる性質があるのだ。

 たとえば、ダンジョン従業員の個人情報。

 ここの能力や性質を見極め、何ができ、何ができないのかを把握するのは、戦闘指揮者にとって大切な仕事のひとつだ。

 ではあるのだが、クラリエッタのそれは、少々度が過ぎていた。

 一人一人の仕事に対するスタンスから、仕事中の癖。

 食べ物の好き嫌いから身長体重の推移。

 果ては性的嗜好から、昨日の寝言の内容、学生時代に書いたポエムまで。

 何処でどうやって調べたのかは一切不明だが、そういう恐ろしくプライベートなことまで調べ上げてくるのだ。

 その情報があまりに正確無比であることから、「黒歴史辞書」などという異名を付けられるほどである。

 もっとも、それだけならまだいいと言えるだろう。

 クラリエッタの質が悪いのは、その知識を仕事以外のことに悪用するところにあった。

 掴んだ情報をフルに使い、従業員達をパシリにしたりするのだ。

 クラリエッタは、少しでも情報に触れている時間を長くするため、指令室に住み着いていた。

 積み上がったダンボールなどのアイテムは、クラリエッタの住処であり、持ち込んだ生活用品だったのだ。

 言うまでもない事だが、通常そんなことをする奴はいない。

 アホの所業である。

 そんなアホであるところのクラリエッタは、少しでもダンジョンにいるために要らない知恵を回した。

 すなわち、従業員をパシリに使えば、指令室から出ずに生活ができるのではないか、と考えたのである。

「メシ買ってこなかったら、テメェが人生で初めて描いたラブレターを読み上げる」などと言った脅し文句は、クラリエッタの口からよく聞かれる類のものだ。

 クラリエッタ・ハーフェルという人物は、間違いなく優秀な戦闘指揮者であった。

 だが、その性根は比較的腐っており、典型的なクズだったのだ。


「わざわざこんなところに来たってことは、新ダンジョン系の話?」


「流石、話が早い。っていうか、ダンボールに入ったままだと聞き取りづらいんですけど」


「ああ、はいはい」


 ジェイクに言われ、クラリエッタは再びダンボールの穴から顔を出した。

 涼やかで知的な印象を受ける美女の顔がダンボールの中から現れるというのは、なかなかシュールな絵面だ。

 まして顔のイメージと、言動行動がかけ離れているとなれば、なおさらである。

 段ボールから顔を出したクラリエッタは、ジェイクの方へと顔を向けた。

 だが、すぐにほかへ気を取られたように、別の方向へ注目を移す。

 その先にあるのは、緊迫した様子の戦闘指揮者と従業員達の姿だ。

 報告や指示が飛び交い、モニタにはダンジョンの中に侵入してきた、モンスターの姿が映っている。

 クラリエッタは露骨に顔をしかめ、つまらなそうに溜息を吐く。


「ありゃ、すぐに片付くなぁ。なんか不測の事態が起きればオモシロいのに」


 不測の事態、というのは、もちろんモンスターの討伐に関してのことである。

 モンスターが予想外の魔法を使ってこちらの罠を破壊したり、今まで確認されたことのない力を発揮したりすればいいのに。

 と、クラリエッタは考えているのだ。

 まっとうなダンジョン屋としてはもっとも忌避すべき事態なのだが、クラリエッタはまっとうな思考の持ち主ではなかった。


「そこに颯爽とあたしが現れて、ちょーかっこよく指揮を執って事態を収束させるの。スゲくない?」


「なに学校がテロリストに乗っ取られた妄想してる学生みたいなこと言ってるんですか。そんなことより、新ダンジョンの事ですよ」


「そんなことって。どうせ起こらないことを妄想するのも大事なのよ? 想像力を掻き立てることで人って生きていけるんだから。おやっさんだと口出しできないし。この間まで情けなかった新人も育っちゃってさぁ。きっちり仕事するもんだから、かわいげがねぇーったらありゃしない」


 不満げに、クラリエッタは表情を歪める。

 クラリエッタには、戦闘指揮者という仕事を大変に好んでいた。

 愛しているといっていい。

 もっともその愛の形は、なかなかにゆがんだものである。

 クラリエッタは、自身が戦闘指揮者として采配を振るいモンスターを討伐した時、快楽を覚えるという、キテレツな性癖を持っていた。

 相手が強いモンスターであればあるほど、状況が困難であればあるほど、強い快感を得ることが出来るのだ。

 かなり特殊な、変態と言っていいだろう。

 あまり仕事に真面目に取り組むタイプに見えないクラリエッタがここまで入れ込んでいるのは、そのためである。

 ほかの戦闘指揮者の仕事に口出ししても「楽しみ」を得られるのだが、最近は皆優秀になってきているため、それも難しかった。

 クラリエッタの不満は、そういった所からくるものなのだ。

 こんなクラリエッタではあるが、腕は確かであり、優秀さは折り紙付きだ。

 何とか新ダンジョンに連れて行きたいジェイクは、早速手札を切ることにした。


「新ダンジョンですけど。従業員の半分以上は、新人を入れることになりそうなんですよ。戦闘指揮者も古参組はあまり引き抜けませんし、若手を連れていく予定です。場合によっては、なりたてのド新人も」


 戦闘指揮者という仕事は、指令室での勤務を経てから成る、というのが一般的だ。

 他部署への通信係やモニタのチェック要員などで経験を積み、戦闘指揮者になるための知識を積み重ねる。

 しかる後、先輩戦闘指揮者達からの指導を受け、認められるだけの実力をつけてのち、その職に就くことを認められるのだ。


「ただそうなると、腕のいい訓練教官とかも置いておきたいんですよねー」


「なん、だと」


 ジェイクの言葉に、クラリエッタはわかりやすく反応を示した。

 古参のうるさ方がおらず、頼りない新人やなり立てほやほやが殆どという環境は、クラリエッタにとっては天国と言っていい。

 歪んだ性癖が満たされるであろうこと請け合いである。


「そういう人がいてくれたら、今やってるダンジョンの設計にも携わってほしいんですよねー。自分が設計に携わったダンジョンで、新人達を指揮してモンスターを討伐してくれるような戦闘指揮者、どっかにいないかなー」


 クラリエッタは、おもむろにダンボールの中へと首を引っ込めた。

 内部でゴソゴソと動き始めると、ゆっくりとダンボールの蓋を開け、外へと出てくる。

 ようやく見えたクラリエッタの服装は、上下黒のパンツスーツであった。

 顔だけなら理知的なだけに、嫌に様になっている。

 クラリエッタはジェイクへと向き直ると、その手を無理やり両手で取って強く握りしめた。

 見た目だけなら真剣な様子のクラリエッタに強い眼差しを向けられ、ジェイクは不審者を見る目を返す。

 もちろん、クラリエッタはそんなものには一切怯まない。


「安心してくださいジェイクさん、いや、ダンジョンマスター。新ダンジョンに私が関わることが決定した以上、必ずやご期待以上の成果をお目にかけましょう」


「あ、決定したんだ。いつの間にだろう。いや、頼むつもりだったから別にいいんですけど」


 半笑いのジェイクを他所に、クラリエッタはすでにやる気満々だ。


「さぁ!! そうと決まったら善は急げだよね! 新ダンジョンの設計図作ってるのって事務所でしょ!? ちょっと行ってくるわ!!」


 いうが早いか、クラリエッタは凄まじい勢いで走り出した。

 あっという間に扉に肉薄すると、蹴り飛ばすような勢いでそれを開け放ち外へと出ていく。

 指令室に居た全員が、その様子を唖然とした様子で見送った。


「はやまったかなぁー」


 ジェイクは引きつった苦笑いを浮かべながら、頭を抱えた。

 早くも後悔してきたわけだが、優秀なのは優秀で間違いないのだ。

 うまいこと誘導できれば、新ダンジョンの大きな戦力になる。

 頑張れば何とかなる、多分。

 ジェイクは自分にそう言い聞かせながら、深い深い溜息を吐くのであった。

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