五話 「それは、確かにそうかもしれないが。お前、この三人と一緒に働くことになるんだぞ」
新領地の開拓というのは、手順が決まったものであった。
極々大雑把に分けて、六段階だ。
まずは、第一段階。
地形とモンスターの把握。
新たな領地となる予定の土地周辺を、徹底的に調べる。
第二段階。
調べた情報を基に、新たな領地の範囲と、国境線の位置の決定。
これは、非常に重要な仕事であった。
これ以降の段階に、多大な影響を与えるからだ。
第三段階。
軍隊の投入。
情報を基に「モンスター討伐軍」を編成し、新領地予定地内のモンスターを片端から討伐するのだ。
すべてのモンスターを討伐するのは難しいだろうが、ここではおおよその安全さえ確保できればいい。
第四段階。
ダンジョンの建設。
国境線として予定されている場所に、ダンジョンを作る。
そうすることで、新領地予定地内に新たなモンスターが侵入してくることを防ぐのだ。
第五段階。
新領地予定地内のモンスターの討伐。
外部からの流入を抑えたところで、本格的に予定地内のモンスターを討伐する。
これにより、安全圏を確保するのだ。
第六段階。
一般入植者の受け入れ。
畑や家を作り、街を作る。
以上、これらが滞りなく完了することで、ようやく「新領地」としてその土地は機能し始めることになるわけだ。
もちろんほかにも細か所はあるが、おおよそはこんな所だろう。
西辺境の新領地開発は、第二段階までが終了している。
現在は軍の編成が進んでおり、これが任地へ出発するのは、数か月後になるらしい。
軍によるモンスター討伐が完了するのは、さらに数か月後になるだろう。
現在の予定では、討伐が終わるのは六か月から八か月後。
それが終わり次第、第四段階であるダンジョンの建設が始まることになる。
つまり、ジェイクに残された準備期間は、そう長くないということだ。
昼食を取り終えたジェイク、兄、父の三人は、仕事場の会議室にやって来ていた。
事務室の隣に作られた広い部屋なのだが、実際のところは応接に使われたり、時には宴会会場として使われていたりする。
「あー。久しぶりにオフクロの漬物食ったわ」
お茶をすすりながら、ジェイクはしみじみとした様子でそうつぶやいた。
それを聞いた兄が、首を捻る。
「お前へ送ってる仕送りに、漬物入れてなかったか? オフクロ」
「ああ、入ってたんだけどね。ほら、後輩とか俺より遠くから来てる連中だとさ。そういうのに飢えてて。飲み会なんかあるとさ」
「あー。なるほど。そうなると自分の口には入らないわな。そういえば俺の頃もそうだったわ」
兄が学園を卒業したのは、三年前だ。
そう年月が離れているわけでもないので、どうやら同じようなことをしていたらしい。
茶をすすりながらなんとなく時計に視線を向けたジェイクだったが、はたと思い出したように改めて兄の方へ顔を向けた。
「あれ、そうえば、嫁さんの病院って何時ごろ終わるんだっけ?」
南辺境伯の娘であるところの、兄の嫁さんは、今は病院で診察を受けに行っていた。
産み月が近いこともあり、診察にはまめに通っているらしい。
まあ、立場的な理由も多分にあるわけだが。
「迎え行かなくていいの?」
「実家の方が、馬車を出してくれててな。帰りに、お義父さんとお義母さんにも顔見せてから帰ってくるっていうから」
「ああ、そうなんだ」
現在、兄の嫁さんは、ベルウッド家で暮らしていた。
出産の準備をする傍ら、家業の手伝いなどをしているのだという。
実家に居た方がいいのでは、と兄は言ったそうなのだが、自分はもうベルウッド家の嫁だからと、こちらで働いているらしい。
「それに、俺とも離れたくないって言っててな」と惚気られた時、よっぽどブン殴ってやろうかと思ったジェイクだったが、何とかこらえることに成功する。
自分もずいぶん忍耐強くなったものだと、しみじみ思うジェイクであった。
同じくお茶をすすっていた父が、「ついでに」と口を開く。
「バァさんの迎えも頼んでるからな。帰ってくるのは夕方ぐらいだろ」
「どこ行ってるんだっけ? 遊技場?」
「そうそう。最近出来た所でな。仲間と遊び歩いてんだよ」
最近、ゲームなどが設置された、遊戯施設が出来たらしい。
中々の規模があるそうで、老若男女問わず、このあたりで人気を博しているのだという。
「なんか、色々と遊具があるらしくてな。ジジババが朝っぱらから集まってワイのワイの騒いでるみたいだぞ」
「今まで遊ぶところなかったからなぁ」
ダンジョンが多く、命を危険にさらす人間が多い関係上、いわゆる「大人の遊び場」はいくらかこの土地にもあった。
だが、「健全な」遊戯施設というのは、ほとんどなかったのである。
待ちに待った、というわけではないが、人が集まるのも頷けるところだ。
「グッドリバーの系列らしいぞ。何でもやってるんだな、あの会社」
「ダンジョン屋もやってるぐらいだからな」
グッドリバー社といえば、泣く子も黙る大企業だ。
自社製品を満載したダンジョンをいくつも抱える、ダンジョン会社でもある。
いくつかの国に支店を持つ多国籍企業であり、ベルウッドダンジョン株式会社など、話にもならない規模を誇っている。
様々な業種に手を出しており、その一つが、最近できた遊技場であった。
「俺も遊びに行ったが、なかなか面白かったぞ。ピンボールとかあって。あ、そういえば」
思い出したというように手を叩く父に、ジェイクと兄の注目が詰まる。
「例の新領地にも、グッドリバー社のダンジョンが出来るんだよと」
「おお。流石天下の大企業様だねぇ」
そんな話をしている間に、兄がおもむろに席を立った。
近くに置いてあった箱をあさり、折り畳まれた紙を取り出す。
机の上に広げられたそれは、大きな地図であった。
端の方には「西部辺境 新領地予定地」と書かれている。
先ほどジェイクが見せられた地図より倍率を落とし、西部辺境新領地予定地全体を描いたものであった。
父は、その一部に指をさす。
そこには線が書かれており、「現国境線」と書かれている。
「ここが、今の国境線だ。ここに、三つのダンジョンが並んでる」
言いながら、父は地図の上を叩く。
そこにはダンジョンを示す地図記号と、ダンジョン屋の名前が書きこまれている。
「で、この外側の線が、新しく国境線になる予定の場所だ」
父は、先ほどの「現国境線」の端から半円を描くように描かれた線を指でなぞった。
国外側にはみ出したその線の近くには、「新国境線 予定」と書かれている。
「ずいぶん大胆に出っ張るな」
地図を見据えながら、ジェイクは感心した様子で腕を組んだ。
旧国境線から、かなり大胆に領地を広げるように見えたからである。
実際、今回の新領地開拓は、かなり大規模なものであった。
「ここ二百年ぐらいで、一番の規模だそうだ。国境線が長くなる分、置かれるダンジョンの数も多くなる。この新国境線上に、十件のダンジョンが作られる予定だ」
「十!? マジかよ。すげぇ規模だな」
ダンジョンを作るというのは、恐ろしく労力と金がかかるものであった。
相手にするのは、文字通りの化け物だ。
専用の施設を作り、設備を整え、専門能力を持つ人員を数多く配置しなければならない。
一つ作るだけにしても、大変な労力がかかるのだ。
それを十件となれば、確かに「すげぇ規模」とも言いたくなるだろう。
「この十件のうち、三件は旧国境線上のダンジョン屋が担当する。まあ、通例通りってやつだな」
新領土を開拓する場合、国境線が変わることがままある。
そういった場合は、不要になってくるダンジョンが出てくるものであった。
だからと言ってただ潰してしまうのは、あまりにも惜しい。
その土地に長く根差していたわけだから、周辺のモンスターに関する様々な情報、対処策も持っている。
言ってみれば、新領地開拓に最も欲しい種類のダンジョン屋だ。
故に、そういったダンジョン屋には、新国境線にダンジョンを作る権利が与えられることになっていた。
新国境線の、両端。
一番旧国境線に近い場所は、そういった実績があるダンジョン屋に任されるのである。
ちなみに。
旧国境線上のダンジョンは、すぐに取り壊されるわけではない。
新領土内のモンスターを討伐し終えるまでは、その場に残されるのだ。
そうすることで、モンスターをダンジョンで囲い込み、駆逐するわけである。
先ほどの六段階の中でいう、第五段階だ。
これには相応に時間がかかり、短くても数年、十数年がかかるものであった。
最終的にダンジョンを畳むことになるわけだが、これは大変に名誉なことであるとされている。
会社にも箔が付き、国からも多額の報奨金が与えられるのだ。
ダンジョンを閉鎖することにはなるが、新たなダンジョンを作る権利は保証されている。
損害よりも、利益の方がはるかに大きい。
「で、だ。ウチが担当するのは、この一番奥だ」
父が指さしたのは、カマボコ型にせり出した国境線の一番先端。
現在の領土から、最も離れた位置だった。
それを見たジェイクは、苦い顔をする。
「荷物運ぶのに相当苦労するな、こりゃ」
ダンジョン建設予定地が新領土の一番奥、ということは、現国境線から一番離れている、ということだ。
行こうと思えば、ほぼ未開の土地を進むことになる。
道もない、モンスターなどの危険もある場所を。
ダンジョン建設用に、大量の資材を抱えて、である。
「うちの設備と総務の連中が、総出で準備にあたってる。おかげで、ここ最近はてんてこ舞いだぞ」
言いながら、父はため息交じりに頭を掻いた。
設備や総務というのは、ベルウッドダンジョン株式会社内の部署の事である。
ジェイクが来るずいぶん前から、西辺境の話は進んでいたのだ。
すでに準備が始まっているのも、当然だろう。
「輸送用のゴーレムは、もう買い付ける算段が付いてる」
ゴーレムというのは、魔法で動く大型の駆動機械全般を指す言葉である。
よく見られる人型のものから、半人半馬のようなもの。
中には、箱に足を付けただけのような、完全に輸送に特化したものまであった。
実は、鉄道の上を走る列車も、このゴーレムの一種である。
簡単な輸送ならば馬車なども使われることはあるのだが、現在の陸上における大型輸送の要は、ゴーレムなのだ。
父の言葉に、ジェイクは首をかしげる。
「買い付ける? レンタルじゃなくて?」
「どうせ輸送手段は必要になるからな。一番奥からの行き来は大変だぞ」
それを聞き、ジェイクはため息とともに納得した様子で「なるほど」と頷いた。
何しろ、道も無ければ、周囲にはモンスターまでいるのだ。
そういったものを使わなければ、そもそも歩くこともままならない。
「っていうか、ゴーレムってどこのメーカーのやつなの? まさかここから持ってく訳にもいかないだろ?」
ジェイクの言うことももっともだ。
南辺境であるここでゴーレムを買い、西辺境に運ぶのではあまりに非効率である。
それならば、西辺境で新しいものを買ってしまった方が、労力が少なくて済む。
「ABCモータースの支店が向こうにあってな。用意してもらうことになってる」
「ああ、いつもお世話になってる。なら、問題なさそうだな」
心配するな、というような父の口調に、ジェイクも納得した様子でうなずいた。
ゴーレムを作っている会社は、いくつかある。
ABCモータースは大手メーカーの一つであり、ベルウッドダンジョン株式会社も、この会社のゴーレムを使っていた。
営業マンもまめに事務所を訪ねてきており、アフターケアも手厚い。
中小企業にとっては、大変ありがたいことである。
「ダンジョンの中身の方も、設備の連中が設計をあらかた終えてる。最も、現地に言っての微調整は必要だがな」
「現地の様子を見つつ、か。そりゃそうだわな。できれば現地を見ながら設計した方がいいんだろうけど」
「まだモンスターがうじゃうじゃ居るだろうからな。そういうわけにもいかんだろ」
ダンジョンは建築物で在り、当然ながら現場を確認しながら設計するのが一番である。
だが、実際には早々行ける場所でない場所に作るのが、ダンジョンというものだ。
なので、まずは国から降ろされた情報を基に大まかな設計を行い。
現地に行ったのち、細かな調整を施すのである。
「ゴーレムの準備はOK。ダンジョンの設計はプロに任せて。資材の方も準備が進んでる。となると、あとは従業員か?」
「そういうことだ。まあ、そっちの方はさすがにこっちでもうやっておいた、って訳にはいかないからな。何しろダンジョンマスターになるのはお前なわけだし」
ゴーレムは既製品であり、先だろうが後だろうが準備するものは変わりがない。
ダンジョン内部の設計も、「ベルウッドダンジョン株式会社」の社風がかかわってくるものであり、ダンジョンマスターの意向は大きく影響するものではないのだ。
だが、そこで働く従業員だけは、ダンジョンマスターの判断によって大きく変わるものであった。
ダンジョン屋というのは、荒事商売である。
危険と隣り合わせで、いつ命を落とすともしれない。
ミス一つで、容易に自分の命を失うことになるのだ。
厄介なことに、ダンジョン屋の死というのは、一人の責任云々で終わるものではなかった。
一人が命を落とせば、その分の仕事が滞ることになる。
仕事が滞るということはつまり、ダンジョンが機能しなくなるということだ。
それは、多くの仲間を危険にさらすことを意味しいる。
もちろん、ことはそれだけでは収まらない。
ダンジョンというのは、モンスターの進行を食い止めることを目的としている。
それが機能しなくなるということは、つまり。
国の本土を、そこに暮らす人々を危険に晒すということなのだ。
だからこそ。
ダンジョンマスターが信頼に足ると判断した者だけを、ダンジョンに配置するのが、通例となっている。
失敗すれば、自分だけの命では終わらない。
仲間と、そこに住む人々の命も危険にさらす。
最前線で働く、ダンジョン屋ならでわの理由だ。
父の言葉に、ジェイクはにやりと口の端を吊り上げた。
「有り難いね。ウチからは古参、何人ぐらい連れてっていいんだ?」
新しくダンジョンを作るとはいえ、そこは「ベルウッドダンジョン株式会社」のノウハウをそのまま生かしたものになるのだ。
古くから働いている従業員を動員すれば、スムーズに仕事ができるだろう。
だが、だからと言って新ダンジョンに必要な人数をすべて連れて行ってしまったら、今あるダンジョンの運用に支障が出る。
それを避けるために、管理職に就ける人材を幾人かに、新人を脱した程度のものを同じ程度。
出来るだけ少人数を連れていく、というのが、定石になっていた。
それ以外に必要な人員は、新たに雇い入れ、教育をする必要がある。
ダンジョンというのは特殊な職場で在り、技術習得には少々手間がかかるのだ。
この新人教育には、ダンジョンマスターと管理職が当たることになる。
何人程度の古参の従業員を連れていけるかというのは、ここにもかかわってくるわけだ。
父は悩むような顔をして、腕を組む。
「出来れば少人数がいい。うちのいろいろ人がいるんでな。ソイツの嫁さんの件で」
「いや、申し訳ない」
父が顎で指したのは、兄の方だった。
申し訳なさそうに頭を下げる兄に、ジェイクは高速で首を横に振る。
「いやいやいやいや。あれは仕方ないだろ。あれはもう、仕方ないでしょうよ。やめなさいよ責めてやるのは」
兄の事情を聴いたジェイクは、兄擁護派になっていた。
どうやらジェイクにとって、それほど納得ができる内容であったらしい。
「もうね。あれは、うん。しょうがないよ。ホント。そうもなるわ、って思うもん。実際。もう、そういう、あれじゃないよね。うん。はいっ! もう、やめっ! この話は終わり! はいっ!」
ジェイクは両手を叩き、無理やり話を中断した。
「誰を連れていくかね! 少人数な方がいいよな! 逆にあれだ! 俺がどうしても連れていきたいメンツ書き出すから! そこが抜けたら、あと何人ぐらい連れていけるか考えよう!」
「急に元気だなお前」
胡乱気な顔をする父に対し、ジェイクは眉根を寄せる。
「逆に事情を知っててそこまで責められるオヤジが怖いわ」
「弱点に付けこむのがダンジョン屋のやり方だ。覚えとけ」
「モンスター相手のときだろうが。身内相手にはやめてやれよ。しかも手負いだろうが」
どうやら父は、相手が身内でも容赦しないタイプの様だ。
対するジェイクは、気を使えるタイプらしい。
そんなやり取りをしながらも、ジェイクは室内に置いてある棚から、紙とペンを取り出した。
ペンを走らせ、三名の名前を書きだす。
「とりあえず、思いつくのはこんなところかね」
ジェイクの書きだした名前を見て、父と兄は目を丸くした。
そして、ほとんど同時に苦い表情に変わる。
「お前、これ…」
「この面子連れていくつもりか?」
父と兄の口調は、信じられないとでも言いたげなものだった。
それに対し、ジェイクは大仰にうなずいて見せる。
「癖の強い人達だけど、腕は確かだろ?」
「それはそうだけどもよ。性格やらに問題ありだぞ」
「性格やらはアレだけど、腕は確かだろ。連れて行ったら支障もあるだろうけど、性格やらがアレな分、居なくなっていいこともある。トータルすれば、ほかの人達よりいなくなった時の穴が小さい」
「そういう考え方もあるのか。なるほど」
ジェイクの言葉に、父は感心した様子でうなずいた。
だが、兄は相変わらず難しそうな表情をしている。
「それは、確かにそうかもしれないが。お前、この三人と一緒に働くことになるんだぞ」
若干心配そうな兄に言葉に、ジェイクはピクリと体を反応させた。
どうやら、当人もそのことは気にかかっていたらしい。
何やら苦悶の表情で体を捻るが、何とか体勢を立て直す。
「何とかする」
「ずいぶんねじれてたぞお前」
「うるさい。人間若いうちに一度や二度ねじれることもあるんだよ」
気づかわしげな視線を向けてくる兄にそういい捨てると、ジェイクは気を取りなすように咳払いをする。
「それに、元々クセの強い人達がいるってわかってれば、それに耐えられそうな新人をスカウト出来るだろ」
「かもしれんが。あれに対応できる人物がそう簡単に見つかるか?」
怪訝そうな顔でいう兄を、ジェイクはギロリと睨みつけた。
その視線に、兄は思わずたじろぐ。
「まだ時間はある! 数うちゃ当たるっていうだろうが!」
「ああ、難しいことは分かってるのか」
「分かってる。だけど、あの人たちが優秀なのは間違いないだろうが。新ダンジョンを作るなら欲しい人材なのも確かだ」
兄は納得したようなしていないような、煮え切らない表情で押し黙る。
その横で、父は「わかった」と頷いた。
「いいだろう、連れていけ。だが、交渉はお前がしろよ。どうせ頭ごなしに行けっつって、はいそうですか、っていうような連中じゃないし」
「よっしゃ! その辺はわかってるって。自分がダンジョンマスターやるんだしな。その辺は任せろって」
「ホントに大丈夫かよ」
胸を叩くジェイクに、兄は心配げな顔を向ける。
それを見た父は、大きく肩をすくめた。
「当人がそれでいいって言ってんだしな。どうにかするだろ。それぐらいじゃないとダンジョンマスターなんてなぁ、務まらねってんだよ」
父のいいように、兄は呆れたように溜息を吐く。
何度か首を振ると、ガシガシと頭を掻いた。
「そうだな。ジェイクならうまくやるか」
兄も納得したのだろう。
ため息交じりにそういうと、切り替えるように表情を改めた。
「しかし、そうなるとまた話が変わってくるぞ」
「というと?」
「あの人たちのことだから、ダンジョンの構造にも口出してくるだろう。当人が行くというか言わないかで、だいぶ変更が入ることになるだろう」
兄の言葉に、ジェイクと父は「ああ」と納得の声を上げる。
優秀なダンジョン屋というのは、得てしてこだわりが強いものであった。
自分なりに仕事をしやすい環境を整えようする傾向があるのだ。
口うるさくはなるのだが、反面良いこともある。
そういう手合いに要望通りのものを与えてやると、凄まじい能力を発揮するのだ。
ちょっとやそっとでは揺るぎもしない、強固なダンジョンが出来上がる。
「ってことは、三人を口説き落とすところからか」
「それが終わらないと、色々決めかねるな」
父と兄の言葉に、ジェイクは気が重そうに項垂れる。
「口説くって言い方が不穏だけども。まあ、そうなるかね。帰って来て早々コレかよ」
「まあ、ガンバレ」
気軽そうにいう父を、ジェイクは恨めしそうに見据える。
だが、父は肩をすくめるばかりだ。
ジェイクは眉間にしわを寄せて上を見上げると、重い溜息を吐くのだった。
次回、件の三人を説得しに行きます