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ベルウッドダンジョン株式会社 ~西辺境支部奮闘記~  作者: アマラ
一章 ダンジョンのプレオープンは気合が重要
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十九話 「荷が重いなぁ、今更ですけど」

 オオモリバチの巣を破壊した後、ミニダンジョンは役目を終えることになった。

 現在は解体され、資材置き場として利用されている。


「あれ、とっておいてもよかったんですかね? 記念的なアレで」


 向かっていた書類から顔をあげ、ジェイクは思い出したようにそう口にした。

 ジェイクが今いるのは、新ダンジョン予定地に作られた事務所だ。

 仕事机や書類棚が運び込まれており、事務方の従業員達が業務にいそしんでいる。

 ジェイクは一番奥の、部屋全体を見渡せる席に着いていた。

 直ぐ近くの席に座っていたエーベルトは、不思議そうな表情で顔をあげる。

 主語がない言葉に、一瞬何のことかわからなかった様子だったが、すぐに見当がついたのか何度か頷く。


「ミニダンジョンですか。ありゃぁ、壊さねぇと後が怖いですよ」


「と、言いますと?」


「クソ王子にとってみりゃぁ、不手際の証拠見てぇなもんですからねぇ。残しておかれてりゃぁ、目覚めが悪いでしょう」


 それを聞いたジェイクは、嫌そうに顔をしかめた。

 目覚めが悪い、不都合なものがあるとなったときの貴いお方々の行動というのは、おおよそ決まっているものだ。

 大らかな心で存在を容認するか。

 不都合な奴ごと消してしまうかである。

 もちろんほかの選択肢を選ぶ場合もあるわけだが、往々にして選べるのは今あげた二つのうちの後者だ。

 酷い話だとは思うが、ジェイクとしては理解が出来た。

 おおよそ人間というやつは、力があったら使うものである。

 それを行うことで安心が手に入るなら、やってしまうのが人情だ。

 周りをぷんぷん飛び回っている蚊を叩き潰さずに安眠できる種類の人間は、そう多くない。

 王子様にとってみれば、蚊をつぶすのもベルウッドダンジョン株式会社をどうこうするのも、さして労力的には変わらないことだろう。


「まあ、ご不興を買わねぇようにするにゃぁ、必死になって尻尾振るしかありませんやね」


「ついでに足の裏でも舐めますか」


「そいつぁあいいや。それでお目こぼし頂けるなら御の字ですぁ」


 肩をすくめて笑うエーベルトに釣られ、ジェイクも声をあげて笑う。

 少し特殊ではあるが、ダンジョン屋というのは商人だ。

 ダンジョンという商売道具を使い、安全を売るのである。

 労働に対してお金を払ってくれるお客様は、ただでさえ雲の上にいらっしゃるお貴族様や王族の方々。

 卑屈なような物言いではあるが、そのぐらいの心構えでいなければ命がいくつあっても足りない。

 お客様は神様だ、ではないが、お客様はリアルお貴族様なのだ。

 誇張や比喩ではなく、本当に「命がいくつあっても足りない」状態にされてしまう恐れは往々にしてある。

 同業者がモンスターとは関係なく「突然消えた」という噂を時折聞く限り、割と高頻度で。

 誠恐ろしきは、憲法法律を上回る貴族の権限、である。


「いや、冗談はともかくとして。あのボケ王子、どうやらただのクソじゃなかった見てぇですよ」


「何かつかみました?」


 長く生きている分、エーベルトは顔が広い。

 貴族社会にまで情報網を持っており、様々な噂を拾ってくるのだ。


「どうもここで、新型ゴーレムの実験をやってたんじゃねぇかって話です」


 ジェイクは少し考えてから、すこぶる嫌そうに顔をしかめた。

 国が作ろうというのだから、おそらくは軍事用か何かだろう。

 軍事用ゴーレムには、乱暴に分けて二種類ある。

 民間に払い下げていいものと。

 軍事機密満載の、国の威信をかけた主力機、あるいはエース用の特別機だ。

 この二種類の間には、明確な性能差がある。

 国が機密にするような魔法を、ふんだんに使っているのだ。

 時には企業から技術を「召し上げて」使うこともあるらしく。

 国と民間の差は、埋まりようもない。

 ついでに言うと、下手に埋めようとすると首が物理的に飛んだりするので、あまりお勧めできなかった。


「わざわざ、第二王子のわがまま、って体をとってるところを見ると、よっぽど大事な実験ってことでしょうねぇ。それも、誰の目に持つかねぇ所でやりてぇ類のやつだ。西辺境伯にも、できりゃぁ内緒で」


「それって、下手に突くと首が飛ぶやつじゃないですか?」


「そういうことでさぁね」


 真顔で聞くジェイクに、エーベルトは肩をすくめた。


「要するに、この件については詳しく調べねぇで。チクショウ、ふざけやがって、って憤ってるふりをしてりゃぁいいってことです」


「何にも気が付いてません、文句は言うけど手も出せない小市民でございます、と」


 陰口は叩くが、それ以上は何もしない愚鈍な国民。

 お貴族様や王族というのは、そういう国民を好むのだ。

 そういう風に見えている限り、気まぐれでも起こさない限り手出しはしてこないものである。

 これもまた、処世術というやつだ。


「ていうか、じゃあなんでそれ俺に言ったんですか。聞かなきゃ知らなかったのに」


「ダンジョンマスターってぇのは、そういう事情も知らなきゃならねぇものなんですよ。ここの責任者はジェイクさんなんですからねぇ。いつ何時、何があってもいいように準備と心構えをしておく。それがダンジョン屋ってぇもんです」


「荷が重いなぁ、今更ですけど」


 溜息を吐くジェイクを見て、エーベルトは楽しそうに笑った。


「なぁに、どうにかなるもんですよ。それにあれだ。ジェイクさんは先代の社長に似てる」


 先代社長というと、ジェイクの祖父の事である。

 死ぬ前日までダンジョンに立ち、古くは西辺境伯と冒険者仲間だった人物だ。

 父が生まれたのが遅かったためか、ジェイクが生まれたころから祖父さんをやっていたのだが、よく「化け物ジジィ」と呼ばれていた。

 なかなかセンスがあるあだ名だな、とジェイクは思っている。


「それは誉め言葉なんですか?」


「微妙なところじゃぁないですかねぇ。ありゃ俺から見ても傑物でしたよ」


「じゃあ、一緒にしないでくださいよ」


 ジェイクは嫌そうに顔をしかめながら、「そんな事よりも」と話を別の方へ持っていく。


「調理場の設備って、今日届く予定の荷物でしたよね?」


「そうです。届き次第、設置する予定ですぁね。ただ、調理班の連中が、少し人員を増やしてもらいたいかもしれない、と言ってきてましてね。まだどうなるかわからないが、もしかしたら人手が足りないかもしれないとかなんとか」


「なんかあいまいだなぁ。実際、今は保存食でしのいでますから、実際に動かしてみないとわからないところであったんでしょうけど」


「みたいですねぇ。南辺境じゃあ、ダンジョン全員分の食事なんざ作らねぇですから。感覚が分からねぇんでしょう」


 実家のダンジョンでは、従業員達は街に住んでいる。

 だが、西辺境支部の場合は、ダンジョン内部で暮らすことになるのだ。

 当然食事なども準備をせねばならず、食堂のようなものも必要になってくる。

 とはいえそんなものの運用に慣れているはずもなく、どうにも勝手がわからないのだ。

 なにしろ、ノウハウがない。


「これが大手さんなら、いろいろ経験の蓄積があったりするんだろうけど。ダンジョンについては強いんだけど、ほかはからっきしだからなぁ、ウチ」


 得意分野にはめっぽう強いが、それ以外はどうも抜けがち。

 中小企業が陥りやすいパターンである。

 ジェイクが頭を掻いていると、突然スズを鳴らすような音が鳴り響いた。

 慌てた様子で「はいはいはい」と呟きながら、ジェイクは電話の受話器を取る。


「はい、こちらベルウッドダンジョン株式会社、西辺境支部 ダンジョンマスターのベルウッドです! あー! どーもー! ご無沙汰しておりますぅー! この間の! 西辺境伯閣下のパーティーの時に! はいー! あっはっはっは!」


 電話の受け答えをしながら、ジェイクはペコペコと頭を下げた。

 相手が居ないとわかっていても、頭を下げてしまう癖があるのだ。

 そんな様子を見ながら、エーベルトは僅かに笑顔を作って、手元の書類へと目を戻した。

 新ダンジョンは未だ製作中ではあるものの。

 ベルウッドダンジョン株式会社 西辺境支部は、まあ、多少問題はあるものの、比較的順調に営業中である。

というわけで、一章完結でございます


次回から二章、という形になります

ベルウッドダンジョン株式会社 西辺境支部は、はたして無事にダンジョン開きにこぎつけられるのか

また、今度はどんなひでぇ目あうのか

どうぞお楽しみに!!

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