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ベルウッドダンジョン株式会社 ~西辺境支部奮闘記~  作者: アマラ
一章 ダンジョンのプレオープンは気合が重要
15/22

十五話 「マイマイさんって、すっごい美人だったよねぇー!」

 二か月間の研修が終わり、新人達もようやくダンジョン屋の基礎的な訓練が終了した。

 とはいっても、研修のすべてが終わったわけではない。

 ここから、それぞれが配属される部署で必要な、専門的な技術と知識を身に付けていくこととなる。

 そのために、新たな教官役の古参従業員が研修施設へとやってきた。

 何名かいる教官役の中には、あの二人の姿も。

 太らないはずのエルフであるにもかかわらず、ピザやコーラなどの力により太った奇跡のデブエルフ。

 そして、髭ドワーフでオネェという破壊力抜群のコンボを決めている人。

 ブレイス・ブラインドミストと、マイアー・ラインベックの二人である。

 間違いなく優秀な二人だが、初対面のインパクトは破格と言っていい。

 まあ、実際に付き合ってみてからもなかなか衝撃的な人物達ではあるのだが。

 ともかく、ジェイクは新人達にこの二人を紹介するとき、少なからず緊張していた。

 人間関係と同じく、職場関係というのも第一印象というのは非常に重要だ。

 まして今後上司になる相手なのだから、猶更だろう。

 新人達が上手く受け入れてくれればいいのだが。

 そんなジェイクの考えは、大きく裏切られることとなった。

 どちらかと言えば、よい意味で、である。




 ブレイスを食獣植物担当のウェイエルフ達に引き合わせたときの最初のリアクションは、なぜか感動や感嘆と言った種類のものであった。

 よいことではあるのだが、ジェイクは首をひねる。

 もしジェイクであれば、二度見か三度見した挙句、ここ二ヶ月で顔なじみになった古株にジェスチャーで「マジで?」と聞いているところだ。

 だが、新人たちにはそういった混乱の色はなく。

 むしろ、希望と羨望に満ちたような、妙な興奮とやる気に満ちた空気を醸し出していたのである。

 いったい何が起こったのか。

 あの人、なんか妙な魔法でも使い腐ったのか、エルフだけに。

 そんな疑問を持ったジェイクは、その日の夜に新人ウェイ達に話を聞くことにした。

 二ヶ月間、新人達に混じり同じかそれ以上の訓練量をこなしてきたジェイクに、新人達は一目置いている。

 怪我人や具合が悪そうなものがいないか確認のために混じっていたのだが、ジェイクにとっては思わぬ効果だ。

 さて、ウェイ達から帰ってきた答えは、予想外のものだった。


「エルフって、ビジュアルが100パーみたいなところあるんですよ」


「実際どうなのかわかんないんですけどね。顔と有能は比例する。見たいな事いわれてるんですよ、エルフ界隈では」


「なにそれ怖い。差別的なやつなの?」


 ウェイ達の話を聞いて、ジェイクは露骨に顔をしかめた。

 顔に比例するというのであれば、凡夫顔で常に眠そうなことが特徴のジェイクはどうなってしまうのか。


「そういうのって問題になったりしないのん?」


「しますよ、そりゃ。俺らみたいなのの希望を奪う話ですし」


「だからこそ、その手のことを正確に調べるやつがいないんですよ。きちんとした数字にすると酷い事になるでしょうから」


「証明されちゃったら暴動が起こりますよ」


 ジェイクは思わず「ああ」と低い納得の声を漏らす。

 いわれてみれば、確かに国の中枢で働いているエルフや、企業のCEOをしているエルフは、皆驚くほどの美形であった。

 そういったもの意外でも、少なくともジェイクが思いつく限り、優秀と思われるエルフはほぼほぼすべて、飛びぬけた美女美男ばかりだ。


「俺らみたいなのは散々ですよ。エルフ基準でいえばブサイクですし、ほかの種族基準でいうとチャラい? みたいですし」


「そういうのよくわかんないんですけど。道を歩いてたらいきなり、お前らみたいなのが学校のサークルで女の子に悪さするんだ、とか怒鳴られたときは、何事かと」


「今まで生きてきてモテたことなんてないっつーのに」


 その一言で、ウェイ達全体が沈うつな表情になった。

 さすがのジェイクもかわいそうになったのか、フォローに回ることにする。


「いや。まぁまぁ。他種族基準でいえば、君らもイケメンなわけだし?」


「エルフと付き合おうと思うタイプの人は、大体正統派のエルフが好きな人なんですよ」


「俺らみたいなのは眼中にありません」


 需要と供給というのは、しばしば一致しないものである。

 あまりといえばあまりな話に、ジェイクは顔を引きつらせた。


「でもですね。ブレイスさんを見て、希望が持てたんです」


 一人の言葉に、ほかのウェイ達は大きくうなずいた。

 その表情は、妙にきりっとしていて力強い。


「ああいう感じの、なんていうか、いわゆる美形とは違う感じの、あの、あれですよ。うん。ああいう感じの方でも、きちんと優秀なエルフはいるんだ、って」


「体型を気にしない自由さ、っていうか。それでいて、自分は仕事ができるんだ、文句があるか、っていう大きな自信が全身からにじみ出てる雰囲気がすごい。っていうか」


 さすがにデブなのに優秀、とはいいづらいらしい。

 慎重な表現をする彼らの言葉に、ジェイクはなるほどとうなずく。

 要するに、自分達でもいけるんじゃないか、という理想を体現している、といったところなのだろう。

 古今東西、男というのはモテるということに執着する生き物である。

 異性にモテるというのは、それだけで勝者であり、選ばれしものであるという証拠なのだ。

 まあ、多少大げさかもしれないが、それだけ大きなことなのである。

 ジェイクも覚えがあるだけに、こういった感情には共感できる部分があった。

 大いに、という枕詞をつけてもいいだろう。


「ブレイスさんは、食獣植物業界では結構有名ですしね。仕事ができる男って、ホンとリスペクトですよ」


「だよなぁ。エルフ女性にもてるのもわかるわ」


「へぇー、そういう、なんて?」


 聞き捨てならない言葉に、ジェイクは思わず真顔になった。


「あれ? 知らないんですか? ブレイスさん、モテるんですよ?」


「いつ!? どこで!? だれに!?」


「食獣植物関連の見本市とか、よく顔出されてますから。知ってるエルフは多いですよ」


 デブだからインドア派に見えるブレイスだが、見本市や勉強会には頻繁に顔を出していた。

 自身のものだけではなく、他人の研究にも興味がある、アクティブに動く意識が高いデブなのだ。

 しかし、だからといってモテるものなのだろうか。

 すくなくとも、ジェイクの中にある常識からは、考えられないことである。


「そういうところは、やっぱりエルフ多いですからね。植物関係の仕事についてるの多いですから」


「学生も出入りすることが多いんで、うわさになるんですよ」


「いやいやいやいや、まてまてまてまて。いくらエルフの美的感覚が他種族と違うとしてもよ。ブレイスさんよ? ブレイスさん、ブレイスさんだよ? ブレイスさんモテるの? ブレイスさん? ブレイスさんなんで?」


「どんだけ信じられないんですか。逆に考えてみてくださいよ。あそこまで突き抜けてると、逆にエルフに感じなくなる的な、ほら。あれです」


「なんていうか、ディスるわけじゃないですよ? 別にその種族を悪く言うわけじゃなくてですよ? あのー、あれです。逆にもう、オークあたりに見える、っていうか」


 オークという単語を聞いて、ジェイクは神妙な顔になった。

 最近では獣人種族も社会進出が進んでおり、ある種の偏見めいたものは少なくなってきている。

 とはいえ、一般的なエルフと一般的なオークのビジュアルが大きくかけ離れているのは、揺るぎのない事実だ。

 どちらがよいかは個々人の好みの問題だが、オークを積極的に恋愛対象にしたいと思うエルフは、少数派だろう。


「でもそれだとやはりモテないのでは?」


「俺らがいうのもなんですけど。研究職の女性って、突き抜けた趣味の人が多いですから」


「マジでか。すさまじいなぁ」


 しみじみとつぶやくジェイクに、ウェイ達も感慨深げに頷く。

 世の中というのは複雑怪奇であり、大多数の常識がまかり通らない界隈というのが、必ずあるものなのだ。

 そういった世界の一端を見た気がして、ジェイクは遠く星の世界に思いを馳せた。

 まあ、そんなことはともかく。

 とりあえず、ブレイズと新人達の関係は問題なさそうだと、その点については安心するジェイクであった。




 ロリドワーフ達のマイアーに対する最初のリアクションは、ジェイクの予想を明後日の方向にかっ飛ばしたものであった。

 彼女らのマイアーへの評価は、ジェイクのそれとはまったく違うものであったのが、その理由だろう。

 顔合わせが終わった当日の夜、ウェイ達から話を聞き終えたジェイクは、その足でロリドワーフ達にも話を聞きに行っていた。

 そこで聞かされたマイアーに対するロリドワーフ達の感想に、ジェイクは一瞬意識を宇宙に持っていかれたかのような気分を味わう。


「マイマイさんって、すっごい美人だったよねぇー!」


「わかるー! なんか仕事ができる大人、ってかんじでっ!」


「キレイなのにかわいい感じも同居してるとか、反則だよねー。メイクとかも超上手だったし」


「はぁー。化粧のテクニック教えてくれないかなぁー」


「あんたの場合、元が元だからムリくない?」


「ちょっとー! ひどくなぁーい!?」


 ブラックホールの誕生や銀河の渦に思いをはせていたジェイクだったが、ロリドワーフ達のきゃぴきゃぴした会話で意識を取り戻すことに成功した。

 我に返ったジェイクは頭を振りながら、聞いたことの確認を取ろうとする。


「え? な、ん? マイアーさんの事? それ、マイアー・ラインベックさんのこと?」


「そうですよぉー。アレで男性なんですもんねぇー。すごいなぁー」


「中性的な魅力っていうのかなぁー」


 何が中性だ、ゴリッゴリのおっさんじゃねぇの。

 喉元まで出かかった言葉を、ジェイクは必死の思いで飲み込んだ。

 そうしてから、一体どういうことなのか、と思考を巡らせ始めた。

 まず、ドワーフの男女差について。

 ドワーフの見た目は、髭かロリショタの二択だ。

 いわゆる普通体形のような、中間的なものは存在しない。

 一体どういうことなのかと思わなくもないが、実際そうなのだからどうしようもないだろう。

 もしかしたら祖先が精霊だと言われているあたりに理由があるのかもしれないが、残念ながらジェイクはそういった話には門外漢である。

 それにしても、髭ドワーフのマイアーが、きれいでかわいい要素も含んだ美人というのは、一体どういうことなのか。

 髭ドワーフの女性というのは、ジェイクも会ったことがある。

 男性の髭ドワーフと見分けられる点と言えば、まずは胸があって顔が丸みを帯びている体形だろう。

 そして、どういう訳か妙にかわいいことが多い、その声だ。

 あの体型からどういう風に出ているのかと思われるようなロリドワーフとあまり変わらない可愛らしい声は、大きな性差の一つと言ってもいい。

 そこで、ジェイクはあることに気が付いた。

 ドワーフの声というのは、髭ドワーフ男性の凄まじく野太い声と、それ以外の甲高く愛らしい少年少女ヴォイスの、二種類しかないのだ。

 そして、あることに思い至る。

 ほかの種族にとっては大きな差であるこの二つだが、実はドワーフにとってはほぼほぼ無いに等しいものなのではなかろうか。

 考えてみれば、マイアーと髭ドワーフ女性の間には、ビジュアル的な差はあまりないといってもいい。

 丸みを帯びているか否か、胸があるか否か、と言ったようなものだ。

 注目しているポイントが不明なので断定は出来ないが、髭とロリショタの違いを気にしない、あるいは見分けられないドワーフにとっては、微粒子レベルの誤差と言えなくもないのかもしれない。

 そうなってくると、髭ドワーフ男性と髭ドワーフ女性の間には、声程度しか違いがないことになる。

 だが、それにしたところで他種族からしてみれば、というものであり、同じドワーフから見た場合の評価は謎に包まれていた。

 もしかしたらドワーフにとってみれば、あのいかにも「超野太いオカマさんヴォイス」なマイアーの声も、女性的に聞こえているのかもしれない。

 とはいえ。

 見た目や声と言った、他種族でもわかるもので、性差を感じているとは限らない。

 あるいは、全く予想もできないような、他種族には知覚できないもので、性差を判別しているかもしれないのだ。

 そうなってくると、もはやジェイクにはお手上げである。


「いやいや。まてまて。そうだ。それはどうでも、どう、どうでもいい? のか? いや、すげぇ気にはなるけど。今はそれよりも仕事だ。仕事なのよジェイク」


 凄まじく痛む頭を押さえながら、ジェイクは自分に言い聞かせた。

 確かにロリドワーフ達のマイアーへ対する評価は非常に気になる。

 気にはなるのだが、今は仕事の話が優先なのだ。


「じゃあ、あれかな。上司としては、特に問題ない感じ?」


「ぜんぜんですよ! あんなすごい人の下で働けるなんて、歓迎です!」


「挨拶の時、訓練で使ってたゴーレムの修理見せてくれたじゃないですかぁー。私、あれ見て感動しちゃいましたもん!」


「だよねー! 逆に私たちが付いていけるかが不安ですよ!」


 やはり、ロリドワーフ達のマイアーへの評価は、相当に高いものらしい。

 これならば、特に問題はないだろう。

 ジェイクはそう判断した。

 ほかの部分では非常に、凄まじく、途轍もなく釈然としないものを感じる。

 が、仕事には支障がない訳だから、今はそれでいいのだ。

 なんだか今日一日で様々なことを知り、人間として一回り成長したような気になるジェイクであった。

 まあ、気のせいではあるだろうが。




 各部署ごとの研修は、滞りなく進んでいた。

 ある程度能力がありそうな新人を雇い入れたおかげか、技術面の問題は発生していない。

 古参達が教えることを、しっかりと吸収している。

 人間関係の方も、特に問題はなさそうであった。

 相性の悪そうなものもおらず、いさかいなども起こさずやっていけそうである。

 順調に研修が消化されて行くのを見て、ジェイクはほっと胸を撫で下ろした。

 このままいけば、新ダンジョン建設までに余裕をもって動くことが出来るはずだ。

 時折入ってくる情報によれば、国軍によるモンスター討伐も順調に進んでいるらしい。

 討伐作戦の終了が西辺境伯から発布されれば、次はいよいよ新ダンジョンの建設だ。

 新ダンジョン建設開始発表会が行われ、建設予定地に向かうダンジョン屋達が華々しく送り出される。

 そうなれば、いよいよジェイク達にとっての本番だ。

 モンスター討伐が終わった後とはいえ、新領土予定地は危険だ。

 未開の土地であるため、道らしい道は存在しない。

 いくら討伐したとはいえすべてを狩り尽くせるわけでもなく、モンスターと鉢合わせする恐れもある。

 そんな中を、ダンジョン建設に必要な資材を抱えて進まなければならない。

 危険ではあるが、腕の見せ所ともいえるだろう。

 いかに資材を必要最小限に抑え、いかにモンスターを退け進むか。

 ジェイクにとってみれば、考えるだけでワクワクする仕事だ。

 教官役が増えたことで出来た空き時間を使い、ジェイクは従業員達と新ダンジョン建設に向けての細かな計画を立て始めた。

 既に大まかな計画は有ったのだが、何分今までは新人がどの程度使い物になるのかが分からなかったのだ。

 それが把握できたので、細かな調整が出来るようになったのである。

 古参達の新人への評価も高く、予想外に新人が役に立ちそうなのは、うれしい誤算だ。

 調整がしやすく、計画に幅を持たせることが出来る。

 研修も、残すところあと一週間程。

 その時点で全員の能力に問題が無いようであれば、研修は終了だ。

 あとは西辺境に借りている新ダンジョン用物資集積場へ行き、装備、資材などを確認。

 集積場は西辺境の中でも特に栄えている街の近くにあるため、従業員達も羽を伸ばすことが出来るだろう。

 ダンジョンでの生活に必要なものも、買い揃えられるはずだ。

 問題はいつ討伐が終わるかだが、コレにはもう少し時間がかかりそうであった。

 父や兄が拾ってきた情報等に寄れば、後たっぷり一か月は必要だろうという。

 それだけあれば、しっかりと準備を整えることが出来る。

 建材の現物を確認したり、新規購入したゴーレムの確認や試運転をしたり。

 やれること、やっておきたいことは幾らでもあるのだ。

 ダンジョンマスターになることが決まってからここまで、ジェイクはずっとバタバタしていた。

 色々と急な展開ばかりだったからなのだが、これでようやく一息吐けそうだ。

 のんびりと余裕がある仕事の、なんとすばらしいことだろう。

 文化的で人間らしい生活というのは、こういうのを言うのだ。

 そんなことを考えていた、その矢先である。

 ジェイクの下に、討伐軍に関する一報が飛び込んできた。

 その内容に、ジェイクは思わず白目を剥きそうになる。


 第二王子が近衛騎士団を連れ、モンスター討伐に参戦。

 討伐終了が、大幅に早まる予定。


 おそらく、人気取りの類だろう。

 内容だけ聞けば、よいことのようにも思える。

 だが。

 新領地拡大というのは、そうそう単純なものではないのだ。

 まして、新ダンジョンの建設を予定しているダンジョン屋からすれば、超が付く迷惑である。

 モンスター討伐軍に求められる仕事は、実に繊細だ。

 事前に決めて置いた土地の中のモンスターを、事前に決めていた通りの工程で丁寧に討伐していく。

 その土地に生息しているモンスターを、その土地の中で確実に仕留める。

 これが出来なければ、モンスターを追い立て、別の場所に移動させるだけになってしまう。

 個体数を減らさなければ、いつかまた元の場所に戻ってきてしまうかもしれないし、討伐が終わったはずの場所に逃げ込まれれば、目も当てられない。

 だからこそ、討伐軍の行動は事前に、厳格に定められているのだ。

 そこに、余計な軍隊を投入すれば、どうなってしまうのか。

 事前の予定が大きく狂い、行動に粗が出てしまう。

 下手をしなくても、事前の予定よりも討伐できる数は減ってしまうだろう。

 もちろん、問題はそれだけではない。

 討伐自体が、予定より早く終わることにもなってしまう。

 喜ぶべきことにも見えるが、ダンジョン屋にとってみれば大問題だ。

 こちらは「予定通り」に準備を進めているのに勝手にそれを前倒しにされるのだから、堪ったものではない。

 物資の購入や輸送、人員の配置などは、事前にある程度準備をして置かなければならないものばかりだ。

 それを急に早めろと言われても、出来ることと出来ないことがある。

 ならば、討伐終了からある程度時間を置いてから、ダンジョン建設を始めればいいか、といえば、そうもいかなかった。

 討伐が終了すると、そこは極端にモンスターの少ない土地となる。

 そういった場所は、周囲に棲むモンスター達にとって格好の引っ越し先だ。

 時間を置けば、それだけモンスターが増えてしまうのである。

 それに対抗するには、討伐終了後、すぐにダンジョンの建設を始めるしかないのだ。

 ダンジョン屋にとって見れば、第二王子の行動は完全なる「余計なこと」。

 むしろ、妨害行為と言ってもいい。


「んぬぁああああああ!!! クソ余計なことし腐りやがってぇあああああ!!!」


 研修施設にある宿泊場所で、ジェイクは頭を抱えて咆哮していた。

 その場所にいるほかのメンツ。

 エーベルト、マイアー、ブレイス、クラリエッタの四人も、それぞれに複雑そうな表情を浮かべている。


「まいったわねぇー。予定って、どのぐらい繰り上がりそうなのかしら?」


「一、二週間は早まるみたいよ? そんなもんで済むんだから、不幸中の幸いってやつだけどぉ」


 マイアーの疑問に、クラリエッタが答える。

 第二王子が現地に到着したのが遅かったのが幸いしたのだろう。

 この程度の繰り上げでならば、まだどうにか対応できそうではあった。


「準備は粗方すんですからなぁ。急ぎ急ぎで動いてたからよかった、が。新人連中にゃぁ、休みもくれてやれねぇなぁ」


 ため息交じりのエーベルトの言う通りだ。

 予定がどれほど早まるか確定できない以上、どんなことになっても動けるようにしておく必要がある。

 研修が終わるまでは問題なさそうだが、終わり次第いつでも新ダンジョン建設へ動き出せるよう、準備しておく必要があるだろう。

 頭を掻きながら、エーベルトは毒吐いた。


「しっかし、なんだってアホ王子のヤロウしゃしゃり出てきやがったんだぁ? ドアタマ沸いてんじゃねぇかったく」


「相変わらず口悪いなぁ。いやぁ、なんかその王子の言い分じゃぁ、国土の拡大は全国民に必要なことだからダンジョン屋は死ぬ気でやれってことらしいですけどぉ? コミットメントしてたルーチンに割り込んできてそれはないかなぁって感じだよねぇ。コンセンサスが取れてることにエビデンスもなしに口挟んでくるとかさぁ。全く理解できないっていうかさぁ」


「わかる言葉で言えや」


 若干早口で言うブレイスを、エーベルトは苛立たしそうに睨みつける。

 そんなエーベルトを、マイアーは苦笑いをしながら宥めた。


「要するに、ブーちゃんもエーちゃんと同じ意見ってことよぉ。でも、こうなるとジェイクくんは先に集積地の方に行った方がいいのかしらねぇ? 直ぐに動けるように準備しとかないとぉ」


「そーねぇー。集積地って西辺境伯のお膝元の街にあるんでしょ? それなら、情報もいろいろ入ってくるだろうし。動きやすくなるんじゃない?」


 肩をすくめながら言うクラリエッタの言葉に、ジェイクは息を整えながらうなずく。


「ですね。新人の研修は残ってますけど、俺じゃなきゃ出来ない事はもうないですし。あとは皆さんに任せますか」


 貴族との話し合いや、様々な最終判断は、やはりダンジョンマスターが行わなければならない。

 今までは電話や郵便などを使い対応していたが、ことがこうなってしまっては、それでは後れを取ることになる恐れがある。

 そうならないようにするには、やはり現地に行くのが一番だ。

 ジェイクはしばらく悩んだ後、意を決したように膝を叩いた。


「明日には出発することにします。研修期間が終わるまでは、エーベルトさんに責任者をお願いします。皆さん、エーベルトさんの指示に従ってもらうってことで、いいですかね?」


「まぁ、妥当よねぇ」


「いぎなぁーっし」


「それが一番じゃないかなぁ」


 マイアー、クラリエッタ、ブレイスの返事を聞き、ジェイクは大きくうなずく。

 エーベルトは、重々しく頭を下げた。


「任されました。なぁに、俺の目の黒いうちは、こいつらに無茶なんざぁさせません」


 見た目こそ可憐な美少女美少年なエーベルトだが、背中から上り立つオーラは堅気のものではない。

 その異様なまでの頼もしさに、ジェイクは引きつり笑いを浮かべた。


 結局、ジェイクは翌日の朝、研修施設を後にした。

 移動用のゴーレムを自分で運転しての移動だ。

 丸一日をかけて、集積場のある街へと到着する。

 本来なら二日ほどかかるところを、魔力と体力と操縦技術で捻じ伏せた。

 おかげで、到着した時には体が悲鳴を上げていた、が。

 着いてさえしまえば、仕事は出来る。

 ジェイクはその足で、現地に先乗りしていた従業員達と合流。

 直ぐに状況の把握などに動き出した。

 状況は、やはり芳しくない。

 第二王子の余計なお世話のおかげで、討伐軍は予定外の行動をとらされているようだった。

 このままでは予定が大幅に早まり、約二週間後には討伐終了ということになりそうだという。

 研修が終わって、約一週間後ということだ。

 ギリギリのタイミングである。

 幸いだったのは、物資などの集積がほぼ終了していたことだ。

 ゴーレムの納品などもすでに終わっており、調整を待つのみとなっている。

 かなりギリギリではあるものの、コレならばなんとか間に合いうだろう。

 まだ南辺境にいる従業員達に、すぐこちらへ来るように知らせる。

 研修をしている従業員達も、それが終わり次第移動。

 到着したものから作業をはじめれば、討伐終了までには準備を終わらせられるはずだ。

 何とか希望は見えてきたものの、ほっと一息つく暇もない。

 休む暇も有らばこそ、ジェイクはさっそく作業に取り掛かった。

 研修施設から、「ジェイクが居なくなったことで悪の限りを尽くそうとしたクラリエッタに、エーベルトが制裁を加えた」という気の抜ける連絡などが入っては来たものの。

 仕事自体は、なんとか無事に進み始めるのであった。

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