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ベルウッドダンジョン株式会社 ~西辺境支部奮闘記~  作者: アマラ
一章 ダンジョンのプレオープンは気合が重要
13/22

十三話 「あらヒドイ。こう見えて繊細なのに。幽霊とか超怖い」

 色々と地味な問題は有ったものの、新人雇用のための面接は無事に終了。

 面接を受けたもの、すべてを雇い入れることとなった。

 元々、事前の書類審査で絞り込んでいたため、人数はさして多くない。

 何度か面接をして、その中から絞り込んでいこうと考えていたのだが、一度目の面接で思いのほかよさそうな人員を集めることが出来たのだ。

 チャラそうだったり、顔が怖かったり、ロリだったりと言った気になる点はあるものの、どれも細かな問題である。

 要は、ダンジョン屋として優れていれば、それでいいのだ。


 そんな訳で。

 無事に新人を雇い入れることにも成功し、ジェイクはほっと胸を撫で下ろした。

 久方ぶりのまともな休日をとり、存分に羽を伸ばす。

 休めるときにきっちりリフレッシュするというのも、ダンジョン屋にとっては必要な資質である。

 学生として三年を過ごした王都は、今のジェイクにとっては遊び慣れた場所だ。

 世話になった教授のところに顔を出し、在学中の後輩達と酒を酌み交わす。

 そのついでに、中央でしか仕入れられない噂などの情報も仕入れて置く。

 人と物資が集まる王都には、辺境では耳に入らないような情報も入ってくるのだ。

 オモシロそうなものから、きな臭いものまで。

 ほんの数か月居なかっただけで、目新しい話がごろごろと転がっていた。

 収穫の多い休暇を終えると、次の仕事の準備に取り掛かる。

 新人達に行う、研修の準備だ。


 研修は、西辺境にある研修施設を借りて行うことになっていた。

 運動場や会議室などを併設したそこは、企業や学校などの研修に用いられる場所だ。

 宿泊施設も併設していて、ド田舎であるため周囲には小さな雑貨屋が一店舗しかない。

 新人を扱くには、うってつけの場所である。

 採用通知の発送と、それぞれとの契約は、ジェイクが休んでいる間にすべて終了していた。

 無事、全員と契約することが出来ていたことは、僥倖と言える。

 ほかの会社の入社試験と掛け持ちをしていて、結局入社に至らないケースは少なくない。

 今回に関しては、他社よりも遅れて面接を行ったのが良かったのだろう。


 あれやこれやと仕事に追われるうちに、あっという間に新人達の仕事始めの日がやってくる。

 朝早くからジェイクがやって来ていたのは、王都から西辺境へ向かう列車が出る、駅であった。

 ここで古参の従業員、新人達と待ち合わせ、西辺境いある研修施設へと向かう予定なのだ。

 集合場所である駅構内の広場に一番に到着したのは、ジェイクであった。

 自分自身が集合の目印になるために、二時間も前にやってきたのだ。

 引きずってきた大型のスーツケースには、研修期間中に必要な着替えやらが詰まっている。

 その脇には、大きなダンボールが積み上げられていた。

 中に入っているのは、研修で使う資料だ。

 背負子に括り付け、ジェイクが一人で運んできたものである。

 眠そうな顔にけっして筋肉質ではない体格なので分かりにくいが、こう見えてジェイクは腕力には自信がある方なのだ。

 ダンジョンマスター資格を取得するには、高位の冒険者資格も必要であったりする。

 見た目的には全くわからないが、ジェイクはB級冒険者ライセンスを持っていた。

 B級になるには、「でっかいモンスターを単独で退治できる」程度の実力が必要だとされている。

 腕力も魔力も、人並み以上でなければたどり着けない領域だ。

 外見からは全く予想できないが、こう見えてジェイクは実力者なのである。

 普通の人間なら苦労するような紙束満載のダンボール箱でも、比較的楽に運ぶことが出来るのだ。

 ジェイクはスーツケースに腰かけると、ダンボールから書類を一束引っ張り出した。

 集まるのを待つ間に、改めて内容に目を通しておこうと考えたのだ。


「おお、居た居た」


「マジだ。おーい、ジェイクくーん!」


 かけられた声に、ジェイクは顔をあげて周囲を見回した。

 見えたのは、理知的な女性と、美少女にも美少年にも見える人物。

 戦闘指揮者「クラリエッタ・ハーフェル」と、事務方のまとめ役「エーベルト・エンブロン」だ。

 二人とも、新ダンジョンで働くことになっている、古参の従業員である。


「あー、どーもー。わざわざお疲れ様ですー」


 ジェイクは片手をあげ、笑顔で二人を迎えた。

 彼らは、今回の研修の為に南辺境からやってきたのだ。

 研修施設で、直接新人達に教育をする予定なのである。

 今のうちに彼らの仕事のやり方を新人に覚えさせていくのは、悪いことではないだろう。

 なにしろ、どんな部署にいたとしても、この二人とは関わることになるのだ。

 クラリエッタは指令室の。

 エーベルトは、事務方の責任者になる予定なのだ。

 一方はモンスターを退治するときの指揮全般を担当する部署であり。

 もう一方は、書類やら物資やら予算などと言った、どんな仕事とも切っても切り離せない部署である。


「いやぁ。列車に乗っての旅行なんざぁ、久しぶりでしたよ」


 楽しそうな顔のエーベルトに、ジェイクは済まなそうな苦笑する。


「せっかく王都に来たのに、その足で移動してもらうことになっちゃって。すみません」


「あれこれやってて、こっちに来れるなぁギリギリにならねぇと無理でしたからねぇ。仕方ありません」


 エーベルトとクラリエッタは、ついさっき王都に着いたばかりであった。

 どちらも仕事が立て込んでいて、身動きが取れなかったのだ。

 やっと都合が付いたのが、このタイミングだったのである。

 本来なら南辺境からの移動の疲れを王都で癒してほしいところなのだが、残念ながらそういった余裕は一切なかった。

 クラリエッタは、ヘラりと笑って肩をすくめて見せる。


「いっても、どーせ列車に乗っちゃえば後はぼーっとしてるだけだし? いい休憩だったよねぇ、とっつぁん」


「だなぁ。車窓から眺める景色ってぇのも、なかなかオツだったしよぉ」


 クラリエッタの言葉に、エーベルトは大きくうなずいた。

 どうやら、クラリエッタはエーベルトをとっつぁんと呼んでいるらしい。

 エーベルトの方がはるかに年上なので、間違ってはいないのだが。

 美少年か美少女かといった外見のエーベルトが「とっつぁん」などと呼ばれているのは、激しく違和感のある光景だ。

 とはいえ、性別のないドライアドでありながら、エーベルトは非常に「おっさん」的な性格である。

 外見的には違和感があるが、中身的な意味に置いては「とっつぁん」というのはしっくりくる呼び方だといってよいだろう。


「あ、あのっ!」


 そんな会話をしていると、クラリエッタの胸元から、突然大きな声が上がる。

 驚いてそちらに視線を向けたジェイクの目に飛び込んできたのは、クラリエッタの胸辺りから生えた、半透明の少女の首であった。


「うをぉ!?」


 驚いて声をあげるジェイクだったが、すぐにその正体に気が付いた。

 自信がスカウトしてきた、ゴーストの少女「ミルドナ」である。


「あのっ! 私もその、がんばりますので! よろしくお願いしますっ!」


「はい、こちらこそよろしく」


 勢いよく頭を下げるミルドナに、ジェイクは引きつった笑顔で返す。

 ゴーストというのは、基本的に発生した土地から動かくことが出来ないものであった。

 それを移動させるためには、なにかの物品に「憑りつかせる」る必要がある。

 ミルドナは現在、クラリエッタが着けている首飾りに憑りつくことで、移動が出来るようにしているのだ。

 とはいっても、ミルドナ自身の力で憑りついているわけではない。

 通常のゴーストには、そういった能力はなかった。

 ベルウッドダンジョン株式会社の従業員の中には、心霊の取り扱いに長けたものがいる。

 その人物の力を借りて、憑りついているのだ。


「クラリエッタさんとは、上手くやれそう? 癖が強い人だから、大変でしょう」


「そんなっ! すごくよくして頂いていますっ!」


 ジェイクの質問に、ミルドナは首を激しく横に振った。

 胸から生えた生首が激しく動いている、という絵面はなかなかシュールだが、ジェイク達は気にする様子はない。

 もっとも、周囲を歩いているほかの客は完全に引いているのだが。

 そちらに関してもジェイク達はまったく気にしていないのであった。

 基本的に、全員マイペースなのだ。

 クラリエッタがミルドナの憑りついた首飾りをしているのには、理由があった。

 ミルドナが担うことになっている、機器故障時の連絡、確認係というのは、指令室付きの仕事であった。

 戦闘指揮者の指示で動くので、直属の部下ということになる。

 なので、クラリエッタがこうして連れ歩いてる訳だ。

 今回の研修で新人達にゴーストの存在の慣れてもらうためにも、こうして同行してもらっているのである。

 もちろん、ミルドナ自身も「新人」であり、その研修の意味もあった。


「そうよ。めっちゃよくして差し上げてますことよ」


「よく言うぜぇ。テメェ、お嬢ちゃんのこと散々こき使ってんじゃねぇか」


 あきれ顔のエーベルトに対して、クラリエッタはテヘペロッと舌を出す。

 ジェイクにはいまいち想像がつかないが、どうやら本当にこき使っているらしい。


「お嬢ちゃん、なんだったら祟ってやった方がいいぜぇ。ソレで懲りるやつでもねぇけどなぁ」


「あらヒドイ。こう見えて繊細なのに。幽霊とか超怖い」


 冗談めかして言うクラリエッタに、ミルドナは不安そうなお顔を見せる。


「あの、私、怖いんでしょうか」


「ちょっ! 全然そんなことないぃー! ミルドナちゃんはめっちゃキュートだってぇー!」


 なにやらきゃぴきゃぴした声を出すクラリエッタに、エーベルトは胡乱気な視線を向ける。

 ジェイクは苦笑しながら、ダンボール箱から書類束を二つ引っ張り出す。


「早速で悪いですけど、これ、今のうちに渡しておきますね」


 エーベルトとクラリエッタに手渡したのは、研修の予定表などをまとめた資料だ。

 受け取ると、二人それぞれに流し読みし始める。


「うわぁ。めっちゃ文字書いてある」


「そりゃそうですよ。まあ、後でゆっくり読んでください。どうせ列車に乗ってる間ヒマなんですし」


「移動って、どのぐらいかかるんだっけか?」


 クラリエッタの質問に答えようとしたジェイクだったが、先に答えたのはエーベルトだった。


「列車で丸一日移動。そのあとは大型輸送用ゴーレムで半日ぐれぇだ」


 研修施設の選定には、エーベルトも関わっている。

 恐らく、それで覚えていたのだろう。


「あんまり遠くないのね。また二日ぐらい列車に乗ってるのかと思ってたけど」


「場所が、王都と西辺境中心部の丁度中間あたりでな。農業地帯のど真ん中なんだとよぉ」


 周囲を危険地帯に囲まれたこの国は、少し独特な人口分布になっていた。

 元々人が住んでいた王都に人が多く集まり、その周囲には農作地帯が広がっている。

 その向こう側には、多くの人や物資が集まる辺境の中心地が。

 さらに向こうに、国境とそれをダンジョンがある、と言ったような具合だ。

 ダンジョンの近くには、多くの人と物資が集まる。

 鉄道なども敷かれるため、必然的に街になりやすい傾向にあった。

 人口で見ると、王都のある中央が一番多く。

 次いで、東西南北辺境の、国境近くにあるそれぞれの街に集まる、というような形になっているのだ。

 そのため、王都周辺から国境にかけては、あまり人口密度が高くない、いわゆる農村地帯になっているのである。

 研修施設は、そういった「農村地帯」にあるというわけだ。


「距離的にはアレなんだがなぁ。いかんせん道が整備されてねぇんだよ、結局」


 人口が多い場所でならばともかく、農村部の交通網は殆ど整備されていないというのが現状だ。

 広くてきちんとした道は、町へ通じる一本程度。

 ほかは、踏み固めた農道のようなものばかり、というのが当たり前なのである。

 まあ、そんな場所だからこそ、研修にはうってつけなのだが。


「私、その、列車に乗るのも、ゴーレムに乗るのも人生で初めてだったので! すごく、緊張します!」


 どこか興奮した様子のミルドナに、ジェイクは気の抜けた笑いを漏らす。

 ゴーストでも人生っていうのか、等と思いはしたが、口には出さなかった。

 感動しているミルドナに水を差すほど、野暮ではないのだ。


 そうこうしているうちに、王都に詰めていた従業員達もやってくる。

 直前まで事務所で仕事を片付けていたからか、疲れた表情をしていた彼らだったが、エーベルトの顔を見た瞬間、背筋が伸びた。

 エーベルトは、ベルウッドダンジョン株式会社の事務方従業員の最古参だ。

 仕事も出来て自分に厳しい人物なのだが、他人、特に同じ部署の若手にも凄まじく厳しいことで知られている。

 ヘタレている姿を見られようものなら、物理的にケツを蹴り上げられるのだ。

 従業員達に続いて、新人達も集まり始める。

 予定の十五分前には、全員が集合していた。

 少し早いような気もするが、遅れるモノがいるよりはいいだろう。

 それにしても、と、ジェイクは新人達を見渡した。

 ウェイとロリドワーフと強面種族の強面が、一堂に会しているというのは、なかなかに壮観だ。


「なんかすげぇ絵面」


 ぼそりと零したクラリエッタに、ジェイクは思わず変な笑いを漏らした。

 列車に乗り込めるまでにはまだ時間があるので、しばらくこの場で待機することになる。

 その間、新人達はそれぞれに挨拶をし始めた。

 ジェイクはウェイ達が異様なコミュ力で積極的に周囲に話しかけると考えていたのだが、実際にはそうでもない。

 実に落ち着いた様子で、地に足の着いた会話をしている様子だった。

 やはりというかなんというか、ウェイっぽいのは見た目だけであったらしい。

 そんなことを考えていたジェイクに、面接を担当していた従業員の一人が近づいてきた。


「あの後調べてみたんですが。どうもウェイ方面の顔っていうのは、エルフでいうところのその、所謂、非モテ顔みたいなんですよ」


「はい?」


 怪訝な表情のジェイクに、従業員も何とも言えない表情を浮かべている。


「いや、ほら。エルフって基本全員美形じゃないですか。その中でもやっぱり、モテるモテないがあるらしくってですね。ウェイよりの軽い感じの顔は、モテない層の顔立ちらしいんですよ」


 ジェイクは思わず、ウェイ達の方へと顔を向けた。

 なんとなくチャラそう。

 そんな空気以外、感じ取ることは出来なかった。

 所謂、非モテに類するような挙動なども、少なくともジェイクには見て取れない。


「種族差ってことですかね?」


「そういうことじゃないですかね?」


 エルフの非モテ要素はチャラさ。

 言われてみれば、エルフというのは長命であり、品行方正さを尊ぶ傾向にある。

 なるほど、そうであるのならば、ウェイは対極に位置するものだろう。


「わかるようなわからんような話だなぁ」


 ジェイクと従業員が種族毎のモテ要素について想像していると、アナウンスが流れ始めた。

 西辺境息の列車の、乗車が始まったという内容だ。

 なんてタイミングだと思いつつも、ジェイクは両手を叩いて全員の注目を集めた。


「じゃあ、移動しましょうか。列車の乗車券を配りますから、受け取ってくださいねー!」


 指示に従い、新人達はジェイクから乗車券を受け取り、移動していく。

 妙に生暖かい視線を向けられたウェイ達が若干不思議そうな顔をしていた以外は、スムーズに列車へと乗車。

 ほどなくして、列車は西辺境へ向けて出発する。

 後は到着するのを待つだけ、とも、いかなかった。

 移動時間の間に、エーベル、クラリエッタと、研修の内容についてすり合わせをしておかなければならないからだ。

 流れる車窓を楽しんでいる暇もない。

 すり合わせが終わった後も、ジェイクの仕事は終わらなかった。

 研修で使うゴーレムの調整やらなにやら、こまごまとしたことを決めて置かなければならないのだ。

 はっと気が付いて時計を見た時には、すっかり日付が変わっている時間であった。

 車窓から外を見れば、星空が見える。

 それを眺めながら、ジェイクはふとあることに思い至った。


「非モテなら、デブエルフとも上手くやれるのか……?」


 真面目な顔でそうつぶやいてから、ジェイクは大きく頭を振った。

 寝よう。

 疲れてるから、こんなくだらないことを考えるのだ。

 きっちり寝て疲れを取らなければならない。

 もう少し仕事をしようと考えていたジェイクだったが、この日は早々に仕事を切り上げることにした。

 実際、ジェイクは仕事に根を詰めすぎるきらいがある。

 急ぐ仕事でもなし、無理をすることもない。

 当人たちも思わぬところで、ジェイクの負担を軽減することとなった、ウェイ達であった。

いつもよりちょっと短めですが、きりがいいので

次回も早めに更新したいと思います

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