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ベルウッドダンジョン株式会社 ~西辺境支部奮闘記~  作者: アマラ
一章 ダンジョンのプレオープンは気合が重要
12/22

十二話 「実力に疑うところはない訳だし、問題は何もないでしょう。採用する方向で行きましょうか」

 月日が流れるのは早いという意味のことわざは、割とどこにでもあるものだ。

 ダンジョン屋業界にも、そんなような意味合いの言葉がある。


「気が付くと監査日」


 ダンジョンはその重要性から、定期的に最寄りの辺境伯から監査を受けることを義務付けられていた。

 当然のことではあるし、それが必要だということも重々承知している。

 だが、ダンジョン屋の日々の仕事というのは、なかなかに忙しいものだ。

 やっと監査が終わったと思ったら、またすぐ次の監査日が。

 まるで矢のように、あっという間に次から次へとやってくるのである。

 引退した元ダンジョン屋のじぃさんが「監査日は今日じゃったかいのぉ」等と言い出す、というのは、ある種の鉄板ネタにすらなっているほどだ。

 ジェイク自身、何度直前までその存在を忘れていて、慌てふためいたことか。

 まぁ、とにかくそんなわけで。

 今のジェイクは、まさに「気が付けば監査日」と言ったような心境だったのである。




 兄の結婚式は、滞りなく終了した。

 その前々日ぐらいから徹夜をしていた為、半ば朦朧としていたジェイクだったが、新婦側親族との顔合わせの辺りで眠気は消し飛んだ。

 辺境伯とその夫人に、その長男夫婦に、次男夫婦。

 文句のつけようもないお貴族様である。

 正直、ジェイクはこの辺で帰りたくなっていっていた。

 父であるジルベールも同じようなことを考えていたのだろう。

 笑顔が終始引きつっていた。

 もちろん、ジェイクも引きつっていた。

 ていうか、兄以外家族全員の顔が引きつっていた。

 とりあえず何かムカついたので、後で兄を全員で殴ることに決まった。

 家族というのは、こういう時にこそ連携するものなのである。

 結婚式自体は、本当にささやかなものであった。

 妊娠中の新婦のことを気遣い、内容もかなり簡略化されている。

 わざわざ妊娠中にやらんでもよかろうものを、等とジェイクは思ったのだが、貴族の血が絡んでくるとそうもいかないらしい。

 実に難儀な話だ。

 式は滞りなく行われ、何事もなく無事に終了した。

 この後、披露宴を兼ねた宴があったのだが。

 辺境伯ご家族と同席という重圧のため、ジェイクは全く味を感じなかった。

 ほかのベルウッド家の面々も同じだったようで、結局、あとで兄を殴ろうということに落ち着いた。

 家族とは心が通じ合えるものであり、兄とは殴られる存在なのである。


 結婚式関連のゴタゴタを終えがジェイクは、精神力を使い果たし、疲れ果てていた。

 そのまま寝てしまいたい気分だったが、残念ながら時間がない。

 大急ぎで仕事に戻り、片っ端から書類の確認仕事などをこなしていく。

 翌朝には王都行きの列車に乗らなければならず、時間がないのだ。

 徹夜仕事になるだろうが、どうということはない。

 王都へは列車で、二日間はかかる。

 どうせその時間は拘束されているわけで、睡眠時間はたっぷりと確保できるのだ。

 10時間ぐらい寝倒したとしても、14時間は働ける計算になる。

 それが二日だから、28時間はとれるだろう。

 28時間もあれば、研修用のたたき台を作ることは可能だ。

 資料は準備してあるので、列車に乗るときに忘れさえしなければあとは問題ない。

 早速仕事に取り掛かり、完徹を決め込む。

 何とか予定していた仕事を片付けたころには、列車の出発時刻が近づいていた。

 大慌てで用意していた荷物を引っ掴み、列車へと転がり込む。

 自分の客室に入ると、そのまま気絶するように睡眠。

 目が覚めたら、早速研修用書類のたたき台作りだ。

 おおよその構想は出来ているので、後はまとめるだけである。

 黙々と作業をして、寝て、という生活を、二日間。

 書類が完成したのは、列車が王都へ着く直前だった。

 その後、駅まで迎えに来てくれていた従業員と合流。

 王都内で借りている貸事務所へと向かい、打ち合わせを始める。

 地元でもやらなければならないことは多かったが、王都は王都で仕事が山のようにあるのだ。

 物資の発注、保管、確認に、西辺境の現状の調査、お上へのご機嫌伺い。

 新人の募集も、差し迫ってきている。

 何しろ、時間もなければ人手も足りなかった。

 王都という、勝手がわからない場所で仕事をしなければならない、というのも痛かった。

 ベルウッドダンジョン株式会社は、多くのダンジョン屋がそうであるように、地域密着型の企業だ。

 同業者もいない王都には仕事で来ることもほぼなく、コネなどもないに等しい。

 そんな中で仕事をしなければならないのだから、苦労もひとしおだ。

 兎に角片っ端から、行って会って話す、という営業の鉄則のようなことを、足が棒になるまで続ける。

 特に歩き回る羽目になったのは、新人募集に関することであった。

 何しろ、慣れない土地だ。

 西辺境伯の肝いりでこそあるものの、コネも土地勘もない場所での求人というのは非常に難しいものだった。

 そもそも、どこに求人広告などの依頼をどこにしていいのかもわからない。

 まずは王都での求人の方法を調べるところから始めなければならなかった。

 場所が違えば、決まり事等も当然違ってくる。

 知らないうちにどこかへ喧嘩を売るようなことになっていた、なんてことになったら、シャレにもならない。

 慎重に王都の流儀を調べ、なんとか求人を進めていった。


 あれやこれやと仕事を進めるうち、あっという間に一か月が過ぎた。

 求人関連のあれこれも特に問題なく、それなりの応募が集まっている。

 書類審査やら事前テストやらで人数も絞り込んでおり、後は面接をして、採用する人間を選ぶだけだ。

 まあ、選ぶだけと言っても、それが一番難しいのだが。

 兎に角、面接である。

 明日のダンジョンを支える人材を見定める、重要な仕事だ。

 流石のジェイクも、コレばかりは他人任せにはできなかった。

 ジェイク自身の目で、人となりを確認しなければならない。

 無論、短時間の面接だけで相手のすべてを見定められるわけでもないのだが。

 それでも直接会えば、わかることも多い。

 雇うか雇わないかを決め、雇うのであれば、事前にどんな人物なのか人となりを確かめる。

 面接というのは、される側にも、する側にとっても大仕事なのだ。

 そして。

 ジェイクは今まさに、その大仕事に取り掛かろうとしていたのであった。




「っとに、気が付くと監査日だなぁ」


 ジェイクはそうつぶやくと、疲れた様子で眉間を指で押した。

 じわじわと広がっていく圧迫感に、溜息を漏らす。

 そんなジェイクの様子を見て、隣に座っている従業員が心配そうな顔をする。


「大丈夫ですか? お疲れみたいですけど。これからですよ、面接」


 ジェイクと数名の従業員がいるこの場所は、王都にある貸し会議室の一室。

 これから行う、就職面接会の会場だ。

 横に長く並べられたテーブルに座り、ジェイク達は資料に目を通しているところであった。


「え? ああ、全然。ちょっと書類とにらめっこし過ぎただけですよ。目がね。ほら」


 そういいながら、ジェイクは手にしていたモノを持ち上げ、苦笑する。

 手にしていたのは、履歴書やテストの結果などの書類束であった。

 これから行う、面接の資料である。


「それにしても、ほんっとあっという間ですよねぇ。ついこの間学校卒業したと思ったら、直ぐに戻ってきて今度は仕事してるんだから。二か月ちょいで起きることじゃないでしょ」


 ぼやきながら、ジェイクは資料を流し読みし始めた。

 すでに何度も目を通しており、内容はあらかた頭に入っている。

 それでも見直しているのは、面接のときに見る資料を間違えないようにするためだ。


「もうさぁ。なんか、いっそのこと履歴書に写真はればいいんですよね。これ」


 言いながら、ジェイクは履歴書の一枚を持ち上げた。

 それを聞いたほかの従業員達から、笑いが起きる。


「履歴書作るのにいくらかかるんですか」


「高いからなぁ、写真」


 写真という技術は、既に確立したものとして存在してた。

 だた、写したものの印刷は、未だに手作業で行われている。

 カメラで写したものを魔法道具などに移し、自動で印刷してもらう、というわけにはいかないのだ。


「そのうち、もっと安い写真機と安い印刷方法が出てくるんでしょうけどね」


「なんか、どっかの魔法道具メーカーがそんな研究してるとかなんとかって話は聞きますけど」


 昨今の魔法技術の発展は、日進月歩だ。

 最新の道具でも、一年二年で型遅れになっていく。

 近いうちに、本当に安価に写真が取れて、印刷できる技術が確立するかもしれない。

 だが、少なくとも今はまだ、写真というのは高価なものなのだ。

 世間話に花を咲かせていると、ノックをする音が響いた。

 ドアを開けたのは、面接を受けに来た人達の整理を担当している従業員である。


「そろそろ時間ですけど。どうですか?」


「え? もうそんな時間?」


 ジェイクは慌てた様子で、懐に入れていた懐中時計を引っ張り出した。

 言われてみれば、確かに面接の開始時間まであとわずかだ。

 もう少し時間があると思っていたジェイクだったが、どうやら時間感覚が少々狂っていたらしい。


「マジだ。はぁ。もう、疲れてんのかなぁ」


「そりゃ疲れもするでしょう。ジェイクさん、働き過ぎですよ」


「ダンジョンマスターですからね。気持ちはわからんでもないけど。この面接が終わったらとりあえずひと段落なんですし、二日三日休んだらどうです?」


 言われて、ジェイクは最後に休んだのがいつだったかを振り返ってみた。

 たしか、ダンジョンマスター免許を取って、実家に戻った、その日だけだった気がする。

 次の日からは、なんだかんだと働いていた。

 無論、休まなければならないとは思っていたのだが、いかんせん新ダンジョンのことが頭から離れなかったのだ。

 どうせ体が休まらないからと、自室でも書類などを片付けていたのである。


「そうねぇ。そうさせてもらおうかな。よさそうな人が集まってれば余裕も出来るし」


「なんかフラグっぽいなぁ」


「やめろよ、そういうこと言うとホントにフラグになるぞ」


 そんなことを言いつつも、ジェイクと従業員達は笑い声をあげた。

 今回面接を受けに来るのは、既に事前テストや書類審査である程度絞り込まれたものばかりなのだ。

 実力的にはすでに確認が取れており、そこまで問題が出るとは思えなかった。

 後は人間性に極端に問題がないようであれば、そのまま採用流れになるだろう。


「じゃ、みんな準備いいですかね? よさそうなら、一人ずつ入ってもらいましょうか」


 ジェイクの言葉に、従業員達は了承の返事をする。

 整理を担当する従業員は、ドアの向こうへと歩いて行く。

 最初の一人が入ってくる前にもう一度確認しようと、ジェイクは再び書類へと目を落とした。




 ジェイクと従業員達は、沈鬱な顔で頭を抱えていた。

 予想外の事態が起き、緊急で話し合いがもたれることになったのだが、全員の表情は暗い。

 面接は、希望される部署ごとに行われることになっていた。

 今は丁度、食獣植物関連の面接が全て終わったところである。


「いや、エルフが多いのは予想してたよ、うん」


 従業員の一人が、ボヤくように呟いた。

 エルフという種族は、魔法に長け、植物との親和性が高い。

 多くのエルフが、魔法や植物関連の職に就いていた。

 食獣植物を扱う仕事の募集にエルフが多くやってくるのは、ある種当然だろう。

 だが。


「なんで皆パリピっぽいのばっかりなん?」


 面接に来たのは、ことごとくチャラい感じのエルフばっかりだったのだ。


「エルフって基本的に肌白いから居なかったけどさ。アレ、人間だったら完全に日焼けしてて髪の毛染めてる感じのノリでしたよね」


「たぶん、二言目にはウェイって言ってますよ」


「流石にそれは偏見では。いや、言いそうでしたけど」


 散々な言いようだが、別に面接の態度が悪かったわけではない。

 満点ではないが、別に問題もなかった。

 ただ、ビジュアルや言葉の端々から、にじみ出るようなチャラさが漂っていたのだ。


「エルフは金髪青目が多いってわかってるんですけどね。どうしてもイキって染めた学生にしか見えないんですよ。腹立つっていうか絶妙にムカつくっていうか」


「ボロクソいうなぁ。なんかウェイに恨みでもあるんですか」


「あるよ」


 何を当たり前なことを、とでも言わんばかりの従業員の言葉に、全員の視線が集まる。

 ぶれることなく真顔のままの従業員の表情を見て、全員が黙った。

 触れたらヤバいやつだ、と察したからだ。

 とにかく話題を変えようと、ジェイクは書類をめくり始めた。


「まぁまぁ。経歴とか実績には問題ないようですし?」


「それですよ! ビジュアルがアレなだけでそのほかは問題ないんですよね!」


 確かに、問題はなかった。

 受け答えもしっかりしていたし、突発的に出した専門的な質問にもよどみなく答えている。

 一人二人ではなく、面接を受けに来た全員がそういう人物だったというのは、僥倖と言っていいだろう。

 しかし、そうなってくると別の疑問が湧いてくる。


「っつーか、なんでウチみたいな中小にきたんですかね」


「学歴もあるし、前職を持ってる人は結構いいところに入ってたみたいだし。もっといい会社も狙える感じですよね」


「学歴職歴の詐称、ってことはないでしょうね。ダンジョン屋だまくらかそうなんてヤツはそうそういないでしょうし?」


 そんなことをしてダンジョン屋に就職しても、何一ついいことなどない。

 下手を打てば、一つ間違えなくてもモンスターの餌になる職業だ。

 ついでに言うと、詐称しているのがバレてもモンスターの餌にされることになる。

 ダンジョン屋は基本的に気が短いのだ。


「まあ、ぶっちゃけあれでしょ。大手はほら、エルフの判断基準にビジュアルも入りますからね」


 ジェイクの言葉に、従業員達は「あぁ」と納得の声を漏らした。

 非常に差別的なことだが、昔から「エルフの能力はビジュアルと比例する」という偏見があるのだ。

 実際その通りであることが多いから、質が悪い。

 エルフの中でもそういった見方が存在しており、余計に面倒なことになっていた。


「まだあるんですかねぇ、そういうの。うちの某デブエルフの人を見れば、迷信だってわかりそうなもんですけど」


「本人に言ったら怒るよ? それ。ああ、っていうか、その問題もあったんだった。彼ら、ブレイスさんと上手くやれるかな?」


 ブレイスは仕事ができる男だが、凄まじく気難しい人物であった。

 認めた相手は高く評価し、尊重する。

 だが、気にくわないやつは徹底的に嫌うタイプなのだ。

 幸いなことに、今のところそういった相手はいないようなのだが。


「ウェイがブレイスさんのイラつきポイントって恐れがあるわけですか」


「いや、わからないですよ。あの人、割と能力でしか相手みませんし」


「意識高いですからねぇ」


 ジェイクと従業員達は、難しい顔で悩み始めた。

 正直なところ、雇うのに問題があるわけではない。

 能力的に見ても、十分だろうと判断できる。

 むしろ「ウェイっぽいから雇えない」という方が問題があるだろう。

 色々とうるさくなっているこのご時世、何を言われるかわからない。

 しばらく唸っていたジェイクだったが、腹を決めた様子で「よし」と声を上げた。


「基本的には雇う方向で行きましょう。どうせ人手もないんだし。問題があったら、ブレイスさんが魔法とかで消し飛ばすでしょう」


 特に異論も出ず、従業員達は了承の意を示す。

 意思疎通が図れたところで、すぐに次の面接へ移ることになった。




 次に面接をしたのは、戦闘班に所属希望の人材だ。

 元兵士や冒険者上がりが多く、実力的にも十分なものが殆どだ。

 多少、気が荒そうなものが多かったが、そのあたりは問題ない。

 古参の従業員の方が数倍気が荒そうだからだ。

 荒そうなだけでなく、実際に荒いのが問題と言えば問題だろうか。

 兎に角、こちらは無事に終了。

 続く、指令室配置になる予定の人材の面接も、滞りなく終了した。

 狼人族のヤバイお姉さんが居る部署だが、応募してきたのは大半が常識人らしく、ジェイクも従業員達もほっと胸を撫でおろす。

 絡まれる人達は大変だろうが、我慢してもらうしかない。

 このまま問題なく終了できるかと思われたが、次の事務方の面接で問題が発生した。

 再び、緊急の話し合いがもたれることとなる。


「事務職希望の人達の顔が、ことごとく怖い」


 ボヤくようになジェイクの言葉に、従業員達が無言でうなずいた。

 そう。

 事務職希望者の顔が、ことごとく怖かったのだ。

 目つきが悪かったり頬に傷があったりするのは当たり前。

 完全に堅気の人ではない顔のモノばかりだったのである。


「あれ、完全に反社会勢力っぽい顔ばっかりでしたよ」


「思わず、何人殺しました? とか聞きそうになりましたけど」


 そういう顔をしたのが一人二人ではなく、全員だったところが今日の恐怖ポイントである。

 ダンジョン屋というのは、職業柄強面が多い。

 荒事ばかりに従事していると、顔も怖くなってくるのだろう。

 だが、事務職についている人間はそうではない。

 書類とのにらめっこが主な業務である彼らは、扱っている品物こそ武器やら罠やらであり、物騒ではある。

 とはいえ、やっていること自体は数の管理や外部への発注などで在り、ほかの業種の事務職とやっていることは変わらない。

 実際、ここに居る従業員は皆事務職なのだが、特に迫力がある、というようなことはなかった。


「こっちも食獣植物関連と同じで、経歴とか能力とかには問題ないんですよね」


「むしろ優秀な類ですよ。税務関係の資格を持ってる人までいるんですから」


「それな。思わず惚れそうになりましたよ」


 何処の会社でも、税制に強い事務職員は有難がられるのだ。

 特にベルウッドダンジョン株式会社のような、税の専門職を雇えるほどでもない中小企業にとっては、なおさらである。


「しかし、なんでウチみたいな中小に来ようと思ったんだ」


「顔が怖いからじゃないですかね」


「いや、それはアナタ……」


「案外、そうなのかもしれないですよ?」


 そんな訳ないだろう、というような顔の従業員に、ジェイクは肩をすくめて見せた。


「外の業者さんと交渉なんかもする仕事ですからね。柔和な顔立ちの方がいいでしょう」


 確かに、外部との交渉役にもなる以上、あまり顔で威圧しないに越したことはない。

 荒事関係でただでさえおびえられることも少なくなく、人当たりのいい顔のものが重宝されることも多かった。


「最初の件でも言いましたけど。やっぱりそのせいで大手からあぶれた人がこっちに流れて来てるんじゃないですかね」


「やっぱりその線ですか」


「つうか、事務方のトップってエーベルトさんになるんですよね? ヤの付く自営業の方々の事務所みたいになりません?」


 その言葉に、ジェイク達はその様子を想像してみた。

 ドライアドのエーベルトは、外見こそ幼い美少年美少女と言った風情ではある。

 だが、中身はいかにもダンジョン屋と言ったような叩き上げだ。

 普段はそうでもないが、頭にくると手も足も出るし、場合によっては魔法やらゴーレムやらも持ち出す武闘派である。

 ドスの効いたエーベルトの号令に従い、てきぱきと動き回る強面達。

 考えるだけで、覚えのない借金などを取り立てられそうな気がしてくる。

 顔を青くする面々だったが、ジェイクは大きく首を振って考えを頭から追いやった。


「いやいや。あくまで想像ですし。偏見とかそういうのどうかと思いますし」


「でもオークの強面ってエライインパクトですよね」


「おもったー」


「コボルトやらオーガやらリザードマンの強面もなかなかですよ」


「わかるー」


 ジェイクが思わずギャル風の同意をしてしまうほど、それらの種族の強面には迫力があった。


「っていうか、なんで選りにも選ってそういう種族の人しか事務職の応募来なかったんですかね」


「ほんとそれ」


 そう。

 事務職の面接には、いわゆる亜人種の強面しか来なかったのである。

 それも、種族全体の顔が比較的迫力のあるものばかりだ。

 礼儀正しく、受け答えもしっかりした人物ばかりではあった。

 しかし、面接をしていて拭い難い威圧感を感じたのもまた事実である。


「どうします? 実際」


「いや、どうするも何も。能力的には問題ないんですし。顔だってアナタ、ウチの連中は人のこと言えるようなのは居ないですよ」


 ジェイクの言う通り、ベルウッドダンジョン株式会社の従業員は、基本強面である。

 ダンジョン屋のサガというやつだ。


「もう、大丈夫でしょ。うん。大丈夫、全然! 問題ない問題ない! 優秀な人が来てくれるのはいいことですよ!」


 このジェイクの判断により、彼らにも就職内定を出すことが決まる。

 ほかの従業員二人も、特に異論はなさそうな様子であった。

 そして、いよいよ面接も終盤。

 最後に残ったのは、罠や設備などの機材全般、それに、ゴーレムの整備などを専門に扱う人材の面接だ。

 ベルウッドダンジョン株式会社では、罠や設備の設置整備と、ゴーレムを扱う整備士は、別の部門として扱っていた。

 破損も多く、取り扱うのに専門の知識を要するゴーレムの整備は、専門職と言っていい。

 とはいえ、どちらも魔法道具に類するものであり、共通する部分も多かった。

 なので、まとめて面接をしてしまうことにしたのだ。

 そのほうが、質問をする方としても頭を切り替えやすいのである。

 が。

 ここでもやはり、予想外の事態が起きた。

 すべての面接を終えたジェイクと従業員達は、再度緊急の話し合いを始める。


「なんで面接受けに来たのロリドワーフオンリーなの? そういうイベントなの?」


 半ば茫然としながら言うジェイクに、ほかの従業員達は沈鬱な表情で押し黙った。

 ジェイクの敬語が思わず飛んでしまったのも、無理からぬことだろう。

 面接を受けに来たのが全員女性の、それもドワーフであったのだから。

 補足して置くと、ドワーフの外見は、大きく分けて二パターンあった。

 口さがない言い方をあえてするならば。

 髭とロリショタだ。

 前者は、いかにもドワーフと言ったような、マイアーのような体型の事である。

 男性にも女性にもおり、そのどちらにもひげがあるのが特徴であった。

 後者は、それらとは真逆と言っていい外見の事だ。

 人族やエルフ族などの幼い子供のような外見で、丸みを帯びた大きめの耳が特徴だった。

 髭は特に生えておらず、少し髪の毛が多めで、眉が太めな程度である。

 事ほど左様にこの二つの間には、凄まじいギャップがあった。

 ほかの種族から見た場合、別種族のようにしか見えないレベルだ。

 だが、当のドワーフ達にとっては、これは微々たる差でしかないのだという。

 むしろまったく気にしないレベルで在り、遺伝子レベルで意にすら介されていなかった。

 髭がロリショタを産むこともあれば、ロリショタが髭を産むこともある。

 髭とロリショタが結婚することも、当たり前のようにあった。

 はたから見ると事案にしか見えないのだが、ドワーフは一切気にしないのだ。

 ちなみに。

 ドワーフだからと言って、他種族の少年少女を成人のように感じる、と言ったことは一切なかった。

 彼らには彼らにしかわからない、何かしらの違いのようなものがあるのだろう、というのが、専門家の見解である。

 まあ、それが何なのかは一切わかっていないのではあるが。

 そんなことはともかくとして。


「なんで幼い系のドワーフ女性しか面接に来なかったの? どういうことなの?」


「いや、履歴書じゃ外見分かりませんし。こっちとしても初めて知ったっていうか」


「まさか髭かロリショタか書いてくださいね。なんて欄作る訳にもいかんですよ」


 今はそういうことをすると、人権とかなんとかで非常にうるさいのだ。

 実際にそういったことで優遇不遇がない訳ではないのだが、そういうのを表立ってするわけにはいかない。

 実に難儀な話である。


「いやいや。こちらとしてはホントその辺はどちらでも、仕事さえできる人なら全く問題ないんですけどね」


「面接に来た人全員、きっちり資格持ってますね。しかも、複数持ってる人が殆ど」


「前の職場からの紹介状持ってきてる人もいますし。実務経験があるのはでかいですよ」


 今回は即戦力がほしいので、中途採用も積極的に行っている。

 ダンジョン屋は、ほかの仕事と比べて給料がいい。

 国にとっても重要な仕事であり、命の危機にさらされることも多いことが理由だ。

 また、それもあってか、ダンジョン屋に転職するものを悪く言う企業も少なかった。

 今回のような領地拡大に伴う場合、転職者が元々いた職場に優遇措置が施されるのも、抵抗が少ない理由の一つだろう。


「しっかし、なんでまたロリドワーフの人ばっかり来るんですかね。って言いたいところだけど。これもまぁ、大手からあぶれたんでしょうね」


 頭を掻きながらいうジェイクに、従業員達は深くうなずいて同意する。

 ドワーフは、道具の加工や細工などに定評がある種族だ。

 魔法道具の扱いに関しても、種族特性として長けている。

 集中力が高く、手先が器用で、力が強い。

 鍛冶などの金属細工だけではなく、おおよそモノづくりという分野全般に置いて優秀だと言っていいだろう。

 これは、男女ともにいえることであった。

 髭だろうがロリショタだろうが、ドワーフはほぼほぼすべてが優秀な職人になる資質を備えているのである。

 とはいえ、男女差はある。

 一般的に男性の方が体格がよく、力が強い傾向にあった。

 また、体格的に当然ではあるものの、髭の方がロリショタなドワーフよりも腕力が強い。

 これは、ゴーレム等の大型魔法道具を扱う現場では、大きな差として受け取られている。

 ロリショタなドワーフが見た目通りより少し強い程度の腕力しか持ち合わせていないのに対し、髭ドワーフ男性は数百キロの荷物を軽々と持ち上げるのだから。

 あながち偏見という言葉だけで片付けることは出来ないだろう。

 事実、髭ドワーフは大型魔法道具などの力が必要なものの加工。

 ロリショタなドワーフは精密な細工仕事を、といった具合に、住み分けがなされている。

 ではあるのだが、そういった枠から外れたいと願うものが居るのは世の常だ。

 体格的に不利なロリショタなドワーフの中にも、大型魔法道具を扱う仕事に就きたいと願うものは居るのである。


「それでも男性なら、ってことで雇用があって。ソレからも漏れた女性層がうちに集中した。ってことですかね?」


「うーん。募集かけるの遅かったかなぁ……」


 実際、ベルウッドダンジョン株式会社が新人を募集したのは、他の企業と比べて遅い時期であった。

 兄関連のごたごたで、予定が押したしわ寄せだ。

 けっか、よその募集であぶれた人達が集まる形になったのだろう。


「しかし、やっぱりこの人達も資格もあるし実務経験もある。体格的に不利な要素はあるとはいえ、最近はそれを補うゴーレムもある」


 ジェイクは腕を組み、真剣な面持ちでいう。

 最近では、「工業作業用ゴーレム」も多く普及していている。

 パワードスーツのようなもの、と言えば、理解が早いだろうか。

 着用者の動きを追い、それを強化して再現する、「着るゴーレム」だ。

 これを使えば、体格、体力的な差は、おおよそ埋めることが出来る。


「実力に疑うところはない訳だし、問題は何もないでしょう。採用する方向で行きましょうか」


 ジェイクの言葉に、従業員達は大きく頷いて同意する。

 話がまとまったところで、従業員の一人がジェイクに尋ねた。


「で、その心は?」


「ロリドワーフさんなら、マイアーさんと居ても安全」


 コレもまた、掛け値なしの本音であった。

 世の中、本音と建前があるものだが、どちらかが嘘で、どちらかだけが本音というわけではないのだ。

 裏のものも表のものも、様々な事情が絡み合って状況というのは出来上がっていくのである。


「なんか。ちょっと立派なダンジョンマスターに近づいた気がしますわ」


「いやな近づき方ですね」


 しみじみとつぶやいた言葉に、従業員の鋭い突っ込みが突き刺さる。

 自身も「その通りだな」と思ったので、ジェイクはただ黙って感慨深そうな振りをして頷いているのであった。

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