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cafe in dream

作者: 水ノ森



私は、立っていた。立っている場所は分からない。ただ分かるのは、星の綺麗な夜空が私のはるか上で広がっていることだけだ。


しばらくして、私は気づいた。自分が今、道の上に立っていることを。車道というよりも、歩道、小道というべきなのだろうか。辺りは一面、草原だった。見渡しても、何もない。星と月だけが照らすこの場でそれはわかった。


しかし、私はなぜここに立っているのだろう。私は、布団の中にもぐったはずなのに。

私の服装は寝間着ではなかった。私は着替えた記憶がない。いつ着替えたのだろうか。私はなぜここに立っているのだろう。早く、身体を休めなくてはいけないのに。明日の労働のために今日の疲れをしっかり回復しないといけないのに。私がいるべきなのは、こんな草原の中の小道ではなく、夢の中である。

今すぐ家に帰りたかった。だけど、ここがどこだか分からない。どうやって、家に帰ればいいのか分からなかった。


私の足は歩いていた。自然に私は前に進んでいた。小道の上を私は進んでいた。今、自分がどうすればいいのか分からなかった。答えの行方が分からないが、とりあえず前に進んで見れば何か見えてくるだろうと何の根拠もないまま自分を納得させていた自分がいた。


歩いた。歩いた。歩いた。30分ぐらい歩いただろうか。私は初めて小道と草原以外の物を見た。物ではない。建物だった。小道の終点はこの建物だった。1階建ての木でできた、民家のようだった。看板がある。

『cafe in dream』


夢の中のカフェ。そう書いてあった。夢の中のカフェ。夢の中。どういう意味だろう。まさか、今、私がいるのが夢の中とでもいうんじゃないだろうか。だったらこの夢はダメだ。人に歩かせるなんて。こんなにも、現実のような感じで。私は今、夢の中にいる感覚がない。 夢を見ている感覚ではない。しっかりと体の感覚がある。ここが私の夢の中なのだろうか。


小道の終点であるここには何か意味があるのだろうか。そして、この建物は一体何なのだろう。私は、ドアを開けた。


「いらっしゃいませ。」


黒髪の少女が言った。喫茶店の制服をきている。働くことの出来ない年齢に見えた。

建物の中は喫茶店だった。確かに看板には書かれていた。客は誰もいない。私と少女だけがこの喫茶店にいる。


「お席はご自由にお座りください。」


私は入口の近くの席に座った。


「こちらはメニューです。」


内容は普通の喫茶店のようだった。


「コーヒーを1つ。」


私は注文をしていた。お金持ってきたっけ。


「かしこまりました。」


少女が私の席を離れようとした時、私は少女に尋ねた。ここがどこであるかを。少女が何者であるかを。私はこれからどうすればいいのかを。


「コーヒーを持ってきたら、話しますね。」


少女は私にこう伝えた。少女は私のコーヒーをつくりに行った。


「お待たせしました。コーヒーです。」


一杯のコーヒーがきた。私はそれを少し飲んだ。お金持ってきたっけ。


少女は私の目の前の席に座った。


「それではお話しますね。ここはあなたの夢の中です。なので、この喫茶店の名前も『cafe in dream 』なのです。」


「私は今、夢を見ているのか?」


「そうですね。特別な夢を見ています。ここに来ること、ワタシに出会うことが珍しいです。ちなみにワタシはユメといいます。あなたはしばらくすると、目が覚めて、夢の中からいなくなります。」


「なぜ、この夢が特別なんだ?」


この夢が現実味あるのも関係しているのだと思うが。


「あなたは、ここ最近人と関わりましたか?」


私の質問の答えになっていない。それどころか私の痛い所をついてくる。


「私はこれまで友達と言える友達がまったくいなかった。」


今の言葉を発したのは私だ。なぜだ。口が勝手に動く。


「学生時代は休み時間を睡眠と読書で過ごし、文化祭、体育祭はさぼった。」


やめてくれ。そんなこと言いたくないのに。


「大学に入れば、友人の一人や二人できるとは思っていたが、できず、サークルでも、馴染めずに、大学生活は終わった••••••」


なぜ止まらないんだ。私の口は。こんなこと

こんな少女に言いたくたくない。


「社会人になり、何かが変わると思っていた。だけど、何も変わらなかった。会話も事務的なことばかり。」


もう死にたい。


「だけど、私にも友達はいたんだ。小学生のときに••••••」


私は小学生のときの友人の話を少女にしていた。涙が流れてきた。


私は話すのをやめた。すると、少女が


「そうですか。悲惨なぼっち人生でしたね。


でも、あなたがコミュ症なのも原因なんですよ。あなたが周りとの壁を作るからいけないんです。分かりましたか、一生ぼっち。」


「分かるか!何なんだ君は!っていうかなんで私はこうベラベラと••••••」


「ごめんなさい。そのコーヒーの作用なのです。そのコーヒーを飲むと悩みを話してしまうのです。」


「君は何者だ••••••?」


「ただの喫茶店の看板娘です。余計なことを言ってしまいましたね。」


少女は笑った。


「あなたは今までの人生をやり直したいと思いますか?」


「なんだ、急に。まさかやり直せるとでも、いうのか?」


「出来るんですよ。」


「君は何者なんだ。どうなっているんだ、私の夢の中は」


「私は、悩める人々の夢の中に入ってその悩みを解決するという仕事をしています。」


「で私の場合は人生をやり直して、友達を作るということか。」


私はコーヒーを飲み干す。お金持ってきたっけ。


「作るのは、ご自分でやってもらうとして•••」


「やめておくよ。」


「何でですか?これじゃワタシこの仕事失敗になってしまいます!」


少女は不思議そうに私の顔を見た。


「私はもっと君と話したい。人と話すことの楽しさを知ったよ。」


「ワタシと話したい••••••?」


「あぁ。だから、毎日、この喫茶店に通う。私は毎日、この夢を見たい。出来るかな。」


「そんなこと言う人初めてです。それでは毎日、夢の中で会いましょう。ところであなたの名前は••••••」


少女は私が話しやすい、いや、話してて楽しい子だった。


目覚まし時計の音が鳴り響く。


私は、会社を辞め、先生になった。私は友達の少ない人生を送ってきた。だが、今の子どもたちにはそういう思いをして欲しくない。


新しい学校という職場では生徒とも同僚とも仲良くやっていけた。今までうまくいかなかったのが嘘のようだった。


さて、寝る時間だ。私の楽しみでもある時間。


私は立っている。目の前には『cafe in dream 』と書かれた喫茶店がある。ドアを開けると少女が立っていた。


「いらっしゃいませ、ようこそcafe in dreamへ。」


cafe in dreamへあなたも訪れてみてはいかがだろう。



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