藍之色
藍は黒よりも深いと聞いた。
朝日の昇る頃私は目を覚ます。
最もこの世界に陽の光というものは無く、
空を見上げれば見えるのは何時だって藍色の世界だった。
それでも人には時間軸というものがあり、
暗闇の中朝を迎え暗闇の中昼を過ごし暗闇の中夜はまた終わる。
あるく日の朝、人類は突然太陽を失くす事になった。
目を覚ませばいつもあったものが消えてなくなってしまった。
蓋をされたような空と同じように人類も藍に染まった。
活力を失くし、知りたいという気持ちを失くし、
改善へ向かう足を止めた。
暗闇に慣れ、暗闇であることを諦め、暗闇の中で
生きる事を選択した。
この世界にはもう陽の空を知る人間は居ない。
この世界の人間にはこの空が当たり前となってしまったのだ。
この世界には四季がない。
藍は植物や海、全ての生物を染めた。
植物は成長を止めた。
枯れることもなく、咲くこともなく、葉の一つも散る事はない。
海は全てを拒んだ。
波は止まり、海の中の全てを死に至らしめた。
もう後数日、数週間。
次のカレンダーをめくる前に、人類は滅亡するらしい。
人々は驚かなかった。
絶望に身を委ね抗う事をせずただただ残りの日を生きる。
全ては、世界が藍色に染まったあの日に終わっていたのだ。
朝日が昇る午前5時前後に私は目を覚ます。
重たい身体を起こせば、
窓辺には灰色の世界が広がる。
私は窓を開け、吹くはずのない風を感じる。
羽音がした。
「 光」
私の名を呼ぶのは星という神様だ。
神様というのは星の自称なのだが、
私はもう不思議に思うことをやめた。
不思議に思っても謎は解明されないし、
された所でどうするのかというところだった。
彼女は毎朝背の白い羽根を羽ばたかせ私の部屋へ来る。
あの日からずっと。
毎朝私が窓を開けると其処に居る。
私と星は会話をしない。
星が声を発するのは、毎朝一度だけ私の名を呼ぶ時だけだ。
私はベッドの端にちょこんと座る星をただ眺めている。
少しすると、私の意識は遠のいていく。
私の意志とは関係なく、必ず私は眠りに落ち、
目を覚ますと星は居なくなっている。
今日も星は一言も喋らない。
学校はとても退屈だ。
高校三年生と言えば本来なら就職や受験に
慌てふためく歳なのだろうが、私は違った。
私達は、と言った方がいいだろうか。
世界が滅ぶというのに、何故学校は休校にならないのだろう。
休校になった所でする事もしたい事も無いのだけれど、
それでも私達は学校へ通う。
未来が無くても今が有る。
故に、私達にはそうするより他に選択肢がないのだ。
それは学校も社会も全て同じことだろう。
「 光 」
「 ... 星 」
どうして私の名を呼ぶの 。
「 光 」
「 星 」
〝 どうして?〟
「 光 」
「 ... 」
____ 知ってどうするの?
「 光 、終わりの日が来た 」
言葉が出なかった。
初めての星の言葉が、終わりの言葉だったからだ。
私は、絶望した。
「 星 」
初めの言葉は、漏れるような。
「 星 ...!」
そして、嘆く様な。
「 星 ____ 」
涙というものを流したのは初めてだった。
「 死んでしまうのは 、星ともう会えない事は、寂しい」
星は、喋らなかった。
私の名も呼ばなかった。
瞳の焦点さえずらさず、ただ真っ直ぐに私を見ていた。
何時もの様に、遠くなる意識の中、私は絶望をやめた。
「 ... 生きたい 」
火花が散った。
硝子にヒビが入り、瞬く間にそれが広がる様な。
藍色の空は砕け散った。
陽の光が世界を照らした。
▽
私は午前5時に目を覚ました。
白いシーツ、白い枕、白い天井。
見知らぬ男性が私の顔をのぞき込み、
周りは難しそうな機械でいっぱいだった。
瞼が鉄のように重かった。
肢体は思うように動かず、息を吸えば胸が痛んだ。
視界の端に、人口蛍光ではない光が見えた。
星と共に見た、あの陽の光と同じ色だった。
「 光 」
星よりも野太く、低い声が私を呼んだ。
私の顔をのぞき込んでいた、見知らぬ男性だった。
それが誰だかは分からなかったけれど、
私は重たい腕を精一杯の力で動かし、男性の頬を撫でた。
男性は咲きこぼれるような笑顔を私に見せた。
私は記憶喪失だった。
二年も昏睡状態が続いていたのだという。
二年前、大きな交通事故に合い、重症を負い病院へ担ぎ込まれた。
私はその時、両目の視力を失ったそうだ。
「 どうして視力が戻ったのか、不思議でなりません 」
何度も医者に言われた台詞だった。
あの見知らぬ男性は、私の恋人だった。
毎日私の病室へ通い、私の名前を呼んでくれていたらしい。
彼は記憶をなくした私を受け入れ、
沢山のことを教えてくれた。
事故前の事や私のこと、私と彼との思い出。
私はすぐに彼に惹かれた。
その二年後、彼と結婚した。
結局、私は死ぬまで記憶を取り戻す事は無かった。
けれど、私は絶望しない。
未来のある世界は眩かった。
私は毎日、午前5時に窓を開ける。
吹く風は羽根の羽ばたきでは無いけれど、
なんだか私を呼ぶ声が聞こえる気がするのだ。
____ 光。
誤字脱字多くてごめんなさい (´・_・`)
なんか思いついて考えながら書いただけなので
よく分からないことになってますね←