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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第一章 魔法少女ユウカちゃんの災難
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第一章8 『そんなにパンツが好きなのか!』

 怒涛の一日が過ぎた翌朝、俺はリビングでくつろぎながらテレビを見ていた。流れているのは朝の報道番組、そして今取り上げられているのは――、


『昨日開かれました魔法少女派遣センターの緊急記者会見により、未確認巨大生物バクと魔法少女と呼ばれる存在が明らかになりました』


 そう、昨日の夕方にやったらしい魔法少女派遣センターの緊急記者会見の様子だ。映像には七〇代後半くらいの老人がカメラに向かって話している。これが社長らしいが、どう見ても聖獣には見えない。もしかして社長は人間なのか?素朴な疑問が頭に浮かべているうちに記者会見の映像が終わり、番組の司会者がコメンテーターたちに話を切り出した。


『それにしても、漫画やアニメにしか存在しないはずの空想の人物が今こうして現実にいるというのは――』

『正直ふざけてるんじゃないかと思いますよ。実際映像を見ても信じられませんね』


 顎に髭を蓄えた男性が昨日の戦いを撮った映像を指差しながら言う。まったくもってその通りである。実際あの場で戦った俺ですら言いたくなるんだから、この人はいい批評家だ。前々から言い方きつくて嫌いだったけど見直したよ。


『これすごい合成に見えますよね』

『でも実際に起きたんでしょ?』

『自衛隊や警察が動くより先に現れたっていうのも少し不信ですよね。まるで現れるのを待っているように思えてきますよ』


 こんな呑気なことや的外れなこと言うコメンテーター初めて見たぞ、今までよく降ろされなかったな。特に最後の奴には言ってやりたい、こっちはまさか現れるなんて思ってなくて驚いてんだよと。


「魔法少女だなんて、如何にも夕斗が好きそうよね。良かったじゃない」


 キッチンから聞こえてくる母さんの言葉に、俺は苦笑いだけを返した。これ、実は俺なんだ――なんて、死んでも言えない。これが普段ならそりゃ興味も持つけど、当事者としては喜べない状況だよ。

 時間もいい頃だしそろそろ学校に行こうかと思い、母さんに出ることを知らせてリビングを後にした。すると階段からマーチが慌てて駆け下りてきた。


「夕斗!夕斗!!大変だ、大変なんだゆむぐぅ!」

「バッカお前、他の人が近くにいるところで喋るなって言っただろうが!」


 口を抑えるように顔を掴み、目の前まで持ち上げる。犬が喋るところなんて見られたらそれはそれで大事になるだろうし、そこから俺の秘密に繋がる可能性もないわけじゃないからな。


「ご、ごめん、でもまたバクが現れたんだよ!今度は町中で!」


 小さな声で告げられた俺は渋い表情になった。昨日の今日でもう現れたのか――いや、そもそも別の魔法少女が戦うはずなのかもしれない敵が回ってきたのかもしれないな。はぁ、本当は行きたくないけど、行かないとバクは放置されることになるし、学校は遅刻することになるか。


「わかった行ってくる。お前も来るの?」


 床に降ろしたマーチは自信有り気に胸を張った。


「当然、僕がいないと君も困るだろう?」

「いや別に」

「ちょおい!待って、置いてかないで!現場まで一緒に連れてって!」


 俺はマーチを玄関に置いて家を出た。こいつのドジっぷりを見ると何かしでかしそうで怖いんだよな。できれば何もしないでほしいところだけど、そういうわけにはいかないよなー。

 さて、周りには誰もいないな……と、確認はしてみたけど、念には念を入れて塀の陰に隠れた、誰かに見られたらそこで終わりだからな。


「行くぞ、アフターグロー」

「リョウカイシマシタ」


 首からネックレスにして下げたアフターグローを取り外し握り締める。変身する時は妙に力んでしまう、自分が女の子になるからなのかもしれないけど、そっちの方が身が引き締まっていいかもしれない。


「アフターグロー、セットアップ!」


 起動のトリガーを唱えると、俺は再び光に包まれる。改めて変身中に意識を向けてみると、自分の体が徐々に小さくなっていく感覚がある。体も、いつもより軽くなっている気もする。そこは高校生の男子と小学生の女の子の重さの違いか。あと下半身の違和感はなるべく気にしないでおこう、ムズムズして仕方ない。

 そうこうしている内に俺は魔法少女へと姿を変えた。この間僅か一秒なのがまさにファンタジーで不思議だ。


「よし、行くとしますか」


 体を宙へと浮かべて空を走り始めた――走るって表現はおかしいかもしれないけど、空を飛ぶというのはほんとに走ってる感覚に近い。これも魔法少女になって初めてわかる感覚だ。


「あっ、なぁマーチ、場所聞くの忘れたけど、バクってどこにいるんだ?」

『はぁ、はぁ、だから僕を連れてけって行ったんだよ!えーと、そのまま真っ直ぐ飛んでれば見えてくると思うよ!』


 あいつは走っているのか、どこか息が荒い返答をしてきた。このまま真っ直ぐということは、もしかして駅の近くか?なんでまたそんなところに?俺が疑問に思っていると、音ノ葉駅が見えてきた。都内の駅で何本もの路線が通っていることもあり、それなりに大きい。周りには居酒屋や飲食店、ショッピングモールなど、人が集まりそうな店が固まっている。俺も秋葉原や池袋に行く時によく通る場所ではあるが、上から見るとやはり人が多い。

 そんな場所で化け物が一体――回転していた。


「な、なんだあれ?扇風機か?」


 そう、見た目はまさに扇風機。手足が生えた扇風機だ。大きさは昨日の朝顔より小さいが、それでも二〇メートルはあるだろう。そんな怪物が逃げ惑う人たちに向かって風を浴びせている。そこで一つ、俺はまた疑問に思った。


「なぁマーチ、なんか扇風機の怪物が逃げてる人たちに風をぶつけてるんだけど……」

『何!?それは大変じゃないか!僕も早く向かわなければ――』

「いや、人が吹き飛ぶほど強くないんだよ、むしろ弱いくらいで――なんというか、風が強い日に吹く風程度なんだよ』」


 あんなデカイ図体しているくせに、それ以下の風を浴びせている。あいつは一体何がしたいんだ?夏なら涼しいしありがたいんだけど、今は五月上旬だしまだそういう時期じゃない。そもそもあいつは人の欲望で生まれる化け物だ、だとしたらどういう欲があってこんなことをしているんだ?


『あーなるほど、なら答えは簡単だよ』

「本当か?」

『ああ、逃げてる人たち――中でも女性をよく見てみるんだ』

「女性?」


 言われた通りに、俺は風に吹かれている女性たちを観察してみる。

 すると――


「きゃあ!」

「ちょっと、なんでさっきからスカートばかり!」


 逃げる女子高生や女性たちのスカートが次々と捲り上がり、色とりどりの下着が見え隠れしている。詰まる所、パンチラ状態が続いていた――って!


「おまっ、何見せてんだよ!」

『おそらくだけどそのバクの願いはズバリ、女の人のパンチラが見たいだね。ほんと急がないと』

「急ぐ理由変わってるぞお前――とにかく、まずあの風を止めないと!」


 俺はバクが起こす強風の中に入り、突き抜けながら進んでいく。向こうも俺に気づいたらしく、風を正面からぶつけ続けて……来るかと思いきや、巨大な体を屈め、頭の向きを上に変えた。つまりは風を俺の斜め下から吹かせてきたのだ。突然風向きが変わったことに対処しきれず、そのまま斜め上空へと回りながら浮上した。


「な、なんでいきなり風向きを変えたんだ?」


 最初より高い位置で止まった俺はバクの行動に首を傾げたが、答えはすぐにわかった。俺が停まったことを確認するや否や、バクは頭を正面にして仰向けになるように俺の真下に滑り込んだ。そして腰元にあるスイッチから中を選んだ、すると風は先ほどより少し強くなって俺の足元から吹き込まれた。


 それにより、俺のスカートは壊れた傘のように捲れ上がった――。


「わああああああ!ちょっ、おおおわああああああああああああああ!!!」


 急いでスカートを両手で抑えるが、前だけしか抑えてなかった所為で後ろだけが捲りあがり、それを抑えると前が捲りあがり――前後を両手で抑えてやっと止めることができたが、横はまだ少し捲れている。なんで男なのにこんな目にあってんだ俺は!だがよかった、どうやらスカートの中はアンダースコートになっているらしい。これなら恥ずかしくない!……わけがない!


「くっそぅ、こいつ風止めたらその羽一枚ずつ切ってやるからな!」


 俺は辺りを見渡して使えそうなものが近くにあるかを探す。ここはなんでも揃っている駅前だ、何か戦闘に便利なものがあるはずだ。

 一先ず近く建っているショッピングモールの看板に向けて杖をかざした。後ろが捲れ上がるが仕方がない!


「ドレスマター・フュージョニウム!」


 魔法を唱えると同時に魔法陣が展開される。融合させるのは看板を構成する鉄と俺のスカート、これでどんな風が吹いても捲れない文字通りの鉄壁スカートになる!融合が完了すると、俺のスカートは風に煽られてもビクともしなかった。のだが――、


「重っ!すごい重いんだけど!」


 しまった。スカートを捲れないようにすることしか考えてなかった結果、超重量のスカートになってしまった、手触りや見た目はなんにも変わったないのに。まるで下から引っ張られているかのように、浮遊している俺はゆっくり下降し始める。


『君って頭いいのに馬鹿だよね』

「うるせぇよ!ええいこのまま重さに任せて行ってやる!」


 半ばヤケクソに浮遊を解いて、鉄の重さに身を任せてバクの元へと落ちて行った。バクは落ちてきた俺に驚きながら風を中から強へと変えた、だがそれでも落下のスピードは収まらず、重力に従って突き進んでいく。とてつもない速さで落ちる中、俺はアフターグローの尻を下に突き出した。

 すると鉄が弾けるような甲高い音と共にバクの顔の上に着地した。足元を見ると杖は扇風機のど真ん中を見事に貫通している。バクは叫びがないままジタバタと暴れまわり、杖を引き抜いて俺を地面に転がり落とした。スカートのお蔭で怪我はなかったけど、重くて起き上がれない。


「ゆ、融合解除」


 俺の声に反応した鉄壁のスカートが、光を一瞬放ってから元に戻った。この魔法は時間経過だけはなく任意で解くことも可能のようだ。


「ほんと、便利なんだか不便なんだか……」

『夕斗!バクが起き上がるよ!』


 顔に穴を開けられたバクは、怒りながら立ち上がり、再び風を吹き付けてきた。今度は斜め上から俺の手前の地面に当てて、器用にスカートを狙いに来た。この怪物、キレてもあくまでパンチラか。


「この風を止めるには……」


 スカートを抑えながらバクの腰を見る。そこには四つの大きなスイッチが付いていた、風力を調整する弱、中、強、そして扇風機を止める停止ボタンだ。あれで風を止めるしかない。


「先に謝っておくぞアフターグロー、今回もお前に負担を掛けそうだ」

「オキニナサラズ」


 俺は片手でスカートの端を掴み、そのまま真っ直ぐ駆けた。扇風機はある一定の範囲までしか首が動かない、故にそこから出てしまえば風を受けることはない。だが相手は脚の生えた扇風機の怪物、範囲から出ようとすれば方向転換しながら追いかけてくるだろう。そして何よりも、こいつはパンチラに執着している。必ず風をスカートに当ててくるはずだ。

 目の前まで迫ってきた俺に風を当て続けるために体制が前のめりになっていく。風は俺の足元で吹き荒び、後ろの端を捲りあげる。見られていることがすごい嫌だし恥ずかしいが、そのおかげで風は俺を前に押してくれている。つまり、追い風になっているのだ。


「行くぞアフターグロー!」


 片足でブレーキを掛けるように強く踏み込み、バクの腰に向かって杖を投げた。本来なら宙に浮いてスイッチのところへ行かなければならないが、前のめりになっていることで地面からスイッチを狙うことができる。回転しながら飛んで行ったアフターグローは、バクの停止ボタンを押した。すると羽の回転が徐々に減速し始めた。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 風が完全に治まる前に、再び足元まで全力で走り、役目を終えて落ちてきたアフターグローをキャッチする。今度はこっちの反撃だ。俺はまだ止んでいない風に向けて杖を構えた。


「ウインドアイス・フュージョニウム!」


 バクが起こした風を融合元にして融合させるのは、近くにある喫茶店――そのテラスに置いてあるグラスの中の氷だ。ほんと、我ながらあんなものよく見つけたものだ。魔法陣が上下に展開し、光を放ちながら風が姿を変えていく。俺は融合する風の中に杖を入れ、そのままバッドを振るようにバクに向けてスイングする。


「フリージングハリケーン!」


 冷気を帯びた輝く風は杖が起こした風に乗ってバクに向かって飛んで行く。巻き上がる風はバクを覆うように段々と広がっていき、足元から凍結し始めた。体を起こして逃げようとするが、脚はすでに凍っている。バクは最後までもがき、完全に停止した。氷のオブジェとなったバクを見上げ、一息吐いてから右脚の前まで行く。そして――、


「せーの!」


 杖の先端でおもいっきり叩く。それだけで、バクの全身にヒビが走り、粉々に砕け散った。雹のように空から降り注ぐバクの破片たちは、地面に落ちるとすぐに消えてなくなった。バクがいた場所には一人の男子中学生とホープ・ピースが転がっていた。


「よし、これで二個目!」


 ホープ・ピースが出てくるのは稀だなんてマーチは言ってたけど、心配するほど確率が低いわけでもないのかもしれない。俺はホープ・ピースを懐にしまい、後はマーチに任せて帰ろうとした。だが、バタバタと慌ただしい無数の足音に気がつきそちらを向いた。そこには――、


「すみません!もしかしてあなたが魔法少女さんですか?」

「この怪物も昨日現れた怪物と同じ怪物なんですか?」

「先ほどあの怪物を凍らせていましたが、あれも魔法なんですか?」


 カメラやマイクを持ったジャーナリストたちが、俺を取り囲むように集まっていた。なんだこの数、テレビでしか見たことないぞ。しかも全員デカい、俺が小さくなったからなんだろうけど、まるで壁に囲われているみたいだ。


「あ、その俺――じゃなくてえーと、わ、わわ私はその、魔法少女です。一応」

「昨日あの怪物を倒したのもあなたですか?」

「は、はい、そうです」

「やっぱり!宜しければ名前を教えていただけませんか?」


 な、名前?魔法少女としての名前ってこと?流石にフルネームは名乗れないし、夕斗じゃ明らかに男の名前だし……


「ゆ、ゆう、か――ユウカです!」

「ユウカちゃんか、とても可愛らしい名前ですね」

「あ、ありがとうございます」


 どうしよう、素直に喜べない。


「どこに住んでるんですか?」

「そこまではちょっと……」

「学校には通ってるの?」

「はい、通ってます」

「いつから魔法少女を?」

「昨日始めたばかりなんです」

「怪物は怖くないの?――」


 やばい、すごい帰りたい。このまま空飛んで逃げたい。なんだこの質問の山は、そんな大量に聞かれても答えられるか!俺は聖徳太子じゃないんだぞ!社長からなるべく取材には答えろって言われてるらしいが知ったことじゃない!――ここは少し強引かもしれないが、終わらせてもらおう。


「あ、あの!私、まだ魔法少女になったばかりで、わからないことも多くて、みなさんが聞きたいことにちゃんと答えられません――でも、みなさんを怪物さんから守る魔法少女だってことは自信を持って答えられます!これで納得してくれませんか……?」


 しばらく沈黙の後、記者の方々は何故かニヤニヤし始めた。でもこの笑い方は見たことあるぞ、まるでオタク仲間たちが自分の嫁を見ている時と同じ顔だ。


「じゃ、じゃあ最後に一つだけいいですか?」

「あっ、はい!でも、私に答えられるかな?」

「大丈夫ですよ、難しい質問では有りませんので」


 そう言って、質問してきた眼鏡の記者は優しく微笑んだ。よし、これに答えたら速攻で帰ろう。俺は飛び立つ準備をしてその質問を待ち受けた。


「戦闘中スカートが捲れる場面がありましたが、中は生パンですか?見せパンですか?」

「――あーもう!見せパンですぅ!」


 俺は顔を真っ赤にして遠くへ飛び去った。

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