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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第三章 人妻若菜さんとの秘密
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第三章14 『人との距離は難しい』

「ひ、久しぶりに変身したと思ったらこれかよ……」

『いやー、ほんと君は当たりを引くよね』

「引きたくて引いてるわけじゃないから!」


 俺は高層ビルにへばりついているデカイ芋虫を見下ろしながら嘆いた。

 芋虫は口から白い糸を吐き散らしながら横に揺れている。ぶっちゃけただそれだけで、これと言って被害はない。いや、一応糸に絡まった車が立ち往生してるけど。

 だがそれは不可抗力で、本来の目的は……


「いやーん、何この白いのー!」

「ちょっとネバネバしてるしー!」


 マーチ曰く、女性が白いネバネバしたのを掛けられ嫌がってるところを見たい、だそうだ。


「ホントロクでもないなバクは!」

『そういえばクレアちゃんは?』

「先輩は小テストがあるらしいことを言ってたから置いてきた。こんなバクで成績が下がるのはアレだし」

『そっか、じゃあいつも通りよろしくね!』

「はいはい」


 俺は軽く息を吐いてから、バクに少し近づいて杖を構えた。


「そこまでです、芋虫さん!これ以上迷惑を掛けようものなら、夕焼けの魔法少女である私が許しま――」


 芋虫は俺の存在に気づくや否や、白い糸を俺に吹き掛けた。実際に食らってみてわかったけど、糸はスライムに似た感触で、変な臭いがする……


『君って時々迂闊だよね、そんなところが人気の理由でもあるんだけど』

「わ、悪かったね迂闊で!こうなったら、新しい魔法の実験台になってもらいます!」


 全身を振って軽く糸を落としてから、バクに狙いを定めながら魔法陣を展開する。


「アクション・シンクロン!」


 オレンジ色の輪が射出され、俺と芋虫を囲い込む。アクション・シンクロンは行動を合わせる魔法。同調の対象は――俺の行動。

 融合魔法が融合元と融合素材を選べるように、同調魔法も同調する対象を選ぶことができる。

 そして、対象を俺の行動にしたことで、バクの行動は強制的に俺の動きと合わされる。


「むぐぐ、むぐむぐむぐむぐむぐ《どうだ、これで糸は出せない》」

『何言ってるかわからないよ。というかそれじゃあまともに魔法も使えないよ』

「えーい!こうなったらいつも通りゴリ押しだ!」

『新魔法お披露目短くないかい!?』


 同調魔法を解除した俺は勢いよく降下した。

 糸が出せると気づいたイモムシバクは、体をほぼ一八〇度反らして、糸の塊を乱射し始めた。俺は後ろから迫る糸を見ずに回避していく、俺も大分飛行技術が上がったものだ。まあノールックで避けられるのはアフターグローがナビゲーションしてくれるおかげなんだけど。

 白く染まった道路に降り立った俺は、街路樹に向かって杖を向けた。


「グローブヤーン・フュージョニウム!」


 二本の木とバクが吐き散らした糸が光を放ちながら混ざり合い、大きなスリングショットに変化した。


「ごめんなさい、あとでマーチが直しますのでっ!」


 俺は近くにあったバイクを持ち上げてスリングショットまで運んだ。普通ならできないことも、アブソーバードレスのおかげで可能となる。


「ごめんなさい!ちょっと通りまーす!」


 糸に隠れながら観戦していた人たちを掻き分けながら、バイクを引っ掛けた糸を最大限まで伸ばす。そして、バクの胴体に狙いを定めて……


射出シュート!」


 手から解き放たれたバイクは勢いよく発射された。

 バイクは一発の弾丸となり、バクの体に命中する。その瞬間、弾丸は爆発四散。イモムシバクは張り付いていたビルから落下し、道路に叩きつけられた。


「さぁ、これでトドメ!トリプルマター・フュージョニウム!」


 糸に絡めとられた車を三台選択し、一つにする。


「モンスターマシーン・トワイライト号!」


 完成したのは全長一〇メートル以上にも及ぶカラフルな色合いの自動車。

 俺は杖で巨大自動車の尻を軽く叩く、それだけで車は、まるで鞭を入れられた馬のように力強く発進した。それを目撃したイモムシバクは、慌てて車を止めようと糸を吐く。だが時速一六〇キロで走る自動車に当たるわけもなく、巨大暴走車はバクの顔に激突。バイクの時以上の爆発を見せた。


「ふぅ……これで完了!」

『ねぇ夕斗?色々大暴れしてくれたみたいだけど、あれ直すの僕なんだからね?』

「いいでしょ別に、マーチたちはそれでお金貰ってるんだから。むしろよく貢献してくれたと褒めてほしいくらいだよ」

『ユウカちゃんの口調でそういうこと言うのよくないと思うな!』

「はいはい、とにかくもう授業終わるから、私は学校に戻るね」


 マーチとの通信を切り、観戦していた人たちに手を振りながらその場を後にした。

 学校に着いたのは昼休みが始まるチャイムが鳴る直前、屋上で変身を解いた俺は少し急いで一年生の教室がある四階まで降りた。先生には保健室に行くって言って出て行ったからな、屋上から降りてくるところを見られるのは少しマズイ。

 幸い誰にも見られることなく四階に到着し、授業を終えて廊下に出てきた生徒たちに紛れながら悠々と教室に向かった。ここまで来ればもう安心だ。


「安西……」

「え?」


 余裕を持っていたところに名前を呼ばれた所為か、少し驚きながら振り返った。そこには真田先生が、いつもの険しい顔で俺を見ていた。


「な、なんですか?真田先生」

「授業中教室から見えたのだが、クラスとは反対の方から来たな?」

「あ、ああ!えーと、実はお腹が痛くて保健室に行ってまして……」


 俺は事前に考えていた理由を真田先生に告げた。それを聞いた先生はさらに険しい顔になった、やっぱりこの人怖い……


「最近よく保健室に行くと他の教員から聞くが……生活習慣が崩れているのではないか?」

「は、はぁ、すみません」

「アニメやらゲームやらで体調を崩すなら、少し控えた方がいいかもしれないな」

「いやえと、それとは関係ないんで……」


 なんで市民を救ってきた帰りに説教されてんだろう俺。


「とにかく、あまり授業中に席を立つようなことはするな。いいな?」

「はい……」


 如何にも反省してます感を出しながら返事をする、真田先生は本当に反省していると思ったようで、何も言わずに俺から背を向けた。ここまで演技がうまくなるとは自分でも思わなかった。

 だが――


「そういえば……」

「はい?」

「昨日ウチに来たそうだな」

「ッ!?」


 突然のことに俺は思わずたじろいだ。なんで俺が家に上がったことバレたんだ!?いや、言いそうな人が二人もいるんだ。そりゃ知ってるわな!


「え、ええ、まあ……ちなみに誰から聞きましたか?」

「……娘が相談があって連れてきたと、妻が言っていた」


 若菜さんか……まあ間違っちゃいないけどなんで言ったし。


「そ、そうですか……上がっちゃまずかったですか?」

「……いや、そういうわけではないが。教師の家に生徒が上がり込むのは公務員としてあまりいいことではない。それも、私の知らないところでだ。娘の相談に乗ってくれたことに関しては礼を言いたいが、今後は控えてほしい」

「は、はい、わかりました……」


 真田先生は踵を返して歩き始めた、俺は荒ぶる心臓の鼓動を抑えながらそれを見送る。これはもう、若菜さんの家には行けない。次行ったのバレたらどうなることやら……


「真田先生、お疲れ様です」

「石塚先生……お疲れ様です」

「どうですかクラスの方は?」

「真面目な生徒が少ない、と言ったところでしょうか」

「はっはっはっ、それはとても元気なクラスですね」

「元気すぎる気もしますが……石塚先生は大丈夫ですか?以前腰を痛めたそうですが」

「いやーそれがなんとも……それで休めませんからねぇ。明日も仕事がありますので」

「何かありましたら言ってください、手伝いはできると思いますので」

「ありがとうございます……」


 真田先生って他の教師の前だと割と普通な気がする。まあ、俺は生徒の上オタクだから、口調が普通より厳しいのは当然だけど……


「何してるの?」

「ん?あー、真田先生って優しいところもあるんだなって。真面目なのは変わりないけど」

「それって、安西君があんまり真面目じゃないからじゃないかな?」

「そうか?――って!?」


 平然と会話していたことにも驚いたが、その正体を知ってさらに驚いた。

 愛華ちゃんがいつの間にか俺の隣に立っているではないか!わぁ~、結構距離近い!嬉しいけど緊張してきた!


「た、たた立花さん!?いつの間に、ていうかなんでここに!?」

「ちょっと四組にいる友達に用事があって、そしたら安西君が真田先生のことを見てたから」

「そ、そうなんだ……」

「あっ、そうだ!安西君に聞きたいことがあったんだ!」

「お、俺に?」


 な、なんだろう……五時間目の授業が何かとか?いやそんな質問俺じゃなくてもいいよな。でもなんだろう?全く思いつかない。


「うん!ちょっと……」


 そう言って愛華ちゃんはチョイチョイと俺を手招きした。そんな仕草にも可愛いなと思いながら、緊張気味に顔を近づけた。


「安西君と風紀委員長さんって、付き合ってるの?」

「はい!?」


 思いもよらない質問に、俺は猫のように素早く身を引いた。


「な、なななんで、そんな……」

「だって、学校で風紀委員長さんと一緒にいるところよく見かけるし、この間もウチの教室までわざわざ安西君のこと探しに来てたし」

「べ、別に先輩と付き合ってるわけじゃないからね?先輩とはただの友達だし、あの時だって、俺が「用があります」って言ったら来てくれただけだから!」

「そうなんだー、ちょっとびっくりしちゃったよー」

「あ、あはは……」


 どうしよう、これからは片桐先輩とも距離を置かなきゃいけないかもしれない。


「でも、何かあったらいつでも相談に乗るからね!ユウカちゃんとも会わせてくれたお礼もしてなかったし!」

「そ、そっか、じゃあその時が来たら……」

「絶対だよ?」


 そう言って愛華ちゃんは一年四組の教室へ去っていった。相談に乗ってくれるのはありがたいんだけど、あなたのことが好きなのですがどうすればいいでしょうか?なんて言えるわけないし……


「はぁ……」

『あーあー、ユウカちゃんの中の人ー、聞こえてるかー?俺だ、ルーチェだ』


 頭の中に突然声が響いてきた、俺は不自然にならないように足を教室に向かわせながら、意識を会話に向けた。


『中の人って言うな、なんだ突然?』

『何やら若菜がお前に話があるらしいから、今日学校が終わったら来てくれ』

『えっ』

『よろしくー』

『はっ!?おい待てルーチェ!今若菜さんの家に行くのは……おい聞こえてんのか!おーい!』


 一方的に掛かってきたと思ったら一方的に切られた。あの浮気鳥、向こう言ったら炭火焼きにしてやる!でもどうする?ついさっき家主に控えるように言われた矢先にこれとか……


「行くしかないか……」


 俺は半ば諦めながら、何も起こらないことを祈った。

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