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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第三章 人妻若菜さんとの秘密
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第三章8『漆黒なる種子と世界を構築せし元素の集合体』

「はぁ……今朝は酷い目にあった……」


 一時間目が終わり、精神的に疲弊しまった俺は、食堂前の自販機でココアを飲んでいた。

 あの後風紀委員の人たちからこってり叱られて、片桐先輩からは「今日の放課後覚えてなさい!」という誤解を招くようなことを言われてさらに問いただされた。もうやだ風紀委員会。


「とはいえ、あれは完全に俺が悪いし、後で謝っとかないと――」

「あ……」


 ふと声が聞こえてそちらに振り向くと、紫色のボサボサとしたロングヘアにガーゼの眼帯を左眼に付けた女子生徒上白川怜奈が、自販機のボタンを押しながらこっちを見ていた。


「あっ、おま――」

「ああああああああああああああ!!」

「のわっ!なななななんだよ!!」


 突然大声で叫び出し、俺は思わず驚きながら身じろぎした。

 上白川は少し震えながらゆっくりと自販機の取り出し口に手を入れて、飲み物を取り出した。その手にはブラックコーヒーと描かれた缶が掴まれていた。


「あーなるほど……間違えて買っちゃったわけか」

「ッ!………フフッ、フフフッ!ハーハハハッ!!」


 今度は周りの目を気にすることなく高らかに笑い始めた。おいやめろ、食堂辺りにいる人たちがすげぇこっち見てるぞ。


「間違えて買った……?否、これは運命の因果律を逆手に取り、私の肉体に新たな力を付与することができるマテリアルを獲得したのだ」

「ほう、新たな力ね」

「本来ならば代行者である私とは相容れぬ力だが、これによって私は“対極せし白黒(モノクローム)”となり、奴らに殲滅することができる……」


 そう言って上白川は、プルトップを傾け缶コーヒーを開けた。中からはコーヒーの香ばしい匂いが外へ解放され始めている。だが上白川はぷるぷると震えて動かなかった。


「……おーい、大丈夫かー?」

「だ、黙れ人間!今はその――我が力の根元にアクセスを試みているのだ!」

「あっそう……」


 一分、二分と、時間が経っていくが、上白川は一向に飲もうとはしなかった。

 まあ、大体予想通りではあったけど。


「……お前苦手なんだろ、コーヒー」

「ッ!!?そ、そそそそそのようなことがこの代行者である私にあああああるわけっ!」

「はぁ……それ、俺が飲んでやるから、別のやつ買えよ」

「……それは無理だ」

「なんでだよ?」

「……お金がない」

「えっ」

「黒魔術の儀式に使う道具を色々揃えていたら、その……」

「お前……」


 気持ちはわからなくもない、俺も買いたいものを衝動買いして親に怒られた経験があるからな。

 でも一つ言わせてもらうと――


「とりあえず自分のキャラ設定くらい守れよ」

「なっ……!」

「お前悪魔やら魔物やら戦う代行者だろ?そいつが黒魔術とか……白魔術とかならまだわかるけど」

「こ、これには色々と理由があって」

「理由?」


 コクリと頷いた上白川は、携帯を取り出しロックを解除する。そしてそれを、俺に向かって押し付けるように見せつけた。

 画面にはいつどこで撮られたのか、カッコ良くポーズを決めるクレアの姿があった。


「これってクレアだよな?……あれ、そういえばお前、クレアとは相容れないみたいなこと言ってなかったっけ?」

「そう、なんだけど……この前音ノ葉駅の前で実際に見かけた時に、その……か、カッコイイなぁって、思って……」

「それでダークサイドに堕ちたと?」

「だ、だが私は選ばれし者の代行者!完璧に悪へ身を堕としたわけではない!今の私はそう――“両翼の英霊ハイブリッド・クルセイダー”!」


 不敵に笑う上白川を見ながら、自分の魅力に堕ちた人がいると知って、同じく不敵で嬉しそうに笑うクレアの姿を思い浮かべた。

 良かったですね先輩、また一人眷属っぽいのが増えましたよ。


「まあなんであれ、とりあえず金がないからこれ以上飲み物が買えないってことだよな?」

「うっ……そ、そういうことだ」


 ガクリと肩を落とす上白川を一瞥してから、俺は丁度飲み切ったココアを自販機の隣にあるゴミ箱に捨てて、ポケットから財布を取り出した。いつも通り金を取り出して自販機からココアを選んで購入する。


「あっ、しまった」

「ど、どうした?」

「ココアじゃないの買おうと思ってたのに、いつもの癖でココアを買ってしまった」


 そう言いながら取り出して口からココアを受け取り、それを上白川に差し出した。


「悪いんだけど、その缶コーヒーと交換してくれねぇか?」

「え?」

「あっ、もしかしてココアも苦手?」

「う、ううん、苦手じゃないけど……」

「じゃあ交換ってことで」


 俺はココアを上白川に渡し、コーヒーを受け取った。


「あ、ありがとう」

「俺もコーヒーが欲しかったし、気にしなくていいよ」


 そう言いながら俺はコーヒーを一口――


「苦っ!これ超苦いんだけど!」

「ふっ……ふふっ……」

「わ、笑うなよ、恥ずかしい」

「ご、ごめんなさい……ふふっ」


 上白川は謝りながらも、小さく笑い続けた。

 あーあ、ギャルゲーの主人公がやってたことを真似してみたけど……やっぱり俺には似合わないな。


「あっ、そうだ。なぁ上白川」

「何?……あっ、なんだ?」

「思い出したみたいにキャラ作るなよ……お前クレアのファンってことでいいんだよな?」

「ま、まあファンといえばファンだが、あの煉獄の魔王と私は敵対する関係……馴れ合いは禁物……」

「あー今そういうのいいから」

「なっ、貴様!そういうのとはどういう――」

「もし良かったらサインとか貰ってこようか?」


 俺の言葉に上白川はピタリと止まり、驚いた顔で俺を見た。


「……貰えるの?」

「ちょっとそういうことができるルートがあるっていうか……もし上白川が欲しかったら――」

「欲しい!絶対欲しい!」


 目を輝かせながら食い入るように答えた。こいつ、今結構顔が近いことに気づいてないのか?


「わ、わかった、貰ってくる」

「あぁ、まさかクレアのサインが貰えるなんて……やはり持つべきものは友、だな!」

「それは良かったな」


 心の底から嬉しいのか、上白川はその場で飛び跳ねている。こういうところは普通の女の子なんだけどなぁ……

 すると、キーンコーンカーンコーンと校内にチャイムが鳴り響いてきた……って!


「やばっ、もう授業始まるじゃねぇか!」

「それじゃあ安西氏、サインの方はよろしく!」

「あっ、上白川テメェ!紙パックだからって俺を置いてくな!くそっ、これなら変に優しさ見せなきゃ良かった!」


 結局、コーヒーを飲み干すのに時間が掛かり、二時間目の授業は遅刻した。

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