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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第三章 人妻若菜さんとの秘密
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第三章5 『あっ…(察し)がリアルに起きた』

「片桐先輩って料理とかするんですか?」

「ええ、お弁当も自分で作ってるわよ」

「マジですか、やっぱり女子ってみんな料理できるもんなんですかね」

「それは……どうかしらね」

「あっ、そういえば先輩ぼっちでしたねすみません」

「だから、あれはペルソナと話してるのを隠すための嘘だって何回も言ってるでしょ!」


 若菜さんが魔法少女だと知った次の日。

 俺は片桐先輩と屋上で昼食をとっていた。先輩曰く、シュナイダーがいた場所は意外と誰も立ち入らない穴場らしく、風紀委員会の仕事がない時はペルソナと話しながらここで弁当を食べているそうだ。


「ほんとですか?あれを演技だとは到底思えないんですけど」

「それは……確かに真面目過ぎてあんまり人が寄り付いてこないけど、友達はちゃんといるんだから!」

「そ、そんなに必死にならなくても……わかってますって、今のはちょっとした冗談ですから」

「全く……」


 片桐先輩は少し膨れながらご飯を食べ進める。最初は超真面目で堅物な石のような人だと思ってたのに、人って付き合ってみないとわからないことが多いんだな。


「あっ、そうだ。先輩に言いたいことがあるんですけど」

「何?」

「公式サイトのプロフィール、あれなんとかしてください。わかりにくいっス」

「なっ……!あれはクレデリアスだからいいのよ!それに、あれでも大分わかりやすい方よ!」

「どこがですか!カフェオレくらいしかわかりませんでしたよ!」


 何故か納得いかない表情をする片桐先輩は、スマフォを取り出して公式サイトを開いて俺に見せつける。


「カフェオレはわかったのよね?じゃあ他のもわかるはずよ!」

「いや、だからわからないっスよ。なんですか大地を模した甘美なる誘惑って……」

「チョコレートよ」

「…………は?」

「だからチョコレートのことよ」


 一瞬真っ白になった俺の頭は、先輩の言葉を一言一句書き記してから改めて朗読した。


「……ッ!?いやいやいや、どこら辺がチョコレートっスか!?」

「ほら、板チョコって地面に似てるでしょ?それに我慢しようとしてもつい手が出ちゃうほど甘くて美味しい」

「えー?いや……えー?」


 言いたいことはわからなくもないけど素直に首を縦に振れない。振ったら負けな気がする。


「じ、じゃあ名状しがたき真紅の劇物は?」

「これは唐辛子よ」

「唐辛子!?」

「ほんとは辛いもの全般ダメなんだけど、特にダメなのよね」


 唐辛子の形は先輩にとっては名状し難いのか……中二病のことは大体わかってきたと思っていたけど、どうやら俺はまだまだだったようだ。


「ちなみにクレアの好きな食べ物や嫌いな食べ物は、イコールで先輩も同じってことでいいんスよね?」

「ええ、そうよ」

「ふーん……」


 俺は目線をスマートフォンから先輩の膝近くまで降ろした。赤い弁当箱の隣には、自販機で売っているカフェオレの紙パックがちょこんと置いてあった。


「何かしら?」

「いや、やっぱり先輩も女子なんだなーって」

くれないつるぎを我が手に……」

「わぁああああ!ごめんなさいすみませんなんでもありません!」


 機嫌を損ねた片桐先輩は俺からそっぽを向いてスマートフォンを弄り始めた。流石にやり過ぎたか、でもクレアだってことがわかった所為なのか、先輩の素を知ったからか、年上であることを忘れて弄りたくなってしまう。


「そういえば安西くんのプロフィールって見たことないわね」

「あっ、ちなみに写真は触らないでくださいね。まだ変更されてないんで」

「?……わかったわ」


 頭に疑問符を浮かべながら俺のプロフィールを探す先輩を横目に、俺は弁当を食べ進める。このまま喋ってると昼休みが終わりそうだからな。

 片桐先輩は画面に指を滑らせながら見つめていたが、突然動きが止まり険しい表情に変わった。かと思いきや今度は自分の身体とスマートフォンを比べるように何度も見た。そして、ゆっくり俺の方をへと顔を向け始めた。何かあったのだろうか?


「どうしたんスか?」

「いえ、別に……」


 スマートフォンにはユウカの身長やスリーサイズなんかが記載されているページが開かれている。それで自分の身体を見比べるなんて、一体何を――


「…………………」


 ああ、察するってこういうことを言うんだな。


「だ――大丈夫ですよ先輩、俺は男なんでその……ノーカンですよ」

「変に慰めるのやめてくれない?」

「すみません」


 片桐先輩でも胸の大きさとか気にするんだな、これもギャップがあって可愛らしいというか。

 いや、それよりもマズイな、このままでは気まずい雰囲気になってしまう。ここは話題を変えなくては……


「そ、そういえば片桐先輩って何個も魔法使えますけど、どれくらい使えるんですか?」


 俺は苦し紛れに片桐先輩へ尋ねてみた。

 すると先輩は表情を変えて少し考え始めた。


「そうね……分類するとすれば三種類かしら?人工属性魔法と剣撃魔法、それと魔眼魔法ね」

「少し疑問に思ったんですけど、人工属性魔法って名前からして普通の属性魔法っていうのもあるんスか?」

「ええ、でも属性魔法は使える人が限られるそうよ」

「そうなんスか?」

「生物はみんな大なり小なり魔力を持っているそうだけど、世界には生まれ持って魔力に属性がある生物がいて、その属性を持った魔力がないと属性魔法は使えないのよ。でも人工属性魔法なら、魔力に属性がなくても属性魔法を使うことができるのよ」

「へぇー」


 魔法については一切知識がないから、こういう話はとても新鮮だ。ていうか……


「なんで先輩そんな魔法について知ってるんですか?」

「なんでって……もしかして魔法全書読んでないの?」

「え、なんですかそれ?先輩の新しい魔導書ですか?」

「違うわよ!ペルソナから魔法について知っておくよう渡されたのよ、安西くんもサポーターから貰ってるはずよ!」


 あ、あの駄犬……簡易型透過機の時もそうだけど、ちゃんとやることやってからキャバクラやらなんやら行けっつうの!帰ったらまだ渡してないもの全部叩き出させてやる!


「もしかして貰ってないの?」

「はい、まぁそれについてはどうとでもなるのでいいんですけど」

「そ、そう……あっ、そうだ。ねぇ安西くん、今日の放課後って空いてるかしら?」

「何かあるんですか?」

「ほら、コンビを組んでからまだ一度も合わせて練習とかしたことなかったから。今日やってみようと思ってるんだけど、どうかしら?」


 俺は“今日の放課後”という単語を耳にした瞬間、若菜さんの顔が出てきた。そういえば今日の放課後、若菜さんと会う約束してたんだったな……


「えーと……すみません、今日は先約があるんで……明日とかダメっスか?」

「そうね、風紀委員会の仕事もあるけど……ええ、問題ないわね。それじゃあ明日の放課後、校門の前で待っててくれる?」

「了解です!それにしても、練習をするってなんの練習ですか?」

「もちろん魔法の練習よ」

「え?」

「え?」


 俺と先輩は互いに驚きあっているが、もちろん意味は真逆である。


「練習するんですか魔法って……」

「逆に練習してなかったの!?」

「ええまあ……大体いつもぶっつけ本番の行き当たりばったりですけど……」


 まるで雷に打たれたかのような、そんな衝撃を受けた顔をした状態で、片桐先輩は地面に両手をついた。


「私、何度も何度も練習してるのに……してるのに……」

「えーと、なんかすみません……」

「謝らないで、惨めになってくるわ……」


 ああ、また微妙な雰囲気に!また話題を晒さなければ……


「そ、そうだそうだ!ところで先輩、魔法で思い出したんですけど、なんでクレアは魔法陣じゃなくて詠唱で魔法使うんですか?ぶっちゃけ、呪文を唱えるより魔法陣を展開する方が楽な気が――」

「違うのよ!!」


 さっきまでガッツリ落ち込んでいたはずの片桐先輩は、食い気味になって否定した。突然のことに俺は驚きながら、前のめりになって顔を近づけてきたことに違う意味でドキッとしていた。


「うわびっくりした……どうしたんスすか急に」

「確かに陣形型魔法式の方が魔法を使うのには効率がいいわ、それにすごくカッコイイ!私も最初は魔法陣を使おうと考えてたわ……それでも私は詠唱型魔法式を選んだ、何故なら――詠唱をして魔法を使った方がカッコイイからよ!例え不効率だろうと隙があろうと不発があろうと、私は死んでも詠唱を辞めない!それに想像してみて?天を彩りし月夜の下で、闇に混ざって呪文を唱える……宗教的な不気味さを孕んでいながら、何故か心を惹かれてしまう……はぁ、素敵よね」


 や、ヤベェ……何言ってるかわからねぇ。ここまでうっとりしてる先輩も初めてみたけど、中二病全開の先輩もなんだかんだ初めてみたぞ。まさかここまでとは……恐るべし、中二病。


「そ……うですか……」

「今ちょっと引いたわね?」

「いやいやいやいや!全然そんなことありませんよ!」

「ふっふっふっ……どうやらクレデリアスと関わっていくうちに中二病も慣れた、なんて思ってるそうだけど――甘いわね、中二病って言っても色々と種類があるのよ。貴方が見ている部分はその一つに過ぎない……そして気をつけなさい?貴方が中二病わたしたちを観察して対策しているように、私たちも健常者あなたのことを観察しているのだから……」


 これはマズイ、先輩は今、クレアよりもタチの悪い中二病患者になりかけている!普段は真面目で厳しい風紀委員長だから表には出せない。その分の反動が、事情諸々を理解してる俺の前で解放されようとしている!

 ていうか先輩、俺のことも中二病にしようと企ててませんか!?

 なんとか先輩を正気に戻さなくては……


「そうだ!」


 俺はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、冷静に且つ迅速にカメラを起動させて、片桐先輩を連写する。


「ッ!?ちょっと、今写真撮ったでしょ!!」

「あっ、元に戻った……おースゲェ、見てくださいよ先輩。カッコよくポーズ決めてるところからカメラに気づいて元に戻るまでの一連が事細かに収められていますよ!」

「説明しなくていいわよ!早くそれ消しなさい!風紀委員の権限で連行するわよ!」

「自業自得なのに職権乱用とは……この風紀委員長早くなんとかしないと」

「――ッ!!もう!絶対連行してやるんだからぁああああ!!」


 穏やかな青空の下で、ホイッスルが虚しく鳴り響く。写真は先輩に消されたが、実は連写の最後の一枚が別の場所に保存されていることを、先輩は知らない。

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