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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第二章 魔法少女VS煉獄の魔王
38/75

第二章14『怪しい人物たち』

「なぁ安西」

「なんだよ」

「ちょっと機嫌悪い?」

「……なんで?」

「いや、なんとなく……」


 台風を止めて学校の休校を防いだその日のお昼休み、俺は弁当を食い終わってからミルクココアをガブ飲みしていた。そして馬場の言う通り、今ちょっと機嫌が悪い。理由はもちろんクレアだ。アイツの行動がどうにも気に食わなかった。


「ほ、ほら夕斗!今日の朝、テレビでクレアちゃんが――」


“クレア”という単語を耳にした俺は、猫のような速さで馬場の方を向いた。そんな俺の顔を見た馬場は、何やらビクビクし始めた。


「な、なんだよ!俺が何かしたかよ!」

「いや、別に……」

「あーそう……でも驚きだよな。最近よく起きる台風がバクノイドとかいう怪人の所為だってのもだけど、まさかその怪人を意図的に逃すだなんてな」


 スマートフォンには今朝のインタビューが流れていて、その中のクレアはいつも以上に中二病を全開にしていた。


『バクノイドを逃したように思えますが、あれは一体なんだったんでしょうか?』

『くっくっくっ、これら全て天より授かりし預言書に記されしこと……謂わば運命がそうさせたのだ』

『そ、そうですか……』

『だが案ずることはないぞ人間たちよ。奴の運命は既に決まっている……この私、クレデリアス・リベリオン・ヴェルメリオ・パーガトリー13世の手によって滅ぼされるとな!』

『いやーまさかの展開でしたが、如何ですか源内さん?』

『ええ、ユウカちゃんにも負けず劣らず可愛らしいですな。何か欲しい物はないのかな?おじさんがなんでも買ってあげるのに……』

『批評をお願いします』

『バクノイドを逃したことはとても危険な行為ではありますな』

『台風を引き起こすことができるということですので、確かにそうですね』

『でも可愛いから許します!』

『以上今朝のニュースでした』


 どうやら腹立たしいことにクレアの思惑通り、世間はクレアに注目が移り始めていた。ていうかあのおっさんは小さい女の子だったらなんでもいいのか。


「やっぱり可愛い女の子の中二病は可愛い気があるな安西」

「あん?」

「え、今何か怒る要素ありました!?」

「あぁ〜、コンビニで買ったエ“クレア”うまぁ〜」

「ふん!」

「え、何?エクレア食べたいの?」

「いや、別に……」

「なんなんだよさっきから!怖ぇよ!」


 はぁ、イカンイカン、クレアって単語に思わず反応してしまう。辞めだ辞めだ、折角台風を止められたんだし、今はクレアの正体を探らないと……でも、誰だ?一番可能性が高いのは上白川だ。同じ中二病だし、眼帯も付けてる。何よりあのノートを見つけた場所から一番近くにいた、ずっと前からあそこにあったのかもしれないけど、十分結びつけられる。あと他に怪しいのは――


「おっ、やっと帰ってきたのか渡邊」

「お前多いし長ぇよトイレ」

「いや〜、ほんとに便秘みたいでさぁ」


 渡邊……そういえばアイツはよくトイレに行くようになったな。しかも随分と長い。もし、この間にノートを探していたとしたら……考え過ぎか?いや、もし俺が見つけるより前からノートがずっとあそこにあったとしたら、俺の考えは合っているかもしれない。

 あと怪しいといえば――


「安西君!」


 不意に声を掛けられ、驚きながらも振り向いた。

 オタク共の壁の向こうに愛華ちゃんが立っていた。ああ、いつも見ても可愛い……荒んだ心が癒されていくよ。


「な、何?立花さん」

「今日は澪ちゃんたちと食べるから、あれはまた来週でいいかな?」

「え、あっうん!わかった!」

「ごめんね、ありがとう!」


 申し訳なさそうに笑う愛華ちゃんに、気にしなくていいよーという意味を込めて手を振る。壁の内側から溢れる殺気に気づいているのは俺だけだろう。


「あーいか!何してるのこんなところで」

「わっ、澪ちゃん!」


 ツインテールを揺らして現れた篠崎さんは、愛華ちゃんを後ろから抱きついた。俺もあんなことができたらなーなんて思っていたら、顔に出ていたのか、それとも察したのか、篠崎さんは俺に向けて、挑発するように舌を出した。この女……ミンチにしてやりたい!


「ほらほら、こんな養豚場なんかにいないで、早く屋上行こ?みんな待ってるし」

「う、うん。じゃあね安西君」

「ご、ごゆっくりー」

「………養豚場か。否定はできないな」

「だな」


 そういえば、愛華ちゃんからユウカに会わせてほしいって言われた日、篠崎さんも屋上に来てたけど、何しに来たんだ?ドアもそっと開けてたし、まるで誰かに見つからないように……まさか、ノートを探しに屋上へ?篠崎さんは愛華ちゃんや他の友達と屋上でご飯を食べる時があるけど、その時に無くした思って探しに来たとか……

 うーん、そう思うと色んな人が怪しく見えてくるな。何気ない行動も、何か理由があるんじゃないかと思えてしまう……


「……やっぱりリアルなんてロクなもんじゃない!二次元こそが至高なのだ!」

「まあまあ落ち着きなって北野、あれがもしアニメキャラならご褒美だよ?」

「そんなこと当たり前だ!でもやはり、三次元の女はロクな奴がいないんだ!この前なんて、放課後暇だからちょっと屋上に行こうとしたら、風紀委員長にこっぴどく叱られたんだぞ?俺まだ何もしてないのに!」

「何かする気ではあったんだな。でも理不尽だな、屋上に行こうとしただけなのに」


 確かに斎藤の言う通りだ、屋上なんてよく利用する人も多いし、柵を越えようとしたならまだしも、まだ何もしてないのに怒る必要はないはず……どうしよう、風紀委員長も怪しく思えてきた。あーもう、怪しい行動してる人多すぎだろ!


「……なぁ北野、どこの屋上に行こうとして怒られたんだ?」

「えーと……確か北側の屋上だったな」


 北側の屋上。確か篠崎さんが来たのも北側だったな……こうなったら、確かめてみるか。きっとこの中にクレアがいる――いや、いることを願おう。

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