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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第二章 魔法少女VS煉獄の魔王
35/75

第二章11『禁忌の魔導書』

 カンガルーバクとの戦いを終えた頃には昼休みに入っていた。絶対インタビューが異様に長くなってしまった所為だな。今日はそれなりに動いたし、早く弁当を食べてエネルギーを補給したい。

 空腹を感じながら教室に入る。いつものオタク仲間たちはもう集まっていた、俺もそちらへ向かおうと歩みを進めようとした時、


「あっ、安西君!」


 横の方から声を掛けられた。

 ふとそっちを向くと、なんと愛華ちゃんが俺の方へ近づいてきているではないか!


「た、立花さん!どうしたの?」

「どうしたのって、安西君授業の途中で保健室に行ったっきり帰ってこなかったから、ちょっと心配してたんだよ?」

「えっ」


 マジで?愛華ちゃんが?俺のことを心配した?な、なんてことだ……まさか愛華ちゃんに身の心配をされる時が来るなんて!さっきまでの戦いの疲れが全部吹っ飛ぶほどの喜びが全身を駆け巡った。それにしても、人の体調を心配してくれるだなんて……愛華マジ天使。


「そそそそっか、ありがとう!でも大丈夫、俺はこの通りピンッピンしてるから!」

「それなら良かった。じゃあ私購買行ってくるね!」

「う、うん、行ってらっしゃい!」


 安心したように笑ってくれた天使は、購買へと去っていった。割とあっさりしてるけど、今は心配してくれた喜びが優ってるからどうでもいいやー。

 愛華ちゃんの後ろ姿を見送って、俺も席に戻ろうと正面を向く。


「おーいあーんざーいくーん」

「どおわぁ!?」


 至近距離で怖い顔をしていた馬場に驚き、後ろに跳ね飛んだ。


「ば、馬場テメェ、驚かすんじゃねぇよ!心臓止まるかと思ったわ!」

「お前の心臓なんか知るか!止まってしまえ!そんなことよりテメェ、今のなんだ!」

「は?今のって?」

「愛華ちゃんだよ愛華ちゃん!何あんな親密そうに話してるの?いつの間にあんな仲良くなったわけ?」


 悲しみと憎悪が入り混じった表情で俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。鬱陶しいことこの上ない。


「もしかしてあれか?例のいつものってやつか?あれでニャンニャンしちゃってるわけか?」

「だからそんなんじゃねぇつってんだろ!」

「じゃあいつヤったんだよ!いつニャンニャンしてたんだよ!ていうか、何回ニャンニャンしたんだよ!」

「うるせぇ!ニャンニャンから離れろ!」


 俺は胸倉を掴む手を振り解き、自分の席に向かった。全くこの馬鹿は、俺がそんなことできないとわかってる癖に。もし愛華ちゃんとそういうことしていたんならもうちょっとこう――け、経験者としての余裕が生まれてるはずだ!愛華ちゃんが心配してくれただけで舞い上がったり、愛華ちゃんとのそういうことを想像して動揺しないくらい!……その余裕溢れる姿は想像できないけど、きっとなってるばすだ!……


「はぁ、なってるかな……?」

「どうした?」

「いや、なんでもない」


 席に着いて鞄から弁当を取り出そうとしたところで、歓声が耳に入ってきた。声の元はオタク仲間たち、動画でも見ているのか一つの机に男たちが群がっている。俺は暑苦しいと思う以前に、なんだかデジャビュを感じた。前にも似たようなことがあったのだ。確かあの時は、俺が初めてユウカとしてインタビューを受けた映像を見ていたような……


「な、なぁ馬場?あいつらは何してるの?」

「ん?あーほら、なんか最近新しい魔法少女たちがテレビにも映るようになってきたじゃん?それで誰が一番可愛いかを動画を見ながら話し合ってるんだって」

「へ、へぇー……」

「あっ、安西!」


 俺に気づいた仲間の一人、飯田淳いいだ あつしが輪から抜けて話しかけてきた。俺たちの中でも一際細い――ていうか骨のような体型なので、会うたびに心配になる。


「もう平気そうだね」

「まあな」

「それでなんだけど、安西は魔法少女ちゃんたちの中なら誰が好き?やっぱりアクアちゃんだよね?」

「え?いやえーと――」


 そもそも俺とクレア以外に魔法少女を知らないのでなんて答えようかと考える暇も与えることなく、飯田を押しのけて北野が俺に詰め寄ってきた。


「いーや違うね、推すなら断然シナモンちゃんだ!あの子はまさに二次元世界から出てきた魔法少女に間違いない!」

「あのだから――」

「馬鹿何言ってんだよ。アヤカちゃん一択だろ」

「黙れチート厨!一番可愛いのはショコラちゃんだ!」

「じゃあハニーちゃんは僕が貰っていきますねっと」


 気づけば俺のことなどそっちのけで、言い合いが始まった。こんなところをご本人たちが見たらさぞ悲しむだろうに……


「お前ら落ち着けって、教室には俺たちしかいないわけじゃないんだから」

「じゃあ安西は誰推しなんだよ?」

「俺?俺は……ユウカちゃん、かな?」

「…………………………………………」


 俺の答えを聞いた北野たちは、言い合いをやめて俺の方をじっと見つめ始めた。えっ、何かマズイことでも言った?


「――はぁー」

「えっ!?なんでため息?」

「わかってない、わかってないよ安西!」

「な、なんだよ、いいじゃねぇか別に!ユウカちゃんだって可愛いだろ!」


 自分で自分のことを可愛いなんて言うことになるとは……でも、ついこの間まではユウカちゃん可愛いだのユウカちゃんマジ天使だの言ってたのに、新しい魔法少女が現れ始めた途端にころっと変わるのは――何故だかすごく腹が立った。


「違う、そうじゃないんだよ!ユウカちゃんが可愛いのはもう心理の域なの!殿堂入りなの!今はユウカちゃんの次に可愛い子は誰かって話をしてるんだよ!」

「え?そ、そうなの?ていうか殿堂入りなの?」

「安西安西、これ見てみ?」


 そう言って馬場が渡してきたスマートフォンを受け取り内容を見る。画面にはいつぞや見たネット掲示板だった。そのスレタイトルが――


「『第一回非公式魔法少女総選挙』?」

「そう、魔法少女たちが現れてから立てられたスレなんだけど。読んでってみ?」


 俺は馬場に言われた通りネット掲示板の内容を読み進めてみた。


 ・とりまユウカちゃんは無しな。勝ち確だから

 ・流石みんなの嫁。さすよめ

 ・ユウカちゃん込みにしたらみんなユウカちゃんに投票するからね

 ・うはwこの子マジかわゆいwwユウカちゃんとかwwもうオワコンだろwwwそう思ってた時期が僕にもありました。

 ・この間のニュースで眼帯の子記者からハブられててクソワロタwwユウカちゃんつよくて可愛い

 ・いつか絶対見せパンずり下ろす


「…………」

「な?だから俺たちも抜きにしてんの」


 俺は眩暈を我慢してその場でなんとか踏み止まった。

 ユウカ以外の魔法少女の参戦により、俺の人気も廃れていくのではないかと俺は考えていたが、まさかここまで大人気とは思いもしなかった。ていうか最後に関しては本気っぽくて寒気がした。なんでそんな人気なの?ちょっと顔とか可愛いだけじゃん、胸も普通より少し大きいだけじゃん、何がそんなにいいんだ!


「な、なるほど……」

「それで?誰が好きなんだ?」

「そ、そうだな……クレア――じゃないや、クレデリアスちゃんとか?」

「おお……」


 クレアの名前を出した途端、北野たちは打ち合わせでもしたように同時に声を漏らした。そんなに意外だろうか。


「なるほど、クレデリアスちゃんか……」

「その発想はなかった……でもなぁ……」

「中二病か、まあ可愛いし悪くわないけどね」

「もしかしてああいう子がタイプ?いや違うか、愛華ちゃんとかけ離れてるし」

「俺が好きなタイプ=立花さんっていうのやめろ。ほんとのことだから……ところでクレデリアスちゃんってネットの評判とかどうなの?」

「ちょっと待ってな、えーと……」


 馬場は自分のスマートフォンを操作して、さっきとは別の掲示板を開いた。そこに書かれていることは色々あったが、簡潔に述べるとしたら――


「中二病、結構好きなんだみんな……」

「美少女がやるから可愛いんだよ」


 身もふたもないことを言う男だ。


「でもあれだよな、魔法少女って意外と弱いのかな?」


 飯田の言葉に、俺以外の全員が首を傾げた。


「ほら、今までユウカちゃんは出てきた敵を物の見事に倒してるけど。ネット見る限りじゃ、他の魔法少女も同じというわけじゃないらしい」

「そういえば、ユウカちゃん以外で敵を倒してたってニュースはあんまり聞かないな」

「それだけユウカちゃんが強いってことだろ?」


 その話を聞きながら、俺は心の中で首を縦に振った。マーチ曰く、俺以外の魔法少女で無傷のバクを倒せるのは数少ない。何故なのかと改めて考えてみると、やはり子供だからなのだろうか?


「強いといえば、あとはアヤカちゃんだよな?な?」

「ほんっと俺TUEEEE系っていうか、チートキャラ好きだよな斎藤さいとうは」

「アヤカちゃん?」

「知らない?さっき見せた非公式魔法少女総選挙で第一位になった魔法少女。無双の魔法少女って通称が付けられるくらい強いだって」

「無双の魔法少女……」


 俺も聞いたことない名前だけど、もしかしたらマーチが言っていた無傷のバクを倒せる数少ない魔法少女なのかもしれない。どこかで会えるだろうか……


「ふう……」

「あっ、渡邊!随分遅かったな?」

「ちょっと便秘気味でさ……」

「ふーん――って安西はどこ行くんだよ?」

「ん?ちょっと飲み物忘れてたから買ってくる」

「お、じゃあ緑茶」

「缶コーヒー」

「コーラ」

「誰も買ってやるなんて言ってないんだけど!?」


 そう言って、俺は席を立って教室から出た。程なくして階段に辿り着き、一階の食堂前までやってきた。このまま自販機まで行く予定だったが、思わぬイベントが発生した。


「クックック……感じる、感じるぞ……」


 どこからか、聞いたことのある声が耳に入ってきた。俺は食堂ではなく職員室前の廊下に顔を出した。そこには何時ぞやの中二病女、上白川怜奈が眼帯の上から目を抑えてフラフラしていた。


「この絵はまさに、悪魔王サタンの封印を示す聖骸布の一部……よもや、このようなところで拝めるとは。だがこれで、我が漆黒の槍も奴に――」


 うわ、何か絵に向かってブツブツ言ってるんですけど。また何かポーズを取りながら浸りきってるんですけど。これも中二病っていうか何かしらの病気なんじゃねぇのか!ていうか職員室前だよ?大丈夫なの?


「あっ、貴女!」

「ッ!」


 すると、上白川は職員室から出てきた女子生徒に声を掛けられた。その人物の顔を見て、思わず渋い顔になった。


「げっ、風紀委員長……」

「クックック、再びそなた邂逅できるとは。これも神の示し運命なのか――愉快なものだな」

「また貴女は……いい加減やめなさい!」

「ふっ、やめるも何も私は私。選ばれし者の代行者――これは神、いや神すらも超えた存在より承りし宿命なのだ、それを拒むことはおろか、『拒む』という概念そのものに侵食されることはない……というわけで、さらばだ!」


 上白川はその弱々しい見た目からは想像もできないくらいの速さで風紀委員長の横を通過した。


「……ハッ!こ、コラ!廊下を走るなー!」


 突然のことで呆気にとられていた片桐先輩は、慌てて追い掛けようとしたが、自分で走るなと言った以上走ることができないことを思い出し、部が悪そうな顔でホイッスルを吹いた。すると、初めから待機していたのか、あらゆる場所から風紀委員が現れ上白川を追い掛けた。その波に中を歩きながら、片桐先輩も去っていった。

 たった数分だというのになんて情報量だ。ていうかツッコミどころが多すぎる。


「前から思ってたけど、ここの生徒って個性的な奴多いよな……」


 今のは学校の風景の一部としてそっとしておこう。

 そう思って食堂の方へ戻ろうとした時、俺はあることに気づき立ち止まった。


「あれ?何か落ちてる……?」


 職員室前に設置されている四本足の長い机、その下に何かが落ちていた。それが何かという、色が真っ黒過ぎてわからないのだ。ただ黒い何かであることは確かである。

 俺は少し気になり、それを拾うことにした。誰かの忘れ物ってこともあるし、なんならここは職員室だ。忘れ物ならばここに預けるのが得策だろう。

 机の前でしゃがみ込み、それを手にしてやっと正体がわかった。机の下に落ちていたのは黒いノート、表紙に何も書かれていない真っ黒なノートだった。


「ノート……名前は書いてないな。もしかして中に――」


 名前を確認するために、申し訳ないが中を開いた。

 そこで俺は固まった。

 書いている内容の不明さに。


「は?何これ……」


 開いたページには絵が描かれており、その下に鉛筆かシャーペンでその絵についての説明がされていた。

 そして、その内容というのが……


 サンクチュアリーヘル・バスタード

 全長五キロにも及ぶ超巨大な剣を地上に向けて突き刺す魔法。この魔法は魔力を大量に使うが、街一つ消滅させられるほどの威力を持つ。


 ダークネス・リベリオンブレイザー

 漆黒の炎を纏い、自らが黒き焔の竜王となる魔法。本物のドラゴンにすら匹敵する力を得る。


 俺はそっとノートを閉じた。

 これは完璧に、他人に見られたらダメなやつだ。知られたら死にたくなるやつだ。まさかそんなものがこの下に落ちているとは。それにしても、誰がこんなもんを書いたんだ?……思い当たるとしたら上白川怜奈か?さっきまで職員室のすぐ側にいたし、もしかしたらその時に落としたのかもしれない。これは本人に直接届けるべきか、それとも職員室に届けるべきか――いや、前者だろうな。そっちの方がまだ見られたのが俺だけで済む。


「そんなわけで、もうちょっと読んでみよう。正直中二病の考えてることはわからないけど、魔法の参考くらいにはなるだろうし」


 俺は最初のページを開いた、そこに書かれていたのは英語で書かれた文章だった。これを書いたやつは英語が得意らしい、しかもご丁寧に和訳までされている。


「えーと、これは幾億年も前に記された禁忌の魔導書“アポカリプス・シエール”。これを読むことで禁忌とされた魔の秘術を得ることができるだろう。だが、それを善として使おうと悪として使おうと、先に待つのは虚無への消滅。存在すらも自覚できない空白の世界である。これを信じることを是とするのであれば表紙を閉じ、眠りにつけ。そしてこの魔導書の存在を忘れるのだ。だがこれを信じることを否とするのであれば、ページを進め、秘術を得るがいい。だがその先の未来を、自らの手で変えてはならない。何故ならば神によって定められた運命率が――って長ぇええええよ!!注意書きだけでどんだけスペース使うんだよ!丸々一ページ使ってるじゃん!!」


 あまりの長さに職員室の前であることも忘れて叫んだ。落ち着け俺、これも中二病の策略だ。

 一息ついてから次のページを捲った、そこには目次があり、どのページにどんな魔法が記されているかわかるようになっている。かなり几帳面だな、字も綺麗だし。


「さて、どれから見てみるか。結構あるみたいだけど……一つずつ読んでくか」


 なんだろう、ちょっと読むの楽しくなってきてる。別に中二病でもないのに――いや、経験してこなかったからこそなのかも。


「えーと、まずはスカーレットブレイド。赤い剣を作り出す魔法か……ん?スカーレットブレイド?」


 あれ、どこかで聞き覚えがあるような……どこだっけ?


「シュバルツブレイズ、黒い煉獄の炎を操る魔法……えっ、煉獄?」


 冷や汗が全身から止めどなく出ていることを自覚しながら、ページを次々と進めていった。


「ブラッドレッドサンダー……シルバートルネード……ヴァイオレットフリーズレイ……ゴールデンスプラッシュ……タイタンアームズ……グロリアス・ノワールフランメ……!!」


 俺は急いで最初のページ、注意書きのようなものが書かれたページを読み進めていく。そして、俺の予感はとうとう確信に変わった。


「――いずれ魔となる者よ。これを知り、秘術を受け取り、私欲のために使いし時が来た時。我は汝の前に現れるであろう。その時汝を僕とするか、供物とするか、それもまた、神のみぞ知ることだろう……著作、クレデリアス・リベリオン・ヴェルメリオ・パーガトリー13世……」


 このノートは間違いなく、あのクレアが書いたものだ。

 そして、それがここにあるということは、あの子も俺と同じ、魔法少女なってしまった子供じゃない誰かだ。

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