第二章9『愛華ちゃんとの1日』
「ふむ……うん……うーん……ねぇマーチ、やっぱり変じゃないかな?変じゃないよな?俺あんまりファッションとか詳しくないからよくわからないんだけど……」
「大丈夫大丈夫、全然問題ない。超可愛いよー、超女の子だよー」
「そうか……むう……いやでも……髪型は……これでいいよな……ねぇマーチ!」
「しつこいよ!朝から鏡の前でくるくるくるくるくるくる!デート前の女子か!いや、あながち間違っちゃないけどさぁ!」
「いやだってよぉ、愛華ちゃんとデートだぜデート!例えユウカの姿だとしてもしっかり決めていきたいじゃん?」
「だとしても気にし過ぎだよ!もう何回「ねぇマーチ」って言ったよ!いい加減マーチがゲシュタルト崩壊しそうなんだけど!」
頭を抱えて悶えるマーチを無視して、俺は再度スタンドミラーで自分の姿を確認する。今日は念願の愛華ちゃんとデートの日!これがウキウキせずにいられるだろうか!あまりにも楽しみすぎて今朝は六時に起きてしまったくらいだ!
だがしかし、マーチの言うことも一理ある。服装を気にするのもいいが、気にし過ぎて遅刻するなんてことは避けなければ。
「よし、それじゃあ行ってくる!」
俺は靴を持って部屋の窓を開けた。一昨日社長へ会いに行く時も、ここから飛び降りて出掛けて行った。まあ、流石に二階とはいえ危ないから魔法でクッションを作ってからだけど。
「あれ、まだ約束の時間じゃないよね?」
「いや、遅刻しないように早めに出ようかなって」
「うん。それは良い心がけだと思うよ?でも時間まで一時間以上あるんだけど」
「一時間なんて待ってればあっという間だろ」
「それだけワクワクしてるってか?どんだけ乙女思考なの君!?本当に男の子!?」
「じゃあ行ってくる!」
まさしく犬のように鳴くマーチを無視して、魔法で近くの草と融合させた道路に着地する。誰も見ていないことを確認し、魔法を解いてから待ち合わせ場所へ向かった。
愛華ちゃんと待ち合わせしているのは音ノ葉駅の入口前。あそこならショッピングモールや飲食店も揃ってるし、遠くへ行くにも丁度いい。愛華ちゃんもそれほど離れたところに住んでいるわけではないらしい。ありがとうユウカ、お前のおかげで愛華ちゃん家のヒントを貰えたよ!
家から歩くこと十数分、俺は音ノ葉駅前に到着した。ここは魔法少女の時によくお世話になった……ろくな思い出がないけど。
「さてと、入口前は――」
待ち合わせ場所へと体を向けたところで、俺は動きを止めた。駅前を多くの人が行き交う中で、壁に背を向けて俺を待っているであろう愛華ちゃんを見つけたからだ。
俺は驚きのあまり、近くにあった街路樹の陰に隠れた。なんでもういるんだ愛華ちゃんは、まだ集合時間から三〇分以上あるのに……いや、俺も人のこと言えないけど。
「ま、まさか……愛華ちゃんも俺と同じ理由?」
あ、有り得ない話ではない!実際、この日をすごい楽しみにしてるみたいだったし、何より――俺のイメージ的に愛華ちゃんはそういう子だと思う!
木の陰から少し顔を覗かせて、愛華ちゃんの様子を観察する。腕時計を見たり、周囲を見渡したりと落ち着きがない、すごいソワソワしている……ヤバイ、めちゃくちゃ嬉しいしめちゃくちゃ可愛い!!愛華ちゃんが俺が来るのを、あんな楽しみに待ってくれているなんて!!あぁ〜、魔法少女で良かった〜!!
「って、いかんいかん!危うく幸せ空間へトリップするところだった。愛華ちゃんをこれ以上待たせるわけにはいかないし……よし!」
両手で頬を叩いて気合を入れる、ニヤニヤした顔じゃあ愛華ちゃんに気持ち悪がられてしまうからな。
俺は気を引き締めて、街路樹から出た、一歩一歩近づくにつれて、今度は緊張が顔を出し始めた。愛華ちゃんと――女の子と二人っきりなんてまったくなかったからだろう、胸が締め付けられるように苦しい。色々とデートコースとかも考えてはみたけど、役に立つかもわからない……ええい!なるようになれ!
「あの!お、お待たせしました!」
「あっ、もしかしてユウ――」
「ああすみません!できれば名前は伏せてください!社長とかに怒られちゃうんで……」
「あ、そっか。じゃあ……あだ名っぽくゆーちゃんでいいかな?」
「は、はい!それでお願いします」
「ふふっ、久しぶり、でいいのかな?」
「はい、お久しぶりです」
愛華ちゃんは嬉しそうに俺に微笑みかける、もうこれだけでご飯三杯はいけるね。ていうか俺、緊張し過ぎて敬語になってる。まあ今は愛華ちゃんの方が年上だし、間違ってるわけじゃないけど……
「別に敬語じゃなくていいよ!助けてくれた時も普通に話してたし」
「あ、えっと……あはは、ごめんね。こんな風に魔法少女のお仕事以外で誰かに会うって初めてだから、なんだか緊張しちゃって」
「そうなんだ、それにしても……」
そう言うと愛華ちゃんは、俺のことをあらゆる角度から観察し始めた。なんだろう、距離が近いってのもあるけど、こうも見つめられると照れるな。
「素顔じゃないんだよね?」
「う、うん」
「どこからどう見ても普通の女の子なのに、なんていうか、流石は魔法?」
「あはは、本当は素顔で会いたいんだけど、そういうわけにもいかないから……」
「わかってるよ!むしろ会えるってだけでも十分嬉しい!」
屈託のない笑顔で答えてくれた愛華ちゃんに、俺も笑顔を返した。中二病魔法少女と戦った昨日の昼休みに、俺はユウカが変装した状態で会うということを伝えた。素顔を晒さず、騒ぎにならないようにするためだと。わがままとか言わない素直な子で助かった。
「そういえば、まだ約束の時間じゃないのに、な、なんでもう待ち合わせ場所にいたの?」
さっきから聞いてみたかった質問を愛華ちゃんに投げかける。こんなこと、小さい子供の姿じゃなければ勇気が出なくて言えない。それに対して、愛華ちゃんはクスリと笑った。
「それはゆーちゃんだって同じだよ?」
「わ、私はその……あ、愛華ちゃんと会うのが楽しみで……」
「それなら私も同じだよ、私もゆーちゃんに会うのが楽しみだったから!」
「そそそうなんだ……えへへ、なんだか嬉しいな」
うおおおおおおおおおおおおい!!マジか、マジでか!ヤバイヤバイヤバイ、嬉し過ぎて飛び跳ねたくなってきたんだけど!でも抑えろ、嬉しいけど抑えろ俺!
「ふふっ、それじゃあ行こっか」
「うん!」
「どこか行きたいところある?」
「あるにはあるけど……愛華ちゃんはどこかある?」
デートで一番大切なこと、それは相手も楽しんでもらうこと!――まあ自論だけど。そんなわけで、一番最初に相手が行きたいところに行く、そう計画しているのだ。
「そうだな……あっ、それじゃあね――」
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「こ、ここって……」
「いやー、ゆーちゃんの服装見てて思ったの。もっと可愛い服を着たらもっと可愛くなるんじゃないかなって」
そんなわけで、ななぽーと音ノ葉内にあるブティックへやってきました。まさかあの愛華ちゃんと服を選ぶことになるなんて、夢なら覚めないでくれ。
「どうしたの?」
「え?あーえっと、あんまり洋服とか買いに行かないから新鮮だなーって」
「そうなんだ、折角だし今日色々買っちゃおうよ!お金なかったら買ってあげるし」
「え!?いや大丈夫だよ!お金も結構持ってきたし!」
愛華ちゃんに奢らせるわけにはいかない、何より女の子の服を男子にプレゼントしたという謎な経歴を愛華ちゃんに付けたくない!
「そんなに必死ならなくてもいいのに。とにかく行こう!」
そう言って愛華ちゃんは俺の手を――手を握ってる!?俺、今愛華ちゃんと手を握ってる!あぁ〜もうこれだけで帰っても全然構わない!
「どれがいいかなー……」
「い、色々あるんだね」
「うん、でもここはちょっと大人過ぎるかなー……よし、じゃあ隣のお店行こっか!」
「う、うん!」
こうして俺は、愛華ちゃんに手を引かれながら、ショッピングモール内のブティックを回った。色々と悩んではいたけど、それすら楽しんでいるようで、デートプランとしては今の所順調だ。
ただ、ちょっと困ったことがあるとすれば――
「わぁ!ゆーちゃんすごい可愛い!」
「そ、そうかな?」
「うん、すごく似合ってる!あっ、あとこれも着てみて!これもゆーちゃんに似合ってると思うんだ〜」
「そっか、じゃあ着てみるね」
ほとんど着せ替え人形状態であるということだ。愛華ちゃんに服を選んでもらえるっていうのはこっちもすごい嬉しいし、楽しんでもらえるならなんでもするけど……着替え続けるのがこんなにも疲れることだとは思いもしなかった。でもこれは、体力的なものより精神的なものだな。試着室から出てくる度に可愛いを連発されるもんだから恥ずかしいのなんの。
買い物が始まってから大体一時間後、ようやく服選びが終わった。女性は買い物が長いなんて話は聞いたことあるけど、まさかここまでとは……まあ、楽しそうだったからいいけど。
「はぁ〜、満・足♡」
「結構買っちゃったね」
「あっ、そういえば下着――」
「下着は大丈夫!大丈夫だから!」
「そう?……あっ、結構時間経っちゃってたね。なんだかごめんねゆーちゃん」
「ううん、愛華ちゃんの行きたいところに行くって言ったのは私だし、気にしなくて大丈夫だよ」
「そっか、じゃあ今度はゆーちゃんが行きたいところに行こう!どこに行きたい?」
「そ、それなんだけど……」
今日のためにデートの計画は立てた。立てたのだが……いざ口にすると思うと断られるんじゃないかという不安と緊張で言いづらい。
「大丈夫だよ、遠慮しないで言ってみて」
「え、えーと……ご飯!一緒に、食べたいな、って……」
「うん、いいよ!」
「本当に?」
「私もゆーちゃんとご飯食べたいなって思ってたから」
「そ、そっか!じゃあこっち……」
俺は予定していた店に、少し早歩きで向かった。どうしよう、ニヤけてる。ただご飯一緒に食べてくれるってだけなのに、こんなんだからマーチにもからかわれるんだよなきっと。
ブティックを離れて数分後、俺たちはななぽーとを出てすぐの場所にある喫茶店に入った。以前扇風機バクとの戦いで融合素材として使ったのもこのお店。あんまり行く機会もないし戦いの時もそれほど気に留めてなかったが、店内はカントリーで結構オシャレなところだ。
時間が時間なだけに店内は混んでおり、テラスへ案内された。外だと周りの目が気になるが、今の所騒ぎにはなっていないし大丈夫だろう。
「ご注文は何に致しますか?」
「キャラメルマキアートを一つと……この、ストロベリーアイスパンケーキを一つ。ゆーちゃんはどうする?」
「えっと……オムライス一つと、ミルクココア一つで」
「かしこまりました〜」
「ミルクココアか……」
「どうかしたの?」
「あっ、ううん、そういえば安西君もよく飲んでるなーって思って」
それを聞いて、俺の心臓は大きく高鳴った。まさか愛華ちゃんの口から俺の名前が出てくるとは。ていうか俺がよくミルクココア飲んでること知ってるって時点でかなり嬉しい。
「そ、そういえばそうだね!会うといつも飲んでる気がする」
「やっぱり好きなのかな?」
「う、うん!好きって言ってた!愛華ちゃんはよくいちご牛乳飲んでるよね!」
「えっ、うん、そうだけど……よく知ってるね?」
しまった!俺の好きな飲み物を知ってくれていた所為でつい余計なことを!
「えーとそのあの――ゆ、夕斗に教えてもらったの!愛華ちゃんはよくいちご牛乳飲んでるって!」
「そうなんだー、なんだか恥ずかしいね」
愛華ちゃんは照れくさそうに笑った。どうやら上手く誤魔化せたようだ。
「それより、ゆーちゃんって安西君のこと、夕斗って呼んでるんだね」
まあ自分のことだしな。それよりも、愛華ちゃんが俺の下の名前を言ったことについて喜びを噛み締めたい。
「ま、まあね、昔からよく遊んでくれてるし」
「安西君も言ってたよ、もう一人の妹みたいなものだって」
「そ、そうなんだ、へぇー……」
なんていうか、愛華ちゃんに話したことを自分で聞かされるって変な感じだ。それに改めて聞くと何を言ってるんだ俺は。
「ゆーちゃんは安西君のこと、どう思う?」
「え?そ、そうだな……若干オタクっぽいところもあるけど、普通にいいお兄ちゃんだと思う、かな……?」
うわぁ、自分で自分を褒めるってなんか気持ち悪いな。女の子を演じている時点で今更感は拭えないけど。
「そうなんだ!やっぱり仲良いんだね、羨ましいな〜」
「え?」
「あっ、羨ましいっていうのは安西君のことだからね!私もゆーちゃんにお姉ちゃんとして見てもらいたいなーって!」
愛華ちゃんは慌てながら弁解をする。そこまで必死に否定しなくてもいいじゃん、泣くよ?
まあでも――
「そ、それくらいなら、私も――いいよ?」
「ほんと?」
「うん……あ、愛華ちゃんがいい、なら……」
「ふふっ、ありがとうゆーちゃん」
心の底から嬉しそうに、愛華ちゃんは俺の頭を撫でた。ただでさえ妹にしたいって言われて幸せなのに、正直気を失いそうだ。
しばらく幸せに浸っていると、注文したものがやってきた。もしここに馬場とかオタク仲間がいたら、「ご注文は?」「ウサギで!」とか答えていたんだろうなと、ふと思ったものの、すぐに頭から消し去った。今は幸せな時間だから余計なことは考えない。
「わぁ〜、ここのパンケーキ美味しいね!」
「気に入ってくれて良かった」
「あっそうだ、ゆーちゃん!」
「何?」
「はい、あ〜ん♡」
「ッ!!?」
こ、これは!ベタではあるがリアルでは絶対に見ない伝家の宝刀あーん攻撃!まさかそれを、愛華ちゃんから受ける時が来るなんて――
「あ、あーん!」
「どう?美味しい?」
「ふぁい、おいひいです」
「もう、食べながら喋っちゃダメだよ」
「ふぁい」
あぁ〜、トキメキが止まらない!心がぴょんぴょんするってこういうことを言うだな!ありがとうお母さん、俺を産んでくれて!
「ふふっ、ついやっちゃった♪こういうのちょっと憧れてたんだよねー」
「そうなの?」
「うん、恋人とかできたらこういうこともやるんだろうな〜って考えたりね」
『恋人』という単語に、俺は思わず固まった。
思い起こせば約一カ月前、サッカー部のキャプテンである榊原先輩と愛華ちゃんとデートの件で、俺は身も心も削られていた。あれから愛華ちゃんに好きな人はできたのだろうか……
「ね、ねぇ愛華ちゃん」
「何?」
「あ、愛華ちゃんはその……好きな人っている?」
「え?」
「いやその、榊原先輩のこともあったしあれからどうなったのかなーって!」
すると愛華ちゃんは、少し頬を赤く染めて、俺から顔を晒した。えっ、まさか……いるの?あんなことがあったのに?でも一体誰だ?学校のアイドルである愛華ちゃんの周りには、男友達が多くいる。でも榊原先輩の件もあったし、周りの男子も怖く思えるかもしれない。ということ――
「う、うん……いる、かな」
「そ……そうなんだ……ち、ちなみになんだけど!だ、誰?」
「えっ、言うの!?」
「ほら私に言っても誰だかわからない可能性が高いし恥ずかしくはないと思うよ!それとも……わ、私が知ってる人?」
「それは……」
お、思い切って聞いてみたけど……うわあああああ!!ヤバイ、すげぇドキドキする!これでもし、ユウカの知っている男だとしたら……つまりは、そういうこと……
愛華ちゃんが口を開くまで、とても長い時間が過ぎたような気がする。実際はそうじゃないのだろうけど、緊張の所為で一秒が一〇分にも思えてしまう。
そして、
「――うん、知ってる人」
「…………………………………………………………………………」
これは……もう、聞こう。直球で聞こう。覚悟はできた。
「……あ、愛華ちゃんの好きな人って、誰?」
「わ――私の好きな人は……」
ゴクリ、と。唾が喉を通る音がはっきり聞こえる。周りの音が、一切耳に入らない。心臓の鼓動がうるさいほど、耳に纏わり付いてくる。
そんな中で、愛華ちゃんの言葉が、耳の穴を開けた――
「サッカー日本代表の、室町選手、かな」
「――――――――――――」
再び、時が止まった気がした。
「なんていうかこう……男らしくてワイルドだけど、とても優しくて礼儀正しくて……素敵な人だよね……あっ、ゆーちゃん知ってる?サッカーの室町選手、最近ニュースとかでも出てるんだけど」
うん、知ってる。室町選手は知ってる。この前ハットトリック決めたってニュースでやってたことも知ってる。でもね?だけどね?
「それ好きな人って言わないよ!」
「ええ!?」
「びっくりなのはこっちだよ!知ってる人ってそういうこと!?ていうかこの場合は身近で恋愛対象として見れる人のことだよ!誰も憧れている人のことなんてあのタイミングで聞かないよ!」
「わ、わかってるよそれは!あんまり人に言ってないんだけど、実は室町選手とは親戚同士で、よく年末年始に会ってるの。前々からカッコイイ人だなとは思ってたんだけど、いつの間に好きになっちゃってて」
「そうなの!?どうりで性格についてよく知ってるなと思ったよ!」
な、なんてことだ、まさかライバルが日本代表とは……ていうか愛華ちゃんって結構サッカー好きなんだね、てっきりマネージャーになったのも榊原先輩狙いだと思ってたよ。
「で、でもそっか、室町選手か……ウン、ガンバッテネ」
「ありがとうゆーちゃん、今度ゆーちゃんにも紹介してあげるね!」
「ウン、アリガトウ……」
心ここに在らずとは、まさにこのことである。
それでも……クソ、愛華ちゃんとは秘密の共有だったり屋上で話したりで距離は少しは縮んだと思ってたのに。愛華ちゃんにとって俺はどこの立ち位置にいるんだ?
「ち、ちなみになんだけど、愛華ちゃん的に夕斗のことはどう思ってるの?――恋愛対象的なことも含めて」
俺は今、普段なら緊張してなかなか聞かないことを平然と聞いている気がする。だけど室町ショックの所為か全く緊張も恐怖もない。「もう何も怖くない」と、今なら言える。
「あ、安西君!?全然だよ!恋愛対象としては全然……」
「あっ、そうなんだ……ですよね」
「でも――」
そう言うと愛華ちゃんは、テーブルの上に置いてあるミルクココアを見て、ちょっと嬉しそうな顔を浮かべた。
「普通の友達とはちょっと違った感じ、かな?」
「――――ッ!」
「どうしたのゆーちゃん?顔真っ赤だよ?」
「な、なんでもないよ!なんでも!」
俺は腕で顔を隠しながらそっぽを向く。
普通の友達とはちょっと違う。そんな言葉だけで嬉しくなる俺は、やっぱり乙女思考なのかもしれない。