第二章6 『人気魔法少女のガチ泣き』
妹のTシャツに土下座をした日から二日後、俺はマーチと共に目黒まで来ていた。
理由は一つ、魔法少女派遣センターの社長に会うためだ。マーチが言うには社長は目黒駅から少し離れた場所にあるホテルに泊まっているらしい。それもまあまあ高級そうなところだとか――流石は社長だ。
「ていうか社長と会うのに私服でいいのか?今更だけど」
「魔法少女は是非とも私服で来てほしいって言ってたし、気にすることないよ」
「そうか?割と子供っぽい服装だけど……」
「いや、君子供でしょ」
「……そうだ、忘れてた」
今の姿を思い浮かべて、少しげんなりとする。
この間決めたユウカの素顔に、拝借してきた妹の服を着ている。シャツはあれを着る訳にもいかなかったので、マーチに買わせに行ったものを着ている。靴は古くなった妹の靴をお借りした。鏡で確認した限りじゃあ、どこにでもいる普通の小学生だ。
「さて、じゃあ行こうか」
「この前会いに行った時もここまで来たのか?」
「ああ、朝の通勤ラッシュに鉢合わせてさ、大変だったよ」
「朝方だったもんな、そりゃ混むに決まってる。そっちには電車とかないのか?」
「電車はないよ、まず乗り物が少ないからね。でも僕が大変だったのはそういうことじゃないんだ」
マーチの言っている言葉の意味がわからず、俺は首を傾げた。
「じゃあ何が大変だったんだよ?」
アイツはその時のことを思い出すように遠くを見つめて––
「僕に密着していた女子高生が超スタイル良かったから思わず触ってしまって……痴漢じゃないって誤魔化すのが大変だったよ……」
とても愉悦に満ちただらしない表情を浮かべた。
俺はその場で軽くジャンプして、綺麗な空中回し蹴りを奴のケツに叩き込んだ。現在アブソーバードレスを身につけてはいないが、当たりどころが良かったのか、蹴った瞬間マーチの体は少しだけ浮いた。
「大変だったよ……じゃねぇよ変態!人がデカイナマケモノと戦ってる間に何してんの?人がデブニートに触られている間に何触ってんの?」
「だ、だって、犬の時はみんな触っても嫌がらないどころか喜んでくれてたから、つい思わず––」
「思わずじゃねぇんだよこのエロ犬が!お前ことによっちゃ俺たち消されてたんだぞ?あらぬミスが俺の正体に結びつくんだぞ?その自覚あります?」
「ご、ごめん、許して!もうしない、もうしないから!」
俺はしばらく、真昼間からスーツ着た男が小学生の女の子に踏みつけられているという、他所から見たらとんでもない光景を提供し続けた。こんなことしたら変に目立つが……変装してるしユウカにちょっと似てるってだけだからセーフだな。
ひとしきりマーチを足蹴にし、再び目的地へ向かってから大体一〇分。人通りの少ない場所へとやってきた、昼の––それも休日にも関わらず、あまり人とすれ違わない。
「あれから随分歩いたけど、まだ着かないのか?」
「ユウカ、そろそろ口調に気をつけた方がいい」
「え?」
「君も気づいてると思うけど、さっきから人が見当たらないだろう?」
「確かに……」
「これはウチの会社の人たちが魔法で人払いをしてるからだ。なんせ社長が普段の姿で人間世界にいるんだ、何かあったら僕たちも仕事がなくなっちゃうしね」
そこまでするほどすごい人なのか……いや、社長っていうのは会社という家族の父親のようなものだ。その人に何かあれば困るのはその子供。それにやってることがかなり特殊だ、普通なら考えつかないようなことが起きても不思議じゃない。
でも––その分緊張してきたぞ!普段の姿ってことはマーチみたいに動物の姿をしてるってことだよな?どんな人なんだ……
「さあ、着いたよ!」
「……………………………」
「社長も待ってることだし早く––どうしたんだいユウカ?」
「ね、ねぇマーチ?ここって……」
「ホテルだけど?」
「……お城みたいな見た目なんだけど」
「僕も最初は驚いたよ、こんな外観なのにれっきとしたホテルなんだから」
「……………………………」
俺は、まるで弾き出された弾丸のような速さでその場から逃げ出した。だが悲しいかな、子供の脚では大人には勝てない。すぐに追いつかれ肩を掴まれた。
「ちょっ!どこ行くの!」
「いやぁ!離して!私あそこ行きたくない!」
「なんで?すごい綺麗だし、中も豪華だよ?」
「だってあそこラブホでしょ!ラブホでしょ!!」
「そうだよ、それがどうかしたのかい!」
「お前頭可笑しいんじゃないの?面会の場所にラブホ選ぶか普通!」
「社長があそこがいいって言ったんだからしょうがないだろう?ほら、約束の時間過ぎちゃうから行くよ!」
「おいやめろ!抱きかかえるな!離せ、離せえええええ!!」
必死に抵抗する俺を物ともせずに、マーチは俺を脇に抱えてあの城まで戻って行く。
ふざけるな、なんで俺がこいつとラブホテルに入らなきゃならないんだ!ていうか絵面的にアウトだろ!いい大人と幼女だぞ?犯罪臭しかしないんだけど!––いや、この間痴漢してるから臭じゃない、ただの前科持ちだ!
くそっ、さっきから暴れてるのにビクともしないんだけど、腕が緩む気配ないんだけど!人生初のラブホがこれとか絶対嫌なんだけど!
「うっ、ひぐっ……やだよー、行きたくないよー……」
「ガチ泣き!?あの、泣かないでくれませんか?なんか罪悪感が……」
「だったら離せよー」
「すみません、それはできないので––あー待って!泣かないで泣かないで!!アメちゃんあげるから!アメちゃんあげるから泣かないで!!」
数分後、泣き止んだ俺はマーチに引っ張られながら中に入った。受付の人に哀れなものを見るような目で見られて、また泣きそうになった。
「だ、大丈夫かいユウカ?」
「大丈夫じゃないよ……お前の所為で私のプライドはズタズタだよ……」
「それでもユウカになりきる辺り、君ってすごいと思う」
そう言うマーチから手渡されたハンカチで涙を拭く。正直こんな姿を見られたのも情けなくて泣ける。エレベーターホールに到着すると、マーチはエレベーターを呼び出し、俺もそれに乗った。ホテルの外観同様エレベーター内も派手な内装になっている。
エレベーターは八階に到着するとゆっくり開き始めた。見えてきたのは真っ直ぐ伸びた長い廊下と、マーチと同じスーツを着た男の姿だった。男はまるで門番のように部屋の前に立っている、俺たちとは少し離れているが、マーチよりも背が高いことがなんとなくわかる。
「あそこの部屋に社長が?」
「ああ、気を引き締めていくよ」
俺は頷いてから両手で頬を叩いた。いつまでも泣き顔じゃあ締まりがないからな、気合い入れないと。
マーチの後ろをついて行く形で廊下を進む。防音性がいいのか、それとも誰もいないのか、他のドアの前を通り過ぎても声一つ聞こえてこない。まあ、ホテルの周辺に人を近づけないようにしてるんだから、おそらく後者だろう。
部屋を五つ過ぎたところで、男が立っている部屋に辿り着く。大きさは大体二メートルくらいだろうか、とにかくデカくてゴツゴツしている。本業はプロレスラーだと言われてもなんの違和感もない。
「お疲れ様です。魔法少女ユウカのサポーターのマーチです。魔法少女の子を連れてきました」
そう言って、顔だけチワワに戻したマーチを見て、俺は思わず吹き出した。
「ちょっと……」
「ご、ごめんつい……」
「お疲れ様です。では、中へ……」
男は何事もなかったようにドアを開いた。すごいなこの人、正面からあれ見たら我慢できる自信ないんだけど、そこら辺は慣れてんのかな。
部屋の中は少し薄暗く、お香でも焚いてるのか異様に甘い匂いがする。それと、会話をしているのか男の声と複数の女性の声が聞こえてきた。
「も〜!社長のエッチ〜!」
「ええ〜?そんなことないじゃろ〜?」
「顔がヤラシイ〜!」
「元からこう言う顔じゃよ〜ジャーハハハ!」
うわぁ、この先進みたくねぇ……
だが、そういうわけにもいかず、俺はマーチと共に部屋の奥へと歩みを進めた。
大型テレビに小型の冷蔵庫、モデルルームで見るような革製の長いソファが正方形の室内に置かれている。置いているものが少ないのに窮屈に見えるのは、部屋の五割をベッドが埋めているからだろう。
そして、その大きなベッド上には……
「ほおほおほお、よく来たのぉ。いや、待っていたぞー」
「お待たせしてしまい申し訳ありません社長––ユウカ、この方が魔法少女派遣センターの代表取締役社長のグランビアだ。ほら挨拶して」
「あっ、えと……初めまして、魔法少女をやらせていただいています。ユウカです、よろしくお願いします」
「よろしくのぉ、いや〜それにしても……可愛いのぉ〜」
「いえそんなこと、社長はその……なんだか長生きしそうですね」
「あっ、やっぱりわかる?そんなんじゃよ〜!ワシこんな老人じゃけどす〜ごい長生きするんじゃよ〜!」
「そうですよね、鶴は千年亀は万年って言いますもんね」
ユウカに褒められて嬉しそうに笑うその老人は、まさしく亀だった。腕の形から察するにリクガメ––種類で言えばガラパゴスゾウガメ辺りだろうか、ベッドの上に寝そべりながらジャーハハハッ!と独特な笑い声を上げている。ぶっちゃけシュールだ。
亀がラブホで笑っている光景に対して俺があまり驚いていないのは、その亀の周りにいる孔雀と豹とアナコンダと狐の方が気になったからだろう。ここは動物園か……
「おや?もしかしてこの姿じゃ話しにくいかのぉ?」
「あーいや、すごいシュールですけどそれは大丈夫です。もうマーチで慣れてますので」
「むぅ、じゃが妙に硬いしのぉ……」
そりゃ豹やアナコンダに睨まれてたら誰でも固まるわ!
「やはり人間になった方が良さそうじゃな」
そう言うと、リクガメの下に魔法陣が現れた。あの形はマーチが変身する時に使ったのと同じ魔法陣だ。老人––元い老亀の姿が光に変わり、徐々に人の形に整い始めた。
光から解き放たれると、白い髭を長く伸ばし燕尾服にシルクハットを被った老人が姿を現した。その男は、俺がテレビで見た記者会見で話していた老人だった。
「ふむ、これでいいじゃろう」
「キャー!社長すごいカッコイイ!」
「素敵です社長!」
「そうじゃろそうじゃろ?ジャーハハハ!」
老人は自分を取り巻く動物たちのお尻––って言っていいかわからないがそこ辺りを撫でながら高らかに笑った。部屋に入った時に聞こえて来た女性の声はやはりこの動物たちのものだったか。
「どうじゃユウカちゃん、似合っとるかのぉ?」
「は、はい、とてもよく似合ってます!」
「ジャーハハハ!敬語なんてやめじゃ、やめ。いつもお友達とおしゃべりする感じで話してくれて構わんよ〜」
「は、はぁ……」
「あっそうじゃ、大事なことを忘れておった!」
「大事なこと?」
「うむ、ユウカちゃん」
グランビアは皺だらけの手で俺を手招きする。豹とアナコンダがいるからあまり近づきたくないのだが、そういうわけにはいかない。我慢するしかないな。
俺は内心ビクビクしながらベッドの横についた。
「ほれ、ベッドの上に」
「えっ、でも狭いし乗れないような……」
「ニーヴァちゃん」
「はい社長!」
明るく返事をしたアナコンダはしなやかにベッドから降りた。もしかしてこういうことはよくあるのだろうか。
俺は靴を脱いでベッドの上に乗り、社長の近くで正座した。ベッドは結構ふかふかしていて寝心地が良さそうだ……豹と狐の毛で彩られているのを除けば。
「上がったけど、一体何を––」
俺が全てを告げる前に、社長は答えを示してくれた。俺の胸を、鷲掴みするという形で……
「ッ!!?!?」
「ほおほお、これはこれは……予想通り柔らかいのぉ〜」
「な、なななななな何するの!?」
胸を掴まれるという予想だにしなかった行為に動揺した俺は、ベッドから転がり落ちて座ったまま壁まで後退りをした––いや、小学生と会う場所にラブホ選んでる時点で予想できただろう。ただ社長という肩書きの所為でそれに至らなかっただけだ。
「可愛いしおっぱいもまあ大きいし……うんうん、最っ高じゃな!」
「最っ低だよ!何?もしかして会いたかった理由っておっぱい触りたかっただけ?」
「だってこの世界の魔法少女とはいえうちの社員じゃし、触ってもいいじゃろ?」
「いい訳ないよ!」
「ん〜?なんじゃユウカちゃん、社長の言うことが聞けないのかのぉ?」
うわ、こいつ典型的なセクハラ社長だ!自分の会社だからそこで働く女性は全部自分の物だって勘違いしているド直球のエロジジイだ!くそっ、マーチの話からしてあまりいい社長ではないとは思ってたけど、あまりいいどころかかなり良くない社長だったよ!
おいマーチ、なんとかしろ!お前の担当魔法少女がセクハラされてるぞ!そんな思いを込めてマーチを睨みつけた。
俺と目が合い、言いたいことを悟ったマーチは……目どころか顔を晒した。
「このクソ犬め〜!」
「ほれほれ、大事なお話するからおいで〜。社長命令だよ〜」
「うっ……」
ここで断ってクビにでもなったら、俺の正体に気づいて始末しようとするに違いない。断るわけにはいかない……でも、だからって、じじいにセクハラされるのは……
「はい……」
俺は項垂れながら立ち上がり、再びベッドの上に乗った。戻ってきた俺を見て、グランビアはニヤニヤと如何にもいやらしいこと考えてますって顔で俺を見つめる。このクソジジイ、本当ならアフターグローで頭カチ割ってやるところなのに!そしてあのクソ犬は後でなぶり殺す!
「ジャーハハハ!いや〜スベスベでプニプニじゃのぉ〜」
「あ、あまり触らないでください。く、くすぐったいんで……」
社長は俺の手を掴んで頬ずりを始めた、俺の体は一瞬で鳥肌が支配した。もうやだ、帰りたい。帰って愛華ちゃんのことを考えたい。
「この頬っぺたもええのぉ〜、キスしたくなる……キスしていい?」
ひぃいいいいいいいいいい!!助けて!マジで助けてマーチ!もうこれ以上はまた本気で泣くから!!
俺は再び思いを込めて眼差し––というなの涙目で訴えた。今回は流石に無視できなかったのか、マーチが咳払いをしてから始めた。
「しゃ、社長!今回は何か重要な話があって僕たちを呼んだんですよね?ね?」
「うん……?あっ、そうじゃった!ユウカちゃんが可愛いから思わず忘れておった」
何かを思い出したらしい社長が俺から意識を離した。その隙をついて俺はベッドから飛び降り靴を持ってマーチの後ろに隠れた。こんな恐怖体験初めてだったこともあり、震えが止まらない。
「それで、話というのは……」
「うむ、ひとまずユウカちゃんとマーチに労いの言葉を送ろう。我が社ためによく頑張ってくれた。特にユウカちゃん!魔法少女になってまだ一ヶ月だというのにあの大活躍ぶり!社長としても鼻が高い!」
「ど、どうも……」
「そして、世間に魔法少女の存在が明るみになってからも約一ヶ月が経った。ユウカちゃんのおかげで魔法少女の印象も大分良いものになっている。そこで、明日からユウカちゃん以外の魔法少女たちにも、表舞台に立ってもらおうと思う」
俺以外の魔法少女。そのワードを聞いて数日前の取材を思い出した。この世界には俺以外にも魔法少女が存在する。ついに、その人たちが人々の前に姿を現わす時が来たのか……
「ほんとですか!?」
「うむ、それに伴い、今まで他の場所にいたバクをユウカちゃんの活動範囲内に送る作戦を中止することにしたのじゃ。これから活動範囲内に現れたバクのみを対処してほしい」
「……ん?ちょっと待って、バクを私の活動範囲内に送る?今までそんなことしてたの?」
「うむ。わざわざ来てもらうのは忍びなかったからのぉ、我が社の長距離転移装置を使ってバクをそっちへ送り飛ばしていたのじゃ。マーチから聞いてないかのぉ?」
俺は盾にしているマーチを見上げる。こいつはいつもの癖で滝のように汗を流していた。どうせ言ったら文句言われると思って言わなかったのだろう。ほんと、この駄犬は仕事をしない。
「そうなの?どうりで多いと思った!ねぇマーチ?」
「う、うん、そうだいぃ!?」
「どうしたんじゃ?」
「い、いえ!なんでも!」
マーチは痛み耐えながら返事をした。俺が社長の見えないところでこの駄犬の太ももをつねっているのだが、こいつ少しは成長したらしい……いや、ただのやせ我慢か。
「ということは、明日から出動する機会が減るってこと?」
「その通りじゃ。ユウカちゃんは今まで頑張ってくれたからのぉ」
「ありがとうございます!」
これは素直に嬉しい改変だ、これで魔法少女を辞める手立てを探す機会が増やすことができる!
「でも、他の魔法少女たちには気をつけるんじゃよ?」
「え?」
「魔法少女たちの中には、ユウカちゃんのことをあまりよく思っていない子もいるそうなんじゃ」
「そうなの?でもなんで……」
「いくら魔法少女の活動を公にするためとはいえ、仕事取られてるようなもんだからね。しかも注目されてるのは魔法少女というよりもユウカちゃん。先輩としては妬ましいわけだよ」
なるほど、子供でもそんなこと思うもんなのか。なんだか悪いことしてる気分だ……
「そういうわけじゃから、くれぐれも不意打ちされたりしないよう気をつけるんじゃぞ。ユウカちゃんは我が社の希望の星じゃからのぉ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃからもう一回おっぱいを––」
「さあマーチ用も終わったことだし帰るよ!今日はありがとうございましたまた何か機会があればお会いしましょうそれではお元気で!」
ほぼ畳み掛けるように別れの挨拶を済ませ、マーチを引っ張って部屋から駆け足で出て行く。これ以上自分の身を危ぶませるわけにはいかないからな!
蹴破るように出て来た俺たちを見て驚いている屈強な男に素早く会釈をしてエレベーターに直行する。運がいいのかあれから動いてないのかエレベーターはこの階で止まっていた。逃げるように乗り込み閉まるボタンを連打して扉を閉じた。
「ハァ、ハァ、ハァ……ちょっとユウカちゃん?いくらなんでも慌て過ぎ痛たたたたたたたたたたた骨折れる!骨折れるってユウカちゃん!」
「テメェ……俺が助け求めた時無視しやがっただろ?」
「だって社長に逆らったら給料下げやあああああああやめてえええええええ!」
俺はエレベーターが一階に着くまで、マーチの腕に関節技を決め続けた。なんの音もしないホテル内で、マーチの悲鳴だけがこだましていた。




