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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第一章 魔法少女ユウカちゃんの災難
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第一章幕間 『太陽に願いを』

『先日、音ノ葉駅周辺にて巨大なサルが出現。女子高生数人にバナナを擦り付けるなどの行為をしていましたが、駆け付けた魔法少女により無事撃退されました』

『いやー今回も大活躍でしたねぇ~』

『ええ、とても可愛らしくて微笑ましいですね』

『まったくその通りだ!特に何本ものバナナをスリスリとされて困惑する姿なんて溜まらないじゃないか!』

『えー批評家の源内げんないさんがとてもハッスルしていましたが、続いてのトピックスです――』


 晴天の昼休み。

 俺は中庭のベンチでミルクココアを飲みながら、スマートフォンでニュースを見ている。内容は昨日の戦いのことだ。正直あの戦いの後鳥肌が止まらなくて部屋で寝込んでいた、しばらくバナナは食べたくない。画面では顎に髭を蓄えた男が熱く語っているけど――このおっさん、つい一週間くらい前まで俺に対して批判的だった奴じゃねぇか。今じゃ誰よりもノリノリで応援してんじゃねぇか。手のひら返り過ぎだろ……


「はぁ……当分はこの生活が続くのか。まぁ自分が選んだ道だし文句は言えないよな」


 スマートフォンの電源を切って、背もたれに体重を預ける。真上から降り注ぐ太陽を浴びながら、つかの間の平和を味わう。

 カエル人間、元いカエルバクノイドとの闘いから三日後。俺は相も変わらず魔法少女としてバクたちと戦っている。変わったことがあるとしたら――新たな敵の存在の発見とそれを撃退したこと、世間の評判も絶好調であることを社長から高く評価され、マーチの給料が上がったことくらいだ。なんで頑張った俺じゃなくて倒した後に駆け付けたアイツの方がいい思いしているのか非常に不満ではあるが……アイツも一応頑張ってはいるし、俺もいいことがあったので目を瞑ることにした。

 そのいいことというのは――


「身も心も魔法少女にはならないことがわかったし、気長にやるとしますか」


 そう、このまま変身し続ければ本物の魔法少女になるかもしれないとマーチに言われていたが、その心配はないことがわかった。カエル人間と戦った後、マーチがスフィアの設定に新しい項目が加えられていることに気づいた。その設定というやつが、魔法少女時の言語設定だった。アフターグロー曰く、演技だけではいずれバレる可能性があると思い自分でプログラムを造り上げたそうだ。なんで言わなかったんだって聞いたら――


『モウシワケアリマセン、ワスレテマシタ☆』


 アフターグローがドジっ子だったことに一番驚いた。

 そんなわけで、変身したら女の子みたいな喋り方になるだけで、魔法少女化はしないということだ。こういうのを有難迷惑というのだろうか。


「安西くーん!」

「ッ!」


 俺の好きな可愛らしい声に条件反射し、驚いた猫並みの速さで声がした方を向いた。校舎からいちごミルクを片手に愛華ちゃんが手を振りながらやってきた。相変わらずマジ天使である。


「たたたた立花さん!ど、どう、どうしたのこんなところで?」

「自販にいちごミルク買いに行ったら安西君が中庭でボケーっとしてたから」


 あ、愛華ちゃんが、俺を見つけて?――こ、これは夢か?夢なのか?頬っぺた抓ってみたけど、幸せ過ぎて痛みを感じない。やっぱりこれは夢なんだ!ってアホなことしてる場合じゃないな。


「えーと、特に何してたわけじゃ――へ、平和だなーなんて思って」

「確かにそうだね……あっ、隣座っていい?」

「ととととととと隣!?」

「ダメ?」

「え、いや、全然!どどどっどどうぞ!!」

「ふふっ、じゃあ失礼します」


 慌てる俺を笑いながら、愛華ちゃんは俺の隣に座った。

 おおおおおちおちおちっつおっち落ち着け俺!いいいい今時の高校生はこんな風にととと隣に座るくらい普通なんだから!こここここんなことくらいで心臓爆裂させてるからマーチに童貞童貞言われるんだよ!し、しっかりしろ、会話だ!とにかく会話をするんだ!


「あ、あの!立花さん!」

「何?」


 どわあああああああああああ顔近ぇええええええええええええええ!!いつも遠目で見てる愛華ちゃんが目と鼻の先に!――いや、ユウカの時もこのくらい近くまで来ただろう!緊張するな、言葉を続けろ!


「そ、その……あれから榊原先輩とは、どう、なったかなって……」

「……………」


 愛華ちゃんは俺の問いかけに一瞬表情を曇らせたが、すぐにスッキリとした表情に変わった。


「結局デートは中止になったよ、あんなことがあったし当然だけど。榊原先輩も、もう好きでもなんでもない」

「そっか……」


 榊原先輩は故意でバクノイドを生み出したわけじゃない。でも、襲われた愛華ちゃんからすれば相当ショックだっただろう。俺が同じ立場だったら三日は引きずりそうなのに、愛華ちゃんはあまり気にしていなさそうだ。

 そういえば榊原先輩で思い出したが、先輩に彼女が出来た。しかも相手はバクノイドに襲われた晶子先輩だ。あの時ユウカに、「周りの女の子は全員自分を好きだと思ってない?確かめてもいない癖に言わないでください!!――」なんて言われたことが身に染みたのか、あれから先輩は本当に自分の周りの女子に自分が好きかどうか聞いて回ったらしい。まあ結果としては、八割の子が好きだということがわかった。このことには先輩もさぞかし驚いてた。ていうかこの人すごいよ、「もしかして俺のこと好き?」だなんて聞かないよ普通。これも鈍感だから成せる業なのか……


「ごめんね安西君、折角デートの約束してくれたのに」

「う、ううん気にしないでいいよ。それにほら、出会いなんてまだまだいっぱいあると思うよ?例えばほら、クラスメイトとか!」


 なんて冗談交じりに俺の存在を地味に仄めかしてみた。すると愛華ちゃんは何も言わずに立ち上がり、少しだけ前に出た。な、なんだろう、何かマズイことでも言ってしまっただろうか。


「……ね、ねぇ、安西君」

「は、はい」

「その……ここに来た理由なんだけど、実は嘘なんだ」

「え?」

「本当は、安西君のことを探してたの」

「ッ!?」


 俺は驚きのあまりその場で立ち上がった。

 えっ、俺を探してたって、どういうことなんだ?


「実はね、安西君に聞きたいことをあるの」

「き、聞きたいこと?」

「うん、すごい大切なこと……だと思う」


 その時俺の頭に、榊原先輩が周りの女の子に自分が好きかどうか聞いている姿が過ぎった。愛華ちゃんも先輩に聞かれていたことも、それに対してNOと答えていたのも。ま、まさかな、もう流石に勘違いなんてしない。屋上で話した時みたいないい雰囲気になってはいるけど、だからって告白のわけが――


「あ、あのね!私、気づいちゃったの……」


 そう言ってこちらを向いた愛華ちゃんの顔は、ほんのりと赤かった。

 気づいた……え、気づいた?何に気づいた?えっ、ちょ嘘でしょ?俺ってそんなわかりやすい?でも確かにマーチは俺の思っていることによく気づいてたりするけど――まさか、バレた?

 俺はあの時と同じように、心臓の鼓動を耳にしながら、愛華ちゃんの言葉を待った。………いや、待っちゃダメだろ!もう知られてるんだったら言っちゃった方がまだ格好が付く!勇気を出せ俺!男なら今やるしかねぇ!


「じ……実は俺、立花さんの――」

「ユウカちゃんの知り合いって安西君のことだよね!」


 俺は、瞬間冷凍されたかのように固まった。


「実は襲われる直前でユウカちゃんが助けに来てくれて、その時『私のよく知る人が教えてくれた』って言ってたの。しかもユウカちゃん、私の名前とかも知ってたの!それでふと思ったんだ、もしかしたら私のことを教えたのはユウカちゃんのよく知る人なんじゃないかって。榊原先輩のことをよく知ってる後輩で、私のことも知っている人って言ったら安西君くらいかなって」


 穴だらけの推理だけど、と愛華ちゃんは恥ずかしそうに笑った。

 俺は二度目の勘違いで真っ赤になりながら思った。ああ、この子はもしかしたら榊原先輩と同じタイプの人かもしれないと。


「あ、安西君?大丈夫?顔真っ赤だけど、もしかして違ってた?」

「あー……えーと……ば、バレちゃったかーあはははー」

「やっぱりそうなんだ!わぁ、いいないいな!ユウカちゃんと知り合いだなんて!」

「その、小さい頃からの知り合いっていうかなんというか……」

「へぇー、でも安西君もすごいね!もしかして頭良かったりする?」

「い、いやーそれほどでもないよ!頭の回転が速いだけだし!」


 愛華ちゃんが憧れの眼差しで俺を見つめてくる……!あぁ、なんてご褒美だこれは!この笑顔だけでご飯三杯は余裕だよマジで!告白ってわけじゃなかったけど、愛華ちゃんは嬉しそうだし褒めてもらったし、まあいいか。


「あっ!でもこのことは誰にも言わないでくれませんか?バレたら色々面倒だし、ユウカにも迷惑が掛かるから」


 口の横に手を添えて、わざとらしく小声で伝える。つい愛華ちゃんにあんなこと言ったけど、ここから俺とユウカが同一人物だってことがバレる可能性もあるからな。そんな俺を見て、愛華ちゃんは楽しそうに笑った。


「ふふっ、そうだね。じゃあこのことは、二人だけの秘密だね」

「ふ、二人だけの……!」

「うん、二人だけ!」


 二人だけの秘密!なんて甘くて素晴らしい言葉なんだ!そして今日初めて思った!俺、魔法少女で良かった!


「あっ、そろそろ五時間目始まるね。教室戻ろっか」

「う、うん!」


 なんだか嬉しそうに校舎へと戻る愛華ちゃんの後ろ姿を、俺はバレないように、見つめながらついて行く。俺はこの子に嘘を吐いているんだなと思いながら、この秘密をバレませんようにと、晴れ晴れとした太陽に願った。


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