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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第一章 魔法少女ユウカちゃんの災難
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第一章1 『宿題はお早めに』

 まずい。大変なことになった。

 俺は今、自分の部屋でアニメのネット板に潜っていたのだが――宿題があったのを登校の一〇分前に思い出した。しかも最悪なことに担任の真田さなだ先生がやっている数学の授業だ。あの先生すごい真面目だしオタクを嫌ってる節があるから何言われるかわかったもんじゃない。それにあの人、喋り方が機械みたいで超怖いんだよな。どうしたもんか、とりあえず電源落とすか。

 パソコンをシャットダウンした俺は、鞄から数学のノートを取り出し開いた。確か前にやった数式の問題の続きをやってこいみたいなことを言われていたような……うん、確認してみたらやっぱりそうだ。しかも幸いなことに半分は前回の授業で終わらせてある。これなら一〇分もあればいける!

 筆箱からシャーペンを引っ張りだし、教科書に書かれている問題を斜め読みして解いていく。先生はやってこいとは言ったが正解しろとは言ってない。まあ間違ってても単位は落とさんだろう。

 登校時間の一分前で宿題を片付け、鞄をひったくって部屋を出た。この時間に家を出ればホームルームが始まる二分前に教室へ到着する計算となっている。五分前行動?なにそれ美味しいの?

 俺の家は二階建ての一軒家で、部屋は二階にある。なので一階に降りるには階段を使わなくてはならない。いつもならもう少し余裕を持って降りているが、今日はギリギリなのでほぼ飛び降りながら階段を下っている。階段を下りれば玄関が目の前なのでスピードを緩めない。

 その予定だったが――、


「あっ」

「げっ」


 玄関には我が妹様、蜜柑がいた。

 女の子らしい可愛い服装に身を包み、赤いランドセルを背負い、茶色い髪を二つ結びにしたその少女の目は、まるでゴミ虫を見るような目をしていた。

 俺は思わず立ち止まり、どうしたものかと思考を巡らせた。普段こいつとはまともな話をした試しがない。今朝も「おはよう」の代わりに「寄らないで」を頂いたばかりだからな。ていうかなんで蜜柑はこんな時間に登校するんだ?いつもならもう少し早いのに……そうだ、これについて聞いてみるのはどうだろうか?もしかしたら会話をしてくれるかもしれない。

 善は急げ。俺は意を決して声を掛けた。


「なあ」

「キモイ」


 一蹴された。

 蜜柑はこれから履こうとした靴を置いて、リビングの方へと消えて行った。そんなに俺と同じ場所に居たくないのか。


「って、そうだ学校!」


 妹に時間を取られてしまった。オノレ蜜柑!これで遅刻したらお前の所為だからな!俺は慌てながらも靴を履き、玄関のドアノブに手を掛ける。


「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい」


 母さんの返答を聞きながら急いでドアを開けた。

 その瞬間、俺の鳩尾に何かが飛んできた。


「ぐおわぁっ!」


 それなりに重量があるそれに、不意打ちということもあってか耐え切れず、俺は玄関に倒れ込んだ。それとほぼ同時だっただろうか、俺の視界は一瞬、眩い光に埋め尽くされた。


「おおおおっ、目が、目がぁああ!」


 もう何が起きたのかわからない。

 とにかく腹が痛い。背中も痛い。目がチカチカする。

 俺は体の痛みに悶えながらも、いまだ腹の上に乗っている元凶となった何かを掴み、顔の前まで持ち上げた。徐々に回復してきた視界に映り込んできたのは、一匹の犬だった。


「えっ、何?なんで犬……?」


 倒れた身体を起こし、手に持った犬を玄関の床にそっと下す。

 品種はチワワだろうか。小さい顔で俺を見上げ、クリクリとした丸い目で俺を見つめている。正直言ってすごい可愛い。


「どうしたお前~、もしかして家間違えたのか~?」


 少し声色を変えて犬の頭を撫でてみる。すごいモフモフしてて気持ちいい、これは人気があるのもわかる気がする。癒されるわ~。

 なんて思っていたのもつかの間、犬の全身は一瞬にして汗まみれになった。


「うおっ、なんだ?どうしたお前?汗が滝みたいに流れてるぞ!?」


 俺は思わず手を放し、今のところ一度も動かないチワワを凝視する。こんな人間みたいな汗を流すなんて、俺の知らない犬の生態なのか?

 そんなことを思っていると、後ろから声を掛けられた。


「あれ?さっきいってきまーすって言わなかったっけ?」

「あっ、母さん!いやそれが――」


 俺は母さんに事情を説明しようとして、思い出した。

 そうだ、俺このままじゃ遅刻するんだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!いってきまあああああああああああああああああす!!」


 犬のことなどもう頭の片隅に蹴り飛ばし、俺は学校へと全力で走った。

 きっと、間に合わない。

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