第一章 行間
時刻は一二時過ぎ。私、立花愛華は今、新宿の近くにあるショッピングモールに来ている。
地元である音ノ葉駅の前にもショッピングモールがあるけど、ここはそこよりも人がたくさんいるように思えた。日曜日だからなのかもしれないけど、私と同い年くらいの若い世代や家族連れが大体を占めている。
ショッピングモールに行くのなら、地元にある駅前で済ませばいいのだけど――今日は違う。今日は私にとって、特別な日なのです。
「それにしても、本当に良かったのか?ショッピングモールなんかで、もっと他にも楽しそうなところはあったと思うけど」
そう言って私の隣を歩くのは、私がマネージャーを務めるサッカー部のキャプテンで、二年生の先輩で――私の片思いの相手である榊原先輩。今日はいつも見る制服や練習着ではない、雑誌とかでよく見るようなおしゃれな私服姿。爽やかで優しい榊原先輩にとても良く似合っている服装で、さっきから上手く目が合わせられない!顔に出てないといいけど……
「い、いいえ!ここのショッピングモール、前から行きたいなって思ってましたので。それにこんな機会じゃないといけませんし」
「そうだな、音ノ葉駅から電車で約三〇分弱くらいだもんな。こんな遠出するなら地元で十分だし」
「だからその……今日は、で、でででデートのこと!引き受けてくださりありがとうございます!」
デートという単語を口にするのが恥ずかしかった私は、勢いのまま先輩に頭を下げた。それより『くださり』って、勢い過ぎるよ私!
その様子を見て、先輩は楽しそうに笑った。それを聞いた私はさらに顔を真っ赤になる。ううっ、恥ずかしい。
「いや、気にしなくていいって。それに安西から言われたんだよ、立花のことをよろしく頼むって」
「安西君が?」
「ああ、電話越しで顔はどうだか知らないけど――あんなに真剣な安西は初めてな気がする」
安西君、そんなにこのデートのこと、真剣に考えてくれていたんだね。なんだか嬉しい、それに勇気も溢れてきた気がする。本当にありがとう安西君。このデート、絶対に成功させる!そのためにも、
「――さ、榊原先輩!」
「ん?」
優しそうな先輩の瞳が、私のことを真っ直ぐ見つめてくる。それだけでもドキドキが治まらない。今気づいたけど、私たちはホール内にある巨大な噴水の前で止まっていた。雰囲気も、なんだかいい感じ。今なら、今なら言える気がする。私の想いを――
「わ、私っ……」
水の流れる音が私と先輩の間に木霊する。言葉が詰まって上手く言い出せない。
好きです。
それが言いたい。
でも、不安が私の口を塞いでくる。
すると――
「立花……」
榊原先輩が、私の肩を掴んだ。
心臓が止まりそうになるほど、大きく鼓動する。
私の目には、先輩しか映らなくなった。
そして……
「トイレ行きたかったら、遠慮なく行っていいからな」
「…………………………はい」
先輩の手から解放された私は、真っ直ぐトイレに向かいました。
ごめんなさい安西君!不甲斐ない私を罵って!