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魔法少女ユウカちゃんの秘密  作者: 一二三五六
第一章 魔法少女ユウカちゃんの災難
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第一章10 『初体験はいつですか?』

「ただいまー」

「あっ、おかえりなさーい。学校大丈夫だった?」

「うん、校舎直ってたし、普通に授業だった」


 学校から帰宅して、リビングでお茶を飲みながらソファに座ってテレビを見ている母さんと、軽く会話をしながらキッチンの方へと向かう。今日は妙に喉が渇いたから麦茶でも飲もう。すると、キッチンから先客が出てきた。


「………………」


 妹の蜜柑だ。今日も今日とてすごい嫌そうな目で俺を見ている……だが俺はめげない!ちゃんと会話してみせる!


「た、ただいまー……」

「………………」


 俺のぎこちない挨拶を、蜜柑は華麗にスルー。何事もなかったかのように母さんの隣に座った。もう慣れっこ……慣れっこです。コップに麦茶を入れて、飲みながらリビングに戻ると、テレビにユウカが映っていたので思わず噴き出しそうになった。やっぱり何度見ても慣れないな。


「あっ、そうそう聞いてお母さん!今日学校でクラスのみんなからユウカちゃんに似てるって言われちゃった!」

「あらそうなの?良かったわね~」


 まあ、そりゃ似てるだろうな。俺の妹だし。


「実は蜜柑ちゃんが魔法少女なんじゃないの?って、私も魔法使いたいなー」


 昨日の朝、俺を避けずに外に出てればそうなっていたのにな。世の中不思議なもんだ。どこか達観しながら蜜柑たちの様子を見ていると、それに気づいた妹様がこっちを一瞥してから舌打ちをした。早く消えろと言いたいらしい。まあ言われなくても、用はもう済んでいる、さっさと出よう。


「あっ、ねぇ夕斗。マーチのエサ皿と首輪買っておいたから、部屋に行ったら付けてあげてー」

「了解」


 俺は軽く手を振ってからリビングを離れた。マーチは昨日帰ってきた時に拾った捨て犬ということで自分の部屋に飼っている。ということになっている。ウチの家族が動物好きで助かった。階段を上がって部屋に入ると、俺以外誰もいない。どこ行ったんだアイツ?もしかして犬らしく散歩でも行ったのか?でも、それなら好都合だ。これからすることはアイツにも見られたくないからな……


「――アフターグロー、セットアップ」


 唱えると同時にスフィアが起動、俺は一瞬にしてユウカに姿を変えた。自分の部屋でこの姿になるのは変な感じだ。


「さて、と……」


 俺は杖を机に立てかけて、スタンドミラーの前に近づく。シンプルなデザインをした縦長の鏡には、テレビで見るユウカの姿が映っている。


「んー……やっぱりこの姿は慣れないな。どうも自分だとは思えない」


 俺が動くと鏡の女の子も同じように動く、それに違和感しか覚えない。だが変にそこら辺を意識すると、また昨日のような矛盾で気持ち悪くなる。これも慣れていくしかないのかもしれないな。


「いやでもだよ?まさか自分が女の子になるとは思わないじゃん?それにこれって所謂女体化でしょ?漫画やラノベじゃあるまいし、普通なら有り得ないだろ」


 まるで目の前の女の子に話しかけているかのように、俺は独り言を呟く。それでも目の前にあるのが現実、俺は今女の子になってしまっているのだ。

 それにしても……


「……似てるな、蜜柑に」


 こう改めて見ると、顔の細部に違いはあるが大体蜜柑と同じ顔をしている。遺伝子で言えば俺と蜜柑は割と似ているのかもしれない。これを知ったらアイツは発狂しそうだけど。


「………えへへー………」


 鏡に向かって満面の笑みを浮かべた俺は、自分の取った行動に思わず項垂れた。

 えへへじゃねぇよ何してんだ俺は。ユウカの姿で笑ってみたら蜜柑が笑ってるように見えるかも?とか思ってんじゃねぇよ、悲しくなってくるわ。


「まぁでも……今のはなかなか可愛かったんじゃないだろうか」


 行動はともかく、笑った顔は可愛かった。俺じゃないと意識すれば。これは馬場たちがお祭り騒ぎするのも納得できる。


「ふむ……こう、かな……ん?それともこうか?」


 俺は独り言を呟きながら、鏡の前で思い思いのポーズを次々に取っていく。これは自分が可愛いから調子乗ってるわけじゃない。取材を受けた時に何回も写真を撮らせてほしいと言われたから、その練習だ。少し楽しんでたりとかは断じてしてない。


「しゃ、喋り方も変えた方がいいのか?まあ明らかに男っぽいのじゃ変だしな……」


 取材の時は思わず丁寧口調になってしまったが、子供なのだから普通に喋った方が違和感もないのかもしれない。とはいえ俺は男、女の子の喋り方なんてわかるわけがない。身近な女の子と言えば……


「愛華ちゃん――は、身近でいいのか?まだ同じクラスメイト程度の関係な気がするけど……愛華ちゃんしかわかるっていうか、出来そうな子がいないししょうがないか」


 俺は普段聞き耳を立てて聞いている愛華ちゃんの会話を元に、喋り方を頭の中で練り上げていく。


「私はユウカ、多分九歳の魔法少女!みんなよろしくね!…………うおおおおおおなんだこれ!?やってて恥ずかし!ていうか馬鹿じゃないの俺?気持ち悪っ」


 自分でやっておいてなんだけど、全身から鳥肌現れた。これはあれだ、我に帰ったら我慢できないタイプのやつだ。でもインタビューに答える時はあんな感じにやらないとダメなんだし、これも練習しておいた方がいいのか……?


「あっ、そうだ」


 あることを思いついた俺は、ベッドの上に放り投げていた鞄の中からスマートフォンを取り出し、画面を操作する。そしてスマートフォンの裏をこっちに向けるよう机の上に設置して、ボタンを押した。


「――おっほん、えー初めまして!私はユウカ、魔法少女派遣センターで働く魔法少女!好きな食べ物は……えーと――あっ、好きな食べ物はショートケーキで、青じそがちょっと苦手かな。私が使う魔法は融合魔法で、あまり役に立つかわからないんだけど、それでも一生懸命頑張ります!みんな応援してね!…………よしオッケー」


 停止ボタンを押してからスマートフォンを回収し、映像を再生した………うん、やっぱり違和感丸出しだ。こんなのじゃあ全国のオタクたちに怪しまれるな――今度は少し変えてみよう。


「――みなさんこんにちは♪どんなものでもまぜまぜミックス!会いに行ける魔法少女、ユウカです♪ユウカは魔法少女になったばかりで、とても小さくて、怪物さんと戦うのもすごく怖いけど……お兄ちゃんたちが応援してくれるから、ユウカは怖くありません♪だから、これからもユウカのことを――いっぱい応援してね♡」


 再び停止ボタンを押して、撮った映像を再生する――よし、これは俺じゃないと思いながら見れば可愛いな。すごいわざとらしいアイドルみたいになったけど。このくらいの方が受けがいいだろう。よし、今度はちょっと今のにアレンジを加えて――、


「……何してるの?」


 その声を聞いた俺は、心臓が止まりそうになった。気が付けば、部屋のドアを開けて入ってきたマーチが、呆れた顔でこっちを見ていた。俺はとりあえず部屋のドアを閉めた、このままだと妹たちにもバレるかもしれないからな。俺はしっかりドアを閉めたことを確認してたから、マーチの首を掴んだ。


「お前、ノックって言葉知ってるか?」

「ちょっ、なんで僕が怒られてるの!?普通あんなことしてるとか思わないでしょ!?」

「わあああああああああああああ!!くっそ、見られたああああああ!!」


 マーチを投げ捨てベッドにダイビングした俺は、ゴロゴロと転がりながら顔を抑えた。今思えば今まで本当に何してたんだ俺は!なんだあのセリフ!すっごい恥ずかしいんだけど!あんなの人前でやろうとしてたのか!?うわああああああああああああああああああああああ!!!


「いやー君って変なところ真面目だね?それともそういうのが好きだったりする?」

「んなわけないだろ!バレたらまずいから取材された時とかテレビに出た時の練習みたいなことしてただけだ!」

「うんうん、いいんじゃないかな、さっきは何してんだこいつキモって思ってたけど、自分からそういう努力をするのはとてもいいことだと思うよ」

「おい、今サラッと本音言ったろ!やっぱり変に思ってただろ!」


 くそぅ、こんな奴に変だと思われるとか、屈辱もいいところだ。変なことしてたのは棚上げにするけど。俺の言葉に耳を貸さず、マーチは俺の椅子を押してベッドの前まで持ってきた。


「それじゃあ僕も、そんな君に協力してあげようかな」

「何する気だよ」

「僕がインタビューをする人になって君に色々質問するから、それに女の子らしく答えてくれ。できてなかったら僕の方からアドバイスするから」


 そういうとマーチは、俺のスマートフォンを前足で持って、椅子の上に座った。まあ正直一人じゃ限界があったし、協力してくれるっていうならありがたい。ここはお言葉に甘えよう。


「それではお名前を教えてください」

「はい、えーと魔法少女のユウカです」

「それって偽名だよね?本当はなんていうの?」

「それは規則なので教えられません♪」


 こういう質問も来るんだろうな。流石はサポーター、そこら辺は熟知してるな。


「ユウカちゃんは何歳なのかな?」

「えーと――九歳です」

「へぇ、若いんだね」

「わ、若い?そうですね、確かに若いですけど」

「それじゃあ初めてはいつ――」

「おい待てアホ犬」


 俺はスマートフォンを抑えて質問を止めた。


「今の質問はなんだ、初めてって何がだ」

「いやほら、初めて魔法を使ったのはいつですかって質問だよ。それとも夕斗は他の初めてだと思ったの?ぷふっ、流石は初心ちゃんだね」

「はぁ!?べべべ別にそんな、わかってたに決まってるだろ!」


 このクソ犬、間際らしい言い方しやがって――だが今のは俺が悪いかもな、変な質問だって勘違いしたのは俺だし、いつもこいつの所為にするのは良くないな。


「それにしてもその服装、とても可愛らしいね。似合ってるよ」

「えへへ、ありがとうございます」

「でも少しサイズ小さいんじゃないかな?」

「えっ、そうですか?」

「うん、特に胸のところとか――あっ、もしかしてそっちの方が大きいのかも。ちょっと脱いでみて――」

「ダブルマター・フュージョニウム!ツッコミハンマー!!」


 これ以降、俺は融合速度を速めることができるようになりました。

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