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松江ディストーション  作者: 二宮花太郎
6/7

団欒

「ただいま。」

刀華を無事に送り届け、椿はようやく自分の家に帰ってきたのだ。

椿は玄関で靴を脱ぐと、明かりもつけずにリビングのソファーに腰かけた。

「はぁ…さすがに疲れたな。」

なんとなしにテレビをつけると今朝の事件を報道しているニュース番組がちょうどやっていた。

ニュースキャスターのお姉さんが、この事件が契約者によってもたらされたこと、犯人の目的、および意図は不明な事、そして幸運にも死人や怪我人はいないとの事を報道していた。

「怪我人ねぇ。」

椿は、頭から血を流し、その身を挺し自分たちを守ってくれた親友の事を思い返していた。

「あいつ大丈夫かなぁ。」

いくら吸血鬼の体と言っても、旭は女の子である。

「電話なんかかけない方がいいか…。」

椿はテレビの電源を消すと、ソファーから立ち上がり冷蔵庫に向かった。

「今日はこれでも食べるか。」

慣れた手つきでレトルト食品を器に移し、レンジのスイッチをつけた。

レンジで温めている内に、スプーンとコップを用意し、そのコップにオレンジジュースを注ぐ。電子レンジがチーンと音を立て、料理が出来上がった事を椿に伝える。


椿はそれを持つと、リビングに並べられた椅子に座り、容器を机の上に置いた。机には、椿が座っている席意外に三つ、並んでいた。しかし、その席には誰も座っていない。

「いただきます。」

椿が、スプーンを手に取り、ご飯を口に運ぶとリビングの扉が開く音がした。

「なんだ…ぼたん、いたのか?」

「……何?悪い?」

「いや、別にそこまでは言って無いけど。」

「じゃあ話しかけんな…クソが。」

「はいはい、ごめんね。お兄ちゃんが悪かったよ。」

「ちっ。」


 目の下に大きなくま、ぼさぼさの頭、血色の悪い肌、上下スエット。この引き込もりの女の子は椿の妹の鞘桜ぼたんである。昔は、よく笑う可愛い女の子だったが、ある出来事がきっかけで部屋に引きこもってしまったのだ。それ以来、学校にもろくに行かず、部屋に引きこもっている。

「ぼたん、どうだ?一緒にご飯でも。」

「一緒に?冗談言わないでよ。死んでも嫌よ。話しかけないで」

ぼたんは、冷蔵庫を開けると中からゼリー飲料を取り出し、数秒で飲み干すと椿に背を向けリビングから出ていってしまった。


椿は何も言えず、ただその背中を見ていた。

「はぁ…久しぶりに出てきたと思ったらこれだよ……。」

椿は、がっくりと肩を落とすと戸棚の上に置いてある額縁を見つめた。

そこには、昔家族みんなで撮った家族写真が飾ってあった。しかし、額縁にはヒビが入っていて、ぼたんと椿の顔以外は綺麗に見ることが出来ない。椿は食事を中断し、その額縁を手に取った。

「もう限界だ。もう僕にはあいつを、この家を守ることが出来ない。だから―。」

椿は大粒の涙を流し、その場に崩れた。

「早く帰ってきてくれ、かあさん。」


 誰もいないリビングで椿は声を押し殺し泣いた。


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