青春
「椿ちゃん!おっはよ~!今日もあなたの刀華が健気に起こしに来てあげたよ!」
始業30分前だというのに、布団にミノムシの様にくるまり寝ている男の布団を一人の少女が引っぺがした。蓑を取られてしまった男、鞘桜椿は目を半開きにして、むにゃむにゃと寝言を吐いている。
「あと3年…。」
「そんなに寝たら刀華達卒業しちゃうよ!」
「じゃあ…あと3日―」
真宵坂刀華は椿の寝言を無視し、容赦なくカーテンを開いた。依然ベッドの上で丸くなっている椿の全身に日の光が容赦なく襲いかかる。椿は幼馴染の無慈悲な仕打ちに悶え、ベッドの上でのた打ち回った。
「うわああああああああ!目が…目がああああ!」
「さあ、早く起きて椿ちゃん。バカなことを言っていると刀華、刀華…自分の本能を抑えきれずにメスとしての自分が目覚めて…」
刀華は頬を赤らめて、寝ている椿の上にまたがりブラウスのボタンに手をかけた。
「授業には遅れちゃうかもね。てへへ」
「やめんか。」
椿は刀華の襲撃をチョップすることで制止しすることに成功し、刀華は椿の上で「ぐえ~」と悲鳴?をあげ、椿に覆いかぶさるように倒れた。
椿は、自分の上で寝ている幼馴染を押しのけ、クローゼットにある国立朝雲学園高等部の制服に手をかけた。
「おい早く起きろ、バスもう来るぞ。」
「ぐぬぬ~さっきまで寝てたくせに~」
「おかげで目が覚めたよ。早くブレザーを羽織ってくれ刀華。」
「ぬぅ…」
刀華は、そさくさとブレザーを羽織ると椿の後ろについて行った。
椿達の通う朝霞学園は島根県松江市にある国立高校である。十年前、世界全域を巻き込んだ大異変「水無月の災」の影響を受け、日本政府が大異変の中心、そして世界の中心ともなった島根県松江市に設立した学校である。
なぜ、こんな学校を日本政府自らが設立したのかと言うと、水無月の災の中心である松江市に学園を創ることで、その地域に住む学生の学力水準を底上げし、大異変の起こった後の世界でも、活躍し、世界を牽引するような人物の育成を目的として国が掲げたからである。
しかし、一方では水無月の災が起こった地域に住んでいる大学生や高校生、それから中学生といったような学生の生活の管理と調査が真の目的ではないかとも言われている。
そのため、十年前には県内にも沢山あった学園機関も全て廃校となり、島根県内にある小、中、高、大の教育機関は松江市内にあるものだけとなってしまった。そのため、島根県内の全ての学生はここ松江市で下宿をしたり、寮生活をして学問や部活に勤しんでいる。
なぜこのように政府は若者を限定し、管理し、統括しているのか、それにはきちんとした理由が存在する。
それは水無月の災を起こしたとされる八人目の契約者、通称「捌式」が原因である。
本来、最高神である天照大御神が選択した人間、最高神に選ばれた人間、いわゆる契約者というのは七人というのがこの世の理であり、真理だった。
契約者というのは、天照大御神が無作為に選別した人間の事を指し、契約者になったものは、各々天照大御神が与えた神々と契約し、そして天照大御神が指し示す使命を契約した神々と共に果たす。
その見返りとして、契約者に選ばれた人間は契約した神の力を用い、願いを一つなんでも叶える事が出来るのだ。
あるものは殺戮を、あるものは再生を。
彼らがなすことは全て天照大御神の啓示に赴くままである。
しかし、十年前の六月二十六日。
世界に異変が起こる。
いるはずのない、いてはならない八人目の契約者が出現したのだ。
理を外れた者の存在は世界を揺るがす。この契約者の出現により水無月の災が起こってしまった。
この事態を憂慮した日本政府は、水無月の災を巻き起こした八人目の契約者、通称、捌式を国家指名手配犯とし、警察機関である松江町奉行には見つけ次第、有無を言わさず射殺するようにと命令が下された。平和的な国家だと世界中で有名だった日本政府のこの対応に世界中が驚愕したというのも有名な話だ。
そして、その捌式というのは、十代前半から二十代前半のおそらく若者であるというのが日本政府の見解である。これは、いち早く異変を察知した日本政府が衛星から松江市を撮影した際に、異変が起こった中心と思われる地点に一組の若い男女が写っていたことに起因している。しかし、肝心の捌式の顔の方は、衛星写真による撮影であり頭上しか映すことが出来ず、残念ながら人物を断定できるほどの情報は十年たった今でも未だにない。無論若者であると断定することも出来ないため、若者以外の多くの人々の生活も制限されている。そもそも、この情報自体不明瞭な点が多く存在するために、この見解に対して疑問を抱いている者も少なくはない。
要するに、捌式の存在すら妖しいのだ
日本政府は、水無月の災が起こった翌日には、島根県の周りに何重もの関門を設けて、島根県を完全に日本から隔離した。そのため、島根県内にいる人間や水無月の災が原因で生まれた妖怪などの生活にはかなりの制限がつけられている。それに加え、島根県内に出入りするためには何重にも及ぶ厳正な検査と通行パスポートが必要になってしまった。
「はぁ…。」
ため息を吐きながら椿は学園の制服に袖を通す。それからGPS機能が付いた政府指定の腕時計を左腕につけた。この腕時計により、日本政府には彼らの生活範囲や、生活時間帯が全て把握されている。すこしでもおかしな挙動を見せた者は、町奉行により強制的に連行され、じっくり取り調べを受けさせられる。
トースト二枚を早々と食べ、椿は刀華と共に家を出た。
「毎朝、起こしに来てくれてありがとな、刀華。」
「別にいいよ~。刀華は朝稽古するために毎朝早く起きるけん。」
椿の幼馴染である真宵坂刀華はこの学園に入学してからほぼ毎日、朝の弱い椿を起こしに来る優しく面倒見の良い子だ。刀華も椿と同じく水無月の災が起こった時に松江で暮らしていたため、朝雲学園での生活を余儀なくされている身だ。
「それにしても、いつも思うけど、よくその目で剣道とか出来るな。素直に関心するわ。」
「つ、椿ちゃんだって、眼鏡かけているじゃん!」
「僕の場合は目が悪いってだけで、眼鏡をかければ見えるけど、お前の場合はそういう次元の話じゃないだろ?」
「まぁ、そうだけどさ~。」
刀華は寝むっているわけでもないのに、その目を開かず、ぴっしりと閉じていた。彼女の右手には白状がしっかりと握られている。
「どうやったら、目が見えなくても相手の攻撃を受け、勝つことができるんだ?」
「う~ん。口で説明するのは、なんというか難しいんだけど…。」
刀華はそういうと口に手を当て、考え込んでしまった。椿は、変なこと聞いてしまったかなぁと思い、頭をぼりぼりと掻いた。
「あっ!椿ちゃん…今、頭掻いたでしょ?」
「な、なぜわかった…」
「やっぱり~!」
「音でも聞こえたのか?」
「う~ん、なんというか直感みたいなものだよ。音もだいぶ聞こえているけどね。」
「そんな非科学的なもので、よくわかるな。」
「愛の力はすごいってことだね。ほらほら、そんな話しているとバスが行っちゃうよ!また柊先生に怒られちゃうよ!」
「確かにそうだな。急ぐぞ」
椿は、刀華の手を掴み少しだけ駆け足になった。
「つ、つつつ椿ちゃん!?ど、どどどうしたの!?」
「ん?こっちの方が速いだろ?」
「ひ、一人で走れるから離して!」
「だめだ。絶対こっちの方が速いし、なにより安全だ。黙って僕に従え。」
「うぅ~。」
椿は嫌がる刀華の手を半ば強引に掴み、そのままバス停のある坂道を駆けて行った。
バス停に着くと刀華は息を整えるために深呼吸を何度もしていた。
バス停には椿たちの他にも多くの学生が単語帳を読んだり、音楽プレイヤーで音楽を聴いたりしていた。どうやらまだバスは来ていないようだ。
「ごめんな、刀華。そんなに顔を真っ赤にして……。」
「そ、そうだよ…あんなこといきなりされても心の準備が……。」
「まさかお前にそんな体力がないとは思わなかった、ごめん!」
「そ、そういうことじゃないよ!」
刀華は椿の見当違いの謝罪に対し、怒ったのか椿のすねを思い切り蹴っ飛ばした。
あまりの痛みに椿はすねを押さえて、その場にうずくまった。
「ぐおお…。何もそこまで怒らなくても良いだろ?…」
「ばか…。」とだけ言って刀華はそっぽを向いてしまった。
刀華が機嫌を損ね、拗ねているとバス停の人ごみの中から声がした。
「おうおうおう、今日も朝からイチャイチャしてますな~お二人とも。」
燃える様な真っ赤な髪をたなびかせ、椿達に近づいてくる女がいた。
「なんだ、旭か。」
「なんだとはなんだよ。私達親友だろ?なぁ?椿。」
「そうだっけ?」
「おいおい、ひでぇな。」
「冗談だよ……多分。」
「ふっ、そいつは冗談きついぜ…」
「それは、そうと旭、珍しいな。朝(、)から(、、)その姿だなんて。」
「いや~今日の朝まで署で缶詰でな~契約者が出たとか出ないとかで朝まで会議。そのままここに来たから―」
「えいっ。」
「うわっ!バカ!急にさわんじゃねえ―」
椿が旭の肩に触れた途端、髪の毛からどんどんと赤みが引き、腰ほどまであった長い髪が、肩のあたりまで短くなり真っ黒な髪になった。人間に戻った旭は、恥ずかしそうにモジモジしだした。
「もう椿君のバカ!いきなり触らないでよ!」
「ははは…ごめん、ごめん……それよりも旭、その胸元隠した方がいいぞ。」
「えっ?…。」
椿ががっつりと開いた胸元を指さし忠告すると、旭はワイシャツのボタンが開いているのに気付き、顔を真っ赤にし、椿の顔に痛烈な平手打ちをお見舞いした。
「へへへ変態!どこ見てんのよ!な、な、殴るわよ!」
「……気のせいかもう殴られている気がするんだが…。相変わらず難儀な体質だな旭」
「もう!椿君のバカ!」
旭は怒ってそっぽを向いてしまった。
「おはよう!旭っち!今日も可愛いね!」
「と、ととと刀華ちゃん!?おおおはよう!」
旭は刀華がいたことに驚くと、さっと椿の後ろに隠れた。
「むふふ…その初々しい反応……思わず涎が出ちまうな…さてどこから揉みしだいてあげようか…いっひひ…」
刀華が手をゾンビの様にぶらぶらさせて旭に近づいてきた。
「ひいい!」
「ああ!なんて可愛い生き物なの!もう抱きしめて愛でずにはいられないな!」
「やめろ。」
なぜか制服のブレーザーを脱ぎ捨て、抱き着こうとする刀華の頭にチョップをくらわせた。
「ぐえっ!」
「お前が変な事言うから旭が怖がってるじゃねえか。」
「ぶう~。だって旭っちが可愛いんだもん。」
「お前ってやつはまったく…。」
そんなやり取りをしている内に、バス停にバスが到着した。学園直通の市営バスだ。十年前では考えられなかったが、山陰地方などと陰険な名前を付けられ、挙句の果てには砂丘の無い方などと言われていた島根県は日本の中心どころか、世界の中心となった。世界中から水無月の災を究明し、なぞを解き明かそうと躍起になっている研究者や、逆に水無月の災を一つのビジネスチャンスと考え、多くの商社がここ島根県松江市に集結した。厳正な入県審査があるにも関わらず、人口が激増し昔の過疎地域の名残は、もはや微塵も感じられない。
今、椿たちが乗っているバスにも最先端の技術が搭載されており、運転手がいなくても運航できるオートパイロットが搭載されている。そのため、運転手はおらず、バス内には朝霞学園に向かう学生しか乗っていない。座席が二つしか開いていなかったので、刀華と旭を座らせて椿は吊革につかまった。旭は刀華との間に鞄を置き、刀華と触れないようにしている。
「ごめんね…刀華ちゃん。別に嫌いってわけじゃないの……私がこんな体質なばっかりに…ごめんね…。」
旭は目を伏せ俯いてしまった。隣で刀華は旭のそんな雰囲気を感じ取ったのか、にっこりと笑ってみせた。
「大丈夫だよ!刀華、目見えないし、鞄が間にあることさえもそんなこと言われなかったら気付かなかったぐらいだよ!なはははは!」
旭は、本当に申し訳なさそうに、刀華に向かって深く頭を下げた。
椿が、友人二人の会話を何気なく見ていたそんな時だった。
刀華がにこにこと笑っているちょうど後ろの窓の向こうで突然、爆炎があがった。数秒遅れて爆音と爆風が轟き、バスの車体が横に大きく揺れた。
バスが急ブレーキをし、警告灯がともり、バスの中が警告灯で赤く染まった。旭は刀華を守るように覆いかぶさり、椿は吹き飛ばされないように吊革に必死に捕まった。
バスの中はパニックに陥り、乗客は騒然としている。
「だ、大丈夫か!二人とも!」
刀華と旭を見ると、ちょうど目の見えない刀華を抑え込む様な形で旭が刀華の上に覆いかぶさっていた。旭は赤髪の吸血鬼の姿に変身していた。
「いてて…あたしも刀華も何とか大丈夫だ。」
旭はそう言ったが、急ブレーキした時に前の座席で頭をぶつけたのか、頭から少し血を流していた。
「お、おい!頭、怪我してるぞ!」
「ん?ああ、このくらいの怪我なら大丈夫だ、問題ない。それよりも一刻も早くこの場所から離れろ椿…」
頭を押さえながら旭は先ほどの軽薄な表情から、険しい鋭い顔つきを見せた。
「この力の感じ…間違いない、契約者だ。」
「なんだと…」
「あたし自身が避難させてやりたいのは山々なんだが、状況が状況だ。ここは奉行所からもかなり離れている。あたしが直接止めに行くしかなさそうだ。だから、ごめん。」
旭はそう言うと座席から立ち上がりバスの中にいる学生たちに告げた。
「皆さん、落ち着いてください。私は松江町奉行の二級捜査官の那須野旭です。現在この地域に松江市から危険退避命令が出ています。皆さんには速やかにこのバスから避難区への退避をお願い致します。今、私が署の方へ応援を要請しましたので救助のロボットがすぐに来てくれるので、そのロボットの指示に従ってください。」
旭がそう言うが早く、バスの周りに続々と松江市が派遣してきた救助ロボが集結し、中から、椿達が出てくるのを待っていた。
「では、みなさん、どうか落ち着いて、焦らずゆっくりと避難してください。」
椿達は、旭の指示に従いバスから降りる準備をした。椿が刀華と旭の鞄を持ち、刀華の手を握ると刀華の手は汗ばみ、震えていた。
「つ、椿ちゃん…。」
刀華の顔は青ざめて恐怖の色に満ちている。
「大丈夫だ。お前だけは僕が絶対に守って見せる。だから心配するな。」
椿が、そう言うと安心したのか刀華は「うん!」と言い、椿の手を強く握り返した。
椿は、そのまま刀華の手を取るとバスの降車口へと急いだ。どうやら他の乗客はもうバスから降りているようで車内には椿と刀華。それから携帯電話を握りしめ、険しい顔をした旭しか残っていないようだ。どうやら本部の人間とメールで連絡を取っている様だった。
「旭…。」
「ん?お前らまだいたのかよ。早く避難しろ、邪魔だ。」
「ああ…そうさせてもらうよ。」
椿達は降車口から外に向かった。バスを降りた後、椿は旭の方へと振り返った。
「旭、授業には遅れるなよ。柊先生にまた怒られるぞ。」
「はっはっは!そうさせてもらうよ。」
「仕事終わらせたらすぐに戻ってこい。欠席なんかしたら承知しないからな。」
「お~怖い怖い。生徒(、、)会長(、、)様(、)には逆らえませんな~。」
「ふん。そういうことだ。また学校でな。」
と言おうとした瞬間だった。
「椿!伏せろ!」
突然、旭が椿と刀華のいる方へと飛び込み、椿達の上に覆いかぶさった。
三人の上をすれすれの距離でビルの車の車体が通り過ぎた。
そのまま車は近くに待機していたロボットに激突し、ロボットたちは無残にもバラバラになってしまった。
「くっそ…派手にやりやがって……。」
突然の出来事に対応できず、椿が口をパクパクさせていると旭の平手が僕の頬を直撃した。
「おい!しかっりしろ!お前がそんなんで誰が刀華を守ってやるんだ!」
「ああ…すまない……。」
我を取り戻し、冷静になった椿は旭の手を取った。
「よし!立てるか?」
「ああ」
「それなら、今すぐここから離れるんだ。いいか?絶対に振り返るなよ、絶対にだ。」
「ああ、わかった。刀華、行くぞ!」
「う、うん。」
椿は、刀華の手を握ったまま道路を一直線に駈け出した。
「あらあら、逃げられては困りますわ。」
何事かと声のする方を向いた瞬間、椿達の目の前に真っ黒な着物をまとい、真っ黒な髪をはためかせた女性が舞い降りた。年は椿達と同じか少し上ぐらいに見える。
「突然で申し訳ありませんが、あなたには死んでもらいますわね。」
「え?」
その女性が椿の心臓を素手で貫こうとしたのを、寸前で旭が大きく広げた翼で弾き返した。
「旭!」
「振り返るなって言っただろうがバカ野郎!こいつはあたしが引き受ける!」
旭がもう一度、その羽で黒髪の女性を引き裂こうとすると、女性はふわりと宙に舞い、そのまま空中を浮遊した。
「あらあら、乱暴な方ね。あたくし、粗暴な方はあまり好みではないのよ。」
「そいつは、残念だったな。あいにく人間の時とは違って今のあたしは、がさつなんだよ。それより契約者、てめぇなんで椿を殺そうとした。」
女は眉一つ動かさず、答えた。
「暇つぶし。」
「なにぃ?」
「今日は、六月六日…六+六は十二よね。だから十二人殺そう、いやころさないといけないの。だから邪魔しないでくださる?野蛮で粗暴な吸血鬼さん!」
その女性は、旭の後ろに散らばっていたロボットの残骸をふわふわと宙に浮かせ、旭に目がけて飛ばしてきた。
旭はそれを難なく羽で弾き飛ばした。
「ふん。それがお前の能力か。」
「そう。これが我が契約の力『絶対隷奴』有する能力は重力の様な物体に働く力全ての掌握。貴方のその矮小な羽で、あたくしの攻撃を、この星の愛を受けきれるかしら!」
そう叫ぶと同時にロボットの無数の破片がまるで隕石の様に旭に目がけ放たれた。
ロボットが旭にあたる瞬間、旭は自らの羽で体を包みその攻撃を防ごうとした。
「そんなもので防ぎきれるほど、あたくしの攻撃は甘くなくてよ!」
契約者は自らの右腕を天高く掲げると、旭の体が何かの力で押しつぶされた
「ぐぅ…。」
旭は道路の上に強制的にひざまずかされ、旭が膝をついたその瞬間、ロボットの欠片が旭に直撃した。
その攻撃の威力のすさまじさに椿は言葉を失った。
あたりは砂埃に包まれ、椿から旭の無事を確認することは困難だった。椿は、旭の安否を確認するため砂埃に向け叫んだ。
「おい!旭、大丈夫か!返事しろ!」
椿の叫びだけが空しく道路上にこだまする。
「くっそ…刀華、いいか?ここを絶対に離れるなよ!」
椿は握りしめていた刀華の手を放した。
「ええ!ダメだよ、椿ちゃん!危ないよ!」
椿が旭の許へと駆けつけるため刀華の制止を振り切り、砂埃の中心に駈け出そうとした瞬間、目の前に突然、契約者が現れ、椿の行く手を阻んだ。
「無駄ですわ。あの吸血鬼はもう死にました。」
「そんなのまだ分かんねえだろ!そこをどけ!」
椿が契約者を押しのけ、横を通り過ぎようとした、その瞬間、楓は日本刀を椿の首元、ちょうど頸動脈のあたりにその刃を立てた。
「むこうに行ったら、先ほどの吸血鬼さんに言伝してもらえます?あなたは面白くもなんともない卑しく汚らわしいただの淫乱女でしたってね。」
「なっ…。」
楓が、椿の喉元を掻き切ろうとした時、契約者はとてつもない殺気に襲われ、瞬間その動きを止めた。一体誰がと思った時にはすでに旭の攻撃が放たれていた。
旭の吸血鬼化した時の最大の武器は、その速さである。
最高速度時速三百キロを超える途方の無いスピード。
そのスピードを自身の右手に乗せた右ストレートを放った。
「あたしの友達に手を出すんじゃねえよ!」