ハッピー『トリガー』ハロウィン
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ……、分かってるわよね?」
突然、教室に美少女が現れると、俺たちに銃口を向け、そう言い放った。空気が一瞬静まる。
いったいどうなっているんだ。
「いきなり現れてそう言われてもな~。見知らない誰かさんに渡すお菓子なんてねえよ。例えハロ――」
「ぱ~んっ♪ もひとつおまけにぱ~んっ♪」
一人勇敢な若者(クラスメイトにその評し方は色々おかしいかもしれないが)が少女を追い返そうとしたが、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。――少女が手に持つ銃の引き金を引いたからだ。
銃口から解き放たれた銃弾は易々とクラスメイトの眉間に当たり……鮮血の花を咲かせた。それと同時に、もう一発、放たれた弾丸が別の女性との心臓近くに当たり、同じようなザクロの花を咲かせて倒れる。
再び静まる教室。だがそれは、先ほどとは違った静寂だ、嵐の前の静けさという名の静けさである。
「「「きゃぁあああああああああああああああああああ!?」」」
たちどころに上がる悲鳴。恐怖で動転する教室。撃たれた者たちは力なく倒れ、指一つ動かすことはなかった。
何が起こっている。撃たれた、それは分かっている。しかし、動かないということが室内に混乱を巻き起こしている。
「もう一度言うよ? トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ……、分かってるわよね?」
彼女が再び先ほどの言葉を話す。……今度は誰も彼女に逆らわなかった。
……俺、お菓子今持っていないんだが。撃たれろと?
結果、この『ハッピートリガーハロウィン』事件は100人を超える被害者を生んだ。
結局警察は彼女を捕まえることができず、まるで最初からいなかったかのように彼女は姿を消した。
被害者数はとんでもなかったが……死亡者は驚くことに誰もいなかった。
次の日、俺たちは何事もなかったかのように目覚めたのだ。……そもそも、地も流れておらず、心臓も止まってすらいなかったのだ。
血のように見えたのは、ただのチョコレートだった。
医者の言う限りでは、一種の催眠術ではないか、ということらしい。
これはのちに俺の学校の七不思議となった。……来年、再び彼女が現れることを、俺たちはまだ知らない。