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Seal GAME  作者: 赤井トマト
一章
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一章 ⑤


「うあ……」


 瞼越しに強い光を感じて目が覚めた。

 空は橙色に染まっていて、ちょうど私の頭のほうに日が沈んでいる。

 あー、身体がなんか全体的にだるい。あれだ、休みの日とかに調子に乗って寝すぎてたのと似た感じ。ちょっと頭も痛いかも。

 ゆっくりと身体を起こすと首とか肩あたり変な痛みを感じた。寝違えたかな。


「……起きた」


 しかし鈴の転がるようなかわいい声色に、身体のダルさや痛みは気にならなくなった。


「カノンちゃん!」


 立ち上がり声の主を探すと、落下防止の鉄柵の上にちょこんと座っている最愛の人発見! 

 美少女であることと夕日に照らされて煌く蜂蜜色の髪が相まって、もうまるで妖精か天使かというような幻想的な雰囲気がしてなんかもうやばい。


「……長い。寝過ぎ。」

「ごめんね! おはよう!」


 非難されてるみたいだけど別にいいの。寝て、目が覚めたらそこに大好きなカノンちゃんが居た! この喜びの前に大抵の物事はウーロン茶だと思ったら麦茶だった並に超些末。

 ああ、けど惜しいなぁ。カノンちゃんの服装はフリルのあしらわれたドレスみたいな格好で、スカートの丈は膝下まである程度には長い。これがミニスカートだったら見えるか見ないかのチラリズムを堪能できたのにっ!


「……ポイント、幾つ、消費した?」

「え? ……あ、」


 その言葉で自分がなんでこんな場所で寝ていたのかを思い出す。

 そうだ、私はあのお姉さんに負けたんだ……。

 まるで現実逃避のように舞い上がっていたテンションが一気に冷めていく。

 カノンちゃんの表情はいつもと変わらない無表情。金色の瞳からもなんの感情も窺えない。

 気落ちしつつスカートのポケットからケータイを取り出し、アプリを起動する。

 いつの間にかインストールされていたアプリケーション。招待状とともに勝手にインストールされるコレは、端末の性能に左右されるとはいえ基本的に全プレイヤー共通のものだという。

 私のケータイの型が古いせいだろう、起動にはやや時間がある。大した時間ではない。きっと一分も掛からないだろう。それでも、ちょっとだけこの待ち時間が長く感じる。

 カノンちゃんは変わらずぼんやりとした瞳でどこかを見ている。私はカノンちゃんの前にいるけど、彼女の視線はきっと私を捉えてなんかいない。何処も見ていないか、何処とも知れない場所を見ているのだろう。

 昨日から今日にかけて私とカノンちゃんが交わした言葉は多くない。

 カノンちゃんは口数が多くない。というかはっきりと無口だ。

 私は私で、カノンちゃんといっぱいお喋りをしたいという気持ちばかりが先走りすぎてナニを話せばいいのかが解からず、言葉が出ない。しかも相手は一目惚れなんて初めての体験をした相手だ。なおさらだった。

 さらに言うとカノンちゃんからはどこか他人を拒絶している風な気配すら感じられる。

もちろん私の錯覚かもしれない。けど、纏っている雰囲気というのか、そういうのが話しかけ辛さを感じているのは事実だ。

 だからほんの些細な切欠でもいいから、話のタネになることを期待していた。

 勝てば、きっともっとたくさんお喋りができるかなって、そう期待した。

 ケータイからアプリの起動を告げる音がした。


「……最新の、対戦履歴、を見て」


 言われた通りに操作して最新の履歴を参照する。

 そう言えばこのアプリをまだ詳しく使ってみたことがなかったっけ。ルールブック読むのに忙しかったとはいえ、アプリで具体的に何ができるのか実際に使ってちゃんと知っておいた方が良いだろう。今日の夜あたり、いろいろいじってみよう。

 おっと。そんなことより、今はと。 

 ずり落ちた看板のように傾いたボロ板みたいなエフェクトのなされたYou Loose...の文字。スクロールすると対戦相手だったあのお姉さんのだろう名前と、私の名前が載っていた。

 お、おりか? でいいのかな? 織珂・ライム・クライム。それがあのお姉さんの名前らしい。見た目日本人風だったけど、ハーフとかだったんだろうか。

 さらにスクロールするとpenalty/-256pの文字。そしてその下には1408pという数字。

 たぶんこれが私の今回の損失ポイントと現在の手持ちポイントなのだろう。


「……どう?」

「うん、256pマイナスされちゃった」


 努めて明るく言ってみる。負けは負けだ。いつまでもくよくよしても仕方ない。それに負けた自分を励ましてもらう、なんてつまらない気の使い方をカノンちゃんにして欲しくない。

 それに今回負けはしたけどわかったことも多い。これは今後にとってきっとプラスになるはずだ。


「……そう。じゃあ、ショップ、行こ」

「え? けど私のポイントだと何も買えないよ?」


 カノンちゃんは昨日買い物は済ませてたはずだし。


「……奢る。貴女には、色々なものが、圧倒的に、足りない。……だから、それを、まずは、補うべき」


 カノンちゃんはそう言うと、羽毛のような身軽さで華麗に腰掛けていた柵から降りた。そのまま私をじぃっと見つめると、ふいと顔をそらしてしまった。

 やだ、顔が熱い。好きな人に一瞬でも見つめられるだけでこんなにときめくものなんだ……。


「……その後は、少しだけ、特訓」


 それだけ言うとカノンちゃんはさっさと歩き出し、屋上を出て行ってしまった。

 にやけた顔のまま急いで後を追う。

 あ。そう言えば今日もまた午後の授業をぶっちしてしまった。

 さすがにいい加減やばいなぁと、そんなことを思いつつも、その考えはカノンちゃんの台詞に埋没してしまう。

 特訓。カノンちゃんはそう言っていた。カノンちゃんと二人きりで特訓! これはイベントフラグ! それがどんなものなかはわからないが、それでも自然と脚が軽やかになった。


掲示された四月のシフト表が絶望的で泣いた。

給料が増えて嬉しい反面、執筆時間が削られるのは痛い。

ぐぬぬ……。


感想、評価、批評、受け付けています。辛口でも一向に構いません。よろしくお願いします。

また、いつも読んで下さっている皆さん、ありがとうございます。

昨日今日とこの調子で、明日も投稿できるといいなぁ

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