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Seal GAME  作者: 赤井トマト
プロローグ
3/8

プロローグ ③

「……んあ」


 耳朶を叩くチャイムの音に、沈んでいた意識が浮上する。


「うっわ、ウソ!? もう夕方じゃん!」


 空がオレンジ色になっていた。

 どうやらお昼ご飯を食べた後にそのままガッツリ昼寝してしまったらしい。夜一度起きてしまったことがこんなにも尾を引くなんて。

 あーあ、結局今日二コマしか出てないし。ないわー。ていうか放課後職員室来るよう言われてたっけか。遅刻の件で呼び出しされてんのに午後の授業までサボるとかないわー。 めちゃくちゃ怒られんだろうなぁ、と神経質な担任の顔を思い出す。ああ、憂鬱だわぁ。

 ため息を吐きながら、立ち上がり服を払う。硬いコンクリの上で寝たせいだろうか、身体があちこち痛い。

 身体をほぐすように軽くを伸びをする。

 一瞬、担任からの呼び出しを忘れたことにしちゃおっかな、とか良からぬ考えが浮かぶ。


(いやいや、魅力的だけどそれはやばい)


 身から出た錆とは言え、最近の積もり積もったあまり宜しくない態度のツケをすごく困った形で清算するハメになりそうだ。

 あーお説教いやだなぁ。何時間拘束されんのかなぁ。

 これであの担任が私好みの美人教師なら、多少神経質でもお説教でも愉しい時間になるだろうに。

 うじうじとしてても時間を浪費するだけだ。さっさと行って精々反省してますっていう態度を見せるとしよう。そうすれば、まぁありえないだろうけどもしかしたら奇跡的にスパッと終わるかもしれない。

 寝相が悪くて潰してしまったのか、変な感じにぐしゃぐしゃになったコンビニ弁当の容器を拾いビニール袋につっこんで屋上の扉を開けた。


 一階にある職員室に行く前にゴミを捨てるため、二階にある私の教室に寄ることにした。

 教室棟は四階建てで四階から順に三年、二年、一年の順になる。上級生の素敵なお姉さまさと是非お近づきになりたいのだが、今のところそういったイベントは発生していない。

 本来であれば何か特別な用事でもない限り他学年の階層に侵入してはいけないことになっている。そういう理由もあるからこそ、私はほとんど毎日屋上に行っているという側面もあるのに、私という違反者を咎めるお姉さまが未だに現れないのはどういう了見なのだろうか?

 こうやって歩いている今も誰にも呼び止めらない。どころか、階段の踊り場からちらっと見た感じ、誰もいないっぽい。この学校に“はタイが曲がっていてよイベント”に憧れる人はいないのかな? 女子校だというのに嘆かわしい。

 今後はもっとこう積極的に行こうか。いや、でも、あまりがっついてる風なのは私の流儀じゃないんだよな云々。

 そんなことを考えていると自分の教室に辿り着いた。

 部活やら帰宅やらで誰もいないのだろう。扉の向こうからは誰の気配もしない。放課後の教室での逢引イベントも是非体験したい私としては、多少流儀に反しても攻めの姿勢で行くべきだろうか?

 ――なんて、そんなことを考えていたからだろう。

 その変化に気づかず。

 その異常に感動せず。

 扉を開けた瞬間に棒立ちしてしまった。

 けれども。それでもやっぱり私は私らしく、きちんと目だけは釘付けになっていた。

 まだ誰も足を踏み入れていない雪原のように白く美しい肌。

 冬の星空を思わせるように流れる蜂蜜色の長い髪。

 背を向けているせいで顔は見えないが、その後姿だけで美しさを、可愛らしさを確信する。

 それでも。いやそれなのに。どこか歪さを感じてしまう。

 いや違う。これはそんなものではない。

 ドクン、と。

 裡側から言い知れない何かが這い上がってくるような感覚。


(アレは悪だ。アレは災いをもたらす。アレは在ってはならない)


 嘔きにも似た不快感。

 ガンガンと頭が痛む。

 我慢できなくなり、よろめき、扉の縁に身体をぶつけてしまう。その反動で、手に持っていたゴミの入った袋を落とす。

 その音に反応してか、後姿が僅かに動いた。

 さら。と髪が揺れ、ちらりと横顔が見える。

 目鼻立ちの整った、けれども幼い顔。こちらを一瞥する瞳は髪の色よりも濃い黄金色。

 嗚呼、なんて――。


(私好みの美幼女っ!!)


 不快感とか頭痛とかさっきまで感じていた一切合財はすでに残滓を残すことも無く霧消していた。

 代わりに湧き上がるのは欲情! ぎゅー、と抱きしめて愛でたいという本能! いや違う。自覚した瞬間それは抱きしめ愛でるという目的を速やかに行うという覚悟に昇華した!


「金髪美幼女げーーーーーーっヴげふ」


 駆け、跳び、抱きつく。

 その一連の動作を自分でも信じられない滑らかさで行った私は、しかし最終工程に及ぶ寸前で横からの強烈な衝撃により軌道を変更。きっとキリモミしながら、っていう表現はここで使うんだろうと思いながら、何か鉄っぽい硬さのモノにブチ当たった。

 強かに背中を打ちつけ一瞬呼吸を忘れるほどの痛さではあったが、それでもめげずに立ち上がろうとする。

 しかしトドメと言わんばかりに上から何かが降り注ぎ、頭に角っぽいモノが当たる感触を得た。


(ドロワーズかぁ……)


 意識が途切れる間際、ふわりと舞った美幼女のふりふりのドレスからちらりとソレが見えた。

 その素晴らしい情景に胸に抱いて、私は笑みを浮かべながら目を閉じた。




 これが、この先私が一生を賭けて守ろうと思った彼女との出会い――。


毎日連載を心がけていたのに僅か三日で挫折……。


今後はこういうことが無いように精一杯がんばっていきますので、今後も読んでいただけるとありがたいです。

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