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Seal GAME  作者: 赤井トマト
プロローグ
1/8

プロローグ‐①

プロローグ.1


 それは夜、自室で私が気持ちよく寝ている時にきた。

 その日はとても気持ちよく寝ていて、たぶん夢なんか見てないくらいにはぐっすり眠っていたと思う。自分で言うのもなんだが、私はあまり寝起きがよくない。毎朝起きるのに目覚まし時計二つとケータイのアラームが時間差で襲撃して、ようやく目を覚ます。

 だって言うのに、この時はメールの着信音一つで目が覚めてしまった。

 メロディは最近はまったバンドグループの二つ前の曲。速く、激しく、苛烈なビートに乗って力強い女性ヴォーカルが逃げるな戦えと叫んでいる。

 私は睡魔との戦いに無条件降伏したくなる気持ちをなんとかおしやり、ケータイの画面を開きメロディを止めた。

 そろそろスマホに換えたいなぁとか思いながら、あまり鮮明とは言い難い画面を見る。

 ……知らないアドレスだった。

 なんだよちくしょー迷惑メールかよふぁっくー、とか思いながらメールを開くと本文はテンプレ的な迷惑メールより圧倒的に少ない。ていうかよく見ると件名すらなかった。

 眠い目をしぱしぱさせながら本文を読む。

『おめでとう。ゲームへの参加件を得た』

 それだけだった。リンクURLも何もない。ただそれだけの簡素なメール。

 なんぞこれ? と思いながらもケータイの時間表示はまだ真夜中。

 私はケータイを枕元に投げて寝直した。


 

 二十一世紀。青い猫型ロボットが出来るまであと百年という年代。

 海の向こうではまだ小規模な紛争が続いているとはいえ、極東の島国に住む大多数の人々には関心の薄い事柄だ。

 聞けば多少の感想をもつだろうが、自分達にあまりにも関係のないそんな些事はすぐに違うもっと大きな、身近な情報に埋没してしまう。

 どこそこのアイドルが離婚しただとか。ドラマがどうだとか。あの子とあの子が付き合い始めたらしいとか。勉強がどうだとか。そんな。

 平和だ。とても平和だ。

 強盗事件や殺人事件なんてものもないではないが、そんなものに遭遇する確立なんてたかが知れている。誰も彼もが自分の身にはそんなことは起こらないのだと、そう妄信してしまう程度には平和な国。

 だから、というわけではないが。

 今回のゲームのステージはここにしようと思う。

 平和は良い。それは否定しない。

 だけど退屈だ。

 退屈はよくない。心が腐る。

 刺激があってこそ世界は! 人生は! 僕達は! 愉しいと、そう心から万感込めて思い知るのだ。

 ただただ見守るだけのカミサマなんてもう古い。

 意識的にしろ無意識的にしろ願っている者がいるならそれを叶えてやるべきだ。悪魔ですら条件次第では願いを叶えるというじゃないか。

 なら最新の最高神である僕はそんなみんなの願いをまとめて叶えるべきだろう!


 ――さぁ、プレイヤー諸君。モラトリアムはもう終わりだ。ゲーム再開といこう。



 結論から言うと。私は寝坊した。


「おっはよう!」


 寝坊したのは私のせいじゃない。昨夜のわけわからんメールのせいだと開き直った私は、慌てるでもなく悠々と二時限目の休憩を狙って登校した。

 悔いることも急ぐことも大事だろう。だが、そうやって過去を振り返るよりも同じ過ちを繰り返さないように次どうするかが大事なのだ。


「そう言ってアンタ今週何回目の遅刻よ」

「あ、ミキおはよう」


 はいオハヨウ、と返事をするのはクラスメイトにして友人の原田美紀ことミキだ。すらっとした長身スレンダーにシャギーとキツイ目元がたまらないイケメン系美少女である。


「ていうかミキ、人の心を勝手に読むんじゃありません、えっち」

「アンタにえっちとか言われたくないわね。名誉毀損でブチ込むわよ。……途中からしっかり口に出してたわよ間抜け」


 ブチ込むってナニをかしらマジで詳しく窺いたい。

 見下すような目つきでミキは呆れたように言う。

 

「つーかさ、本当に大丈夫なの? あんま遅刻ばっかしてると出席日数にも内申にも響くわよ?」


 この学校は遅刻三回で欠席1としてカウントされる。私は今週だけで既に欠席カウント1だ。加えて重役出勤が一時限三回分と二時限二回分で、授業数的にあまりよろしくないカウント数だ。

 ミキは言葉こそSちっくだが基本優しい。私のことをなんやかや心配してくれてるのをありがたいなーと思いつつ。


「んー、まぁなんとかなるよ」

「またそんな無根拠な……」

「だーいじょうぶ! それにほら、これから一回も遅刻欠席しなければこの程度は挽回可能ですよ!」

「できるの?」

「……」


 即座に切り返され黙る私。

 やる気の有無で言えば、これから先もう二度と遅刻しないぞ! という気持ちはある。けれど可能か否かで言えば、無理だろうなぁ。


「はぁ。アンタたしか一人暮らしだったわよね? なんなら一緒に住んであげようか?」

「え!? 同棲!? 私ついにミキルート入った!? ひゃっほーい!」


 とか大声だしたの不味かった。

 教室内の休憩中の喧騒がぴたりと止んだ。

 ところでこの学校は女子高だ。それも中学から大学までのエスカレーター式と実は結構大きい。だからこそ私は一人暮らしを強行してまで死に物狂いでここに入学したんだけどそこは今は置いといて。

 ミキはイケメン風の美少女だ。しかもきつい言動や見た目と違って実は優しい。そんなだから結構な人気者だ。それこそ、クラス内協定により抜け駆け禁止令が出ているくらいには。

 そこでこの発言ですよ。ハハ、マジ失言。超絶視線が痛い。きっと視線で人が殺せるなら私は死んだことに気づかないレベルで即死していただろう。


「……ばか」


 あからさまな呆れ成分配合のミキの呟きと同時、チャイムが鳴る。

 渋々と言った感じで射貫くような視線は外れていったが。


「はーい、それじゃあ授業を――っひぅ!?」


 入ってきた教師がビクビクしながらたどたどしく授業する程度には、教室内の空気は殺気立っていた。

毎日連載予定。

日々の暇つぶしにどうぞ。

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