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黒い川

黒い川



 生きる望みがなくなった僕は、そしてまたてんてんと思い出の川縁を歩き始めた。

 哀しみに打ちひしがれながら何年かぶりに歩き始めた。

 もう夕暮れだったけど、赤いバイクから離れて、あの子の姿をもう一度見ようと思って、

 中学・高校の頃、一度づつ見たあの白いとても美しい天使さまのような少女の姿に恋焦がれつつ、

 もう一度見ようと思って、



 僕にとってまた哀しみの旅路だった。冬の夕暮れは早く、僕の心を焦燥感でいっぱいにしていた。しだれ柳も昔のままだった。そして淀んだ川の流れも。


 僕はまた打ちひしがれてピエロの姿をしてこの川縁を歩いていた。でももう26歳になった哀しいピエロとして。孤独な心でいっぱいのピエロとして。


 僕はあの頃はもうちょっと太っていたけど、僕は今はもう体重が60kgを切ろうとしていた。僕は打ちひしがれたピエロとして、孤独なピエロとして、誰も頼るあてのないピエロとして、てんてんとこの川縁を僕の瞼のなかの美しい白い天使さまの姿を求めて歩いていた。僕はまるでもう本当は死んでいて、亡霊の僕がこうして歩いているかのようだった。




松山の白い天使さまへ

 僕は共産党をやめ、日本国のため、ソ連の侵略なんかと戦うため、防衛大学の研究室に行くことにしました。防衛大学は遠く(僕もまだ名古屋までしか行ってないんですけど)神奈川県の横須賀にありますけど(でもよく考えてみると神奈川県はあなたにそっくりの斉藤由貴が生まれ育ったところですけど)もうたぶんあなたとは永遠に会えないと思います。でも僕は日本を守るため防衛庁で必死に研究に励むつもりです。決して日本がソ連に占領されないように。また決して日本が第三次世界大戦に巻き込まれないように。

 

 僕はもう、この思い出の松山の川縁には来れないかもしれません。共産党の裏切り者の僕は命を狙われ(共産党の秘密を知ってるスパイとして)暗殺される日が(交通事故なんかや首吊り自殺に偽装されて)近いのかもしれませんけど、僕は日本のため、必死に頑張るつもりです。共産党が悪魔の(サタンの)手先だとようやく知った僕は。

 僕はだからもう永遠に長崎に帰って来れず、東京あたりで共産党の手先のために命を喪うことになる可能性がとても高いと思います。でも僕はそれでももういいと思ってもいます。ただ心のなかであなたの面影を少年の日のマリアさまの思い出として永遠に残して置くだけで僕はもう満足です。

 さようなら。僕の松山の白い天使さま。

 中学や高校の頃一度ずつここで見かけた白いとても美しい天使さま。さようなら。

 さようなら。僕は日本国のために命を賭けて戦ってきます。さようなら。



(そして僕は久しぶりに来たこの川縁から去って行っていた。僕の背中には哀しみの涙が流れていた。僕の瞼のなかの幻の少女への惜別の涙が。)




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