This charming man 2
一番古い記憶は、確か保育園の入園式。
いつもより朝早く起こされた私は小奇麗なピンクのワンピースに白いレースの靴下、
少し窮屈なエナメルの黒い靴を履かせられ、
母と手をつないでカラフルな紙の花が沢山ついた看板の前に立っていた。
ワンピースの下に着た白いブラウスのパリッとした、カシャカシャした感触が気持ち悪くて、
眠たいけど寝ることもできずしかめっ面でぐずりながら、
地面に膝をついて馬鹿みたいな笑顔でカメラを抱える父親を睨んでいた。
「あずさぁ~もっとニッコリしろよっ!ほら!にっこり!
可愛いお顔が台無しだぞぉ~ほら、笑って!笑って!」
猫なで声でパシャパシャとシャッターを切る父。
右手でカメラを持ち、左手にはアンパンマンのパペット。
お前はスタジオ●リスの従業員か。
眠い目にフラッシュを焚かれ、チカチカして余計にしかめっ面になる私。
膝をついて撮っているせいで、父のよそゆきのズボンの膝頭には砂やら桜の花びらが
ついてしまっている。
いっそこのまま地面に横になって思いっきり眠りたい。そう思っていた。
朝曇りの後の、ぽかぽかした日差しと陽気が更にそう強く思わせた。
とうとう限界がきた私は母の手を強く握り、ついに泣きだしてしまった。
「安須紗!!お前、人がせっかく晴れ姿を」
厳格で短気な父の堪忍袋が切れた。
本来ならしかめっ面をした時点で怒号が飛んでいたんだろうが、
娘の人生初の晴れ舞台。相当我慢していたようだ。
怒られる。みんなの前で怒られる。
周りには他の入園児やその親も大勢いた。
眠気はいっきに吹っ飛び、サーッと血の気が引いた。
恐怖と恥ずかしさがいっきに込み上げてきた。
その時、
「井浦さぁ~ん!やっと見つけた!もう探したのよぉ」