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3.迷い
私と彼と、お互いが目の前の現実から背をそむけるように過ぎていく日々。
話し合いたい私と、私が切り出そうとすると逃げてしまう彼。
その中で、私のお腹の中では、小さな小さな命が少しずつ成長して行った。
やがて季節は梅雨に入り、世の妊婦の方々が苦しめられるというつわりにも、私は幸いな事に全く縁がなく、今迄通りに仕事をこなしていた。
仕事内容が余り激しく動くことのない事務職だった事も幸いしたのだろう。
普段どおりに仕事をこなしつつ、私の脳裏を占めていたのは、今後への不安だった。
態度の煮え切らない彼。
いずれは、隠し様もない程巨大化する腹部。
そして、結婚もせず妊娠した事への、私に対する、周囲の視線。
それら全ての解決への糸口さえ見つからない。
いっそ、全てを無かった事にしてしまえば、楽になれたのだろう。
けれど、せっかく縁があって授かった命。
私を選んでくれたこの子を、無くしてしまう事だけは、絶対にしたくなかった。
でも、本当にこの子を生んで、私はやっていけるのだろうか?
相反する感情に挟まれ、私はただただ立ち竦んでいた。