2.自覚
検査薬の陽性反応が出た次の日の昼休みに、会社から少し離れた場所にある、古びた産婦人科へ向かった。
今から考えると、何故そんな同じ会社の人の目に触れそうな医師にかかろうと思ったのか不思議だが、自分で思っていたよりも、内心はかなり動揺していたのだろう。
生まれて初めての産婦人科。
古びたドアの内部は、やはり古びていた。
患者さんは、私の他に誰もおらず、ひっそりとしていた。
無愛想な受付の年配の女性に差し出された問診票に、必要事項を記入していく。
問診票の用紙は、四隅が黄ばんでいた…。
この産婦人科、本当に大丈夫なのだろうか…。
内心かなり不安になりながら、昼間なのに薄暗い待合室の、赤いレザー張りの椅子に腰掛け、名前が呼ばれるのを待つ。
少しして、先程の女性の声で「相川さん、どうぞ」と私の名前を呼ばれ、診察室へと入った。
先生は、白髪が大分混じった、かなり年配の細身の男性だった。
丸い椅子に腰掛け、淡々と問診に答えていく。
一通り問診が終わり、側に置いてある初めて見る機械に、下着を脱ぐよう指示され、あっという間に座らされる。
正式名称は不明だが、いわゆる産婦人科の診察用の椅子である。
「五週間位かな。予定日は来年の一月十五日だね」
そこで散々生まれて初めて嫌な診察を受け、その日は仕事に戻った。
…あんな診察が、出産まで続くのか…。
もしかしたら、もっと嫌な検査とかもあるのだろうか…。
少し、出産について調べた方がいいかも知れない。
仕事帰りの駅前の書店で、出産専門誌の某大百科を買って帰ったのは、言うまでもなかった…。