18.初めて気づくもの
数年振りに実家に電話した翌日、朝一番に両親が病院へとやって来た。
久し振りに会った両親は、私の記憶の中の姿よりも、随分と老けて見えた。
暴力と恐怖とで抑えつけられていた日々。その記憶は、年月が経ってもそう簡単には消えるものでは無かったけれど、怯える心をほんの僅かな勇気に変え、どんな罵声を浴びせられてもいいと覚悟していた私に掛けられた言葉は、予想だにしないものだった。
『馬鹿だな、お前は…でも、一人で良く頑張ったな』
ぽつりと呟かれた、温かな父の言葉に、思わず見開いた私の瞳から、堰を切った様に涙が溢れ出した。
ただ一度涙したあの夜から、精一杯の虚勢を張り、決して負けないと自分自身に言い聞かせてきたけれど、心の底に溜まり続けた一人で産み育てる事への不安は、誤魔化す事は出来なかったのだ…。
肩を震わせ、声を殺して泣き続ける私の頭を、母親の優しい手がそっと触れた。
それは、生まれて初めて私が感じた、両親の優しさだった。
後から母に聞いた話によると、私から電話を受け取った一週間位前に、不思議な夢を見たという。
私が赤ちゃんを抱いている姿が夢に出て来たというのだ。
それを聞いて、親子というのは、どこか目に見えない深い所で繋がっているのかと思った。
妊娠して以来、漸く感じられた安堵の瞬間だった。
それは、次の嵐がやって来るまでの、束の間の…。




