16.やっと逢えたね
午後二時、遂に分娩が始まった。
分娩室に入って直ぐにお腹の中の羊水(赤ちゃんを包む水)が流れ出し、本格的に分娩が始まった。
一分置きに襲う痛みに耐えながら、分娩台の取っ手を思いっきり握り締め、助産婦さんの合図と同時にお腹に力を入れる。
それと同時に、四人の看護士さんと助産婦さんが、同時にお腹を押し、赤ちゃんが出てくるのを促す。
それでも、巨大な私のお腹の中から、赤ちゃんは中々現れなかった。
頭の部分は見えているのに、そこから全く出てくる気配がないのだ。
どうも、赤ちゃんが予想外に大きく、私の骨盤の中で赤ちゃんの肩が引っかかっていて、出てこられなかったのだ。
息を吸って、吐いて、いきんでを延々と繰り返し、時間だけが過ぎていく。
陣痛が始まってから、吐き気で何も食べられなかった私の体力も、限界に近づいていた。
分娩開始から約一時間後、最終秘密兵器が登場した。
赤ちゃんの頭に吸い付いて出産を補助する「吸引カップ」である。
カップの部分を赤ちゃんの頭に吸い付かせて、旋回しながら出てくる赤ちゃんに合わせて引っ張り出すのだ。
最後の力を振り絞り、いきんだ次の瞬間、お腹の圧迫感が一気に軽くなり、一気に力が抜け…。
一瞬、周囲の音が全て途切れた。
そして、甲高く響き渡る、新たな生命の証。
元気な産声を響かせ、漸く…漸く、赤ちゃんが誕生した。
平成十一年二月某日、午後四時。陣痛開始から約十六時間後。
私の娘は誕生した。
体重は四千グラムを遥かに超えた、大きな女の子の赤ちゃんだった。