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10.遠ざかる足音
その存在を自己主張し始めた、小さな命。
モコモコと可愛らしく動くそれに、私は『モコ』と名付けた。
僅かに迫り出し始めたお腹を擦りながら、たわいもない事をお腹に向かって話し掛ける。
会社であったことや、道端に咲いていた花、散歩の途中で出会った可愛い犬。
退院してからは、体重が少し増え過ぎな事を除けば特に問題もなく、順調な日々を過ごしていた。
七ヶ月を過ぎると、明らかに妊婦と分かる体型になった。
腹囲は急激に大きくなったが、職場の方々の協力もあり、仕事も普通にこなしながら、毎日が過ぎていった。
ただ、大きなお腹を抱えての通勤は、正直きつかった。席を譲って頂けた記憶は、長い妊娠期間で、たったの一度だけだった。
夜になると、お腹の重さで仰向けやうつ伏せでは眠れなくなった。
そして、私の身体の変化と共に、彼は私から徐々に遠ざかっていった。