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終 左へ

 左は変わらず暗い道だった。しかし今までとは少し雰囲気が違う。奥から腐臭が押し寄せてくる。流れてくる空気が肌を刺激する。水滴の音はいつからか血液の滴る音に変わっていた。床一面には血の池ができている。死体の数も一つや二つではない。ずっと奥から流れてくる風の音はどこか不気味だ。たぶん白骨死体の隙間を縫っているせいだ。死体の奏でる音は低く不快だった。


 俺はただひたすらにそんな廊下を歩いていた。足は疲れ、肺には重い空気が溜まっていた。けれど止まってはいけない。俺は脱出しなければならない。家に帰るんだ。家に帰っていつも通りの生活を送る。そうすればこんなにも死体を見ることはなくなるはずだ。死体を踏みつけて乗り越えていくこともなくなるはずだ。自分自身を鼓舞しながら進んでいると、少し開けた空間に出た。


 そこはそれまで以上に腐った臭いがした。思わず俺は鼻を塞ぐ。死体がそれほど多いわけでもない。けれどどこまでも不快な空間だった。


 そしていつものごとく壁には文字が書かれている。その文字の先には一回り大きな扉があった。


 “君が脱出を試みなければ、彼が苦しむこともなかったのだ”


 “なぜ頑なに進もうとした?進まなければ良かっただろう。進む必要など無かったではないか”


 “君が物語を進めなければ彼は苦しまずに過ごせていたというのに”


 “君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君のせいだ。君の……”


 それはそんな文には目もくれずにその大きな扉へと向かった。ここは嫌な空気がする。一刻も早く出なければ間違いなく死に至るということを肌で感じていた。ゲームであれば制限時間が設けられる場面だ。俺がこの空間に来るのが遅れて、もっと体力を使い果たしていたならばここでゲームオーバーになっていただろう。けれど、幸いにも俺は体力を余らせていた。だからこの異常に重い扉でも開くことができた。


 扉は外に繋がっていた。やっと出ることができた。《《君》》は文章でしか読んでいないからどれだけの時間が掛かったのか知らないだろう。けれど《《彼》》にとってそれは極めて長い時間だった。


 俺は外の空気を味わうべく口と鼻から大量の息を吸った。けれどすぐにそれを吐き出し、嘔吐した。腐った臭いはここからしていたのだ。死体の山ができており、白骨の死体から腐肉の残っている死体まで、それは数えきれないほどにそこにあった。

 俺は急いで景色を見た。遠く見える景色は不可思議なものだった。異様なまでに発展している。まるでSF世界に来たようだった。空は赤く染まっていた。夕方だからではない。空は血に染まっていたのだ。どこからか烏が鳴き、腐った臭いはより一層強まった。俺の身体が急激に腐り始めた。一部を残して肉が落ち、骨が現れ、その骨さえも風化した。激痛なんてものではなかった。臓器は壊れ、眼球も転がり落ちた。本来目があるべき穴からは何も見ることはできなかった。そして気づけば俺は死んでいた。


 壁にはこうも書かれていた。


 “呪われた者は永遠を繰り返す。たとえどれだけの時を経ようとも、老いて終わることはない”


 “館を出ると呪いは加速する。蓄積した時が押し寄せ、瞬く間に彼を喰い殺す”


























 昨日の夜は何をしていただろうか。……そうだ。自分の部屋で読書をしていた。ホラー小説を読んでいたんだった。気づいたら深夜になっていたから途中でベッドに入って………。よく覚えているじゃないか。ならばなぜ、俺はこんなところにいる?


 暗闇の部屋を模索するとドアノブと思しきものを掴んだ。しかしその扉を開いてもその奥もまた暗闇であった。けれど扉があるということは明かりをつけるスイッチも近くにらあるだろう。なんとか探し出したスイッチを押すと部屋は薄暗く照らされた。

 照らされた部屋の中を探すと懐中電灯を見つけることに成功した。これならば扉の奥にも進めることだろう。俺は意を決して扉へと向かうと、その扉に何やら文が書かれているのを発見した。さきほどは暗くて見つけられなかったのだな。

 その文の内容は興味深いものだった。


 “君がこれを読んでいるということは、彼はまだここに閉じ込められているのだろう”

 あとがき


 最後までお読みいただきありがとうございました。今作が初のホラー小説ということでそんなに描写は怖くないのかなとも思いつつ、私自身もあまり怖いものを書けないと知っていたので短編とさせていただきました。怖い話を書くのはやっぱり難しいですね。とってもチープな表現しか思いつきませんでした(>_<)


 さて、ここで少し設定の説明をさせていただきましょうか。ご理解いただけているかとも思いますが、この話に出てくる“彼”とは主人公のことであり、“君”とは読者の皆さんのことです。そして“彼”とは“君”でもあり、“君”とは“彼”でもあります。そしてこの本編世界に存在するのは主人公一人であって、主人公を館に連れてきたのも文を書いたのも誰でもありません。強いて言うならば作者である私です。つまりこの作品はメタ要素が非常に多いというわけですね。そうでもしないと素人の私ではつまらない作品しか作れないと思いましたので。

 そしてもう一つ、主人公が“昨日読んでいた”という小説、アレはこの作品のことです。読者の一人がこの世界に連れ込まれたというわけです。つまりどういうことか……これ以上はやめておきましょうか。


 二度目になりますが最後までお読みいただきありがとうございました。よければ感想をお聞かせください。そしてもう一度、読んでみてください。もしかしたら次は君かもしれませんから。

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