中 進む
俺は忠告を踏まえた上で部屋を出た。廊下は相変わらず暗闇ではあるが、懐中電灯のおかげで正面や壁を照らすことはできた。
この館は薄気味が悪い。さっきの部屋もそうではあるが、この廊下にもどこにも窓がついていない。監視カメラも見当たらないし、ただひたすらに閉鎖空間だった。そのくせどこからか視線を感じる。まるで常に見張られているような……何者かの掌の上で踊らされているような気分だ。もちろん誰かに見られているなんてことはあり得ない。これだけの暗闇の中、光も持たずに見るなんてことは不可能だ。だからビビる必要なんかない。……いや、違う。それは常識的な考え方だ。楽観視すべきではない。歩みを止めるつもりはないが、警戒は解くべきじゃない。
壁や天井からはときどき水が滴っていた。暗い空間の奥からポチャンポチャンという音だけが聞こえる。それ以外の音はしない。それ以外は驚くほどに静かだった。だからこそ怖かった。言葉にし難い不安感が常に俺を襲っていた。子供の頃、夜中に目を覚まして一人でトイレに行ったときのような気分だった。恐れるべき要素などどこにもない。それこそ恐れるべき状況なのにだ。だから恐ろしく、不安だった。
少し進むと、俺は思わず悲鳴を上げた。人骨が転がっていたからだ。横たわった身体の上に頭蓋骨が丁寧に置かれていた。生臭さはあまり感じない。けれど乾燥した血液のようなものもある。人体模型などではない。本物の死体など見たことなかったが、これが本物だということはすぐに分かった。もしかして……コレが“彼”なのか?“彼”でなくても俺と同じように閉じ込められた者だとしたら……背筋が冷たくなった。死ぬつもりなど毛ほどもない。死ぬ覚悟だってそうだ。けれど目の前には“死”が転がっている。俺は吐き気を催しながら周りを確認した。そこには扉の文字と同じような筆跡で次のように書かれていた。
“彼は呪いにかけられている。何度死のうとも永遠にその生繰り返している。次は君の番かも知れない。まだ進もうと思うのならば左へと行きたまえ”
右には極めて深い穴が掘られていた。そしてその中にはいくつもの死体が重なっている。この高さならば即死だろう。ここに飛び込もうとする気持ちも今では理解できてしまう。死が恐ろしい。進むことが恐ろしい。いっそ楽になってしまいたい。けれどそれはダメだ。俺は……。




