初 君がこれを読んでいるということは
昨日の夜は何をしていただろうか。……そうだ。自分の部屋で読書をしていた。ホラー小説を読んでいたんだった。気づいたら深夜になっていたから途中でベッドに入って………。よく覚えているじゃないか。ならばなぜ、俺はこんなところにいる?
目を覚ますと、俺は真っ暗な空間にいた。前も後ろも、右も左も見えやしない。少しばかり肌寒い空気がどこからか流れてくるのだけは分かった。お化け屋敷でももう少し明かりがあるというものだ。一体ここはどこなんだ?なんで俺は俺の部屋で寝ていないんだ?世界の最新技術なんて俺は何も知っちゃいないが、それにしたってこの状況は異常だ。早く出たい。早く光を浴びて安心したい。
冷たい空気がどこから流れてくるのか、俺はそれを探った。湿った壁を伝いながらそこへ向かっていると、ドアノブのようなものに手が触れた。出られる……!俺はそう思って慎重に扉を開いた。しかし意外にもその先に光は無かった。いや、どこか想像はしていたさ。俺をこんなところに閉じ込めた何者かがいるならば、こんなすぐに解放されることはないだろうと。淡い期待だった。しかしこの先もまだ暗闇ならば、俺はいよいよ光が欲しくなった。ここが部屋なら、扉の近くにスイッチでもあるはずだ。それを押せば明かりはつく。
俺の読みは当たっていた。しかし光は決して強くなかった。部屋全体を薄暗く照らす程度、夜の森に差す月光のようなものだった。けれどこれでいくらかやりようがある。俺は部屋の中を物色して使えるものが無いか探してみた。これは現実だ。現実にゲームや物語の話を持ち出すのは馬鹿馬鹿しかったけれど、今はそんなことを言っている暇はない。現実ではあれども非現実的なことが起こっているのだから、何かしらそれっぽい要素もあるだろう。そう思って探していると電池の入った懐中電灯を見つけた。なぜ都合良くこんなものがあるのか、普通ならばあり得ないだろう。だが今は普通じゃない。俺をここに連れてきた何者かは、俺の脱出劇を見たがっているんだ。望み通りになるのも癪だが、そんなことを言っている余裕はない。出られるうちに出なければ。
懐中電灯を持って真っ暗闇の廊下へと進もうとすると、先ほど開けた扉に何やら文字が書いてあるのを見つけた。
“君がこれを読んでいるということは、彼はまだここに閉じ込められているのだろう”
君とは俺のことか?ということは俺の他にも閉じ込められている者がいると?……コレを書いたのは俺を閉じ込めた者か?“彼”と呼ばれる誰かはこの部屋にはいない。ならばこの先……この館だか屋敷だかのどこかにいるということだ。この文を書いた者と“彼”と俺、少なくともこの空間には3人以上いると見ておかしくない。そして俺はこのフレーズに聞き覚えがある。昨日読んだ小説の冒頭が、このような内容だった気がする。普通に考えれば何の関係もないだろうが、何度も言うように今は異常だ。何かしらの関係があると考えた方がいい。しかし俺は小説の内容をてんで覚えちゃいない。寝る直前だったからほとんど記憶に残っていないのだ。
その文の続きはこうだった。
“彼を苦しめたくなければここで止まれ。地獄を見せたければ進みたまえ”
なぜかそれを読んで俺はゾッとした。信じられないが信じるべきだ。俺が進んだところで“彼”は救えない。しかし進まなければ俺は助からない。申し訳ないが俺は自分よりも他人を優先することはできない。俺の人生は俺があってこそのものであって、他人なんてものはただの脇役にしかなり得ないんだ。心苦しいが仕方がない。
“進む”か“進まない”か?そんなもの選ぶまでもないではないか。




