拝啓、魔女様。
拝啓、魔女様。
お元気にしておりますか。そちらでは楽しく過ごしておられますか。
こちらでは金色に輝く稲を刈り、収穫祭の準備を進めております。もちろん、私共は元気にしておりますよ。遺してくれた薬の製法のおかげで流行り病も酷くならずに済みましたし、狩りの仕方、食べれる草やキノコの見分け方のおかげで飢えずに暮らせております。これも貴方様の教えてくれた知識のおかげですね。
さて、貴方様がこの地から旅だって随分経ちますので、今日は思い出話も兼ね、手紙を書いてみようと思います。
どうか、誤字や文章に多少の違和感があっても、温かな目で読んでいただけると幸いです。
貴方様はまだ、あの日のことを覚えていらっしゃるでしょうか?今のように金色に稲穂が輝く季節、帰る家もなく、食べるものもなく、広い森の中を彷徨っていた私を拾っていただいたあの日のことを。
あの日、私は食べ物を探し、寝床を探して森を彷徨っていると微かに歌声が聞こえたのです。微かだが、澄んでいて、凛とした聴くものを虜にするような歌声が。私はその歌声に惹かれて森の中を歩いて行くと、そこら一帯に花の咲き乱れる開けた場所に出ました。
白い花がところ狭しと咲き乱れ、花の周りに植わる山茶花や銀木犀の白い花びらが舞う幻想的な花畑の中央には1人、珠簾の花に囲まれた貴方様がいました。
月光を浴びて輝く銀色の長い髪、影を落とすほど長い睫毛に囲まれたアッシュグレーの瞳、全身を包む夜空のようなローブが靡き、物憂げな表情を浮かべて歌う様は月の女神のようで、とても印象に残っています。
そんな女神のような方と目が合い、話しかけてもらえたのですから気を失ってしまったのも仕方がないでしょう。
それからというもの、貴方様に保護してもらい、いつも後ろについて回り、長い時間をかけ、同じ魔女として様々な知識を得ました。
あの数々の知識のおかげで、今、こうして生きていられるのです。本当に感謝しています。
そうして過ごすこと、百数十年。ある日、貴方様は姿を消してしまいました。ただ、「旅をする」という書き置きだけを残して。
とても悲しかったです。同時に少しの苛立ちや不満もありました。何故、言ってくれなかったのか、連れて行ってくれなかったのか、私はそんなに頼りないのか、と。今思えば私の安全のためだとわかります。それでも、連れて行ってほしかったのです。
それから数百年。お互いに顔を合わせることもなく、妖精のうわさ話を聞いて貴方様の安否を知りながら旅をしておりました。そんな時です。妖精から魔女と人間が共存している村があると聞きました。その村の村長が貴方様だということも一緒に。
一刻も早く貴方様に会いたくて、急いで村へ向かいました。着いてみれば、そこはとても豊かで、穏やかな村でした。魔女がそこら辺を普通に歩いていて、村人たちもそれを普通のこととして過ごしているのです。ついに、我ら魔女の悲願を成就してくれたのだと、第一歩を踏み出したのだと、より一層、貴方様のことを尊敬しました。
そうして、数百年ぶりに貴方様に会い、私も村に住み、村人や魔女たちと交流を深めていきました。人間に怯えることなく、日の下を歩くことができ、"普通"に暮らすことができる幸せを与えてくれた貴方様には感謝してもしきれません。村人である妻と出会えたのも貴方様のおかげです。
そうそう、妻へのプロポーズが成功したのも貴方様のおかげなのですよ。花などほとんど知らぬ私は貴方様と出会ったあの花畑に咲いていた花、珠簾を花束にして渡したのです。後から知ったのですが、珠簾の花言葉は「純白の愛」、「汚れない愛」、だったそうで。本当に色々なことで助けていただいてますね。
話が長くなりましたが、私は貴方様にお礼を言いたかったのです。
私を拾って、保護し、育ててくれたこと。私に日の下を歩かせてくれたこと。私に普通の生活をさせてくれたこと。私に出会いをくれたこと。
心より感謝申し上げます。
また、会えることを期待しておりますので、どうぞ、お安らかにお眠りください。
我が恩人で魔女である貴方様、ゼノ・ウィネーフィカ様へ貴方様の忠実な下僕より。