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第五話 帰還! 異世界の神はおっさん猫ナビ

 白猫の抜け毛のような光に包まれていたにゃんこ先生は、ゆっくりとまばたきをすると少し改まった。


「改めまして、私はにゃんこ先生……この世界の神です……。よくぞ私をレベルMAXまで育てあげました……」


 にゃんこ先生の改まった口調は、ちょっとむずがゆい。街中の防護シールドが音を立てて地中に格納されていき、戦闘が終わったことを知らせる。


「これまでみたいに話してくれた方がいいよ」

「あ、そう? 神様っぽくしてみたんだけど、不評?」

「不評。それで、にゃんこ先生が神様だっていうのは?」


 にゃんこ先生は香箱座りをして、拗ねたように顔を覆うと、尻尾を地面に打ちつけた。ご機嫌斜めだ。


「この世界では、神様が分割されているニャン……。分霊ってやつなのねー。そうして各分霊はナビを担当するのよー。……つまり……神様は、おれ!」


 にゃんこ先生は「神様は、おれ!」のところで顔を上げてドヤ顔をした。拗ねていたのも忘れたようだ。切り替えが早い。

 今はスフィンクスのような堂々としたポーズで、鼻を鳴らしている。たまに「ぷすー」という気の抜けそうな音がするのがかわいい。


「分霊といっても、最初はできることが少ないニャー。敵を食べることでレベルが上がって、本来の能力を取り戻し、神様になった……そういうことなのよー」


 これまで襲ってきた敵のナビ役を食べて、分割されていた神様成分を取り戻したということだろうか。わかったようなわからないような説明に曖昧なうなずきを返していた私は、驚きで目を丸くした。


「えっ、食べてたの?」

「スタッフが美味しくいただきましたってやつニャーン!」

「悪食だな」

「大丈夫、大丈夫ー。おれには猫缶の形でご提供されてるニャン」


 にゃんこ先生が、私の視界の隅にあるトラッシュボックスを指す。開いてみると、中には空の猫缶がいくつかあった。猫缶のラベルには、これまで襲ってきた連中の顔写真が載っている。

 確かに戦闘後、にゃんこ先生はよくげっぷをしていたけれど、まさか敵を食べていたなんて。もしも私が負けていたら、敵のナビに、にゃんこ先生ごと食べられていたってこと──? 猫缶とかビーフジャーキーとかクルミにされて──。

 握りしめたままになっていた日本刀がカタカタと鳴る。今さらながら、全身を震えが駆け抜けた。そんな私にお構いなしに、にゃんこ先生は話を続ける。さすが空気を読まない。私はのろのろと鞘を拾いに戻って、刀を収めた。


「そういうわけで、元の世界に帰してあげるニャーン!」

「……え、マジで!?」


 にゃんこ先生の言葉に、私は自分が怯えていたことも忘れて、思わずガッツポーズをした。


「それじゃあ、行くよー。あ、刀は回収するニャーン!」


 いきなり過ぎない!? と声をあげそうになったときには、この世界に来たときと同じように、無重力空間に放り出されていた。景色が光に染まって白くなり、輪郭を描いていた直線や曲線がほどけていく。真っ白になった世界が元に戻ったとき、私は見慣れた自分の部屋にいた。

 視界に割り込んできた半透明のダイヤログボックスに「異世界転移、おつかれさまニャン」と書いてある。「続きを読む」操作をする前に、勝手に表示が進んだ。空気を読まないにゃんこ先生らしい。


「お土産を用意したニャーン……? え? どこに?」


 辺りを見回した私の手に、ちょんと何かが当たった。猫に大人気の猫用おやつだ。


「まあ、猫的にはものすごいお土産だよね」


 私は小さく笑って、おしゃべりなおっさん猫ナビの返事がないことを、ほんの少しだけ寂しく思った。


<おわり>

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