第四話 強敵! V.S.釘バット野郎、延長戦!
どす黒いオーラをまといながら、釘バット野郎はニヤリと笑った。銃弾を防がれてしまっては、私には戦いようがない。三十六計逃げるにしかず──。威嚇射撃をしながらどんどん距離をとる。距離をとって、物陰に隠れてをくり返しながら、にゃんこ先生にたずねた。
「にゃんこ先生! 釘バット野郎に有効な武器のある場所は!?」
「すぐそこー! あれ!」
とんでくる小石を避けながらマップ表示を一瞬見て、すぐ近くに武器があることを知る。少し変わった防護シールドがある。駆け寄って、くぼみに手をかける。シャッターを開けるようにシールドを押し上げると、中から日本刀が出てきた。
「キルビルかな!?」
「手元にスイッチがあるニャーン。目釘のところ。わかる?」
「わかる! 刀剣乱舞にハマってたとき、博物館に行ったから!」
日本刀を鞘から抜いて、目釘のところにあるボタンを押す。ぶん……と音がして、刀が翡翠色に光った。
「ライトセーバーみたい」
「にゃにゃにゃにゃにゃニャーン!」
にゃんこ先生がほくそ笑んで鼻歌を歌い出した瞬間、小石がヒュンと私の頬をかすめていった。刀を構えて釘バット野郎に向き直る。
なんで近接用武器かなぁ。マシンガンみたいな遠距離用の武器の方が、敵に近づかなくていいから怖くないのに。
私の手の中で、小刻みに刀の鳴る音が聞こえる。自分が震えているんだと気付いて、私は唾を飲み込むと、刀の柄を握り直した。
「オラァ!!」
敵が釘バットを振りかぶる。筋肉でパツパツしたTシャツに、汗が染み込んでいる。
FPSの経験もないけれど、剣道の経験もない。ややこしいことを考えたって、私にそれを再現できるかどうかわからない。相変わらず、手が震えている。膝もがくがくして、気を抜くと崩れ落ちそうだ。深呼吸を一つして、刀を構え直す。
──だったら、突っ込むしかないじゃん。
「でやああああ!」
身体ごと突っ込んでいった私に、敵が釘バットを振り下ろす。バットに打ち込まれた釘が、刀にぶつかって斬り落とされる。さすがライトセーバー日本刀だ。
バット本体にぶつかった日本刀が火花を散らし、剣の軌道が歪みそうになる。私は両足にしっかりと力を入れると、釘の折れたバットの動きに逆らわないように力を抜いた。抵抗されると思い込んでいた釘バット野郎がバランスを崩す。
──今だ。
一歩踏み込んで、私は刀を振るう。下から上に斬りつけると、刀が釘バット男のアゴに直撃した。
「やったニャ! アゴを二つに割ってやったニャーン!」
吹っ飛んだ敵が体勢を立て直そうとするが、足がふらついている。ボクシングでも、アゴへの攻撃は足に来るんだっけ。
私はそのまま刀を構えて、釘バット野郎に突きを喰らわせた。カランカランと音を立てて、釘の斬り落とされたバットが道路に転がった。
「敵のHP、ゼロになったニャーン!」
釘バット野郎は身体を地面に横たえている。にゃんこ先生がひょいと姿を消したかと思うと、地面に大きな猫の顔が現れる。あくびでもするように口を開けて、釘バット野郎を飲み込んだ。
「え、そんなことできるの」
「げふー。おれのレベルが上がったからねー」
「レベルって、にゃんこ先生のレベルだったの?」
にゃんこ先生は私の所持アイテム欄の近くに戻ってくると、むふんと鼻息を荒くした。思わず手を伸ばしてなでようとしたけれど、触れられなかった。仮想型AIなのを忘れていた。
「ナビ、ありがとうね」
「どういたしましてー!」
突然、私の視界に半透明のダイヤログボックスが表示された。
「なに? にゃんこ先生のレベルがMAXになりました……?」
「ニャフーン。遂にこのときがやってきたのねー……」
にゃんこ先生は私の視界の真ん中にちょこんと座ると、ちょいちょいと手で頭をかいた。毛繕いをしたつもりなんだろうけれど、ほっぺのところに少し寝癖がついている。
「ニャーニャーニャーニャー、にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃニャーン!」
ゲームの戦闘勝利で鳴るファンファーレのように短く歌ってから、にゃんこ先生はドヤ顔をした。
「おれ、この世界の神様になったよ!」
「……なんて?」
いつもと変わらないけど、と私が首を傾げた瞬間、ふわんと白い光がにゃんこ先生から発せられた。ケサランパサランって、こんな感じなのかもしれない。
「あ、これ、おれの抜け毛じゃないからね」




