第三話 危険球! V.S.釘バット野郎
「接敵注意」の文字と共にアラートが鳴って、地中から防護用シールドが迫り上がってくる。建物がシールドですっかり覆われたとき、視界に映っていた警告表示が消えた。
「見つけたぞ」
釘バット野郎が足を止めた。Tシャツがパツパツするほどの筋肉が見てとれる。私はマシンガンを構え、安全装置を外す。釘バット野郎の背中にどす黒いオーラが漂っている。なぜ初対面の私にそこまで負の感情を持てるのか、わからない。まるで西部劇の決闘前みたいな緊張感が漂って、私はごくりと唾を飲み込んだ。
ビル風があたりに吹き込んで、防護用シールドがカタカタと音をたてた。音が止んだ瞬間、釘バット野郎が構える。
「おー、いい構え。元野球部なのかもしれないニャーン」
「元野球部だったら、バットに釘なんか打たないでしょ」
「じゃあ、野球にリスペクトのない、元サッカー部かもしれないニャーン」
「元サッカー部だからって、野球にリスペクトがないとは限らないよ」
にゃんこ先生は、相変わらず空気が読めない。本人──本猫? いわく、あえて空気を読んでいないそうだけれど。
釘バット野郎が小石を投げ上げて、バットで打つ。危険球さながらに鋭く飛んでくる小石を避けながら、マシンガンの引き金をひく。銃口から弾丸が連射された。
威嚇射撃をして、防護用シールドに守られている建物の後ろに回り込む。
「あのノック……見事ニャ! やっぱり元野球部かもしれないニャ!」
「日本の野球の競技人口なめてんのか。決めつけるな」
「むふー。バットに釘を打たなければ、きっといい選手になったはずニャーン。すごく惜しい人材ニャ」
にゃんこ先生がスカウトマンのようなことを言い出したので、おっさん猫ナビが草野球の監督をしている姿を想像して、思わず笑ってしまいそうになる。当のにゃんこ先生は、退屈そうに伸びをして、まっすぐ立てた尻尾をぶるぶると震わせている。
「もしかしたら、FF7のクラウドの特殊装備に憧れたのかもよ」
「興味ないニャーン」
「知ってるじゃん」
「オラァ! 出てこいや!」
私とにゃんこ先生のやりとりに、釘バット野郎はいらだったようだ。防護シールドの後ろから様子をうかがうと、すっかり目が険しくなっている。
「出てこいやだって。今度はプロレスの真似してるニャーン」
にゃんこ先生は挑発スキルでも持っているのかと疑いそうになるが、本猫には全く悪気がない。そして釘バット野郎も、決してプロレスを真似したわけではないだろう。プロレスって日々の鍛錬とショー精神の賜物だぞ。
──さて、どうしたものか。
「出てこないつもりなら、こっちから行くぞ!」
マップ上で敵を知らせるマークが近づいてくる。釘バットはおそらくリーチが短い。私は敵の攻撃の届く範囲を予測して、ギリギリまで引きつけ、物陰から飛び出した。
横に跳びながらマシンガンの引き金をひく。連射の反動で銃口がぶれないように、必死に押さえ込む。
釘バット野郎は片眉だけを吊り上げると、武器をぐるりと回して、銃弾を防いだ。
「ウソ!?」
金属バットに当たった弾丸が跳ねて、いくつかこちらに飛んできた。弾丸が身体をかすめていく。
焼け付くような痛みを、奥歯を噛み締めて堪え、私はバックステップで距離を保った。
防護シールドに食い込んだ弾丸が、ぱらぱらと音をたてて地面に転がる。まるで内野手が取り損ねたボールのようだった。




