第一話 残弾僅少! V.S.チェーンソー男
跳弾を避けて都市部から離れたのは、正解だったかもしれない。飛んできた弾丸をかわしながら、私は川沿いの土手を滑り降りた。摩擦の熱さで足がひりつき、草の匂いがあたりに漂う。
視界の隅には私の所持アイテムが表示されている。残弾数が残り少ない。所持アイテムの枠の上でのんびり寝転がっているナビ役の尻尾が上下に動いている。仮想型AIだ。猫が好きなので猫型にした。
「にゃんこ先生、銃弾の補給地点までナビして」
「わかったニャーン。地図にお知らせを表示するのねー」
私がにゃんこ先生と名付けたナビが、なんとものんびりした声で返答する。猫のことを、つい「にゃんこ先生」と呼んでしまう。だからそのまま、ナビににゃんこ先生と名付けた。
にゃんこ先生が伸びをしながらヒゲを震わせると、右上に表示されたマップに補給地点の情報が追加された。近い。
迫り来る銃弾をかわしながら補給地点に向かう。川沿いの倉庫で補給できるらしい。追手の様子をうかがうと、その奥に近未来的な建物が乱立しているのが見えた。
──この世界に突然転移したとき、なんてSFっぽい世界なんだって思ったっけ。
川沿いの倉庫の扉を開けると、残弾表示が一気に回復した。扉を開けただけで弾数が増えるなんて、ゲームの世界みたい、と私はどこか冷静な頭の隅で考えた。FPSゲームは、やったことがないけれど。
倉庫に回り込んで、盾代わりにしながら距離をとる。敵の弾丸が倉庫の鉄板に当たり、火花が散る。跳弾を恐れた敵が、武器をチェーンソーに切り替えた。ドルルンとエンジンをふかすような音がして、刃が回転するのが見えた。
「はっはー! どこかなぁ! ウサギちゃん! もう弾数もねぇよなぁ! おとなしく俺様に狩られなァ!」
まるっきり悪役じみたセリフだ。ひょっとしたらNPCなのかもしれない。誰がウサギだと舌打ちして、私は応射する機会を待った。
一歩、また一歩と敵が近づいてくる。引きつけて撃つ……マシンガンの安全装置が外れているのを、指先で確認する。手のひらが汗ばんでいる。
「オラァ!」
倉庫の影から出て、横に跳躍した。今まさにチェーンソーを倉庫に振り下ろそうとしている敵に、私は大量の弾丸をお見舞いした。
弾丸を受けるたびに、敵の身体が小さく跳ねる。にゃんこ先生が「お魚みたいニャーン」と目を輝かせた。この猫は、ちょっと空気が読めない。
「にゃんこ先生、敵のHPは?」
「ゼロー!」
「ちょっと空気読めないとこあるよね、にゃんこ先生は」
「空気読めないんじゃなくて、読まないのよー!」
私はマシンガンを構えたまま、敵の身体をつま先でつついて確認した。反応はない。チェーンソーだけが、轟音をあげている。私がチェーンソーの電源を切ると、敵の身体が透明になって消えていった。
「げふー。れべるあーっぷ!」
にゃんこ先生は画面の中でげっぷをすると、満足そうに鼻息を荒くした。ふんすふんすしている。
「レベルって……特に私の能力が上がったとか、なさそうなんだけど。それよりにゃんこ先生、HP回復できる施設をマップ表示して」
「あいよー! ここがご飯を食べられる施設ニャーン!」
「え、ご飯で回復するの?」
「ご飯を食べるか、寝るかすると回復するニャン。あと、病院でも回復できるよ!」
まるっきりゲームの世界だなと、私は一息つきながら遠くのビルをながめた。戦闘が終わって、防護用のシールドが地中に降りていく。シールドの下から現れたビルのガラスが、太陽の光を反射してまぶしかった。




