お礼&カイエン
最後、「ヴィアにも幸せを」で。一応、伏線をはっていたので無事回収できてよかったです。カイエン視点も書いてみましたので、よかったらお読みください。
お礼を込めて(*´∀`艸)*゜
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「三日後に決まったよ、カイエン」
背後から届いたその声は、いつものように軽やかで、どこか愉快げだった。
書類に目を通していた手が止まり、私は小さくため息をついた。
「何の話ですか?」
書類をまとめながら目を細めて問い返すと、王太子殿下――ルキウス様は笑みを浮かべて言った。
「希望してた令嬢とのお茶会さ。フェリに頼んで、王宮でセッティングしたよ」
「……は?」
言葉が、思考の手前で固まった。急な話に思わず口元が引きつる。
「フェリの話だと、その令嬢はカイエンに会うために張り切って“磨きをかけてる”そうだぞ」
「……“磨きを”って……。あの、ちゃんとお伝えくださいましたよね? 常識ある、冷静で、しっかり者の美しい方と……」
「ちゃんと言ったさ。で、その令嬢、カイエンのことを“密かに”気にしてたらしくてね。フェリが声をかけたら、顔を赤くしてたそうだ」
「お名前は?」
「フェリ曰く、“内緒”」
なぜ、内緒?
だが、オリヴィア様ではない、な。
彼女が人前で顔を赤らめる姿など、想像がつかない。
いや、私のために自ら身だしなみに気を配るなど、ありえない。ましてや、気にしていただなんて。
あの方ならきっと――やんわりと断るか、優雅に笑うか、どちらかだ。
王宮でのセッティングならば紹介されるのは、高位貴族の令嬢、いや国外もあり得る。だが、仮に国外の令嬢なら、「密かに気にしていた」などという噂が耳に届くはずもない。
「殿下。私の名前を挙げて、相手の名前を明かさないとは、どういうご意図で?」
「それは、“サプライズ”ってやつかな。フェリのことだ、何か思惑があるんだろう」
「……断ってもよろしいですか?」
「構わないよ。ただ、相手の令嬢はがっかりすると思うけど?」
やはり、ルキウス殿下にもっと明確に“オリヴィア様”の名を挙げておくべきだったか。
けれどそれは、あまりに、厚かましい。今はまだ、ただの侯爵家の次男である私などがあの方を名指しするなど。
彼女なら、他国の王太子妃にだってなれる。だから、私が想いを寄せているなど、知られるだけで不敬に思えてしまう。
それでも――ウィンチェスター公爵令嬢なら気付いてくださると思ったんだが。
「……わかりました、会います。ご配慮、ありがとうございます」
そう答えるほか、なかった。
***
王宮の一室。
午後の陽がやわらかく差し込む空間は、上品な香の気配に包まれていた。
けれど、私の内心は穏やかどころか、全く落ち着かなかった。時間前に到着し、席についたものの、思考は定まらず、視線は何度も窓の方へと彷徨った。
テーブルに並べられた皿、完璧な角度で置かれた茶器――
この部屋の設えは、どう見ても“特別扱い”だ。王太子殿下とウィンチェスター公爵令嬢が仕立てた場。いやが応にも、緊張が募る。
膝の上でそっと指を組む。気配を殺すように深く息をついた、そのとき――
「失礼いたします」
扉が開く音。振り返る前に、風が変わるのを感じた。
ふわりと揺れるドレスの裾。陽を受けた髪が煌めき、凛とした立ち姿が視界に入る。
「……オリヴィア、様……?」
まさか――まさか、そんなはずは。
「こんにちは、カイエン様。今日はよろしくお願いいたします」
美しい声音。理知的で、穏やかで、けれどどこか柔らかな甘さを含んだその声が、私の名を呼んだ。
夢か、幻か。
「ど、どうして……こちらに?」
「あら、私では不服でしたか?」
「い、いいえっ! とんでもない!!」
思わず声が裏返った。
ふと彼女の後ろに目をやると、王太子殿下が笑みを浮かべており、ウィンチェスター公爵令嬢もまた何かを仕掛けた演出家のように、意味ありげな微笑みを浮かべていた。
結局、お二人とも知っておられたのだな……。
「正直、私も驚きましたが――」
オリヴィア様が、そっと視線を落とし、そして、ためらいのないまなざしで私を見た。
「嬉しかったのです」
その一言で、心の奥が熱くなった。
あのとき王太子殿下はなんと言っていた?
“張り切って磨きをかけている。密かに気にしてたらしい。顔を赤くしてた”
言葉にならない思いが胸に広がって、視界がにじみそうになるのを、懸命にこらえる。
「ふふ、カイエン。間違ってなかったでしょう?」
ウィンチェスター公爵令嬢が微笑む。
「ええ、期待通りの方でした」
ようやく絞り出した言葉に、皆が微笑み、私も――心からの笑みを返した。
END
またお会いしましょう(^^)/~~~




