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さよならヨークシア

領主との一騎打ちに勝ったアリアは満身創痍で地面に座り込んだ。とても疲れていそうだが、その顔はとても清々しかった。


「ほんとにすごかったぞ!!アリア!!」


俺は興奮を抑えきれず、アリアの肩を叩いた。アリアは、疲れた様子で肩で息をしながら、少し照れたように微笑んだ。


「はぁはぁ、ありがとう...ございます。メグルさんが父に怒ってくれたから勇気が出たんです」


俺は気恥ずかしさから視線をそらした。こんな状況なのに、アリアの素直な言葉が、俺の胸を温かくした。


「そ、そうか?ならよかった」

「おいおい、お二人さん、いい雰囲気のとこ申し訳ないんだが増援が向かってきとる。急がんとやばいやろ」


ザックが、冷や汗を流しながら叫んだ。彼の言う通り、もう近くから鎧が擦れ合う音が聞こえてくる。


「そうだな。早くこの場から離れよう」


俺はアリアに手を差し出し、アリアを引っ張り立ち上がらせる。女性にしては少し重い気がするがそれが武を極める女の子だ。むしろかっこいい。んなこと考えてないで早く逃げなきゃ。だが、無常にもあらかじめ喚んでいたであろう援軍の兵士に追いつかれた。


「おい、お前ら動くな」


兵士はゆっくりだが着実に逃げられぬように追い詰めてくる。


「お、終わりや!ワイの億万長者の夢が!!」


まだ始まってすらないのに、牢獄エンドで俺の夢は終わりかよ。それは、それだけは嫌だ。なにかあるはずだ。この状況を変えられる切り札が。

すると、一つの情報が俺の頭の中に急に入り込んできた。その情報はまるで昔から知っていたかのように俺の頭の中を動き回り、頭痛と吐き気を催してくる。だが、これが使えればまだ抗えるかもしれない。


「[トラベラー]スキル:シャッター」


俺はそう唱えて、両手で四角のカメラのジェスチャーをした。前にいる兵士が不思議そうに首を傾げる。


「はい、みんな笑ってー。はいチーズッ!!」


パシャッ!!


その瞬間、俺の両手から白い光が飛び出した。兵士たちは夜の路地裏というのも相まって眩い光をもろに目に当たった。

「う、うわぁ。め、目がぁ」「目がいてぇよ」

兵士たちから目に光を受けて阿鼻叫喚の叫び声が聞こえるがそれではこのスキルは終わらない。

「お、おい。うごけねーぞ」「なんだ?体が硬いぞ」

そう、このシャッターというスキルはただ眩しい光を放つだけではなく、その撮った写真のように動きまで止めることができるのだ。


「流石にぶっ壊れだろ...」


しかし、このスキルには制限がある。それは止められる時間は最大たったの5秒といったところだ。だが、隙ができた今しか逃げられない。


「今だッ!!逃げるぞ」


俺達はおぼつかない足だったが宿の前に止めていた荷馬車に乗り込んだ。

ザックが手綱を握り、馬に鞭を打つ。馬車は、けたたましい音を立てて走り出した。

だが、5秒はあまりにも短かった。馬車が曲がり角を曲がるのと同時に、兵士たちの動きが元に戻った。


「見つけたぞ!逃がすな!」


兵士たちが、怒号を上げながら馬車を追いかけてくる。こちらの馬車は、重い荷物を積んでおり、スピードが出ない。このままでは、すぐに追いつかれてしまう。絶体絶命のピンチだ。

その時、宿のおっさんが、静かに宿のドアから顔を出した。その手には、今朝縫っていたうさぎのぬいぐるみが握られていた。


「……やつらを止めろ」


おっさんがそうつぶやいた瞬間、彼の手にあったぬいぐるみが、まるで生きているかのように、兵士たちの足元に飛びかかった。


「お、おいこれなんだ?ぬいぐるみか?」


兵士が困惑していると、ウサギのぬいぐるみは軽快に兵士の足にまとわりつき、転倒させた。その兵士が立ち上がろうとした瞬間、宿のドアから次々と、熊やキツネ、ネズミなど、様々な動物のぬいぐるみが飛び出してきた。


「な、なんだ!?」

「ぬ、ぬいぐるみ?」


ぬいぐるみたちは、兵士たちの足元にまとわりつき、彼らを転倒させたり、武器を奪ったり、まるで生きているかのように動き回る。兵士たちは、剣や槍を振るうこともできず、ただ混乱するばかりだ。


「ありがとう!!おっさん!!いい趣味してんな」


おっさんはなにも言わなかったが最後に笑った気がした。


「……こんな可愛らしいぬいぐるみで、戦意を喪失させられるとはな」


ザックが感嘆の声を漏らす。その隙に、俺たちの馬車は兵士たちから遠ざかっていった。


「…おっさん、何者なんだ?」


俺たちはただ呆然と、無愛想な顔でぬいぐるみを操る宿のおっさんを見つめていた。彼の表情は相変わらず無愛想なままだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺たちは、馬車を走らせて路地を爆走していた。背後では、宿のおっさんのスキル「ぬいぐるみ操作」で兵士たちが足止めされ、その隙に俺たちは街のメインストリートから大きく外れ、入り組んだ路地へと逃げ込んでいた。これも全部スキルマップにおかげだ。来たことのない道でもわかりやすく俺達を案内してくれる。


「もう大丈夫やろ!さすがにここまで来たら、兵士も追ってけぇへんやろ!」

「おい、それは俺の故郷だとフラグって言うん...」


俺がそう叫んだ、その瞬間だった。


「ひひっ、甘いぜ!」


背後から、けたたましい馬の蹄の音が聞こえてきた。振り返ると、そこには黒い馬車が3台迫っていた。先頭の馬車の上には、冷酷な顔をした男が弓を構えている。


「くそっ、まだ追ってくるのか!」

「ザックッ!お前のせいだッ!!」

「なんでワイやねんッ!」


ザックは馬に鞭を打つが、追っ手の馬車は一向に速度を落とさない。男は弓を引き絞り、俺たちに向かって矢を放った。


「危ねッ!」


俺は咄嗟に身をかがめた。矢は俺の頭上をかすめ、馬車の側面に突き刺さる。矢が突き刺さる音に、俺は恐怖を感じた。


「おい、どうするんだよ!このままじゃ撃たれるぞ!」


俺の叫びに、ザックは冷や汗をかきながら答える。


「運転はワイに任せとけって!アリア、後ろの荷物を投げつけてくれッ!」


アリアは、頷くとすぐに、荷台の荷物を蹴り飛ばした。投げ飛ばされた荷物の中身は果物だった。色とりどりのフルーツたちが後方で矢を放とうとしていた馬車に直撃し、その馬車は横転した。


「いまだ!ここを曲がるで!」


ザックは、荷物を投げ飛ばした勢いをそのままに、馬車を急カーブさせた。馬車は、タイヤを軋ませながら、なんとか曲がり角を曲がり、追手の馬車をもう一つ離すことができた。しかし、まだもう一台残っている。その馬車に乗っている兵士たちもまた弓を引き絞り、俺たちに向かって矢を放った。今度は3人同時に放ってきているため、避けられない。


「くそ、避け割れへんッ!」

「御任せを。はぁッ!」


アリアが咄嗟に剣を抜き、飛んできた矢を全て弾いた。アリア強すぎやしないか?俺は矢よりもアリアに恐怖を抱いてきた。

しかし、兵士たちも終らない。次の矢を放とうと構えてくる。


「はい、チーズッ!!」


俺はすぐさまシャッターを発動し弓を射ようとする兵士を止めた。


「う、動けねぇ」

「動けないのはお前だけじゃないぜ」


そう、俺は手で作ったカメラの枠組みに馬車を運転する兵士も含めたのだ。操作が効かなくなった馬車はそのまま明後日の方向に進み、壁に激突した。これで追っては全て撒いたはずだ。あとはこの街から脱出するだけ。俺たちはそのまま馬車を走らせ、街の出口へと向かう。道中昼に歩いた大通りや噴水を駆け抜けた。人が全くいなくて寂しい印象を持ったが、あれはあれで乙な物だ。そんなこんな馬車を走らせると目の前に大きな門が現れた。俺が異世界の街に入るきっかけとなった場所だ。よく門を見るとあの時の門番の兄弟が立っていた。


「「お前は絶対通さないぞッ!!」」


馬車の通り道に仁王立ちだなんて勇気があるな。そう思ったがよく見たら足が震えていた。こいつらかわいいとこあるなと感じた。


「ありがとよ〜。第一村人兄弟ッ!案外楽しかったぜ、この街」


俺らの馬車はそのまま衛兵ブラザーズを轢こうとしたが、彼らは咄嗟に二手に飛んで避けてた。


「「お、おいッ!逃げるなぁぁぁぁッ!」」


俺達は奴らの言葉を無視し、勢いよく門を走り抜けた。


「やったでッ!!ワイら逃げれたでッ!!」


ザックが叫ぶとアリアは静かに頷いた。


「ええ、これで私達は自由...です」


俺は、馬車の屋根に上がり、夜空を見上げた。満月が、俺たちを照らしている。


「こっからだッ!こっから俺らの冒険が始まるんだッ!」


ガイドブックを作りたがる変態転生者と関西弁の胡散臭い商人、戦闘狂の家出娘。奇妙で奇天烈な三人組だが、確かに俺らの旅が始まった瞬間だった。 



第一章 完


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