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貴族少女の追われる理由

衛兵たちからの逃亡劇を行った俺達は結局今朝の宿まで戻ってきた。宿に入るとおっさんがアリアをみてびっくりしていたが、すぐに平常運転にもどり、「...いらっしゃい」と無愛想ながらも歓迎をしていた。いやおっさん事態を飲み込む早さすげーな。ザックとは大違いだよ、ほんと。

俺達は三人テーブル席に座り、ミルクを頼んだ。昨日のエールと同じく冷えてはないが、喉が乾いていた俺は一気に飲み干す。


「ふぅ、さて、一体どこから聞けばいいのやら」


俺がそう言うと、アリアは淑やかに答えた。


「なんでもお答えします」


俺の問いに、アリアは姿勢を正して答えた。


「じゃあ、まずあんたは、ここの街の貴族の娘アリアで間違いないな?」

「はい、私はヨークシアの32代当主の娘、アリア・ヨークシアです」


その言葉にはただの名前以上に重みがあった。まるでアリアの人生そのものを物語っているようだった。


「そんな大層な身分の方々どうして護衛を付けずに街を歩いていたんだ?」


俺の問いに一瞬表情を曇らせた。


「それは...家出…ですわ」

「ふーん、家出ね。家出...いえでッ?!」


俺の大きな声にアリアはビクっと体を震わせた。だが許してほしい。だって貴族の娘だぞ。生まれただけで勝ち組で何もしなくても悠々自適に暮らしていけるはずだ。そんな恵まれた環境を捨ててまで家出するなんて、俺には到底信じられなかった。


「家出なんてしなくてもよかったんじゃないか?貴族の娘ならのんびり優雅に暮らせるだろ?」


アリアは、俺の言葉をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「それが...嫌だったんです。そのなにも刺激のない毎日がうんざりでうんざりで仕方なかったんです」


アリアはそう言うと、静かに顔を上げた。その瞳には、先ほどの清楚な少女とは似ても似つかない、強い光が宿っていた。


「私の家系は、代々剣術を嗜み、王国の騎士団に入団するのが習わしです。男であれば、当然のように騎士を目指すことになりますわ」


アリアは遠くを見つめ昔を懐かしむように語りだした。


「小さい頃私はお祖父様や父上の武勇伝を聞いて心を踊らせ、小さいながらも剣の稽古をしていましたわ。その頃の私は家を守って下さる兵士さんを倒したり、庭に侵入した猪を狩っていました。ふふ、懐かしいですね」

「ん?」


なにか後半おかしな話が出ていたが気のせいだろう。兵士を倒す?猪を討伐?いや、俺はなにも聞いてない。そこまで言って、アリアは少し悲しそうに目を伏せた。


「ですが、私は女。どれだけ剣の才能があったとしても、どれだけ騎士に憧れたとしても、騎士団に入ることは許されませんでした」


彼女の言葉に、俺は思わず息をのんだ。目の前の少女が、そんな重いものを背負っていたなんて思いもしなかった。


「だから私は、家出をしました。この退屈な日常から逃げ出して、私の求めている“刺激”を探すために」


アリアは、どこか吹っ切れたような、それでいて寂しそうな表情をしていた。アリアの言葉を聞いて、俺は自分がさっき言った言葉を後悔した。「のんびり優雅に暮らせるだろ?」なんて、とんでもない。何も知らないくせに、彼女の人生を否定するようなことを言ってしまった。


俺も、小学生の頃はそんな毎日が嫌で、どこか遠い世界に行きたいと願っていた。現実の退屈さから逃れたくて、図書館で借りたガイドブックを何度も何度も読み返した。そこには、俺の知らない世界が広がっていて、ページをめくるたびに、心が躍った。だから、俺はガイドブックを作る仕事に就いたんだ。

アリアは、俺にとってのガイドブックのような存在を、現実の世界に求めていたのかもしれない。

俺は、アリアの瞳をまっすぐ見つめた。そこには、俺と同じ「夢」を持つ者の輝きがあった。


「ごめん。俺、間違ってた」


アリアは、俺の言葉に驚いたように目を丸くした。


「俺も、小さい頃、毎日にうんざりしてたんだ。だから、どこか遠い場所に行きたくて、ガイドブックを読んでた。その気持ち、なんとなくわかる気がする」


俺の言葉に、アリアは少しだけ寂しそうな顔をしながらも、わずかに微笑んだ。その表情は、先ほどの張り詰めた緊張感とは違い、どこかホッとしたように見えた。


「理解してもらって嬉しいです。誰にも共感されてもらったことがないので」


アリアの顔をよく見ると口元が震えたが、笑みを作ろうと必死に形を保っていた。


「旅は、いいものですわね」


アリアがそう呟くと、俺も深く頷いた。


「ああ。最高だ。どこに行くにも、何を見るにも、全部が新しい発見だからな。特に、ガイドブックを作る人間にとっては」


俺がそう言うと、アリアは興味深そうに俺を見つめた。


「メグルさんも、冒険がお好きなんですか?」

「俺は冒険っていうより、旅かな。まだ行ったことがない場所に足を踏み入れて、そこにしかない景色や文化、人の暮らしをこの目で見て、それを一冊の本にまとめるのが夢なんだ。だから、アリアがさっき言った『刺激のない毎日が嫌だった』って気持ち、すげぇわかるんだよ」


アリアは、俺の言葉をじっと聞いていた。すると、彼女の瞳が潤み、静かに口を開いた。


「……ありがとうございます、そんなふうに言ってくださるのは初めてです……」


アリアは、誰にも理解されないと思っていた孤独な思いを、初めて打ち明けることができた安堵と、それに共感してくれた俺への感謝で、胸がいっぱいになっているようだった。


「私、あなたたちの旅に同行させてください」


アリアの言葉に、俺は驚いた。


「え、でも、アリアは貴族の娘だろ?俺たちの旅は、衛兵に追われたり、お金に困ったり、のんびりとは程遠いんだぞ」


俺がそう言うと、アリアはまた微笑んだ。


「それは、私にとって、この上ない『刺激』ですわ」


その言葉には、迷いも戸惑いもなかった。ただ、退屈な日常から抜け出したいと願う、一人の少女の強い意志が込められていた。


「そうか、俺はいいけど。ザックは?」


今まで話に一切参加しなかったザックに視線を向けるとザックはポテトを食っていた。


「ん?なんやめぐッ!!痛いッ!!なんで叩くんやッッ!!自分人の優しさを母のお腹においてきたやろッ!」

「お前人の話聞いてなかっただろ?お前こそママの腹の中からやり直せッ!」


こいつはアリアの感動的で切ない話をポテトを食べててあろうことか聞いてなかった。ザックは頭を押さえながら口を開いた。


「ん?アリアは冒険がしたいけどお家柄許さない。それでワイらについてきたい。合ってるやろ?ちなみにワイは大賛成やで」


とりあえずザックの後頭部に二度目のげんこつを打ち込んでおいた。「だからなんで叩くねんッ!」と聞こえるが幻聴だろう。


「アリアが俺等でいいならいいよ」


アリアは俺の言葉に目を輝かせた。


「ぜひお願いします!!」


アリアは、お淑やかな貴族の娘から、冒険を夢見る一人の少女へと、その姿を変えていた。その瞬間、カウンターの向こうでグラスを拭いていた宿のおっさんが、ピタリと動きを止めた。無愛想な表情のまま、外にいる気配を探るように、わずかに耳を傾けている。そして、ゆっくりと俺たちの方を向くと、低い声で言った。


「…外に、兵士がたくさんいる」


おっさんの言葉に、俺たちは息をのんだ。さっきの衛兵たちが、応援を呼んできたのだろう。宿の窓の外は、すでに無数の松明の光で照らされ、鎧の擦れる音がかすかに聞こえてくる。


「ほんまかッ!どないするッ!!」


ザックが青ざめた顔で叫んだ。だが、アリアは冷静だった。彼女は静かに立ち上がり、俺たちを見て微笑んだ。


「これこそ、私の求めていた『刺激』です」


その言葉には、迷いも戸惑いもなかった。ただ、退屈な日常から抜け出したいと願う、一人の少女の強い意志が込められていた。


「ご主人、紅茶はございますか?」

「...ああ、あるぞ」

「でしたら作ってもらってもよろしいですか?そしてメグルさん、その間だけ時間稼ぎをお願いしてもよろしいですか?」


アリアが何をしたいのかわからないが俺を信頼してくれているのは伝わった。なら俺もアリアを信頼してくれているのはしなきゃな。俺はアリアの言葉に頷き立ち上がった。


「まかせろ。ここはザックがなんとかする」

「なんでカッコつけといてワイやねんッ!!」

「商人はこういうの得意だろ?」

「はあ...ほんま人使い荒いな。もう」


ザックはため息をつきながら、渋々立ち上がり、観念したかのように宿の外に向かっていった。


「ええけど、3分だけやで?」

「ええ、お願いします」

「しゃーないな。メグル、見とけよ。ワイのスキルを見せてやる」


そういうと手に持っていた帽子を頭に被せ、酒場のドアを蹴り、盛大な登場をし、不敵に笑って見せ、


「ワイの”商談”見せたるでッッ!!」|


そう兵士たちに啖呵を切ったのだ。


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