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正義の少女の正体

その後、俺はぼったくり串焼き屋台から離れ、さっき歩いていた大通りまでもどり、串焼きを平らげた二人は、人混みを抜けて大通りへと戻った。おっちゃんがくれた"ワイバーン"の尻尾肉も案外美味かった。牛肉ほど味がしつこくなく豚肉ほど油っぽくなくちょうどいい味で噛み応えもあり、俺は好きな肉だったが、隣のフード少女は不満だったらしく、「やはり、衛生状態が悪いのかワイバーンの本来の味が」とブツブツ文句を言っていた。そして現在、昼下がりの陽射しが白い石畳を照らし、行き交う人々の影を柔らかく落としている。俺は、隣を歩く少女に視線を向けた。

「さっきは、ありがとう。ほんとに助かった。君がいなかったら、たぶん俺はあのおっちゃんに金をむしり取られていたよ」


少女は少し驚いたように目を瞬かせ、それから微笑んだ。


「お気になさらないでください。当然のことをしたまでです」

「いや、それでもほんとに助かったんだ。なにか代わりにお礼をさせて欲しい」


 少女は少し困ったように眉を下げ、少し考えてからこう答えた。


「でしたら正門の方まで一緒に来てもらってもよろしいですか?」

少女は遠慮がちにお願いを頼んできた。俺はもっと難しいことを頼まれると思って呆気にとられ間抜けな顔を晒した。


「え?そんなのでいいの?」

「はい、お願いします」

少女は小さく頷く。けれどその仕草には、どこか影が差していた。しかし、少女はフードを被っているため表情は確認できない。


「まあ、いいけど……正門ってことは、街を出るの?」

「……ええ。少し、外に用がありまして」


言葉を選ぶように答える少女。

彼女の薄青い瞳がふと揺れ、困ったように眉が寄る。その顔は、ほんの一瞬だけだったが、何か大きな事情を抱えているのだと告げていた。しかし、人の事情に安易に踏み込んではいけない。彼女だって詮索されたくないだろうし。


「そっか!じゃあ早速行こうぜ?急がないと日が落ちちゃうし」


俺の言葉にさっきまで下を向いていた少女が顔を上げ、一瞬目を見開いた。


「ま、待ってください!まだ私あなたの名前も知らないです」

「そういや、紹介し忘れたわ。俺の名前はサトウメグル!ただのしがない旅行者だよ。君は?」

「メグルさん…ですね。私はアリア…今はただのアリアですわ。よろしくお願いします、メグルさん。」


そう言って少女ことアリアは微笑み、腰まである長いフードの裾を持ち上げ、小さくお辞儀をした。そのお辞儀は簡易的であったにもかかわらず品があった。


「…ところでさ、正門ってどっちだっけ?」

「…ほんとにこの街について知らないですね」

「いやあ、地図も持ってないからわからなくてさ」


これはもちろん嘘だ。出そうと思えばスキルで出せるがザックが昨日言っていた通り人前でむやみにスキルを見せる物ではないだろう。


「ふふ、困った方ですね。こちらですよ」

アリアは口元を服の袖で隠しながら笑った。そして、俺に街を紹介するように歩き出した。俺は遅れないように小走りし、アリアの隣についていくことにした。メグルとアリアは並んで歩きながら、石畳の続く街路を進んでいった。昼下がりの陽光が白壁の建物を柔らかく照らし、赤い屋根瓦がどこまでも並んでいる。軒先には花籠が吊るされ、色とりどりの花々が風に揺れていた。


「ここが商業通りですわ。昼は人が多いですが、夕方には露店が並ぶんです」


アリアは通りを指差しながら説明する。その声音は穏やかだが、どこか誇らしげでもあった。


「へぇ、思ったより賑やかな街なんだな」

おれは物珍しそうに露店の看板やガラス越しの装飾品を眺める。おれの無邪気な反応に、アリアは小さく口元を緩めた。


「そうでしょう、自慢の街なんです...」


 広場に出ると、噴水が陽光を受けてきらきらと水滴を散らしていた。子供たちがその周囲で追いかけっこをし、果物売りの声が響く。香ばしい焼き菓子の匂いが風に混ざり、旅人の足を引き留める。


「この噴水は昔、王が寄進したものだとか。市民たちにとっては待ち合わせ場所でもありますの」

「なるほどな。オレの街でも、駅前のハチ公みたいなのがそんな役割だったよ」

「えき…? はちこう…?」

「いや、なんでもない。気にすんな」


言葉のすれ違いに、アリアは小首をかしげるが、それ以上追及しなかった。

やがて通りの向こうに、灰色の城壁が見え始めた。街の外へ通じる正門だ。背後から聞こえる雑踏が少しずつ遠のき、代わりに門番の声や荷馬車の車輪の音が近づいてくる。


「……あれが正門です。ここを抜ければ、街道へと続きますわ」


アリアが少し緊張しているのか強張った低い声で説明してきた。目の前には昨日入ってきたでかい門がそびえ立っていた。


「おぉ、ようやく正門か。いやぁ、歩いてるだけで観光気分だったな」

「観光ですか……ふふ、あなたって本当に変わった方ですわね」


 アリアは袖口で口元を隠しながら、ほんの少し笑った。


「…ここまでいいか?」

「そうですね、本当にありがとうございました」


アリアは深々と頭を下げた。俺は焦り、すぐ頭を戻させた。


「いいってことよ。助けてもらったお礼なんだし」

「それでも…です」


アリアはフードを深く被っていて表情は見えないが彼女の声には誠意がにじんでいた。その空気に俺も少し照れくさくなった瞬間——


「おーいメグル! 探したで!」


通りの向こうから、聞いたことのある関西弁が飛んできた。見れば荷馬車に乗ったザックが手を振っている。荷馬車はどこかで借りたのだろうしっかりとした作りになってそうでその荷馬車を馬に引かせながら優雅に向かってきた。「ザック!」俺は声を返した。

彼はずかずかと近づいてきて、息を弾ませながら言う。


「いやぁ参ったわ。せっかく取りつけた貴族んとこの商談がな、娘が失踪したとかで……全部ナシや! こっちは準備万端やったのに!」


俺は驚いて口を開いたが、その横でアリアが小さく身じろぎした。フードの下から覗いたわずかな横顔と腰まである綺麗で整っている茶髪に、ザックの目が釘付けになる。


「……ん?」


次の瞬間、彼の表情が凍りついた。大きな目をさらに見開き、信じられないといった顔でアリアを凝視する。


「お……おまっ……!」


息を呑んで一歩下がったザックは、堪えきれず叫んだ。

「——アリア様やないかっ!!!」


広場にいた人々が一斉にこちらを振り向く。露店の客も、兵士も、子供さえも。喧噪がぴたりと止まり、ざわめきが渦を巻く。

まずい。なにがまずいか説明できないがまずい。俺は血の気が引いた。


「ザック! 声がデカい!!」


だがもう遅い。アリアの正体は、ザックの一声で白日の下にさらされてしまった。

アリアの肩が小さく震える。彼女は俯いたまま、唇を強く噛みしめていた。群衆の視線に晒され、息が詰まりそうになっているのが分かる。


「アリア、大丈夫か……?」


俺は小声で問いかける。しかし俺の問いかけに答える余裕もなく、少し後退りし手を震わせていた。アリアの顔は青白く明らかに普通の状態ではなかった。すると、甲冑がぶつかり合う嫌な金属音が俺等に近づいてきた。後ろを振り返ると、広場の警備兵たちがこちらへ駆け寄ってくる。


「お待ちください! アリア様!」

「探しましたよ! 至急お連れせねば!」二人の兵士が伸ばした手が、アリアの細い腕をがっちりと掴んだ。

「やめてください……!」


アリアは必死に抵抗する。俺もとっさに動こうとしたが、その瞬間、兵士の力に抗おうと身を捩ったアリアのフードが、するりと外れてしまった。陽光にさらされた彼女の茶色の髪が広場に眩しく舞い、群衆から一斉に驚きの声が上がる。今までフードで隠されていた美しく儚い目元も公然に晒される。そこには誰もが認めるだろう美少女がいた。


「お、おい、メグル。ワイもしかしたらやらかしてもうたか?」

「後でぶん殴る。それよりアリアを助けるぞ」


ザックは確かにやらかしたが文句を言ってもしょうがない。そもそも俺も正体に気づいていないのも悪い。たとえボロボロのフードを着ていてもゴミ一つついていない髪や礼儀の良さからなんとなく察せただろうに。こんなこと考えている間にもアリアは連れていかれそうだ。


「た、助けるって言ったってどないせえ言うねん」

ザックは未だに状況が理解出ていなそうだ。

「有り金全部寄越せ。後いつでも逃げるように準備しとけ」

「え、ええけどそのまま走って逃げたら許さへんで」

「器ちっちぇーな」

「商人にとっつ金は命より重いねん」


なんか後ろでほざいているが一旦無視だ。その間にもアリアは兵士たちに連れて行かれそうだ。俺は強張る足を強引に前に進ませアリア達の元へと向かう。近づいてくるの俺に兵士が気づき、一人が俺の前に立ち塞がる。よくみたらさっき俺にぶつかってきた衛兵だった。


「おい、貴様。なんのようだ」

「そちらにいる女性を取り返しにきた」


俺がそう告げると、衛兵の顔に嘲笑が浮かんだ。さっきから思ったがこの衛兵やたらムカつく顔をしてるな。しかし、俺は動じない。懐から隠し持っていた懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた。昼間にも関わらずまばゆい光が、辺りを明るく照らす。


「な、なんだこれは…!」


衛兵が反射的に目を細めたその瞬間、俺は懐中電灯の光を直接、衛兵の顔に向けた。目がくらんだ衛兵がたじろぎ、目を押さえてしゃがむ。


「お、おい。大丈夫か?」


アリアを掴んでいた兵士が一瞬気をそらしたその刹那、アリアの目が鋭く光った。アリアは、緩んだ衛兵の腕を振り払い、渾身の力を込めて、その腹に一撃を叩き込んだ。「グェッ!」と情けない声を出して、衛兵が崩れ落ちる。


「やるじゃん、行くぞ!」

「は、はいッ!!」


俺はアリアの手を取り走り出そうとする。だが、衛兵もそんなに甘くない。目潰しで倒れていた方が立ち上がろうとしている。


「に、逃がすかよ。このまま逃がしたら俺らは首なんだよッ!!」

「お!ならちょうどいい。退職金だッ!受け取れ」


俺はそう叫び、さっきザックからもらったありったけの硬貨を衛兵たちに投げつけた。金属音を立てて硬貨が地面に散らばると、周囲で一部始終を見ていた民衆の目が一斉に光る。


「今投げた金の中には金貨も少し入ってるから早い物勝ちだそー」


その言葉を聞いた民衆は一斉に金が散らばっている衛兵の周りに群がった。

「金だ!」 「もらった!」

衛兵たちが「待て!そいつを捕まえろ!」と叫ぶも、硬貨を拾う民衆の波に阻まれて身動きが取れない。


「やっぱ金の力はすげーな」


俺は他人事みたいに呟く。あの調子だとしばらくはこちらを追ってこれないだろう。俺とアリアは広場から抜け出すように走り出した。


「あのッ!助けてもらって本当にありがとうございました。ほんとに助けてもらってばっかり...」

「ん?いいってことよ。うちの家には守らないといけないルールみたいのがあってね、それは『女性には紳士であれ』なんだよ。ね?だから当然のことをしたまでってこと」

「ふふ、ほんとに面白いひとですね、メグルさん」


なんか冗談だと思われてそうだが、今はいいか。それよりなにか忘れているような。


「ちょっとワイの金返せッ!あれはワイの今月のおこずかいやねん」

「あ、ザックッ!お前影薄いな」


影が薄いザックは先程から乗っている荷馬車を走らせ俺の隣を並走してきた。


「ひどい言われようやなッ!!ってちゃうわ!金や!金!」

「かねかねうるさいな。お前商人か!?」

「商人やッ!!」

「有効活用したからいいだろ?それより乗らせろ」

「なんか釈然とせえへんな...」

「ふふふ、こんなに楽しいの久しぶりです」


その後俺達は馬車を走らせ、狭い路地へと姿を消したのだ。


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