食材の宝庫、アシス村
きれいな夜空を見ながら三人で川の字で寝たあの日から1週間、俺はある危機に直面していた。それは、
「食料問題だ...」
絶賛俺達の旅は飯事情で大ピンチなのだ。え?前に解決しただろって?それとは別だ。この前ザックが提案した魔獣狩り作戦は大成功した。成功はしたんだ…。魔獣狩り作戦は思いの外安定し、取った魔獣の肉の余りをまた罠に使うことで永久機関のように肉が手に入っていた。だが、俺らは飽きたのだ。毎回取れるのはワイルドボアでここ一週間全部ワイルドボア料理を食べている。味付けで差別化しようにもザックの準備不足の性で塩しかなく、俺も余り料理のバリエーションを知っているわけでもなかったから毎回煮込みのスープになっていた。そしてとうとう俺とアリアの限界がきた。ワイルドボアの肉は脂がとてものっていて大量に食べると胃に負担がかかるんだ。俺とアリアはそこで遂にギブアップをしたんだが、あのバカだけは違った。「今日も魔獣狩りするで。でもまさかワイルドボアが自分のお仲間で釣れるんだから皮肉なもんよなぁ」と一人呑気なことを言っていたので俺が叩き飛ばした。いつもはザックの心配をするアリアも今日のザックにはムカついていたのか、清々しい顔をしていた。
そして、時は戻り、現在。馬車を一旦止めて会議が開かれていた。
「例え、ワイルドボアがまた取れようと俺らはもう猪に飽きたんだ」
俺の言葉にアリアが縦に首を振り、同意する。彼女の目もまた、「美味しいものが食べたい」と訴えかけていた。
「そんなこと言ってもなぁ、ワイには何もできへん」
ザックが正論を俺に突き刺してくる。いや、ここで折れたら負けだ。現在の旅で一番といってもいいぐらい食というのは大事なイベントなんだ。ただでさえ、一週間も景色がほとんど変わらない中、馬車で移動し続けているのだ。食事だけなんだ、今の俺らの楽しみは。
「そこをなんとかしようぜ。例えば少し道から逸れて村に立ち寄るとか?俺、そのためならマップ出すぜ?」
俺は美味しい食事にありつけるならなんでもする覚悟だ。俺は口元を固く結び、誠意をもってザックに問いかけた。
「ん〜、それやと若干遠回りなんよなぁ」
ザックは腕を組み、唸る。まだ渋るか……!
「そこをなんとか!一生に3度のお願いだ」
「なんか多いでッ!?」
俺は頭を下げ、ザックに懇願する。するとザックはこんな俺を見かねてか渋々頷き、口を開いた。
「しゃーないな。...わかった。少し遠回りだが、食材の宝庫と呼ばれるアシス村に行くで」
その言葉を聞いた俺とアリアはまるで子供のように顔を見合わせ、喜びを爆発させた。
「まじ!?ザック、ありがとう!」
「ザックさん、本当にありがとうございます!」
俺は、ザックに駆け寄り、彼の肩をビシバシ叩いた。ザックは、叩かれて痛そうな顔をしたが
「まったく、二人とも騒がしいんやから……」
そう言いながらも、ザックの顔は、満面の笑みだった。俺たちは、新しい食材、そして新しい味を想像して、胸を躍らせた。アシス村。そこには、どんな美味しいものが待っているのだろうか。
「よし、そうと決まればすぐ出発だッ!!」
「馬車を御すのはワイなんやが...」
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アシス村を目指して半日、今まで草原だった地形が変わり、絶賛鬱蒼と木々が連なる森の中の急勾配の坂を、俺達の馬車はゆっくりとだが、確実に進んでいた。
「がんばれ、アレクサー!!ここを乗り越えたらアシス村があるはずやで!ほんとにこんなとこの山の中にあるんだよな、メグル」
「ああ、マップはこの先を示している。ほんとに後少しだぞ」
俺達は今、操縦席に座りながらザックがアレクサーを御して、俺はマップを見ながら道案内をしていた。ザックが言っていたアシス村。行くことが決まったのはいいがどうやらザックはアシス村の断片的な情報しか知らず肝心の行く方向を知らなかった。そこで俺のスキルの出番だ。マップを取り出し、ザックの知っていた情報と一致する場所を見つけ、マップにアシス村をなんとか発見することができた。そして現在夕方、日が沈みかけており、ここまで来たなら野営は勘弁したい俺達は馬車を急がせアシス村に向かっている最中といった具合なのである。
「おっかしいな?マップから判断するにもう入ってもおかしくないぞ」
「あ!見つけたで!正面に建物があるで!」
俺がマップから顔を上げると確かに家がポツポツと見え始めた。周りを生い茂っていた草もきれいに整えられていて人がいるのは間違えないだろう。俺達を乗せた馬車はそのまま村の内部を進んでいった。壁と藁葺き屋根でできた家々が、不揃いながらも肩を寄せ合うように建ち並び、その間を、石畳の細い道が縫うように続いている。村の中心には、大きな水車小屋があり、川のせせらぎと、水車が回るゴトン、ゴトンという音が、村全体に穏やかなリズムを刻んでいた。井戸の周りにはこの村の住人らしき人たちが話し合っていて、周りを見渡せば村人は30人はいるだろう。そして家の周りにある畑は、見たこともない野菜や果物が実り、その周りを、色鮮やかな蝶や、手のひらサイズの鳥たちが飛び交っていた。その美しい風景に見とれていたが、一つ違和感を覚えた。
「なんか村人辛気臭い顔してね?」
この村にいる村人達は数こそ多いが、みんな全く笑顔ではないのだ。そして時折、村人が俺等の方をみてこそこそ話し合っていた。
「村っていうのは案外閉鎖的なんやで。他所者には厳しいのは常識や」
「うーん、そうか?」
なんだか釈然としないが、否定する理由もない。俺等を乗せた馬車はそのまま中央の広場に止まった。後ろの荷台からアリアが飛び降りる。
「急な訪問で誠に申し訳ございません。わたくしたちは旅の者でございます。こちらの村で名産と伺っております食材を求めて参りました。もしよろしければ、いくらででも買い取らせていただきますので、わたくしたちにお分けいただけませんでしょうか?」
「おおー、すげー」
俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。アリアのお願いはとても簡潔でそれでいて相手方に配慮した素晴らしい説明で社会人だったおれですら顔負けだ。アリアのお願いを聞いた村人達はザワザワし、なにやら話し合っていた。しかし、一向に誰も返答してくれない。しびれを切らした俺は馬車から寝袋を降り、もう一度お願いしようとした瞬間ーー
「アシス村へようこそ、旅人さん方」
話し合っていた村人達の間から腰の曲がった老婆が杖を使いながら歩いてきた。この風貌からして村長だろうか?アリアがその老婆に頭を下げたのを見て俺とザックも急いで下げた。
「歓迎ありがとうございます。村長様で間違えないでしょうか?」
「ええ、見ての通り老いぼれたババアですが、一応この村の代表者をやらせてもらっておりますクララです」
クララっと名乗った老婆はその言葉をどおり、だいぶ年老いていて俺は村長なんかやらせておいてもいいのかと疑問に思ったが、周りの村人がクララをこの場に呼んだのでおそらく慕われているのでろう。
「クララさん、俺達は絶賛食料が枯渇していて旅が続けられない状態なんだ。アリアがさっき言った通り、食料を分けてほしい。言い値で払うぜ」
俺の言葉を聞いたクララは溜息をつき、申し訳なさそうに口を開いた。
「実はこの村も現在、食料がそこを尽きかけていてのう。悪いのだが、よその人には渡せないのだよ」
「へ?それほんまか?あのアシス村やで。最高品質の食材が揃うと言われるこの村でそんなことあり得へんだろ」
ザックが声を荒げるがクララは首を振るだけ。俺はその様子が気になり質問した。
「なあ、なんで今食材が手に入らないんだ?」
クララはしばらく沈黙したが俺らが黙るのを諦めらめたのか静かに語り出した。
「一ヶ月前、この村の名産である野菜が全部腐り、取れなくなった。三週間前、川に生息していた川魚が死体で流れてくるようになった。二週間前、森で狩れた生き物が姿を現さなくなった。これでいいかい」
クララの声は低く、村全体を覆う絶望そのものを映していた。
俺もザックも、思わず言葉を失った。
「……そんな、順番に生活の糧が潰されていったってことか」
「せやけど、原因はなんなんや?」
ザックの問いにクララはぎゅっと拳を握りしめ、声を絞り出した。
「——原因は、ちょうど一ヶ月前に現れた一人の魔女の仕業かもしれない」
その瞬間だった。乾いた靴音が響き、漆黒の外套に身を包んだ人影が広場に入ってくる。
「……はぁ。やっぱりそういう言い方すると思った」
魔女と呼ばれた人物はフードを下ろした。その顔は、まだ若い美少女だった。
彼女の髪は夜明け前の空を思わせるような淡い紫がかった黒色で、光の加減によっては漆黒の暗闇にさえ見える。その長い髪は緩やかに波打ち、肩にかかるあたりでさらりと流れる。顔立ちは丸みを帯びていて愛らしく、大きな瞳は深い紫水晶のように輝き、見つめられるとどこか心を試されている気がする。小さな鼻筋と、ツンと結んだ唇が彼女の気の強さを際立たせていた。白い肌は雪のように透明感があり、頬にかかる一房の髪がその清楚な雰囲気を引き立てる。そこには確かに、"魔女"がいた。
「ん?なによ?ジロジロ見て」
魔女が訝しげに俺を睨んでくる。あらぬ疑いをかけられたくない俺は咄嗟に
「いや、綺麗だなって」
と本音を答えてしまう。やばいやらかしたかっと思ったが、少女の反応がない。目を開けるとそこには顔を真っ赤にして恥ずかしがっている少女がいた。
「ーーッ!な、何言ってるのよ」
少女が詰め寄ってきて俺の服を掴むが、俺より身長が低いからか全く怖くない。
「や、やっぱりあんなに暴力的だし、あの魔女がやったに違いないんだ」
「そうに決まってる。あいつはこの村に来てから俺たちと関わろうともしない。怪しすぎるぜ」
今の一部始終を今村人が魔女について憶測を話すが声が大きく本人にも聞こえているはずだ。その疑われた張本人をみると一瞬どこか悲しい表情をしたがすぐに鋭い眼光で村人達を睨み返した。村人達はその視線に耐えられずビビって喋るのやめた。ダサすぎる。
「噂をすれば、魔女様ではないか。いい加減辞めてください。もう我々も限界ですぞ」
「だから、わたしじゃないって。なんども言っているでしょ!!それに私は魔女でもないッ!」
どうやら少女は魔女でもなくこの村を襲っている厄災の原因でもないらしい。少女は声に苛立ちを含みながらも理性的に否定する。
「私がわざわざこの村を陥れる理由も動機もないのよ!私だってこの村に来た理由はこの村の食材ですもの」
少女がそう村人に弁解するが誰も納得しない。それどころか舌打ちすら飛び出す始末だ。
「そんなのしらねえよ。お前が来たその日から俺等は食料不足で困っているんだ。とっととこの村から出てってくれよ。俺達だってお前を責めたくないよ」
「そ、それは...」
一人の村人が口火を切ったことで周りの村人も感化され、少女にひどい罵声を浴びさせる。少女を見ると、下を向き、唇を強く噛んでいた。そんな様子を見たアリアが村人に何かを言おうとしたが、俺はそれを手で静止した。そして、俺はまっすぐ村の中央に歩き出し、ここにいるみんなにいるように大きな声で喋り始めた。
「おいおい、ここの村人は原因をもっと調べようとするんじゃなくてただの少女に責任を擦り付けようとすんのかよ?思考停止させんじゃねーよ。お前ら一ヶ月もあってなんにもわかってないんだろ?」
周りで少女に文句を言っていた村人達は俺の言葉に言い返せず、黙った。隣をみると驚いて目を見開いている少女の姿があり、「なに言っているのよ」と文句を言いたげな表情だった。後ろを振り返ると呆れた表情のザックと笑顔のアリアが俺を見つめていた。
「あまり村人を責めないでおくれ、旅人さんよ。私達だって原因を色々調べたんだ。だがなに一つ見つからなくてのう」
「それはあんたらが無能だからとかじゃないのか?」
「ふぉっふぉ、言ってくれるのう?ではお主らなら解決できるのか」
クララは途中まで笑っていたがいきなり眼光が鋭くなった。おお、怖い怖い。
「おお、あたぼうよッ!俺らとそこの可愛い魔女さんならすぐにでも解決できるぜ」
「な、なに言っているのよッ!それに魔女って呼ぶなッ!」
「おお、悪い。けどな、うちの故郷だと魔女って可愛いイメージだからついな?それに、俺たちなら解決できる。その代わり、その問題を解決できたらありったけの食料とこの娘への謝罪をしてくれよ」
俺がそう言うと、村長は俺の言葉に驚き、少し眉をひそめた。周りの村人たちも、再びざわつき始める。
「おいおい、本当に大丈夫かよ。そんなこと言って、もし解決できなかったらどうするんだ?」
ザックが心配そうな声で尋ねる。俺はにやりと笑って、ザックの肩を叩いた。
「心配すんなって。解決できない問題なんて、この世にはねぇんだよ」
アリアは、俺の言葉に満面の笑みを浮かべた。一方、隣にいる少女は、呆れたようにため息をついた。
「勝手に決めないでよ。それに、どうせ何も解決できないわよ」
「いいや、やってやる。それであいつら見返そうぜ?」
俺の言葉に、少女は何も言い返せず、ただ俺を見つめていた。その表情は、驚きと戸惑いが入り混じっていた。
クララは、俺たちのやりとりを静かに見守っていたが、やがて口を開いた。
「よかろう。そこまで言うなら、お主らに任せよう。ただし、もし解決できなければ、それなりの罰を受けてもらうことになる。覚悟しておけよ」
村長の言葉に、俺は笑顔で頷いた。
「御任せを。それよりそっちも食料と謝罪の言葉考えとけよ」
村長は頷き、村人達を解散させた。いきなり、閑散した広場には俺達と例の少女だけが残った。俺はザックとアリアと話し合うため向かう。
「さて、じゃあどこから調べるか」
「ちょっと待ってよッ!」
俺は後ろから服を引っ張られたので振り返ると少女が呆れた表情で俺達を見つめていた。
「名前...教えてよ」
俺はすっかり忘れていたがそういえば自己紹介してない。こういうところ悪い癖だなっと思いながら、少女と向き合う。
「俺の名前はサトウメグル。しがない旅人だが、俺はいつか世界中を旅してそれで本をだしたい」
俺は自信満々に自分の夢を少女に伝える。続けてザックとアリアも紹介しよう。
「後ろにいる二人は俺の仲間で、頼りなくてすぐやられそうな男がザック・ルーベン。一応商人だ。」
「なんか悪口ばっかやないかッ!?」
ザックはまだなにか文句を言いたげだが、それを飲み込んで帽子を取り、俺に挨拶したようにお辞儀した。
「よろしゅうな。ワイはザックルーベン。頼りにはなるからな」
少女は少し、目を見開きながらも頭を下げる。
「そして、もう一人の仲間が、うちで一番強くてかっこいい武闘派担当のアリア・ヨークシアだ」
「なんか女の子の紹介っぽくない...」
アリアがなにか言った気がしたが聞き取れなかった。アリアも貴族らしい丁寧なお辞儀を挨拶した。
「よろしくお願いいたします。アリア・ヨークシアです。仲良くしてください」
アリアの挨拶にも同じく頭を下げるスミレ。その表情は少しぎこちない。
「あんたは?名前、教えてくれるんだろ?」
俺は少し身をかがめて、スミレの目を見つめる。すると、スミレは気まずそうに目を逸らし、蚊の鳴くような小さな声で答えた。
「...スミレ・オンドハート。魔女じゃない...ただの人間よ」
最後の言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
俺はにやりと笑い、握手を求めた。
「そうか、よろしくな。スミレ」
「そ、そういうの、いらないわ」
スミレは恥ずかしそうに否定する。俺はそういうの空気読めないので無理やり握手する。
「い、いらないって」
そういいつつも顔は少し赤く、なんだかんだで握手に応じているスミレ。戸惑いながらも、その手はしっかりと俺の手を握り返してきた。俺は、そんなスミレの様子を見て、心の中でガッツポーズをする。
「んじゃ、さくっと解決しますか」
「ところで、あんなにさっき自信満々だったのだから少しは検討くらいついているのよね?」
スミレは少し期待した目で俺を見てくる。だから俺は笑顔で答えてやった。
「いや?まったく?」
その後腹パンされた。解せぬ。
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