キャンプの醍醐味
野営の準備で俺等は全員役割分担をした。アリアは火おこし、ザックは寝床の準備、そして俺は今日の晩飯の担当だ。これは持論だが、やっぱりキャンプでの一番の醍醐味は飯だと考えてる。大自然の中、きれいな星星を見ながら食べる飯は格別だ。というわけで早速料理をしていこう。まず、先程自分の手で解体した猪肉を一口大に切り、鍋に入れる。そうこうしているうちにアリアが木の摩擦を使って火起こしをしてくれたのでそこに鍋をせっとする。次に、アリアが取ってきてくれた木の実を砕き、肉と一緒に煮込む。ハーブやスパイスは持っていなかったので、代わりに近くに生えていた香りの良い葉っぱを数枚入れた。うん、いい香りだな。まだ時間はかかるだろうがいいものができそうだ。
「めっちゃええ匂いするやんか。料理できたんやな、メグル。失敗したらどないしようかと思ってたわ」
「ザック。俺の故郷にはこんな言葉があってな、『働かざる者食うべからず』って言うんだ。意味わかるか?」
俺を脅すとザックは慌てたように馬車に入った。さあ、邪魔もいなくなったし、この料理は後は煮込むだけだから料理をもう一品作るか。まあもうひとつの料理は簡単だ。近くに置いてあった長い串のような木をワイルドボアの骨付きにぶっ刺す。その後は鍋とおなじように焚き火の近くに串を立て、ゆっくりと回転させながら、塩を少しまぶし、時間をかけて焼き上げる。皮がパリパリになり、中がジューシーになるまで、じっくりと火を通せば完成だ。
火を弱火にし、じっくりと串を焼き、鍋を煮込むこと数時間。串は見るからにうまそうなど豪快な見た目をしており、香ばしい香りが漂っている。鍋からは、香ばしい木の実と、煮込まれた肉の香りが漂ってきた。
「できたぞ、猪肉の木の実煮込みだ」
俺がそう言うと、ずっと様子を見ていたアリアとザックは目を輝かせた。
「か、完成したんか?待ちくたびれたぞ、ほんま」
「す、すごく美味しそうです。メグルさん、この鍋の料理は一体なんですか?」
アリアが興味津々に聞いてくる。
「こいつは猪肉の木の実煮込みだ。きっとうまいぜ。さ、早く食おうぜ」
「はい!私食器持ってきます」
アリアがダッシュで馬車に取りに帰る。そんなに楽しみにされると嬉しいのな。いつぶりだろ、人に料理出すの。俺は自炊自体は働いているときもよくやっていたが、The漢飯みたいな肉を焼いて白飯に乗っけて食うお洒落のおの字もない料理だったからちょっと不安だ。それに味付けが結構素朴になっているから貴族出身のアリアに会うかも気になっている。だが、俺の不安をよそにアリアがダッシュで戻ってきて火を囲んでご飯タイムになった。
「どうぞ、召し上がれ」
俺はまずゆっくりと煮込んでいた猪肉の木の実煮込みを二人に配った。二人は受け取るとすぐに食べ始めた。どうだ?表情から読めないぞ。
「う、うまいでッ!メグル料理できるやん」
「本当に美味しいです。素材の味を生かした優しい味付けで体が温まります!!」
「ほ、ほんとか!?よかったぁ。口にあって」
二人は笑顔で煮込みを食べ進めるのを見て安心し、俺も食べることにした。一口食べると、香ばしい木の実の香りが口の中に広がり、噛むほどに猪肉の旨みがあふれ出した。今まで食べたどの料理よりも、温かくて優しい味がした。異世界の食材でも故郷の味を再現できたことに俺は感動した。
「メグル。こっちのワイルドボアの丸焼きも食べてええか?」
「おお、いいぞ」
ザックは焚き火の近くで焼いていたワイルドボアの串焼きを取る。こっちに関しては味について心配していない。だって素材の味そのままだからな。俺の予想どおりザックは口いっぱいに頬張りながら感嘆の声を上げる。
「うん!これもうまいな!!」
当たり前だ。ただ塩つけて焼いただけなんだから。だがまあ褒められるのも悪くはない。アリアも串焼きを取って口に頬張る。
「ん〜、こういう料理とっても好きです!」
アリアから言葉にならない甘い声が漏れ、彼女は目を閉じたまま、幸福そうにゆっくりと咀嚼を続ける。その頬は、美味しさで完全に緩みきっており、普段の凛とした表情のアリアはそこにはいない。
俺達は料理を残さず食べきり、食休憩をしていた。
「ふぅ、食べた食べた。メグルすごく美味かったで」
「はいはい、ありがと。で、お前が準備してた寝床はどこだ」
俺がそうザックに聞くと今まで椅子に座ってゆっくりしていたのに急にしどろもどろな態度になり、目線が右往左往していた。ザックは俺の様子を伺うようにびくびくしながら口を開いた。
「そ、それがな。怒らないで聞いてほしいやが...」
「内容によるよな」
「ひぃ、そ、そうよな。はぁ、実は布団自体は3つあるんやが、寝床の予定であった馬車はサイズ的に二人しか寝れへんのや」
ザックの言葉に、俺は眉間にしわを寄せた。
「おいおい、冗談だろ?じゃあ、どうやって外と内で寝るやつ決めるんだよ?」
俺がそう言うと、ザックはさらに焦ったように顔を青くした。
「そ、それは……わ、ワイがやらかしたのが原因だから責任持っている外で寝るで。だからメグルはアリアと一緒に馬車で寝てくれへんか?」
その言葉に、俺は絶句した。アリアは、何も言わずに俺とザックの顔を交互に見つめている。彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていた。
「わ、私はメグルさんとッ!?」
「な、なに言ってんだよ!アリアは貴族の娘なんだぞ!そんなことできるわけないだろ!」
俺は、ザックの無責任な発言に怒鳴った。アリアは女の子であると同時に貴族の娘だ。俺はアリアパパに手を出すなと釘を刺されてるのに、もし一緒に寝てみろ。知られた日には一生俺は太陽の見れない生活になるだろう。しかし、俺の考えていることなど知らずにザックは、
「でもな、メグル。夜の森は、魔獣も出るし、危ないんや。確かにこの中だとアリアが一番強いが、馬車の外にアリア一人で寝かすなんて、ワイの沽券的に絶対許さへん。それに、アリアも一人で馬車で寝るより、メグルと一緒の方が安心やろ?」
ザックの言葉は、俺の胸に突き刺さった。たしかに、夜の森は危険だ。そこに、アリアを一人で寝かせるのもナンセンスだ。
「……わかったよ」
俺は、深くため息をついた後、そう答えた。
「じゃあ、アリアは馬車の中、ザックと俺は外で寝るぞ」
「な、なんでやねん!ワイが一人で外で寝るって言っとるのに、なんでメグルも外で寝るんや!」
ザックは、俺の言葉に怒ったように叫んだ。
「お前一人じゃ危ないだろ?俺も外で寝る。アリアは馬車の中で一人で寝てくれ」
俺は、アリアの方を向いてそう言った。しかし、アリアは、
「メグルさん……私も外で寝ます」
アリアは、俺の目を見て、真剣な顔でそう言った。
「え?なに言ってんだよ!危ないだろ!」
俺がそう言うと、アリアは、
「二人が外で寝るのに、私だけ安全な場所で寝るなんてできません」
アリアの言葉に、俺は何も言い返すことができなかった。
「私もお二人の仲間なんですから」
その目は本気だった。
「はぁ、わかったよ。みんなで外で寝よう」
俺は渋々アリアの提案に乗っかった。アリアは俺の承諾を聞き、満面の笑みになった。
「まじかよ、メグル。これはこれでええんか?」
ザックが心配そうに俺に耳打ちしてくる。
「仲間外れは嫌だし、今のアリアにはなに言っても無駄だったろ?」
「メグルさん、ありがとうございます!!」
アリアは、俺の言葉に飛び上がらんばかりに喜んだ。その様子は、まるで子犬のようだ。
「な?」
「わかったで...」
その後、俺達は馬車から寝袋を取り出し緑生い茂る草原のど真ん中に敷いた。まあ自然の中で寝るのも悪くないだろう。だが、俺は一つ気になったことがある。それは見張り問題だ。この安全そうな草原だが昼みたいにワイルドボアに寝込みを襲われたらたまったもんじゃない。俺は寝袋に入り、もう寝ようとしているザックを叩き起こしきいた。
「なあ、ザック。この野営の見張りはいらないのか?さすがに魔獣が出るのにみんなでぐっすりって訳にはいかなくないか?」
するとザックは不敵な笑みを浮かべ、馬車の方を指指さした。
「なに言っとるんや?ワイらには心強い味方のアレクサーがおるやろ」
「は?アレクサー?なに電気とか音楽かけてくれるの」
俺は困惑の表情を浮かべ、ザックの頭の調子は大丈夫か心配になった。
「なに言っとるかわけわからんが、アレクサーっていうのはワイらをここまで運んでくれたワイの愛馬やで」
俺がザックが指す方向に顔を向けるとそこには昨日からずっと走っていた茶色の馬が俺等を見つめていた。
「アレクサーってあいつか?」
「せやで!ワイとはもう10年の付き合いやで」
ザックは、まるで親友を紹介するかのように、得意げに胸を張った。
「馬に何ができるっていうんだよ?それに、あいつは今日一日中走って疲れてるだろ?」
俺がそう言うと、ザックは俺を睨みつけた。
「なに言うてんねんッ!アレクサーは、ワイの馬や!どんな危険も、ワイにちゃんと教えてくれてここまで来たんや!」
ザックはそう言うと、アレクサーの元へと歩み寄った。彼は、まるで愛おしいものを撫でるかのように、アレクサーの首筋を優しく撫でた。
「そうか...じゃあアレクサー、信用するぞ」
俺が声を掛けるとアレクサーは俺の言葉がわかったかのように頷いた。
「こいつ...ザックより賢いかもしれないな」
「いや、さすがにワイやでッ!」
ザックが心外だぞっと俺を睨んで来るが、無視する。確かに、あのどこか抜けてる商人が10年間魔獣に食われていないのがアレクサーの信頼を確かな物にしてるな。
「なにしてるんですか?」
俺等の声が大きかったかアリアが目を覚ましてしまった。おのれザック、明日すぐにでも成敗だ。
「いや、なんでもない。そろそろ寝るか」
俺も寝袋に入る。異世界には四季の概念があるのかわからないがこの地方はとても過ごしやすい。昼は暑すぎず、夜は寒すぎない。今の日本では消滅寸前の春のような陽気な空気だ。空を見上げると俺は想像を超える景色に息を飲んだ。そこには満天の星空が広がっていた。
「うわぁぁ、きれい」
柄にもなく俺は星に目を奪われた。日本では絶対見れない夜空を照り輝かせている一等星が360°一面に広がっていて見る者の心を飽きさせない。俺の心を掴んで離さないのはキラキラ光る星だけではない。その黒いキャンパスには一際輝くデカい星が3つ浮かんでいた。
月だ。夜空に赤、青、黄色の大きな月らしき惑星が俺を照らしていた。俺はその惑星に呆気にとられ口を開けていると、隣からクスクスと可愛らしい笑い声が聞こえた。
「メグルさんは知らないのですね。あの一際目立つ3つの星は三連星と呼ばれているのですよ」
「さんれんせい...」
「ええ、赤い星はカーディナル、青い星はアクア、黄色の星はアンバーと呼ばれていて、この世界の創造主が造ったとされているんですよ」
彼女は、まるで絵本を読み聞かせるように、三連星について語り続ける。
「カーディナルは、熱情と勇気を司り、戦士に力を与えると言われています。アクアは、癒しと安らぎをもたらし、旅人の心を落ち着かせる……そしてアンバーは、豊穣と繁栄を象徴し、収穫の夜に黄金に輝くのです」
アリアの言葉一つ一つが、俺の心に深く染み渡る。まるで、この世界の歴史や神秘が、彼女の言葉を通して直接俺に語りかけてくるようだった。
俺は、三連星の輝きを見上げながら、この世界の壮大さに改めて感動していた。地球では決して見ることのできない、この美しい夜空。その中で、アリアが語る物語は、俺の心を穏やかに包み込んでいく。
ザックのいびきが、遠くで聞こえる。焚き火の炎がパチパチと音を立て、夜の静けさの中に心地よいリズムを刻んでいた。
アリアの優しい声が、まるで子守唄のように俺の耳に届く。いつの間にか、俺の瞼は重くなり、意識は深い眠りへと沈んでいった。
三連星の輝きが、俺の夢の中までも優しく照らしているような気がした。
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