素の君が可愛らしい
「そう、だから俺はこの世界に来たばっかでスキルもよくわかってないんだよ。一応スキル名は[トラベラー]っていうんだけど」
「トラベラー...ですか。ふふ、メグルさんらしいお似合いのスキルですね」
アリアは目を細め、優しく微笑む。
「それって褒めてるのか?」
俺はアリアの視線に耐えられず、目を背ける。調子が狂うな。俺は咳払いをして話を戻す。
「そのトラベラースキルの中にいくつかスキルが内包されているみたいでね。そのうちの一つがマップだ」
俺がそういうと手の中から光の粒子が飛び出し、目の前にいつもの羊皮紙が出てきた。今回のマップは縮尺をデカく出している。地図をよく見ると俺達の現在地である赤い斑点がマップの中央を指しており、左下には街を簡易的に示したマークらしき絵が書いてあり、その上には「ヨークシア」と記されていた。
「このスキル…凄すぎます!地形だけでなく私たちの場所まで教えてくれるなんて」
アリアは、俺が持つ地図を食い気味に覗き込む。俺はその反応を見て苦笑する。
「確かにそうか。俺の地元ではみんなこれに似たのを持っていたからあんまそこは驚かなかったな」
「そんな大層なものがメグルさんの故郷にッ!?流石異世界ですね」
「いやいや、俺もこの世界に何度も驚かされてるからね」
建物しかり魔法しかり俺からすればこちらの方が夢みたいで羨ましい限りである。しかし、現代でみんながスマホを使ってマップを開き、現在地を見るなんて今考えても確かにすごいことだ。大企業様様だ。
「このマップって私たち以外の生き物も示すことができるのでしょうか。いや、流石に難しいですよね?無理を言ってすみません」
アリアが申し訳なさそうに謝ってくるが俺はそんなことはどうでも良かった。そんなことより俺はアリアの考えに驚いた。そうか、自分の位置を表示できるなら考え方を変えれば他の生物の位置すら表示できるはずだ。
「物は試しだ。やってみよう」
「え、できるんですか?」
俺は一旦手元にある地図を光の粒子に変え、先程と同じ要領で地図を作ろうとした。ただし、先程の無意識の生成とは違い、今度は俺等以外の生物も地図上に表示するように頭の中に考えを巡らす。多分サイズも意図的に変えることができるだろう。そうだな、先程はデカく作りすぎたから今作るのは半径2キロぐらいでいいだろう。俺がそう頭の中で想像すると手のひらに上を浮遊していた光の粒子が形を変え、羊皮紙に変わった。その瞬間俺の中の何かがゴソッと持っていかれる感覚がした。それと同時に体中がだるさと疲れを訴えてきたが、俺は目の前の地図の結果が気になり、体の不調を無視した。
「よ、よーし、作れた。開くぞ」
俺は羊皮紙を躊躇なく広げた。しかし、目の前の地図は俺の想像を遥かに超えるものだった。
「ま、真っ赤だ」
地図全体が、まるで鮮血を浴びたかのように真っ赤に染まっている。俺が期待していた、様々な生物を示すはずの点は、すべて赤く塗りつぶされていた。
「こ、これは。...まさか全部生物か?」
俺は地図に顔を近づけた。赤い点たちが、少しだがうごめいているのがわかる。おそらくこの赤い点は全てが生物なんだろう。だが、そんな数の動物を見てないぞ。俺が地図の欠陥を疑っていると俺の視界の前を一匹の蚊が横切った。俺はそこで一つの最悪な可能性に気付いた。それは、
「虫も効果の対象内になっているのか?」
俺はその異様な光景に、気持ち悪さを覚えた。この半径2キロ圏内にいる蚊や蟻などの小さな虫さえも効果の対象内になり、地図全体を赤く染め上げていたのだ。
それと同時に、体中にあるなにか力らしきエネルギーが、まるでダムの底が抜けたかのように、急速に地図に吸い込まれていくのを感じた。体の力が抜けると同時に視界がグワングワンと揺れ始めた。
「や、やばい……」
俺の意識は、薄れていく。足元がぐらつき、世界が歪んでいく。目の前の景色が、まるで砂嵐のテレビ画面のようにノイズで覆われた。
「め、メグルさんッ!?ま、まさか魔力切れ?」
アリアが何か叫んでいる。その声は、俺の耳には届かない。彼女の焦った顔が、遠ざかっていく。ああ、ちょっとこれまずいかも........。
俺は、そのまま地面に倒れ込み、意識を失った。
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「メグルさん……」
耳元で、優しい声が聞こえる。
「ん?」
その声は、遠く、ぼんやりとしていたが、確かに俺を呼んでいた。
「メグルさん?目を覚ましましたか?」
その声が、少しずつ鮮明になっていく。俺は、重い瞼をゆっくりと開けた。
視界に飛び込んできたのは、心配そうな表情をしたアリアの顔だった。彼女の瞳は、まるで宝石のように輝いており、その美しさに俺は思わず息をのんだ。
「大丈夫ですか?」
彼女がそう尋ねると、俺は自分の頭が何か柔らかいものに乗っていることに気づいた。そして、その柔らかいものの正体が、アリアの膝だと分かった瞬間、俺の顔はみるみるうちに赤くなった。
「ひ、膝枕!?」
俺が間抜けな声で叫ぶと、アリアは少し照れたように微笑んだ。
「ええ、メグルさんが急に倒れてしまったので」
「...そっか。ありがと...」
俺は恥ずかしくて赤くなる顔を隠すように両手で顔を覆った。例え目の前で倒れた人がいても膝枕の発想はでてこないが、まあ今は幸せだからいいだろう。
「俺は何分ぐらい倒れてた?」
「そうですね、多分10分も経ってないですよ」
俺はそれを聞き安心した。もし1時間近く倒れたんだったらアリアに申し訳ない。膝が痺れちゃってただろう。俺は名残惜しく思いながらも、アリアの膝から離れることにした。これ以上いるともう二度と普通の枕に満足しない体になっていた。アリア、かわいい顔して恐ろしい娘だ。
「メグルさんが急に倒れた原因はおそらく魔力切れでしょう」
「魔力切れ?」
俺は聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「はい。この世界では、魔法やスキルを使う際に“魔力”というエネルギーを消費します。魔力がなくなると、疲労感や吐き気を催し、ひどい場合は意識を失ってしまいます」
アリアは、俺の額に手を当て、熱がないか確かめた。俺は小さくて少しヒヤッとしている手にドキッとしたが、話の腰を折るわけにはいかないのでされるがままになる。別にずっとやってほしいわけではない。ないから。
「おそらく、メグルさんが先ほど使った地図のスキルが、予想以上に魔力を消費し、メグルさんの魔力量を上回ったのでしょう。先程の地図は存在するだけで戦争の形すら変えそうでしたから」
俺はアリアの言葉に納得し、頷いた。あの地図は現代日本でも通用するぐらいぶっ壊れなスキルだった。あれができれば敵の数と場所を把握できるから敵の情報は全部筒抜けになるだろう。そんな敵さんは赤子のごとく握りつぶせることに気づき、俺はこのスキルについて急に怖くなった。まあ俺戦場に行く予定なんてないから絶対今のような使い方はしないけど。
「メグルさんのスキルはマップのだけなんですか?」
「いや、翻訳っていう言語能力のスキルとシャッターっていうカメラの要領で撮った対象を止めるスキルとかある」
「シャッターといえば領主から逃げる時に発動したスキルですね。ですがかめら?とは何なんですか?」
アリアは知らない単語に首を傾げる。そうか、この世界にはカメラなるものはないのか。説明するのは難しいぞ。だが、アリアが目を輝かせながら俺を待っているから説明するか。
「カメラって言うのは、俺の故郷である異世界の道具でな。そいつは、目で見たものを写真と呼ばれる紙に映し出してそっくりそのまま記録する道具なんだ。人間の記憶は曖昧になりがちだがが、この道具で記録すれば、そん時の景色や、人々の表情を、永遠に正確に残すことができるんだ。旅の記録や、大切な思い出を留めておくのにとても便利な道具だよ。」
「そ、そんな素晴らしい道具が異世界にはあるんのですね!?そ、それで撮った人物まで止めるなんて、恐ろしい場所なんですね...」
「いやさすがに人を止めるのはスキルだけだよッ!?」
アリアにとって地球が魔境みたいな場所だと思われるのは困る。
こっちの世界のほうがよっぽど魔境だ。魔獣やら魔法やらあってたまるか。
「なるほど、ということはメグルさんのスキルで撮った人物まで止めているのですね。すこいですッ!!ですが、それではそのスキルでは写真を見ることはできなそうですね...」
アリアはどうやら写真に興味があったらしく少し落ち込んでいた。俺はどうにか写真を見せてやりたいと考えを巡らすと、先程のマップのように考え方を変えればできるのではないかと思った。そもそもカメラなんて写真を生み出す道具で人を止める力など全く無いのだ。俺が咄嗟に追手を止めたいと願ったからその形でスキルが変化したのだろう。それならいつものようなカメラの運用もできるだろう。俺は両手で四角を作り、アリアに向けた。
「アリア、顔あげて」
「はい、なんです...」
パシャッ!!
アリアが顔を上げた瞬間、スキルを発動させ、少しだけ手から光が拡がった。手の中を覗き込むとアリアの顔は咄嗟のことでちょうど驚いた顔で可愛らしかった。
「な、急に何すんですか!?」
アリアは顔を膨らませ、ジト目を睨んできて、怒ってますよっとアピールするがただただかわいいという感想しか出てこない。
パシャッ!!
可愛いのでもう一枚撮る。
「また撮った!もう怒りましたよ」
アリアは手をグーにして俺をボコボコ殴る。その動作自体は可愛らしいし、アリアも手加減して殴ってきているのはわかっている。だが、痛い。軽いツッコミのように男子高校生が叩くのとは比べ物にならないくらい衝撃がくる。悲しいかな、これがアリアと俺の力の差だ。
「ご、ごめん。ちょっと試してみたくて」
俺はすぐ謝る。謝らないと俺の体が明日には痣だらけだ。アリアはそのあとすぐに辞めてくれた。まじ助かった。
「試したいこと...ですか?確かに今カメラで撮られたのに体が止まってなかった」
そう、シャッターのスキルの考え方を変え、撮った対象を止めないようにした。そしてここからが本番だ。俺は今撮った写真を現像するために体にあるであろう魔力を手に込める。いままでなんとなく魔力を使っていたが、魔力切れを起こし、魔力を知覚した俺はその感覚を思い出しながらスキルを発動させる。すると、体の中から少し、魔力が抜ける感覚がした気がした。手の方を見ると光の粒子が手から溢れ出し、何かを形作ろうとしている。そして、光の粒子が形を変え、2枚の写真が手の平に出現した。そのうちの一枚をアリアに見せる。
「どうだ?自分が見えてるか?これが写真だ」
「わ、私がいますッ!これが写真」
アリアは俺が渡した写真に食いつくように見て、目をキラキラさせていた。俺はその様子を見て満足した。なるほど、なんとなくスキルの使い方がわかった気がする。スキルっていうのは割と想像力でどうとでもなるようで考え方を変えてスキルの使用自体も変えることができそうだ。だが、それをすると体にある魔力と呼ばれるエネルギーの消費量が大きくなりスキルの使い方を謝れば許容範囲を超えて魔力切れを起こすようだ。つまり、マップは更に変化を加えることも可能になるし、まだ試していない翻訳スキルなんかも応用が効くかもしれない。夢が広がる。俺がそう妄想に耽っていると少し前までキラキラしていた顔が急に不機嫌な顔になり、顔が赤くなった。
「どうしてこんな間抜けな顔をとったんですか?」
アリアに見せた写真はどうやら一枚目の驚いた顔だったらしい。俺から見れば十分可愛いし、自然体でいいと思うが、本人的には気に入らないらしい。すると、アリアは俺が持っているもう一枚の怒った表情の写真も取り上げ、また顔を赤くした。
「この怒った私もなんで撮ったんですか?もっと可愛い瞬間で撮って欲しかった...」
「いや、なに言ってんだよ。アリアはいつ何時でも可愛いだろ」
「へ?」
俺は咄嗟に思ったままのことを言ってしまった。でも実際そうだからしょうがない。もっと自分の可愛さを自覚すべきだ。俺もアリアに釣られるように顔が赤くなるのを感じる。やばい、このあとどうするんだ?俺がこの沈黙を破るために必死に考えてると、
「メグルッ!アリアッ!魔獣やッ!!魔獣が肉に食いついたでッ!」
外からザックの慌てた声が響いた。俺とアリアは顔を見合わせ、状況を理解すると、すぐに馬車から飛び出した。あっぶねぇぇぇ。ナイスタイミングすぎるぞ、ザック。俺はこのときザックに初めて心から感謝した。
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